21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信! 作:Leni
宇宙船が完成した次の日。
俺はいつも通りに配信を開始し、軌道エレベーターの工房からゲームを再開させた。
早速、宇宙船に乗りこもうと思ったところで、ジャンク屋NPCのガレスが話しかけてきた。
「お前の乗っているトラックは、他の星の環境には合わねえぞ。持っていくのは無駄だから、この軌道エレベーターの駐車場と契約しておけよ」
おっと、そうなのか。では、10tトラックはこの星に置いていくことにしよう。
他の星で乗り物が必要となったら、そのときは適時現地で製造だな。
トラックを駐車場に置きにいき、あらためて宇宙へと出発だ。
「まずは、軌道エレベーターの上にある宇宙ステーションを目指せ。運送屋ギルドの本部があるからな」
「了解。ガレス、世話になったな」
「いいってことよ! この星でまた仕事することがあったら、店に寄ってくれ」
そんな会話をしてガレスと別れ、俺とヒスイさんは宇宙船に乗りこんだ。
トラックとは違い、余裕のある操縦室。他にも貨物室や仮眠室があり、仮眠室にはベッドが二つ並べてある。このあたりの内部設計は、今までのトラック等と一緒で実際に存在した宇宙船を参考にしているのだろうか。
さて、宇宙船の操作系統は、以前プレイした『ギャラクシーレーシング』と同じ見た目をしているな。
あの感覚で操縦すればいいのかな、と思いながら操縦桿を握ると、『運転のチュートリアルを開始しますか?』と視界に表示された。車と違って慣れていないので、『はい』を選ぶ。
すると、宇宙船の外の風景が変わり、ワイヤーフレームで構築された仮想空間っぽい場所に飛ばされた。
『チュートリアルを開始します。まずはエンジンの始動方法から』
そうしていくつかの操作説明を受け、実際に宇宙船を動かしてみた。
うん、やっぱり『ギャラクシーレーシング』と同じ操作方法だな。フライトシミュレータやフライトシューティング等の飛行機操縦とはまた違う感じなので、頑張って慣れないと。
『チュートリアルを終了します。では、よい旅を』
そんな言葉と共に、宇宙船のモニターから見える風景が軌道エレベーターの宇宙港へと戻る。
そして、俺は早速、宇宙船を発進させた。まずは、ゆっくりと出口方面へと向かう。反重力装置という機械が搭載されているらしく、低速度での移動はそれを用いるのがよいようだ。
『こちら管制塔。『プリドゥエン』聞こえますか』
「おっ、通信か。聞こえます。こちら宇宙船『プリドゥエン』」
『出発ですね? 287番ポートに入ってください』
「了解」
すると、床についていたライトが道を作るように光り、287番ポートへの行き先を示した。
やがて、287と書かれた隔壁に到着し、その隔壁が開く。
管制塔の指示に従い、内部に進入すると、背後で隔壁が閉じた。すると、管制塔から『減圧開始』と通信が届いた。
ここから先が宇宙だとしたら空気は存在しないので、こうやって隔壁で空気の境界を作っているのだろう。息ができないはずなので、もう宇宙船の外には出られない。
『287番ポート、外壁開放。『プリドゥエン』、よい旅を』
「ああ、ありがとう」
そんなやりとりを終えると共に、前方の隔壁が開き、宇宙の闇が向こう側に見えた。
俺は操縦桿を握り、反重力装置で宇宙船をゆっくりと発進させ、宇宙へと飛び出した。
「……ふいー、発進成功だ」
「おめでとうございます」
ずっと横で見守っていてくれたヒスイさんが、そんな祝福の言葉を投げかけてくれた。
『おつかれヨシちゃん』『雰囲気出てたわぁ』『21世紀人でも、さすがに宇宙船の操縦経験はないか』『でも、手慣れてなかった?』『ヨシちゃん、宇宙船レースゲームの配信やったことあるからね』
視聴者達は、相変わらずコメントを自由に交わしている。
さて、とうとう宇宙に来たわけだが……。
「ヒスイさん、このゲームってクリアとかあるの?」
「スタッフロールが流れるという意味でしたら、いくつかのルートがあります。まずは、宇宙空母を所持し、運送会社を設立することです。これは、ヨシムネ様が従業員を雇う方針ではないため、選択肢から外れます」
「そうだな」
「次に、主要惑星全てで乗り物を用意すること。運送屋としての名声が高まり、運送屋ギルドの上級会員となります」
「惑星がいくつあるか知らないけど、結構時間かかりそうだな」
「最後に一番手軽な方法が、この星系を脱出して宇宙開拓の最前線へと向かうことです。これには、宇宙船にワープドライブ装置を装着する必要があります」
「おっ、それいいね。その方向で行こう」
『ロマンがあっていいね』『やっぱり時代は宇宙開拓だよ』『リアルでもAI達にとって今一番ホットなのは、宇宙開拓らしいからな』『知性の高い異星人が発見されているんだっけ』
ヒスイさんの口から、ワープドライブ装置の詳しい入手方法が語られる。
どうやら、惑星ではなく宇宙を中心とした依頼を受ければよいらしい。
「じゃ、宇宙ステーションとやらに向かいますかね」
俺は操縦桿を強く握り、軌道エレベーターの上方に存在しているらしい宇宙ステーションに向かった。
ヒスイさんの説明によれば、この宇宙船の通常航行時は、核融合エンジンで発生させたレーザーを推進剤に当て、それにより発生したプラズマを噴射させることで移動するらしい。なるほど、よく解らん。
そんなプラズマ噴射で宇宙船を進ませると、すぐに巨大な宇宙ステーションがモニター前方に見えてきた。
「この巨大さは、宇宙ステーションというか、スペースコロニーというのではないだろうか……」
俺がそう突っ込むが、ヒスイさんの見解は違った。
「あそこは運送屋ギルドが運営する貨物や宇宙船の集積地で、人の居住は最小限です。ゆえに、ステーションという呼び名が相応しいでしょう」
「そんなものか」
そうして俺は新たに通信を入れてきた管制塔の指示に従って、宇宙ステーションの内部に宇宙船を停泊させた。
宇宙船を下りると、運送屋ギルドの職員を名乗る人と面会することになった。
できるキャリアウーマンといった感じの見た目だ。
「緑の惑星所属のヨシムネとヒスイですね。新たな宇宙船乗りを我々は歓迎します」
「よろしく。で、宇宙開拓の最前線に向かいたいんで、ワープドライブ装置が貰えるような依頼を回してほしいんだけど」
「ほう、最前線志望ですか。これは有望な新人が来ましたね。では、各惑星の軌道エレベーターへの配達依頼を続けてください。惑星まで降りる必要はありません。最前線の運送屋に必要なのは、車の運転技術でも船舶の操舵技術でもなく、宇宙船の操縦技術ですので」
「了解」
そういうわけで、宇宙船を使っての運送業の始まりである。
貨物室いっぱいに荷物を積みこみ、宇宙ステーションを出発する。
「それじゃあ、超光速ドライブ、準備!」
他の惑星まで移動するにあたり、俺はそんな号令をかけた。
「進路上に障害物なし。他の宇宙船との経路重複なし。行けます」
「超光速ドライブ、起動!」
超光速移動のためのスイッチを押すと、宇宙船のモニターから見える星がなくなり、代わりに流星のような光の帯が無数に流れる、美しい光景へと変わる。
『ヨシちゃんノリノリだな』『まあやってみたくなる気分は解る』『綺麗な風景だなぁ』『超光速ドライブとかリアルでは存在しないから、見た目重視の演出にしたんだろうな』『どういう理論で光速超えているんだろう』
あー、縮退炉とかある27世紀の未来でも、光速は超えられていないのか。ワープ航法代わりであるテレポーテーションは存在するんだが。
そんなコメントのやりとりを聞いている間にも、無数の流星が後ろへと流れていく。
「目的地の水の惑星まで、二分で到着します」
「了解。うーん、これ、超光速ドライブ中はやることないな」
「前方に障害物が発見される等の予想外の事態が起きると、即座に超光速ドライブが解除されますので、そこからの対処をお願いします」
「ちっちゃなスペースデブリでも、この速度で衝突すれば大惨事か……」
『このゲームにはロボットとかいないらしいけど、デブリ掃除とかしてるのかな』『リアルだとマザーが掃除頑張っているんだけど』『以前の惑星テラ周辺はゴミだらけでしたねー』『相変わらずマザーは、ヨシちゃんの配信見ているのね……』
もうマザーがいても、視聴者達が驚かなくなったぞ……。
と、二分が経過し、自動で超光速ドライブが解除された。
前方に見えるのは、青い惑星だ。緑の陸地は見えない。海しかない惑星なのだろうか。
「確かにガレスが言っていた通り、あんな惑星じゃトラックなんて使えないな」
「水の惑星は主に船舶を使用して輸送を行ないます」
「さすがに船舶免許は持っていないなぁ」
そんな話をしながら、俺達は水の惑星の軌道エレベーターに停泊した。
スキップを活用して荷物を下ろし、次の惑星へ。
次の惑星は、海のない荒野の惑星だ。この星では地上の路面状況が悪すぎるためトラックは使えないらしく、浮遊車か飛行機を利用して荷物を運ぶとのことだ。
「『Wheel of Fortune』ってタイトルなのに、ここまできたらホイール関係なくなったな」
そんなことを言いつつ、ここでも軌道エレベーターに荷物を下ろし、惑星に降り立つことなく次に向かった。
次は、土星のような輪のある惑星だ。ヒスイさん曰く、ここは資源採掘惑星であり、人はほとんど居住していないとのこと。
採掘作業員のための物資を軌道エレベーターに納品し、採掘された資源を運ぶ依頼を代わりに受けて、荷物を受け取った。
「この作業の繰り返しか……。どうせなら、宇宙船の貨物室をもっと大きくしたいな」
「では、資源の納品が終わったら、ジャンク屋に頼みにいきましょうか」
ベリーイージーモードなので、この一周の惑星巡りだけでかなりの額の依頼料が手に入っている。宇宙船の改造には十分だろう。
そうして俺達は緑の惑星まで戻り、軌道エレベーターで資源を納品し、駐車場からトラックを回収してジャンク屋へと向かった。
ガレスに会うと、「もう戻って来やがったのか」と文句を言われたが、貨物室の改修を頼むと「がはは」と笑って
宇宙船が一回り大きくなり、その宇宙船で再び惑星巡りの配達を開始する。
「超光速ドライブ中は直進しかできないから、トラックの運転と違って移動中に何もやることがないな。宇宙船の本番は車庫入れだなー」
「運転で一番難しいのが、駐車と車庫入れではないでしょうか?」
「それもそうか」
『レース用に速度出すのとは違う技術が必要だからな……』『そういえば全然レースしていないけど、宇宙船レースはないの』『確かに』『レース! レース!』
視聴者のコメントに、ヒスイさんが苦笑して言う。
「宇宙船レース中に事故を起こすと、莫大な修理費が必要となるのですが……」
「いいじゃん。宇宙船が壊れても、トラックがあるさ」
そういうわけで、俺達は荒野の惑星の衛星軌道上で行なわれる宇宙船レースに参加した。
結果は、軽々と優勝。
「やっぱり、ベリーイージーモードでレースは、盛り上がらないんじゃね?」
そんな今更な疑問を口にすると、視聴者達も『そりゃそうか』と納得した。そして、俺は惑星巡回の輸送依頼に戻った。
やがて、今日の配信開始から三時間ほど経過したころ、運送屋ギルドから連絡が入った。
『ヨシムネとヒスイは運送屋ギルドへの多大な貢献が認められ、ワープドライブ装置の購入が可能となりました。おめでとうございます』
「おお、ありがとう」
『ただし、運送屋ギルドはワープドライブ装置を販売しますが、宇宙船への組みこみまではしません。宇宙船の改造をしてくれる工房は、自前で見つけてください』
「それは大丈夫」
俺達は宇宙ステーションまで向かい、ワープドライブ装置なる機械を購入し、宇宙船へと積みこんだ。
そして、そのまま緑の惑星の軌道エレベーターに向かう。
その間、ヒスイさんは携帯端末をいじっていた。話を聞くと、ガレスへワープドライブ装置の組みこみ依頼を出したのだとか。
軌道エレベーターに停泊すると、すぐさまガレスが飛ぶようにしてやってきた。
そしてなんと、辺境のジャンク屋NPCであるシグルンの姿も見える。
「あれ、シグルン、なんでいんの?」
俺がそう言うと、シグルンが即座に答える。
「いちゃ悪いかな? 私の故郷はこの首都だから、たまの里帰りをしていただけだよ。それよりも、ワープドライブ装置見せてよ!」
「あ、ああ。存分に見ろ。そして宇宙船の改造を頼む」
「まっかせてよ!」
「こら、馬鹿弟子! そりゃあ俺の仕事だろうが。もう金も受け取ってある!」
横から怒鳴るようにしてガレスが口をはさんできた。
「ええー、私もワープドライブ装置いじりたい! ワープ! ワープ!」
「っち、しょうがねえな。二人でやるか!」
「さっすが師匠!」
そんなやりとりが終わると、宇宙船はすぐさま工房へと運ばれていった。
工房では、ガレスとシグルンが相変わらずの高速移動で宇宙船を改造していく。
「というか、ワープドライブ装置だけでなく、見た目も変わってないか?」
「資金が余りましたので、バリア装甲を追加しています」
俺の疑問に、ヒスイさんがそう答えた。
『バリアとか、何と戦うつもりなの……』『宇宙の最前線なら宇宙怪獣でもいるんじゃね?』『そうなったら一気にゲームジャンルが変わるな……』『運送ゲームが宇宙船シューティングゲームになっちまうー!』
さすがにそれはないだろ……。
と、そんなやりとりをしている間に、宇宙船は完成したようだ。
「ふいー、会心の出来だぜ」
「楽しかったー!」
二人が満足そうで何よりだ。
「それじゃあヨシムネ、ヒスイ、最前線行き頑張れよな」
「たまには辺境にも寄ってねー。またね!」
そんなあっさりした言葉と共に、二人は工房を去っていった。
「うーん、もうゲームクリアになるから、会うのはこれが最後になるのに、あまり会話できなかったな」
「クリアしたらプレイしなくなるゲームのNPCに対して強い思い入れを持っても、あまりよいことはありませんよ。現実で家族AIとして迎え入れるなら、話は別ですが」
「いや、そこまでする気はないかな。我が家の住人は今のメンバーで十分」
ガレスもシグルンもいいキャラしていたけどね。
そして、俺はヒスイさんに最前線行きの依頼を探してもらった。
「この軌道エレベーターから最前線へ、生活雑貨を配達する依頼がありますね」
「よし、それを受けよう!」
荷物を新しくなった宇宙船に積みこみ、俺達は軌道エレベーターを出発する。
そして、軌道エレベーターから少し離れたところで、ワープドライブを試すことにした。
「装置の感度良好。ワープ先の空間に何もなし。行けます」
ヒスイさんが、そうゴーサインを出す。
「よーし、ワープドライブ、起動だ!」
すると、前方に光のゲートが現れ、俺は操縦桿を握りそこに飛びこんだ。
数秒間虹色に光る空間を通ったと思うと、すぐさまその空間から脱出した。そして、モニターから見える前方に、青と緑の惑星が広がっていた。
「ワープアウト成功。宇宙開拓の最前線に到着しました」
「よーし、あとはどこに向かえばいいんだ?」
「惑星の軌道上に宇宙ステーションがありますので、そちらへ」
俺は操縦桿を操り、ヒスイさんの誘導で宇宙ステーションへ移動する。
そして、管制塔の指示に従って、宇宙ステーションの内部へと宇宙船を進入させた。
停泊させて荷物を下ろしたところで、また管制塔から通信が入った。
『ようこそ、人類の最前線へ。我々は新しい仲間を歓迎するよ』
と、そこで視界が身体から離れ、惑星を
それと共に、歌が流れ、スタッフロールが表示され始めた。
「よし、ゲームクリアだ」
「おつかれさまでした」
『おつかれー』『いい配信だった』『作業用BGMとして活用させてもらったよ』『宇宙船よりトラックの方が見てて面白かったかなー』『宇宙は風景が単調ですからね』
ヒスイさんのねぎらいの言葉と共に、視聴者達がそんなコメントをしてくれた。
ゲームもこれで終わりなので、視聴者に向けて俺は今回の配信の感想を語る。
「四日間にわたる配信だったけど、存分に車の運転ができて満足だ。リアルじゃ、もう運転の機会とかないからな」
「サーキットまで足を運べば運転は可能ですが……」
「でも、ヨコハマにはないんだろう? 運転のためだけに旅行っていうのも、気が向かないかな」
『運転配信ってことにすればいいじゃない』『それいいね』『今度こそヨシちゃんのドリフトが見られるのか!?』『期待』
「期待してくれているところ悪いが、旅行の予定はすでに立てていてな。行き先は、もう決まっているんだ。11月にブリタニア国区だな」
『閣下のところか!』『アミューズメントパーク行くのかー』『当然その様子も配信してくれるんですよね?』『期待』
お、おう。一瞬でサーキットのことが忘れ去られたぞ。
「まあ、そのへんはおいおい知らせるよ。それじゃあ、今回の配信はここまで! 21世紀おじさん少女のヨシムネでした!」
「今回は助手の任務を存分にこなせて満足した、ヒスイでした」
そうして、俺達は無事に配信を終えるのであった。
クリアまで四日かかったが、ほとんどの時間を雑談で過ごしたので、新鮮な気分で配信ができたな。
それよりも、無事故無違反でゲームクリアできたの、何気にすごいことなんじゃないか?
リアルに戻ってそんなことを思いながら、ソウルコネクトチェアの上で伸びをしていたら、ヒスイさんが俺に向かって口を開いた。
「グリーンウッド卿から、メッセージが届いております」
「ん? なんて言ってる?」
「『ブリタニア国区に来るのは本当か?』らしいです」
「あー、まだ言ってなかったもんなぁ」
旅行計画は数日前に立てたばかりなので、閣下には何も連絡を入れていない。
俺はとりあえずヒスイさんに、「来月遊びに行くのでよろしく」とだけ返信してもらうことにしたのだった。