21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信! 作:Leni
三つ目のステージをクリアし終わるころには、配信開始からそこそこ時間が経過していた。そのため、続きは次の日にすることにした。
そして一日経ち、ライブ配信を開始してゲームを再開する。タイトル画面で『つづきから』を選び、四ステージ目を始める。相変わらずの夜の草原スタートで、男忍者が巻物をたずさえてやってくる。
渡された巻物は……あれ? いつもの達筆文字ではない。これ、俺が持ち帰った城の見取り図だ。
『次の任務だ。これがこの地での最後の任務となる』
おっ、最終ステージか。まあ、インディーズゲームだから、これくらいのボリュームでちょうどいい感じだな。
『風牙の姫様が、藩主の城に捕らわれているのは知っておるな?』
いや、初耳です。
『お前は一連の任務で、よい成果を出してくれた。おかげで、風牙に対して不当に課されていた借財は無効となった。これにより、姫様を人質として藩主に預ける理由がなくなった』
高利貸しから盗んだやつ、風牙が負っていた借金の証文かよ!
この感じなら、悪代官を暗殺したのも借金の無効化に関係していそうだな。
『だが、藩主は素直に姫様を返すことはないであろう。そこで、お前には城に忍び込んで、姫様を救出してきてもらう』
「救出ミッションか。難易度高そうだなー」
『家老を殺め、見取り図を奪ったことで、城は今、警備を固めておるようだ。任務は困難を極めるであろう』
「やっぱり!」
『だが、我らには忍びの術がある。城への侵入方法だが、
ふむ、水遁と風遁とな。
俺は、それらの術を頭の中で意識する。
『水遁の術:身体や服、装備品を濡らさずに水の中へと潜る忍術。自動発動』
『風遁の術:水中での呼吸を可能とする忍術。自動発動』
「水遁が、地味だけどすごく便利な術だ……!」
『あー、水濡れがあるMMOで欲しくなる術だわ』『解るわ。濡れた装備が乾くまで、無駄に時間かかるんだよな』『リアルでは水に濡れることないからいらんな……』『お前の所属コロニー、プールないの?』『プールはむしろ水に濡れるから楽しいんでしょう』
遁術は本来逃げるために使う技術のことだ。そして風遁と水遁の術は、長時間水に潜れて、しかも水から出ても濡れていないという、逃げるのにすごく役立つ忍術になっている。
火遁の術が煙玉やかんしゃく玉に着火するための忍術だったし、割と製作者の人、そのあたりこだわって作っていそうだな。
『先に潜入した者の報告によると、姫様は天守の最上階におるらしい。無事に連れ帰ってきてくれ。頼んだぞ』
男忍者はそう言って、この場を去っていった。
今回、巻物は回収していかなかった。見取り図を参照しながら行けということだな。
俺は巻物を閉じて懐にしまい、町とは違う方角、月の光に浮かび上がる城郭へ向けて走っていくのであった。
『最終任務 風牙の姫を救出せよ!』
そんな音声と共に、俺は城郭の前に立っていた。どうやら山城ではなく、平地に建てられた城のようだ。
前方には、どでかい城門があり、その前にはかがり火が
槍を持った門番もおり、正面からの侵入はまた悪鬼羅刹の真似事でもしない限り、無理そうに見えた。
「んじゃ、天守を目指して……天守って何? 教えてヒスイさーん」
『いわゆる天守閣のことです。城郭の中にある一番高い建物ですね』
「おー、なるほど。見取り図を見ても、城って一番高い建物以外にもいろいろ施設があるみたいだな」
『それらの施設に寄る必要はありませんね。皆殺しをしたい場合や、珍しいアイテムを拾いたい場合などの、やりこみプレイをするにあたって必要となってくる場所です』
「さすがに俺も、このでかい敷地で全員斬り倒すのは、やる気が起きないな。普通に水路から侵入しようか」
俺は城門から離れ、城郭を囲むようにして作られている堀へと近づく。
堀には綺麗な水が溜まっており、水面には満月の月が見事に映りこんでいる。
うーん、こういう水って汚れていそうなものだけど、さすがはゲーム。綺麗な水なら、飛び込んでも不快感はないな。
俺は高飛び込みの気分で、水面に向かってジャンプした。
『水音、響いていますよ』『忍べ、忍べ』『いきなりテンション上げすぎだぞ、ヨシちゃん』『水遁の術の感覚どんなん?』
「うーん、身体の周りに空気の膜があるような感覚だな。というか水の中で普通にしゃべれるのか」
会話が可能とか、風遁の術もすごいな。
俺は『-TOUMA-』でヒスイさんに鍛えられた水泳法で、堀の中を泳いでいく。
水路はどのあたりだろうか……と考えたら、視界の中に城の見取り図が表示された。そうか、いちいち巻物開かなくていいのか。こりゃ便利だ。
俺はできるだけ水面に近づかないようにして、水路に向けて泳いでいった。
「しかし、あれができないのも少し残念だな。水面に竹筒出して呼吸を確保するやつ」
『何それ?』『解るわー』『忍者の水泳といえばそれだよね』『あとは
あー、水蜘蛛ね。靴の底につける円い板で、水の上をそれで歩くとかいう忍具か。でも、実際には靴の底につけるのではなく、浮き輪として使うのが正しいとか、ネットで見かけたこともあるな。
そんなやりとりを視聴者としている間に、水路が見つかる。その水路を俺は泳いで進んでいった。
確かにこれは、風遁の術でもないと息が続かないな。しかも、月明かりが届かないのでとても暗い。ゲームじゃなかったら真っ暗で全く進めなかったことだろう。
しばらく水路を泳ぐと、やがて上の方が明るくなってきた。水路を抜けたのだ。俺は慎重に浮かび上がり、水面から顔を出す。
すると、目の前に立派な石垣がそびえ立っていた。
なるほど、城郭の周りに堀があったが、城郭内部の天守閣にも堀が作られて、それぞれ水が満たされ、水路がつながっているのか。
なんのために水路なんて侵入経路があるのかは不明だが……侵入経路じゃなくて藩主のための脱出経路なのかもしれないな。風牙みたいな忍者が藩主に術で空気を送り続けて、逃がすみたいな。
さて、目の前の天守閣に、どうにか忍びこむわけだが……。
「……これ、外壁登るのはありかな?」
『マジか』『ステルスアクション全否定!』『クライミングゲームかな?』『でも、それも忍者っぽいよね』
「よし、それじゃあ天守閣の外側を登るぞ! 素直に往復なんてやってらんねえ!」
俺は、念力鉤縄を駆使して石垣を登ることにした。
堀の水面から石垣にあがると、水遁の術の効果で服は全く濡れていなかった。
「右手に念力鉤縄、左手に念力鉤縄。よしよし、ちゃんと登れるな」
アクロバティックな動きで、俺は天守閣の外壁を上へ上へと移動していく。
天守閣は五階建て。登るにつれて下の堀が遠くなっていく。落ちたら石垣に衝突して即死しそうだな。
やがて、俺は外壁を登りきり、城の天辺に辿り着いた。
「ふう……。さて、しゃちほこはないのか、しゃちほこは」
『しゃちほこ……?』『また知らない単語が出てきたぞ』『天守の屋根に飾られる、虎の頭を持つ魚の置物だね。代表的なものに名古屋城の金のしゃちほこがあった』『解説兄貴サンキュー!』
「お、金じゃないが、しゃちほこがちゃんとあるぞ。いいね!」
俺はしゃちほこに手をつき、スクリーンショットを数枚撮った。スクリーンショットは、ゲーム内で撮る写真のことだな。
『この忍者、観光を満喫しておる』『姫様はどうしたんだよ姫様は』『俺の黒髪ぱっつんロリ姫様はまだか!』『ロリはないわぁ……』
「はいはい、今行きますよっと」
俺は屋根の上から降り、木でできた格子窓をのぞきこむ。すると、中では
「……やっべ」
『!? あなたは……その忍び装束、風牙の者ですね』
黒髪の少女は叫びをあげずに語りかけてきており、落ち着いた様子であった。
これは、当たりを引いたかもしれない。
『少々お待ちください。窓枠を外しますので。……ふんっ!』
少女が突然その容姿に似つかわしくない声をあげたと思うと、格子窓の木枠が鈍い音を立てて外れた。
『どうぞ、お入りください』
「あ、これはどうも……」
少女にうながされ、俺は天守閣の最上階へと侵入した。
俺が部屋の中に入ると、少女はぺこりとお辞儀をして口を開く。
『風牙の忍び……確か、幼いころにあなたとは会っていますね。キヨコという名でしたか』
「あー、そんな名前だった気がする……」
『私は風牙の頭領の娘、トメです。風牙の者がここに来たということは、機が熟したということですね』
おトメさんね。やはりこの子が姫で間違いなかったようだ。
『この藩に風牙が好き勝手されるのも、これでおしまいですね。では、脱出しましょうか。少々お待ちください』
そう言っておトメさんは、部屋の隅に歩いていき、床に置かれていたつづらを開く。すると、中から俺が着ているのと同じデザインの忍び装束が出てきた。
それを持ったおトメさんが『はっ!』と言葉を発すると、彼女は突然煙に包まれた。
何事かと思いながら見ていると、煙が晴れたその場所には、忍び装束を着こんだおトメさんの姿があった。
「すげえ! 変化の術!? いや、違うか、早着替えの術!」
『これくらい俺にだってできる』『本当に?』『マイクロドレッサーがあればな!』『忍術じゃなくて機械の力じゃねえか!』
何やら視聴者達が盛り上がっている。
マイクロドレッサーは、体形に合わせた服をその場で仕立てて着せてくれる、未来の素敵ガジェットの一つだな。
『申し訳ありません。忍び装束は所持を許されていたのですが、武装は何もなく……何か武器になる物を貸していただけませんか?』
「それなら、使わないクナイを進呈しよう」
俺は腰に装着していたクナイを外し、おトメさんに渡した。すると、おトメさんは満面の笑みでそれを受け取る。うーん、可愛いけど、その笑顔を見せるのが武器を受け取ったときというのは、なんとも言えないな。
『では、脱出いたしましょう』
「おう」
おトメさんの言葉に俺は軽く返事をし、窓の方へと向かう。
『あっ、申し訳ありません! 私、高いところが苦手で……、おそらくそこから出ると念力鉤縄の集中が乱れて落ちてしまいます』
「あー、二度のショートカットは許さないってことね」
『ゲーム製作者さんよく考えてあるなぁ』『ヨシちゃんの行動は想定のうちだったと』『プレイヤーの突飛な行動潰していく作業、大変そうだな……』『実際のところ、人ひとり抱えて念力鉤縄って使えるの? 目をつぶってもらえば抱えて降りられるんじゃない?』
そんな疑問というか提案が視聴者から出たが、俺はそれには乗らないことにした。
「帰りくらいは正攻法で行こう」
せっかくの最終ステージだしな。
ところで、だ。一つ気になることが。
「おトメさん。藩主ってどこにいるの?」
『彼なら、隣の部屋で眠っておりますが』
「どうせなら暗殺しとく?」
『いえ、今の風牙が藩主を直接殺めるのは、立場的に厳しいものがあるでしょう……。私が城の内部で聞き集めた、複数の不正の話を
「幕府の力で抹殺ってことね。了解!」
そういうわけで、おトメさんを連れて、俺は天守閣を下っていくことになった。
風牙の姫であるおトメさんは、おそらく忍者としての訓練を受けているだろうから、足手まといにならなそうなのは安心かな。