21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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128.風牙の忍び(ステルスアクション)<2>

 さて、屋敷に侵入……する前に、いろいろと確認だ。

 まずは装備から。

 

 背中に忍者刀、腰にクナイ、(ふところ)には手裏剣一つと、まきびし入りの袋、小さな手鏡、そして小さな爆弾のような物体が二種類入っていた。

 

「煙玉か……? 導火線があるけど、火はどうすんの?」

 

 そう思って煙玉らしき物を月光にかざすと、視界に文字が表示された。

 

『かんしゃく玉:大きな破裂音を出して相手の気を引く忍具。導火線に火遁の術で着火する』

 

 ふむふむ、かんしゃく玉か。もう一個は煙玉、と。そして、火遁の術があるわけね。

 

『火遁の術:火よ出ろと念じることで、小さな火種を手元に出現させる忍術。おそらく、これ単体では攻撃には用いることはできないだろう』

 

「忍術しょぼいな!」

 

 俺は、指先にライター程度の勢いしか出ない火を灯しながら、そんな突っ込みを入れた。

 

『がーんだな』『忍法で悪を倒すとか、できない感じ?』『善なる忍者頑張れよ』『いやいや、ステルスアクションゲームだぞ』

 

 他にも水遁の術が使えないかと試してみるが、特に発動はしなかった。

 俺はそれならばと、屋敷の(へい)の横で身体を動かし始める。

 

『……?』『ヨシちゃん何やってんの?』『急に謎の儀式を始めたぞ』『ダンス?』

 

「いや、使えるアシスト動作を確認しておこうと思って」

 

『ライブ配信中にやることか!』『説明書読んでおけよ!』『ぐだぐだ過ぎる……』『どうせチュートリアルあるでしょ』

 

「説明書は読んだけど、そんなに詳しくないんだよな。インディーズゲームあるあるだけど」

 

 説明書がやたらと充実しているインディーズゲームだって、たくさんあるけどさ。

 俺は仕方なしにアシスト動作の確認を途中で終え、屋敷に侵入することに決めた。

 

「さて、この屋敷に入るわけだけど、正面の門からノックして入るわけにもいかないよな」

 

 と、そんなことを言ったら、ヒスイさんの声が届いてきた。

 

『向かってくる敵を全て倒す気概(きがい)で行けば、正面突破もありですよ』

 

「善なる忍者どこいった……」

 

『正面突破をしないのでしたら、塀の上側を注視してみてください』

 

「ふむ?」

 

 俺はヒスイさんの言葉に従い、屋敷を囲む高い塀の上側を見る。瓦が上に載っていて、いかにも時代劇に出てきそうな日本屋敷って感じがする。

 と、視界にまた文字が表示された。

 

『高い場所に登るには、念力鉤縄(かぎなわ)を使おう』

 

『念力鉤縄:鉤縄よ出ろと念じることで、指の先から念力の縄が飛び出す忍術。先端は壁や天井に吸着し、縄は自在に長さを変えられるので、先端部分に移動できる。高い場所に登りたいときに活用しよう』

 

 ふむ。俺は試しに、鉤縄よ出ろと念じてみた。すると、人差し指の先から透明な細い縄状の物体が飛び出し、塀に向かっていった。

 そして、塀の瓦部分に縄の先端がくっつく。

 

「おっ、じゃあ、ここから、縄よ短くなれと念じてと」

 

 すると、瓦が外れこちらにすっ飛んできた。俺はそれを必死になってかわしながら、叫んだ。

 

「そういうとこリアルじゃなくていいから!」

 

 くっ、視聴者達の笑い声が聞こえる。おそらく経年劣化で、瓦の釘が外れかけていたのだろうな。いや、そもそもこの時代の瓦は、釘で固定をしないのかもしれない。

 俺はあらためて、瓦よりちょっと下の部分に縄の先端を飛ばし、短くなるよう念じた。

 俺の身体はどんどんと短くなる縄に引っ張られ、宙へと浮く。縄はやがて長さがゼロになり、俺は塀に指一本でぶら下がる形となった。

 そのまま俺は身体を上手く動かして、塀の上に乗った。

 

「ふむ、フックショットの類か」

 

『アクションゲームでよくあるやつ!』『嫌ってほど見たことあるギミックだ』『使いこなすとRTAで猛威を振るうんだよな』『ヨシちゃんが配信してきたゲームで、この類のガジェットは今までなかったよね?』

 

「あー、個人的にプレイしたことあるゲームで使ったことあるから、それなりに使いこなせるぞ」

 

 試しに俺は屋敷の敷地内にある土蔵に向けて念力鉤縄を飛ばし、縄を縮小させて土蔵の上に飛び乗った。

 うん、使った感じは他のアクションゲームと感触は変わらないな。

 

「よし、じゃあ屋敷の本邸に忍び込むぞ。そこまで広い屋敷ってわけじゃないから、すぐに終わるだろう」

 

 俺は土蔵から飛び降り、先ほどから地味に主張を続けていた、視界の中の矢印マークに従って屋敷の縁側に向かう。おそらく、チュートリアル用の目印だろう。

 縁側の上に土足で飛び乗ると、突然、廊下の向こうに灯りが見えた。

 さらに、視界に文字が表示される。

 

『見回りだ! 見つからないように対処しよう!』

 

『一、念力鉤縄で天井に張り付き、忍術・天井走りで上を通過する』

 

『二、忍術・隠れ身の術でやりすごす』

 

『三、増援を呼ばれる前に抹殺する』

 

「おい、三番目。善なる忍者が、見回り程度の命を()むんじゃねーよ」

 

 と、廊下の曲がり角から人の姿が見えた。手には提灯を持っている。こそこそ隠れるにも、未来のVRゲームである以上、相手の視界範囲は本格的に設定されていそうだ。20世紀のステルスゲームみたいに、真横にいるのに気づかれないとかはあるまい。

 

「二だ! 隠れ身の術!」

 

『隠れ身の術:動きを止め、息を止めている間、姿が消える忍術。その場からいなくなるわけではないので、相手との衝突に注意』

 

 よし、壁際に寄って、息を止めるぞ!

 

「…………」

 

 うん、これは……。

 

「…………」

 

 息、苦しくね?

 

「…………」

 

 早く通り過ぎろ!

 

「……ぷはあ! よし、今のうちに廊下の奥に向かうぞ!」

 

 見回りとすれ違った俺は、相手がやってきた方角に向かって、足音を立てないように進んだ。

 いや、縁側だから、目の前にあるふすまを無作為に開けて進んでもよかったのだが、チュートリアル用と思われる矢印が、廊下の奥を指し示しているのだ。

 

「しかしまあ、息止めるのそれなりに苦しかったな。『-TOUMA-』のミズチ戦でも思ったけど、なんでVRゲームの中なのに息止めたら苦しいんだろうな……」

 

 ゲームの中の息止めとか素潜りとかって、酸素ゲージが表示されてそのゲージがなくならない間は、自由に動けるとかそういうのじゃないの?

 一応、息を止め続けていても、死にそうなくらい苦しくなることはないのだが。

 その疑問に答えたのはヒスイさんの声だった。

 

『呼吸は身近な生理現象なので、ある程度は苦しさもトレースした方がよいと旧式VRの頃に判断され、VRゲームの仕様として盛りこまれていました』

 

 へえ、旧式VR時代ってことは、相当昔の話だな。

 

『ソウルコネクトゲームではそのあたり気にしなくてもよいのですが……慣例として残っているようです』

 

「慣例かよ!」

 

『ですが、ある程度苦しくなる方が本格的でゲーム性が高いと言われており、さほど反対意見はないようですよ』

 

「なんなの? みんなドMなの?」

 

『いや、そういうものだってすっかり思い込んでいる感じで……』『その仕様でなじんでいるから』『息止めたら苦しいのは当たり前じゃないの?』『痛覚じゃないんだから、息苦しい程度平気だろ』

 

 うーん、斬られても痛みを感じないのに、息を止めたら苦しいの、俺から見たらだいぶいびつなんだけどな……。

 

 さて、そんなやりとりをしている間に、矢印は屋敷の奥まで進み、一つの部屋を指し示した。ここが目的地だろうか。二階建てとかじゃないのが助かるな。

 

 俺は、そっと部屋のふすまを開けた。

 すると、部屋の真ん中に布団が敷かれており、灯りもない暗い部屋の中で一人の中年男性が眠っていた。

 こいつが高利貸しの元締めだろうか? チュートリアルの矢印は、部屋の隅にあるタンスに向かっている。

 

 俺は部屋に入ると、ふすまをそっとしめた。そして、火遁の術で灯りを(とも)し、足音を忍ばせながらタンスの前に向かった。

 

「げっ、南京錠がかかっているぞ、このタンス」

 

 よほど重要な物が入っているのだろう。どこに鍵があるのか、と考えたら、矢印は部屋にある机の上を指し示した。机の上には鍵が置いてある。

 せっかく南京錠をしているのに単純だな、と解錠しようとすると、鍵穴に鍵が入らない。

 

「これ、別の場所の鍵だ……」

 

 そして、矢印は新たに部屋の外を指し示した。

 鍵を懐にしまった俺は、再びふすまを開けて部屋を出て、矢印に従いこそこそと歩いていく。

 

 すると、矢印は屋敷の本邸の外、先ほど登った土蔵を示していた。

 

「あの中に鍵があるのか……? でも、入口の前に門番が立っているな」

 

 門番は提灯を持ってその場で動かず、じっと立っている。

 さすがにこれ相手には、隠れ身の術が通用しないぞ。

 

 と、視界にまた文字が表示された。

 

『忍具を使ってみよう! 懐の中にあるかんしゃく玉に火遁の術で着火し、遠くに投げて門番の注意を引くのだ!』

 

「OK、チュートリアルさんには従うぞ」

 

 俺はかんしゃく玉を取りだし導火線に着火すると、土蔵の横の方に勢いよく投げた。

 火薬の炸裂する音が鳴り、門番が何事かとそちらに向かう。俺はその隙に、すばやく土蔵の鍵を開け、中へと踏み込んだ。門番が戻ってきてもよいように、扉は閉めておく。

 

 そして、矢印の示すまま木箱が並べられた土蔵の中を進む。すると、隅の方に竹で編まれたかごがあり、そのかごに矢印が向かっていた。かごにはこれまた竹で編まれたふたが被せられている。

 それを見て、俺は思わず口ずさむ。

 

「たららら、たららら、たららら、たららら……」

 

 かごのふたを開けると、なんとそこには鉄製の鍵が入っていた。

 俺は、その鍵を天井に向けて捧げ持った。

 

「ごまだれー!」

 

 ヨシムネは新たな鍵を手に入れた!

 

『どうしたヨシちゃん』『なにその歌。……歌?』『ゲームのしすぎで壊れたか』『ヒスイさん、一大事ですよ!』

 

「いや、待って待って。単に、ダンジョンを攻略するために必要な重要アイテムを宝箱から見つけたときに鳴る、21世紀の様式美的効果音をだな……。前にも使ったじゃん、ごまだれのフレーズ!」

 

『チェック完了。ヨシムネ様の精神と魂は正常です』

 

「ヒスイさん、何やってんの!?」

 

 ちょっと21世紀のノリが出ちゃっただけじゃんよ。

 

 ……さて、鍵は手に入れたのでこの暗い土蔵とはおさらばだ。ゲームということで、完全な密室でも真っ暗闇になることはないのだが。

 矢印は、土蔵の壁にある木窓を示していて、そこを開けて外に出ろと指示を出している。

 だが、ふといたずら心がめばえ、チュートリアルさんを一時的に無視することにした。

 

 俺は土蔵の扉に向かい、それを唐突に開け放った。

 

『!?』

 

 元の位置に戻っていた門番が、背後を勢いよく振り返る。

 そして、ちょうちんを手に、土蔵の中へと入ってくる。そして、門番は注意深く土蔵の中を観察していった。

 

 俺はそれを扉の脇に立ち隠れ身の術でやりすごし、門番が土蔵の中程まで向かったあたりで息を吐き、土蔵を後にした。

 よし、成功だ。

 

 俺はその勢いのまま、再び屋敷の本邸へと向かった。

 途中、また見回りがいたので、今度は天井走りの忍術で上をこっそり通過する。重力が下に向かっている状態で、手や足が天井に吸着している感覚は、とても奇妙であった。

 

 やがて、高利貸しの元締めが眠る部屋へと辿り着く。

 タンスにかけられた南京錠に鍵を差し込むと……甲高い音を立てて南京錠は外れた。

 

「よし!」

 

 外した南京錠をタンスの上に置き、タンスを開け放つ。

 タンスの中には紙束……借金の証文が入っていた。

 俺はそれをつかむと、懐の中にしまう。すると、視界の中に『任務完了』との文字が表示された。

 よし、これで後は屋敷から逃げるだけだ。

 しかし、まあ……。

 

「高利貸しって、借りる側が納得して借りているなら、そこまでの悪だとは個人的に思わないが……善なる忍者に狙われていたってことは、あくどいことを相当やっていたのかな」

 

 利率をだまして借りさせるとか? 借金の形に人身売買しようとしていたとかもありそうだな。いや、忍者のいる時代だと、身売りも珍しくないんだったか?

 

『借金ってゲーム内でもしたことないな』『リアルではクレジットの借金って、できないようになっているし』『クレジットの受け渡しも個人じゃできないけど、俺が今払うから今度はお前が払ってくれみたいな抜け道はあるぞ、ヨシちゃん』『ちなみにそこで利子をつけたら違法ですよ』

 

 むずかしいはなしをしているなあ。

 俺は、ふすまを開けて部屋を退出しようとする。だが……。

 

『急げ! 盗まれてからでは遅いぞ!』

 

『ぬすっとめ!』

 

『鍵がないのは本当なのか!?』

 

 うわ、この部屋に向かって人が集まってきているぞ。

 俺は、とっさに部屋の隅に隠れ、隠れ身の術を使った。

 

『見ろ! タンスが開けられているぞ!』

 

『起きてください! 賊が侵入しました!』

 

『んがっ……』

 

 やっべえ……。

 眠っていた高利貸しの元締めが起こされ、部屋に複数の男達が出入りする。

 

『あーあ』『チュートリアル様に従わないから』『そりゃこうなるよな』『ここからどうすんの?』

 

 どうしよう……。一人の死角をつけばいいってわけじゃないから、隠れ身の術ではどうしようもないぞ。まだ、天井走りの方が逃げられる可能性があった。

 何か、何かないか。息がだんだん苦しくなってきたぞ!

 

 ……はっ! そうだ、煙玉!

 

 俺は息を吐いて隠れ身の術を解除し、素早く懐に手を入れた。くっ、証文が邪魔くさい!

 

『何奴!』

 

 男達の一人が俺を見つけるが、そのときすでに、俺は煙玉の導火線に着火を終えていた。

 

「くらえ、煙玉!」

 

 床に煙玉を転がし、俺は入口にダッシュ。男の一人が立ちふさがろうとするが、煙玉が爆発して一面真っ白になり、相手は俺を見失う。

 だいたいの道筋を頭に入れていた俺は、煙の中を進み、煙から脱した。

 そして、本邸の外に向かって全力で走った。

 

「ついでに、まきびしを食らえ!」

 

 ちょうちんを持ったまま俺を追ってきた男達は、床にばらまかれたまきびしを踏んで悲痛な叫び声をあげた。

 縁側から外に飛び出した俺は、勢いをゆるめることなく塀に向かって跳ぶ。そして、空中で念力鉤縄を塀に飛ばし、縄が縮小する勢いで塀の上に飛び乗った。

 

「あーばよー!」

 

 そして俺は塀から屋敷の外に向けて飛び降り、夜の町へと走り去っていくのであった。

 

『任務の壱 達成!』

 

『隠密:× 不殺:○ 達成時間――』

 

『評価:良』

 

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