21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信! 作:Leni
森の町を出て、アスファルトで舗装された道をひた走る。
どうやらこのあたりは農業地帯のようで、田園風景が広がっていた。
「この道からは速度制限がありますので、お気をつけください」
「あ、やっぱりあるのか速度制限」
辺境の荒野では一切気にしていなかったが、そりゃあちゃんとした道があるなら制限もあるよな。
「ちなみに速度超過するとどうなるの?」
「警察車輌に発見されれば、罰金が科されます」
「そっかー。気をつけないとね」
「ですが、制限速度で進みますと目的地まで数時間はかかります。ですので、高速道路に入りましょう」
「あ、それもあるんだ。視聴者のみんなは、高速道路って解るか?」
『知らんなぁ』『リアルで運転できる場所なんてサーキットしかないから、道路用語は全く解らん』『ゲームもレースゲームしかやったことないや』『プレイしているMMOで車と言えば、馬車くらいですね』
ほうほう。まあ、この時代では乗り物は全て、自動運転だしな。
人でも車の運転が可能な専用サーキットが存在することは、以前ヒスイさんに聞いた。だけど、ヨコハマ・アーコロジーにはないんだよな。
「高速道路は、文字通り高速度で走っていい道路のことだ。普通の道路は速度制限があるが、高速道路ではそれがない。まあ、俺がいた時代の日本だと、高速道路にも時速100kmとか時速120kmとかの制限があったんだけどさ」
『100km/hも出れば十分でしょ』『レースゲームならともかく、一般車両がある中でかっ飛ばすのは危ないだろうな』『全車一斉に自動運転になる以前は、交通事故で人が死にまくっていたと聞くしなぁ』『人が公道で運転するのを禁止したマザー様々だな』『いえいえ、それほどでもー』
なんだ、完全に自動運転に移行したのって、マザー・スフィアが誕生してからなのか。
確かに、完璧な自動運転が生まれても、自分で運転したいって人は残るだろうからなぁ。あと、マザーは、また俺の配信見ているのかよ。
さて、トラックの進行具合はというと、ヒスイさんの誘導で高速道路に進入したところだ。
この辺りまで来ると、さすがに車通りも多くなってきたな。いよいよ、本格的に運送屋のゲームらしくなってきた。
「よし、ヒスイさん、ラジオのチャンネル変えて。次は俺が生きていた時代のゲームソングで」
生きていたとは、生身の肉体が生きていたという意味だ。20世紀末と21世紀初頭だな。
「さすがにそこまで限定したラジオチャンネルはありませんので、カーステレオでプレイリストを再生しますね」
ヒスイさんはそう言ってラジオを止め、カーステレオをいじった。
そんなヒスイさんの言葉に対し、俺は疑問をぶつける。
「プレイリスト? そんなの用意していたんだ」
「このカーステレオは、現実でダウンロード済みの楽曲と連動しており、その中から好きな曲を流せます。ですので、あらかじめヨシムネ様が好みそうな曲をまとめて、種類ごとにリスト化してあります」
「そうなんだ。じゃあ前のユーロビートとかも、ヒスイさんチョイスか」
「はい。ヨシムネ様が生きていた間にリリースされた曲は、おおよそダウンロード済みです。無料ですからね」
600年前の曲だから、著作権の保護期間を過ぎているものなぁ。
そうして流れ始めたのは、聞き覚えのあるゲーム音楽だった。
この曲は確か、『夢は終わらない ~こぼれ落ちる時の雫~』。人気RPGシリーズの一作目に使われていたOP曲だ。これはスーファミ版か。俺が先にやったのはプレステ版だったなぁ。
そして次にかかった曲は、『夢であるように』。その次は、『夢で終わらせない』だった。さらに『夢のつづき』がかかる。
「なんなのヒスイさん、この妙な夢推しは」
「なんとなくまとめてみました」
たまにお茶目な面見せるよね、ヒスイさんって。
やがて夢ソングラッシュは終わり、別の曲がかかる。と、視界にAR表示されている歌詞の翻訳機能が上手く働いていないな。
『何この歌詞。翻訳されてないんだけど』『どういうこと?』『バグった? そんなまさか』『ああー、これは架空言語ですね。非対応でした、ごめんなさい』
架空言語は、人類が普段使っている言語ではない、小説やゲームなどのために創作された人工言語のことだな。
今流れている曲は『謳う丘』。ちょっとだけマイナーな、21世紀のRPGのオープニングソングだ。多分、そのシリーズ三作目の『謳う丘 ~Harmonics TILIA~』かな。
「ヒュムノス語は、自動翻訳機能に非対応かぁ。まあ、そりゃあそうだよな」
「『指輪物語』に登場する架空言語は、自動翻訳に対応しているようなのですが……」
「そっちは今の時代にも、熱心なファンがいたりするのかね……」
そんな感じでゲームソングを聴きながら雑談していたときのこと。
「ヨシムネ様。辺境の町を出てそろそろ一時間になります。休憩しましょう」
「あ、もうそんなに?」
「はい。せっかくですから、車を停めて芋餅をいただきましょう」
「おっけー。しかし、一時間も経ってまだ目的地に着かないとか、オープンワールドと考えても広いなぁ」
「高速道路を使わなければ、間にいくつか町や村がありますからね。全て飛ばして首都に向かっていますから、時間もかかります」
「ああ、途中のサブイベントを全部すっ飛ばして、メインストーリーを先に進めている感覚ね」
そして、俺は休憩場所がないか、道路途中の看板を探す。
「うーん、看板は出口表示だけか」
すると、ヒスイさんが、携帯端末で地図を確認しながら言った。
「高速道路を降りて、トラックストップに向かいましょう」
「トラックストップ?」
「長距離トラック運転手のために用意された、休憩施設です」
「ふーん、サービスエリアはないの?」
「この世界の高速道路は無料なので、高速道路の途中に大規模な休憩所は存在しません。そのような施設は、高速道路の出入り口に存在していますね」
「なるほどなー」
そうして数分トラックを走らせたところで、高速道路の出口があったので、スピードを落としてそちらに向かう。
すると、出口を出てすぐに大きな駐車場と建物が見えてきた。
「これがトラックストップか。じゃ、行こうか」
駐車場には他にも車やトラック、トレーラーがいくつも停まっており、ガソリンスタンドが併設されているのが見えた。
横に建っている建物は、どうやらレストランのようだ。
俺は駐車場の一角にトラックを停め、パーキングブレーキを引く。
そして、コンソールボックスを開けて、中から芋餅の入ったプラスチック容器を取りだした。
ふたを開けると芋餅が十個ほど入っており、さらにプラスチック製の小さなフォークも二つ入っていた。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます」
普段は言わない食前の挨拶を告げて、芋餅をほおばった。
タレや醤油がついていないからどんな味がするかと思ったら、塩で味付けがされていた。そして、焼く際にバターを使ったらしく、まろやかな香りが口の中に広がる。
俺はもっちもっちと
「うん、美味いな。素朴な味がする」
「美味ですね」
『いいなぁ』『私も自動調理器に作ってもらったよ! 美味しい!』『こっちも食べてる。ヨシちゃんのお料理配信見て醤油確保しておいてよかった』『今ゲームの中だから、料理ギルドに作ってもらえないか聞いてみるわ』
そして、容器の中の芋餅を食べていくのだが……。
「後半ちょっと飽きてくるな」
「そうですか? 美味しいですよ?」
「醤油につけて白米と一緒に食べたい」
「では、今日の夕食はそのように」
「ヒスイさん気が利くわぁ……」
和気あいあいと会話しながら食べていくうちに、プラスチック容器の中身は空になった。
「容器を返却するためにも、また辺境に行かないとな」
「新しい料理を渡されそうですけれどね」
確かに、それありそう。
農家をやっていた頃、近隣の農家さんは気のいい人達が多かったな。うちの実家が、元地主の有力農家だったから、対応が丁寧だった可能性もあるかもしれんが。
「さて、ヨシムネ様。疲労度が蓄積していると思いますので、一分ほど横になってください。それで疲労度は全回復します」
「おー、さすがにそこはゲーム的だな。よし、ルーフに行ってくる」
「はい。二人で入るには狭いと思いますので、私は座席の後ろで休んでいます」
このトラックは座席の後ろに、横になれるスペースが存在するんだよな。
一人プレイなら、寝るのはそこだけあればよかった。だが、今回はヒスイさんと二人プレイをしているので、ルーフは必要だった。シグルンに用意してもらってよかった。
俺はルーフに登り、中を確認する。
窓から日の光が差しこんでおり、空調が効いている。床は固めのマットレスのような感触だ。
そして、床に布団が一組敷かれていた。いかにも高級布団って感じだ。シグルンは俺の要求にしっかり応えてくれたらしい。
布団の中で横になると、目の前に疲労度メーターなるものが表示された。それがぐんぐんと減少していく。
うっとうしいので、俺は目をつむって休むことにした。
…………。
「ヨシムネ様、起きてください。配信中ですよ」
「ふがっ!」
ヒスイさんに揺り起こされ、意識がはっきりする。
あれ、俺、寝てた?
『久しぶりのヨシちゃんの寝顔シーン』『最近『sheep and sleep』やらないね』『『超神演義』でちょこっとだけ映っていたぞ』『ヨシちゃんは黙っていると可愛いなぁ!』
うーむ、ばっちり寝落ちていたようだ。俺のボディはガイノイドなのに、このあたりファジーに設定されているから困る。
「しかし、まさか寝落ちるとは。寝てもプレイが自動で中断しないゲームだとは思わなかったな」
「睡眠が取れるゲームは珍しくないですよ。まあ、このゲームですと依頼に期限がありますので、寝過ごすと困るのですが」
「あー、今の依頼は大丈夫?」
「期限の長い依頼ですので、問題ありません」
そして俺は布団から出て、ルーフを降りた。
運転席に戻り、発進準備をする。
「じゃ、ゲームを再開しようか。ヒスイさんはちゃんと休めた?」
「はい。そもそも私は業務用ガイノイドですので、休みなく稼働が可能ですけれどね」
「俺だけ寝ていてヒスイさんは無休で働いているとか、俺が精神的にきついから、できるだけやめてほしい……」
そう言いながら、俺はトラックを発進させた。
トラックストップの駐車場を出て、再び高速道路に入る。
眠くならないよう、21世紀のゲームのバトル曲を流してもらいながら、トラックを進める。
そして、二十分ほど走らせたところで、ヒスイさんが言った。
「次の出口で首都に着きます」
「おー、ようやくか」
『長かった……』『今回は、ヨシちゃんの雑談がいっぱい聞けて満足』『たまにはこういうのもいいよね』『私もMMOで車欲しくなってきたな……』
そんな視聴者のコメントを聞きながら、俺は速度を落として高速道路から降りる。
それからしばらくトラックを進めると、遠くに大都会が見えてきた。
「おー、摩天楼ってやつだな。ここからも高いビルが見えるわ」
「この惑星の中心地ですからね」
「軌道エレベーターあるもんなぁ……」
天を突くような、というか実際に天を突いている軌道エレベーターが、都市の真ん中から生えているのが判る。
その方向に目がけて、俺はトラックを走らせる。
やがて、郊外の一軒家が増えてきたあたりで、高く積み重なったジャンクの山が目に入った。
あれが目的のジャンク屋だろう。
ヒスイさんもその方向を指示してくるので、俺は周囲に気をつけながらそちらに向かった。
ジャンク屋は低い塀に囲まれており、辺境のジャンク屋よりも広い敷地を持っていた。
そこに入り、視界に表示される指定のポイントで停車する。
そして、コンソールボックスからシグルンの手紙を取りだし、トラックから降りた。
すると、すごい勢いで一人の人間がこちらに走り寄ってくる。
それは、背が低く、白髪で、ひげもじゃの爺さんだった。
彼を見て、俺は一つの存在を思い出した。
「……ドワーフ?」
「誰がファンタジー世界の住人か! ……いや、ドワーフはありだな。うん、超絶技巧を持つ職人種族、ありだな」
爺さんは、うんうんとうなずいて、一人で納得している。
これが、新たなジャンク屋NPCか。シグルンみたいに、有能さを発揮してくれるだろうか。