21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信! 作:Leni
注意! カレル・チャペック作『R.U.R.』の重大なネタバレを含みます!
「おーい、みんなー。映画観ようぜ」
そんな口上と共に、本日のライブ配信は始まった。
今回はSCホームの日本家屋からのスタートだ。俺のコスチュームは、黒のスーツに白のYシャツ、黒ネクタイに白の手袋。なかなかキマっているんじゃないか?
『あれ、いつものは?』『わこつ』『いつもの台詞言ってよ!』『おじさん少女がないと物足りない』
「はいはい、どうも、21世紀おじさん少女だよ。これでいいか?」
『やる気あんのか!』『こんなの私のおじさん少女じゃない』『もっとこう、どうもー、でしょ!』『本物のヨシちゃん? ミドリちゃんさんあたりがアバター使って化けてないよね?』
「いや、本物だぞ。さて、じゃれ合うのはこれくらいにして、今日の配信を始めていこうか。あ、ヒスイさんもいるぞ」
「どうも、宇宙3世紀ガイノイド少女のヒスイです」
こやつネタに乗ってきよった。
これじゃあ先に進めないので、ヒスイさんへの突っ込みはせずに、今日の配信内容の説明を始めることにしよう。
「実はさあ、前々から思っていたんだ。アドベンチャーゲームを配信してないなって」
アドベンチャー。冒険を意味する英単語だが、アドベンチャーゲームとすると、意味はとたんに変わる。
「こういうものがアドベンチャーゲームだ!」と言うのは難しいのだが、俺的になじみ深いアドベンチャーゲームは、背景が表示され、人物の立ち絵が表示され、テキストでストーリーが進み、選択肢を選んでシナリオが分岐する類のゲームだ。
21世紀の日本では、ギャルゲーや乙女ゲー、エロゲの大半がこのアドベンチャーゲームだった。昔は推理ゲームとかもあったな。
俺の偏見で言ってしまうと、用意されたシナリオを純粋に体験するのがアドベンチャーゲームだ。
もちろん、VRになるとまたいろいろ変わってくるのだろうが。
「でも、アドベンチャーゲームを丸々一本クリアするのは、これからプレイしたい人にネタバレになるから配信は控えていたんだ」
『いまさら』『配信やっててネタバレ気にするの?』『あーあ、俺ヨシちゃんに発売前の『メタルオリンピア300』ネタバレされちゃったなー』『繊細すぎる……』
「いや、RPGだってアクションゲームだって、ストーリーを見せるのはネタバレになるが、アドベンチャーゲームはこう……違うんだよ! 俺が操作するさまを見せる他のジャンルとは違って、アドベンチャーはストーリーを垂れ流しにするというか……映画を勝手に流している気分になるんだ」
そう力説するが、視聴者の反応は鈍い。
まあ、いいさ。これは前置きなのだ。
「そう、映画。アドベンチャーゲームを流すくらいなら、映画を流しちゃってよくね?」
『ダメだろ』『ここ、ゲーム配信チャンネルなんだよなぁ』『一定期間個人配信NGの映画が大半だよね。有料だから当然だけど』『私、みんなでわいわい映画見るの結構好きだよ』
「そこで、このゲーム、『キネマコネクション299』だ!」
俺は視聴者のコメントを無視して、ゲームアイコンを手の中に出現させ、ゲームを起動させた。
日本家屋から、映画館のロビーに背景が切り替わる。
「このゲームは、映画の中に入ってストーリーを間近で楽しむ、ゲームのようでゲームではない体験型アトラクションだ!」
『へー、こんなゲームあるんだ』『ゲーム区分でいいのかこれ』『もしかして普通のソウルコネクト映画なんじゃあ……』『これの270年版持ってるわ。なぜかゲーム扱いで売っているんだよな』
「コネクションというのは、英単語そのまんまの意味じゃなくて、ソウルコネクトとコレクションをかけた名前らしいぞ。コレクションと言うだけあって、大量の映画が収録されているんだ」
今年の3月頃のことだ。ふと、21世紀にあった映画を見たくなって、古い映画を収録しているライブラリあたりがないかと、オンライン上を探した。そして、なぜかVRゲームを販売している場所でこれを見つけて、迷うことなく購入した。
この時代では著作権が切れている20世紀や21世紀の映画が、古典ジャンルとしてVR化されて収録されていたのが面白かったな。
『E.T.』だとオリキャラの子供の一人になって、物語を間近で体験できたし、『コマンドー』では主役ジョン・メイトリックスとなって、自動で身体が動くさまを体験しながら爽快アクション活劇を迫力満点の視点で楽しめた。
『ロード・オブ・ザ・リング』では、透明人間的なアバターになってストーリー展開を自由に追跡していった。
「アドベンチャーゲームなら後からプレイしたいって人も出て、ネタバレが問題になるかもしれない。でも、映画なら純粋に観るだけだから、最初から最後まで流せばネタバレも何もない。しかも、このゲーム、ライブ配信OKな収録映画も多いんだ」
俺は映画館の軽食販売コーナーでコーラを買って飲みながら、視聴者にそんな説明をする。
うん、やっぱり映画館は冷たい氷入りのコーラだよなー。ポップコーンもあるとさらによし。
「というわけで今日は、ゲーム配信じゃなくて、みんなで映画観賞しようぜ!」
『わあい!』『たまにはそういうのもいいよね』『みんなで実況って好きだよ』『何観るの?』
何を観るかは決めていなかったな。視聴者の反応次第で、どのジャンルを観るかその場で決めようと思っていたのだ。
「ヒスイさん、さすがにゲームと違って映画は目を通していないだろうけど、お勧めってある?」
俺は視聴者ではなく、ヒスイさんを頼ることにした。
ヒスイさんの今日の服装は、四つボタンの黒スーツに白Yシャツ、赤ネクタイに白手袋だ。
「そうですね。『
うわ、俺が私的に買ったゲームなのに、中身を把握されてる。
「古典か。どんな作品なの?」
「原作は西暦の1920年に発表された戯曲、つまりは劇の台本ですね。ロボットという言葉を初めて世に生み出した作品です」
「へー、SFなんだ」
「そうですね。ですが、ヨシムネ様がよく口になさる、未来的世界観という意味でのSFとは異なるかもしれません」
「ほうほう。じゃあ、それを観ようか。視聴者のみんなもそれでいいな?」
『OK』『大昔の原作で86年前の映画かぁ』『まあ86年程度の昔なら粗はないだろ』『昔の人が考えるSFか……どんなんだろう』
俺は手元のコーラを飲みながら、チケット販売所で映画のチケットを発行してもらい、上映室に入っていく。
この場所のコンセプトは20世紀の映画館らしい。俺は中程の席に座り、スクリーンを眺める。俺の右隣の席にはヒスイさんが座った。
しばし待っていると、上映室の照明が落ちる。そして、スクリーンに光が当てられ……奇妙な服を着た一人の人間が映った。
すると、男性の声でナレーションが流れる。
『この商品は〝ロボット〟。人間のあらゆる労働を肩代わりしてくれる、当社自慢の万能人造人間です。そう、このロボットがあれば、人類にはもう働かなくてよい未来が待っております。値段もひかえめ、大変お求めになりやすくなっております。ロッサム・ユニバーサル・ロボット社、R.U.R.のロボットをどうぞよろしくお願いいたします』
これがロボットか……金属的な部分は見受けられない。アンドロイドと言われた方がしっくりくるが。ロボットという言葉を生み出したという作品らしいから、アンドロイドという言葉もまだなかったんだろうな。
と、そんなことを考えていると、スクリーンのロボットが消え、真っ白な画面になる。すると、俺の意識はスクリーンの中に吸い込まれていくのであった。
◆◇◆◇◆
ロッサム・ユニバーサル・ロボット社。万能人造人間〝ロボット〟を製造・販売している会社だ。
販売網は世界中に広がり、膨大な数のロボットを次々と世に送り出していた。
孤島に存在するそのR.U.R.社の社屋で、一人の男が奇妙な格好をした女性にタイプライターを打たせている。先ほどのナレーションを信じるならば、この女性はロボットだ。
それを見て、その場に透明人間となって立っている俺は言う。
「確かに未来的世界観ではないな……タイプライターなんてアナログなアイテムが出てくるとは。ロボットがタイプライター打つとか、シュールな光景だ」
『タイプライターっていうのか、あれ』『面白い仕組みだな』『デジタルに頼らず文字が打てるのか』『ちなみにヨシちゃんのいた時代にあったワープロも、すでに骨董品だぞ!』
「いや、ワープロは、俺が生きていた時代にはもう廃れていたよ……」
そんなやりとりをしている間に、映画は先に進む。孤島に一隻の船が到着した。
その船から降りた唯一の乗客である、R.U.R.社の会長の娘ヘレナが社屋に現れ、ロボットの製造現場を見せてもらいたいと頼みだす。
すると、社屋にいた男、代表取締役のドミンがそれに対応し、彼の口からロボットの誕生秘話が語られる。
かつて、偉大な生理学者が、『原形質』という生命活動の本体となる物質を化学的に作れないかと実験した。そして生理学者は、人間に存在する物とは異なる『原形質』を発見する。
それを用い、生理学者は人造人間を作りだした。それがロボットである。
「そういえば、ミドリシリーズは有機ガイノイドだとかヒスイさんが言っていたな」
俺がそういうと、横からヒスイさんの声が聞こえてくる。
「有機ガイノイドは演算処理を行なう中枢器官に有機物を用いているだけで、ボディ全体は有機物ではありません。この作中世界のロボットは、私達アンドロイドよりももっと生命に近い存在です。ホムンクルスとでも呼ぶべき存在かもしれません」
へー、そうなのか。
ホムンクルスとは、錬金術で作られる人造人間のことだ。まあ、架空の存在だな。
「ただし、ミドリシリーズは摩耗が激しい軟骨部分に有機物を用いることで、パーツの自己再生を実現しております」
……俺、再生するの? すげえな。軟骨って、生身の人間だとほとんど再生しないって聞くぞ。
そんな会話の最中にも、話は進行する。
ロボットは人間を模した存在だが、経費を抑えるために、遊んだり楽しんだりといった労働に不必要な機能が排除されていると、ドミンは語った。そのおかげで、本来三日間で寿命を迎えるはずのロボットは、最高品質の商品で最大二十年生きるのだと。
ヘレナはそれを信じなかったため、ドミンは先ほどタイプライターを打っていた女性ロボットを解剖して、人間とは異なる中身を見せようかと提案する。女性ロボットは拒否もせず解剖を受け入れようとしたため、ヘレナは焦って止めに入った。なお、死んだロボットは粉砕機で粉砕して処理をするらしい。
「生きるとか死ぬとか言うあたり、ヒスイさんの言った、ホムンクルスという表現がしっくりくるな」
そして、場面はロボット製造工場へと変わる。
『なんじゃこりゃ』『素材が生々しいだけで一気に怖くなるな……』『これ、ホラー映画?』『コロニーの食肉培養工場の方がずっとまともな見た目してるぞ』
「うーん、でも、リアルでのアンドロイドやロボットの製造工場だって、金属で似たようなことはしていると思うぞ」
工場の光景におぞましさを感じたのは、劇中のヘレナも同じだったようだ。R.U.R.社の重鎮達と会ったヘレナは帰ると言いだし、ドミンに引き留められる。すると、彼女は彼らに「実はロボット達を解放しようと思ってここに来た」と打ち明け始める。ヘレナはロボットの地位を向上させ、彼らの人権を認めさせようとする団体に所属しているのだ。
だが、ドミンはロボットは聖書を語っても人権について語っても、それを学ばないと笑って返した。ロボットは徹底して労働用の商品なのだと彼は言う。
ヘレナは、それならなぜロボットに男女の違いがあるのかと尋ねる。すると、ドミンはこう返す。女中や販売員や速記要員として、女性の姿の方が客は慣れている。なので、わざわざ女性型のロボットも用意しているのだと。
ならば、ロボットは男女で愛し合わないのかとヘレナは聞くが、ドミンはこれを笑って否定した。
「リアルのアンドロイドは恋愛するのか?」
ふと、思ったことを俺は口に出した。
『俺の嫁、ガイノイドにしてもらったよ』『好きになったゲームのNPCを伴侶として、アンドロイドにするのは珍しくない』『子供も作れますしね』『どうせなら高いモデルを買ってあげたいが、先立つ物がない……』
「いや、そうじゃなくて、ヒスイさんみたいに、最初からアンドロイドとして製造された場合を聞きたいんだが……」
すると、ヒスイさんが答える。
「恋愛をするようプログラムされていれば、自由恋愛をしますよ。恋愛以外の愛情に関する心の成分も、同じようになっています」
「なるほど、乙女回路が搭載されているのか……」
「なお、ミドリシリーズは業務用ガイノイドですので、デフォルトで恋愛プログラムはオフになっています。恋愛は時に、職務へ重大な支障をきたすことがあるゆえですね。無料オプションでオンにできます」
「つまり、基本デフォルト設定のヒスイさんには、乙女回路がないのか……猫を愛でる回路はあるのに……」
「私にも人権はありますから、プライベートで何かを愛する自由くらいありますよ。私が所属しているヨコハマ行政区に申請すれば、恋愛プログラムをオンにもできますし」
気軽にオンオフできる恋愛感情って、なんだかすごいな……。
そんなやりとりをしていると、劇中のドミンはヘレナに突然告白し、二人は恋仲になった。あれ、急展開だが、何か見逃したか?
そして周囲が暗くなっていき、場面の転換が行なわれる。
さて、人間にそっくりなロボット製造会社の物語、次はどんな展開を見せてくれるかな?