21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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136.Wheel of Fortune(ドライビングシミュレーション)<3>

 初めて乗るオート三輪を動かし、町中を走る。左ハンドルなので右側通行だ。ヒスイさんが何も言ってこないので、それで正解らしい。

 道は舗装されておらず、土が丸出しである。今は乾いているからいいが、雨でも降るとわだちでデコボコになりそうな微妙な路面だと感じた。

 

「21世紀にいたころにも、いくつかレースゲームではない車を運転するゲームをやったなー。その中に、ロシアの雪解け道を舞台に木材をいろんな車輌で運搬するってゲームがあってさ」

 

 運転中、暇なので思ったことをつらつらと述べる俺。

 

『ロシアって何?』『今のソビエト国区のことだ』『ロシア覚えてないとか学習装置ちゃんと使った?』『あのあたりは雪がすごいらしいね』

 

「あー、そういえば、ロシアは第三次世界大戦で、ソビエト連合国とかいう国になったんだっけ。で、そのロシアの雪解け道っていうのが、本当にひどくてな。泥のぬかるみにタイヤを取られて、全然前に進まないの。アスファルトで舗装された道なんて全然なくて、しかも途中で橋のない川を渡らなくちゃいけないとか、本当にすごいゲームだった」

 

『橋がないのにどうやって川を渡るんだ……?』『そりゃあ、水の中を進むんだろ』『ヨシちゃんやっぱりマゾゲー好きなんじゃあ……』『流れる水に人が運転する車で飛び込むとか、リアルで想像したらすげー怖いな』

 

「マゾゲー……まあ、忍耐力がないとプレイが継続しないゲームではあったな。で、今ちょうど走っている道も土の路面だから、雨が降ったらぬかるみひどくなりそうだなって思った」

 

「この地方は雨がめったに降らないようですよ。次の丁字路を右折です」

 

 と、ヒスイさんがナビゲートをしてくれたので、それに従う。

 

「人類より賢いAIにカーナビの代わりをしてもらうとか、贅沢すぎるな……」

 

「私はヨシムネ様の助手ですから」

 

 ヒスイさんが携帯端末で地図を確認しながら、誇らしげに言った。

 

『カーナビって何?』『知らん』『また21世紀のガジェットかな?』『調べてきた。カーナビゲーションの略で、車に設置して現在位置を表示したり、目的地へ道案内してくれたりする道具みたいだ』『あー、当時はインプラント端末のAR表示機能なんて存在していなかったから、そういうのも必要なのか』

 

 ARか。ガイノイドボディになって視界にいろいろ情報が表示されるようになったが、人間もインプラント端末とかいうのでARを実現しているんだな。

 

 と、そんな会話をしつつも、俺はアクセルをほどよく踏みながら、周囲を注意深く観察する。

 この町は田舎すぎるのか、信号なんて存在しない。そもそも歩道と車道に分かれていない。NPCが車にひかれないよう道の端を歩いてはいるが、いつ飛び出してくるか判ったものじゃない。

 21世紀の日本にあった農道と違って、人通りがそれなりにあるのがやっかいだな。

 

「ヒスイさん、ちなみに事故ったらこのゲームどうなるの?」

 

「車の修理費用がかかります。事故で人死にが出る設定ではないので、賠償金の類は発生しません」

 

「そこはゲームらしいんだな。まあ、事故らないよう気をつけよう……って、自転車危ねえ!」

 

 前方をふらふらと走っていた自転車が、突然、道の真ん中に飛び出してきた。俺は慌ててブレーキを踏む。

 

「ふいー……チュートリアル的なミッションだろうに、いきなりぶつかると思ったぞ」

 

「高度有機AIサーバに接続されていますからね。NPCは人間的な行動を取ります」

 

「そうなると、自転車とバイクは要注意だな……」

 

 道路標識くらい用意しろってんだ、この田舎町め!

 

『もし修理代がかからなかったら、ヨシちゃんがどんな行動に出たか想像がつく』『クラッシャーヨシ』『ダーティドライバーヨシちゃん』『NPCが全員逃げて町から消えてしまう』

 

「お前ら、俺をなんだと思ってんの? くっ、しかし、左ハンドルは右手でシフトレバーを動かさなきゃならんのが、違和感すごいな……」

 

 そんな会話をしている間に、ヒスイさんが目的地の到着を知らせた。

 ボロい集合住宅の前。そこに、一人の巨漢が腕を組んで立っていた。

 

「おっ、来たな、ヨシムネ。さあ、自転車を出せ、さあさあ」

 

 俺がオート三輪から降りると同時に、男がそう言って詰め寄ってくる。

 

「暑苦しいな……今降ろすから、待っていろ」

 

 俺はオート三輪の荷台から、自転車を持ち上げようとする。

 すると、視界の中に『SKIPできます』との文字が。

 

「ヒスイさん、SKIPできますって表示があるんだけど、これは?」

 

「荷物の積み下ろしは省略ができます。乗り物が大きくなってきますと、運ぶ荷物の量も膨大になりますから」

 

「なるほどなー。まあ、チュートリアルミッションくらいは、手渡ししてやろう。ほら、自転車だ。中古だけどな」

 

 俺は荷台から降ろした自転車を男の前に置く。

 

「中古なんて言い方するなよ! この改造自転車はみんなの憧れだったんだぜ! それを簡単に売っぱらっちまうなんて、ヨシムネの精神が信じられねえよ!」

 

 ゲーム開始前の俺、罵倒されているぞ……。

 

「よし、これでこの自転車は俺の物だ! 配達ご苦労!」

 

 男がそう言うと、軽快なSE(サウンドエフェクト)とともに『依頼達成』の文字が視界に表示された。

 どうやら、伝票の類は必要ないらしい。

 

 そして男は自転車にまたがると、ものすごい加速をして走り去っていった。この町であの速度出すとか、事故りそうだな……。

 

「さて、ヒスイさん。次の任務に向かおうか」

 

「はい。端末から依頼を確認してみてください」

 

 俺はヒスイさんの言葉に従い、腰に据え付けられている携帯端末を取り出す。

 端末から空間投影画面が出てきたので、それに表示されたメニューの中から『依頼』を選択する。

『スレイプニル向け依頼』という項目があったので、それを選ぶと、いくつかの配達依頼が表示された。

 

「ふむふむ。引っ越し荷物の運搬に、酒屋への納品。お、芋の出荷依頼か。これにしようかな?」

 

 元農家だからかその依頼が気になり、ヒスイさんに視線を向ける。

 すると、ヒスイさんはうなずいたので、俺は端末で依頼を受注した。

 

「よし、行こうか」

 

「はい」

 

 そう言い合って、俺達はオート三輪に乗り込んだ。

 シートベルトを締め、発進させる。ゲームなので、事故を起こしてもアバターが死亡するといったことはないだろうが、シートベルトを締めてしまうのはもう癖だな。

 そして、オート三輪を走らせること二分ほど。町の郊外にある畑が並ぶ地区へと到着した。

 

 ヒスイさんの指示する場所に近づくと、視界に車を停める範囲のような表示が出てきた。ゲーム的だが、判りやすい。

 オート三輪を停めて降りると、農家の人らしき中年夫婦がやってきた。

 

「来てくれたか! 芋を隣町まで出荷してほしいんだ。よろしく頼む」

 

「了解了解。で、荷物は?」

 

「この倉庫の中だ」

 

 オート三輪が停まっている場所のすぐ横に倉庫が建っていたので、その中に入る。すると、木箱が積み上げられているのが見えた。

 

「これを積みこむのか……」

 

「スキップしますか?」

 

 ヒスイさんが聞いてきたので、少し悩んだ後、スキップすることにした。

 軽快なSEと共に、倉庫の木箱が消える。

 そして、外に出るとオート三輪の荷台いっぱいに木箱が積まれていた。

 

「おおう、こうやって見るとかなりの量だな……」

 

「遅れないように頼むぞ!」

 

 農家のおっさんにそう言われ、俺は早速、オート三輪に乗り込む。

 ギアをローギアに入れ、発進する。

 

「うお、こんだけ荷物あるのに、スムーズな走り出しだ。パワーすごい」

 

『そうなん?』『レースゲームしかやったことないから、荷物でどう変わるのかとか知らんなぁ』『マニュアル車っていうんですか? 操作複雑すぎません?』『手足での操作に集中していたら、前見えなくて事故起こしそう』

 

「そのへんは慣れだなぁ。俺も左ハンドルには慣れていないけど。しかし、オート三輪なんかにどんな化け物エンジン積んだんだ、あのジャンク屋」

 

 八輪になるまで改造しろとか言っていたな。もしかして、エンジンを載せ替えずにそれをやれという意味だったのか。

 

 さて、荷物は問題なく運べると判ったので、隣町への移動だ。

 ガソリンは十分にあるので、このまま直接向かう。

 畑の並ぶ地区を抜けると、周囲の景色が荒野へと変わった。うーん、田舎町だと思っていたが、未開の辺境と言われてもおかしくない光景だ。NPC達にフロンティアスピリットが宿っていそう。

 

「隣町までは八分ほどかかります。依頼の期限はかなりの余裕がありますので、特に急ぐ焦る必要はありません」

 

 ヒスイさんがそう告げてきた。町と町の距離がたったの八分か。このスケールの小ささはゲームならではだな。

 だが、配信しながらでは、ただ無言で五分間を過ごすのは問題がある。そこで、俺は一つ気になっていたことを試すことにした。

 それは、オート三輪のダッシュボードの右横、センターコンソールに備え付けられているカーラジオだ。どうやら、この星の文明にはラジオ文化があるようだ。

 

「ヒスイさん、ラジオつけてー」

 

「はい。どのようなチャンネルがいいですか?」

 

「音楽垂れ流しているチャンネルあれば、それで」

 

「では、そのように」

 

 ヒスイさんが助手席からカーラジオをいじると、チープな音質の歌が流れ始めた。

 曲は、聞いたことのないカントリーミュージック。

 うん、複数のわだちしか道らしい道がない荒野を走るのには、ちょうどいいんじゃないか?

 

「ご機嫌なBGMだ」

 

 気分が上がってきた俺は、そんな言葉を口にする。

 

『ヨシちゃんの配信らしからぬ、落ち着いた光景』『今回は確かに、背景で流すのにちょうどいい配信だ』『雰囲気いいなぁ、このゲーム』『ゲームオリジナルソングなのか、実際に歴史上存在した曲なのか……』

 

 渋い声の男性が歌う曲を聴きながら、俺はアクセルを強く踏み周囲に何もない荒野を進んでいった。

 やがて、遠くに建物が見えてくる。どうやら、隣町も最初の町に負けず劣らず田舎町らしい。舗装されていない道をヒスイさんのナビゲートに従い移動する。

 

 そして、町の一角にある塀に囲まれた敷地にオート三輪を進ませた。塀の中には倉庫が建ち並び、フォークリフトがあちこちを行き交っていた。

 俺はそれらと接触しないよう、ギアをセカンドギアに入れて慎重に徐行しながら、視界に表示される指定範囲にオート三輪を移動させる。

 一つの倉庫の前でオート三輪を停車させた俺は、エンジンを切り降車する。

 

「おう、よく来てくれたな。待ちわびていたぞ! あそこの芋は大人気なんだ!」

 

 筋骨隆々のおっさんが、俺にそう話しかけてくる。

 

「荷下ろしはこっちでやっておくから、少し待っていてくれ」

 

「ああ、スキップね」

 

 おっさんの言葉を無視して、俺は荷下ろし作業をスキップした。

 軽快なSEと共に、オート三輪の荷台から木箱の山が消える。

 

「完了だ! 金は支払っておいたから、端末を確認してくれ!」

 

 おっさんに言われて、俺は携帯端末からメニューを確認する。おお、確かにお金が増えているな。価値はどれだけか知らないが、ベリーイージーモードなので結構な額が入ったのだと思われる。

 

「それとだ。個人的な依頼なんだが、芋の農家に木箱を返却してくれないか? 報酬はこれくらいだ」

 

 おっさんがそう言うと、端末に依頼が表示された。金額は、今の仕事の四分の一か……。

 

「Uターンになるけど、ヒスイさんはどう思う?」

 

「今回の報酬で車の改造ができますので、ジャンク屋がある町に戻れるこの依頼は、それなりの好条件ではないでしょうか」

 

「OK。おっさん、この依頼受けるよ」

 

「ありがとな! それじゃあ積みこむから少し待っていてくれ」

 

「はいスキップ」

 

 オート三輪の荷台に、先ほどよりも多い木箱の山が積まれた。

 箱が脱落しないよう、(ひも)で固定されている。

 

「それじゃあ、頼むぜ!」

 

 そんなおっさんの声を聞きながら、俺はオート三輪に乗り込んだ。

 キーを回すと、カーラジオからまた音楽が流れ出す。

 

「おっ、『Take Me Home, Country Roads』じゃん。いいねいいね」

 

 ギターの音と共に、聞き覚えのある歌声が車内に響く。

 それに気をよくした俺は、鼻歌を歌う。歌詞までは覚えていないため、雰囲気でメロディを追う。

 この時代の標準機能として、視界に歌詞と翻訳歌詞は表示されるのだが、カラオケのように耳に入る前の歌詞が表示されたりはしない。一度このガイノイドボディで聞いたことがある曲なら、カラオケみたいに歌詞表示してくれるのだがな。

 

『ご機嫌だなヨシちゃん』『いい曲だ』『北アメリカ統一国になる前のアメリカの曲か』『故郷のコロニーを出ない俺達には、理解しきれない歌詞だなぁ』

 

 ああ、故郷を懐かしむ歌だからな。

 東京の大学に出た頃に、この歌の和訳歌詞を見たら思わず涙ぐんでしまったことを思い出す。

 今はまあ、歳取ったから、実家に帰れなくても耐えられているかな。大人はいずれ家を出るものなのだ。俺んち農家で一人っ子だったから、あのままいたらずっと実家住みだっただろうけど。

 

 オート三輪を進めるうちに、やがて俺は先ほどの農家に辿り着き、木箱を無事に受け渡し終えた。

 そして再びハンドルを握って町中を進み、ジャンク屋を目指す。改造をしたらこのオート三輪ともお別れか。正直、タイヤから伝わる振動が強かったから、早く四輪車に変えたいと思っている。

 

 人の飛び出しを注意しながら町中を進み、ジャンク屋に到着する。

 俺達がやってきたのを察知したのか、外に山積みとなっているジャンクを眺めていたシグルンが、飛ぶようにして近づいてくる。

 

「おかえりなさい! 改造? ねえ、改造でしょ?」

 

 そんなシグルンの様子に俺は苦笑しながら答える。

 

「ああ、改造してくれ」

 

 すると、シグルンは花が咲いたような笑顔を浮かべた。見た目だけは可愛いな、こいつ。

 さて、どんな車にしてもらおうかね。とりあえず四輪化と荷台の拡大は決定事項かな。

 

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