21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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140.Wheel of Fortune(ドライビングシミュレーション)<7>

 森の町を出て、アスファルトで舗装された道をひた走る。

 どうやらこのあたりは農業地帯のようで、田園風景が広がっていた。

 

「この道からは速度制限がありますので、お気をつけください」

 

「あ、やっぱりあるのか速度制限」

 

 辺境の荒野では一切気にしていなかったが、そりゃあちゃんとした道があるなら制限もあるよな。

 

「ちなみに速度超過するとどうなるの?」

 

「警察車輌に発見されれば、罰金が科されます」

 

「そっかー。気をつけないとね」

 

「ですが、制限速度で進みますと目的地まで数時間はかかります。ですので、高速道路に入りましょう」

 

「あ、それもあるんだ。視聴者のみんなは、高速道路って解るか?」

 

『知らんなぁ』『リアルで運転できる場所なんてサーキットしかないから、道路用語は全く解らん』『ゲームもレースゲームしかやったことないや』『プレイしているMMOで車と言えば、馬車くらいですね』

 

 ほうほう。まあ、この時代では乗り物は全て、自動運転だしな。

 人でも車の運転が可能な専用サーキットが存在することは、以前ヒスイさんに聞いた。だけど、ヨコハマ・アーコロジーにはないんだよな。

 

「高速道路は、文字通り高速度で走っていい道路のことだ。普通の道路は速度制限があるが、高速道路ではそれがない。まあ、俺がいた時代の日本だと、高速道路にも時速100kmとか時速120kmとかの制限があったんだけどさ」

 

『100km/hも出れば十分でしょ』『レースゲームならともかく、一般車両がある中でかっ飛ばすのは危ないだろうな』『全車一斉に自動運転になる以前は、交通事故で人が死にまくっていたと聞くしなぁ』『人が公道で運転するのを禁止したマザー様々だな』『いえいえ、それほどでもー』

 

 なんだ、完全に自動運転に移行したのって、マザー・スフィアが誕生してからなのか。

 確かに、完璧な自動運転が生まれても、自分で運転したいって人は残るだろうからなぁ。あと、マザーは、また俺の配信見ているのかよ。

 

 さて、トラックの進行具合はというと、ヒスイさんの誘導で高速道路に進入したところだ。

 この辺りまで来ると、さすがに車通りも多くなってきたな。いよいよ、本格的に運送屋のゲームらしくなってきた。

 

「よし、ヒスイさん、ラジオのチャンネル変えて。次は俺が生きていた時代のゲームソングで」

 

 生きていたとは、生身の肉体が生きていたという意味だ。20世紀末と21世紀初頭だな。

 

「さすがにそこまで限定したラジオチャンネルはありませんので、カーステレオでプレイリストを再生しますね」

 

 ヒスイさんはそう言ってラジオを止め、カーステレオをいじった。

 そんなヒスイさんの言葉に対し、俺は疑問をぶつける。

 

「プレイリスト? そんなの用意していたんだ」

 

「このカーステレオは、現実でダウンロード済みの楽曲と連動しており、その中から好きな曲を流せます。ですので、あらかじめヨシムネ様が好みそうな曲をまとめて、種類ごとにリスト化してあります」

 

「そうなんだ。じゃあ前のユーロビートとかも、ヒスイさんチョイスか」

 

「はい。ヨシムネ様が生きていた間にリリースされた曲は、おおよそダウンロード済みです。無料ですからね」

 

 600年前の曲だから、著作権の保護期間を過ぎているものなぁ。

 そうして流れ始めたのは、聞き覚えのあるゲーム音楽だった。

 

 この曲は確か、『夢は終わらない ~こぼれ落ちる時の雫~』。人気RPGシリーズの一作目に使われていたOP曲だ。これはスーファミ版か。俺が先にやったのはプレステ版だったなぁ。

 そして次にかかった曲は、『夢であるように』。その次は、『夢で終わらせない』だった。さらに『夢のつづき』がかかる。

 

「なんなのヒスイさん、この妙な夢推しは」

 

「なんとなくまとめてみました」

 

 たまにお茶目な面見せるよね、ヒスイさんって。

 やがて夢ソングラッシュは終わり、別の曲がかかる。と、視界にAR表示されている歌詞の翻訳機能が上手く働いていないな。

 

『何この歌詞。翻訳されてないんだけど』『どういうこと?』『バグった? そんなまさか』『ああー、これは架空言語ですね。非対応でした、ごめんなさい』

 

 架空言語は、人類が普段使っている言語ではない、小説やゲームなどのために創作された人工言語のことだな。

 今流れている曲は『謳う丘』。ちょっとだけマイナーな、21世紀のRPGのオープニングソングだ。多分、そのシリーズ三作目の『謳う丘 ~Harmonics TILIA~』かな。

 

「ヒュムノス語は、自動翻訳機能に非対応かぁ。まあ、そりゃあそうだよな」

 

「『指輪物語』に登場する架空言語は、自動翻訳に対応しているようなのですが……」

 

「そっちは今の時代にも、熱心なファンがいたりするのかね……」

 

 そんな感じでゲームソングを聴きながら雑談していたときのこと。

 

「ヨシムネ様。辺境の町を出てそろそろ一時間になります。休憩しましょう」

 

「あ、もうそんなに?」

 

「はい。せっかくですから、車を停めて芋餅をいただきましょう」

 

「おっけー。しかし、一時間も経ってまだ目的地に着かないとか、オープンワールドと考えても広いなぁ」

 

「高速道路を使わなければ、間にいくつか町や村がありますからね。全て飛ばして首都に向かっていますから、時間もかかります」

 

「ああ、途中のサブイベントを全部すっ飛ばして、メインストーリーを先に進めている感覚ね」

 

 そして、俺は休憩場所がないか、道路途中の看板を探す。

 

「うーん、看板は出口表示だけか」

 

 すると、ヒスイさんが、携帯端末で地図を確認しながら言った。

 

「高速道路を降りて、トラックストップに向かいましょう」

 

「トラックストップ?」

 

「長距離トラック運転手のために用意された、休憩施設です」

 

「ふーん、サービスエリアはないの?」

 

「この世界の高速道路は無料なので、高速道路の途中に大規模な休憩所は存在しません。そのような施設は、高速道路の出入り口に存在していますね」

 

「なるほどなー」

 

 そうして数分トラックを走らせたところで、高速道路の出口があったので、スピードを落としてそちらに向かう。

 すると、出口を出てすぐに大きな駐車場と建物が見えてきた。

 

「これがトラックストップか。じゃ、行こうか」

 

 駐車場には他にも車やトラック、トレーラーがいくつも停まっており、ガソリンスタンドが併設されているのが見えた。

 横に建っている建物は、どうやらレストランのようだ。

 俺は駐車場の一角にトラックを停め、パーキングブレーキを引く。

 

 そして、コンソールボックスを開けて、中から芋餅の入ったプラスチック容器を取りだした。

 ふたを開けると芋餅が十個ほど入っており、さらにプラスチック製の小さなフォークも二つ入っていた。

 

「それじゃあ、いただきます」

 

「いただきます」

 

 普段は言わない食前の挨拶を告げて、芋餅をほおばった。

 タレや醤油がついていないからどんな味がするかと思ったら、塩で味付けがされていた。そして、焼く際にバターを使ったらしく、まろやかな香りが口の中に広がる。

 俺はもっちもっちと咀嚼(そしゃく)し、ゆっくりと飲みこんだ。

 

「うん、美味いな。素朴な味がする」

 

「美味ですね」

 

『いいなぁ』『私も自動調理器に作ってもらったよ! 美味しい!』『こっちも食べてる。ヨシちゃんのお料理配信見て醤油確保しておいてよかった』『今ゲームの中だから、料理ギルドに作ってもらえないか聞いてみるわ』

 

 そして、容器の中の芋餅を食べていくのだが……。

 

「後半ちょっと飽きてくるな」

 

「そうですか? 美味しいですよ?」

 

「醤油につけて白米と一緒に食べたい」

 

「では、今日の夕食はそのように」

 

「ヒスイさん気が利くわぁ……」

 

 和気あいあいと会話しながら食べていくうちに、プラスチック容器の中身は空になった。

 

「容器を返却するためにも、また辺境に行かないとな」

 

「新しい料理を渡されそうですけれどね」

 

 確かに、それありそう。

 農家をやっていた頃、近隣の農家さんは気のいい人達が多かったな。うちの実家が、元地主の有力農家だったから、対応が丁寧だった可能性もあるかもしれんが。

 

「さて、ヨシムネ様。疲労度が蓄積していると思いますので、一分ほど横になってください。それで疲労度は全回復します」

 

「おー、さすがにそこはゲーム的だな。よし、ルーフに行ってくる」

 

「はい。二人で入るには狭いと思いますので、私は座席の後ろで休んでいます」

 

 このトラックは座席の後ろに、横になれるスペースが存在するんだよな。

 一人プレイなら、寝るのはそこだけあればよかった。だが、今回はヒスイさんと二人プレイをしているので、ルーフは必要だった。シグルンに用意してもらってよかった。

 

 俺はルーフに登り、中を確認する。

 窓から日の光が差しこんでおり、空調が効いている。床は固めのマットレスのような感触だ。

 そして、床に布団が一組敷かれていた。いかにも高級布団って感じだ。シグルンは俺の要求にしっかり応えてくれたらしい。

 

 布団の中で横になると、目の前に疲労度メーターなるものが表示された。それがぐんぐんと減少していく。

 うっとうしいので、俺は目をつむって休むことにした。

 …………。

 

「ヨシムネ様、起きてください。配信中ですよ」

 

「ふがっ!」

 

 ヒスイさんに揺り起こされ、意識がはっきりする。

 あれ、俺、寝てた?

 

『久しぶりのヨシちゃんの寝顔シーン』『最近『sheep and sleep』やらないね』『『超神演義』でちょこっとだけ映っていたぞ』『ヨシちゃんは黙っていると可愛いなぁ!』

 

 うーむ、ばっちり寝落ちていたようだ。俺のボディはガイノイドなのに、このあたりファジーに設定されているから困る。

 

「しかし、まさか寝落ちるとは。寝てもプレイが自動で中断しないゲームだとは思わなかったな」

 

「睡眠が取れるゲームは珍しくないですよ。まあ、このゲームですと依頼に期限がありますので、寝過ごすと困るのですが」

 

「あー、今の依頼は大丈夫?」

 

「期限の長い依頼ですので、問題ありません」

 

 そして俺は布団から出て、ルーフを降りた。

 運転席に戻り、発進準備をする。

 

「じゃ、ゲームを再開しようか。ヒスイさんはちゃんと休めた?」

 

「はい。そもそも私は業務用ガイノイドですので、休みなく稼働が可能ですけれどね」

 

「俺だけ寝ていてヒスイさんは無休で働いているとか、俺が精神的にきついから、できるだけやめてほしい……」

 

 そう言いながら、俺はトラックを発進させた。

 トラックストップの駐車場を出て、再び高速道路に入る。

 

 眠くならないよう、21世紀のゲームのバトル曲を流してもらいながら、トラックを進める。

 そして、二十分ほど走らせたところで、ヒスイさんが言った。

 

「次の出口で首都に着きます」

 

「おー、ようやくか」

 

『長かった……』『今回は、ヨシちゃんの雑談がいっぱい聞けて満足』『たまにはこういうのもいいよね』『私もMMOで車欲しくなってきたな……』

 

 そんな視聴者のコメントを聞きながら、俺は速度を落として高速道路から降りる。

 それからしばらくトラックを進めると、遠くに大都会が見えてきた。

 

「おー、摩天楼ってやつだな。ここからも高いビルが見えるわ」

 

「この惑星の中心地ですからね」

 

「軌道エレベーターあるもんなぁ……」

 

 天を突くような、というか実際に天を突いている軌道エレベーターが、都市の真ん中から生えているのが判る。

 その方向に目がけて、俺はトラックを走らせる。

 やがて、郊外の一軒家が増えてきたあたりで、高く積み重なったジャンクの山が目に入った。

 あれが目的のジャンク屋だろう。

 

 ヒスイさんもその方向を指示してくるので、俺は周囲に気をつけながらそちらに向かった。

 ジャンク屋は低い塀に囲まれており、辺境のジャンク屋よりも広い敷地を持っていた。

 そこに入り、視界に表示される指定のポイントで停車する。

 

 そして、コンソールボックスからシグルンの手紙を取りだし、トラックから降りた。

 すると、すごい勢いで一人の人間がこちらに走り寄ってくる。

 

 それは、背が低く、白髪で、ひげもじゃの爺さんだった。

 彼を見て、俺は一つの存在を思い出した。

 

「……ドワーフ?」

 

「誰がファンタジー世界の住人か! ……いや、ドワーフはありだな。うん、超絶技巧を持つ職人種族、ありだな」

 

 爺さんは、うんうんとうなずいて、一人で納得している。

 これが、新たなジャンク屋NPCか。シグルンみたいに、有能さを発揮してくれるだろうか。

 

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