21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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150.最果ての迷宮(ローグライク)<6>

『最果ての迷宮』配信三日目。

 ゲームを起動した俺は、昨日持ち帰った金貨で新しい服を選んでいた。

 

「えっ、攻めすぎじゃない?」

 

『これくらい普通、普通』『この服装でビールとか運んでほしい』『ソーセージも!』『この衣装だとそれは定番ですよね!』

 

 視聴者達が選んだのは、ドイツの民族衣装ディアンドルだ。オクトーバーフェストで給仕の女性が着ている服だな。

 巨乳だと強烈なインパクトがある服だが、俺はミドリシリーズのデフォルトサイズなので普乳である。

 

 それを理由に断ろうとするが、結局押し切られて俺はディアンドルを着ることになった。

 

 そして、衣装を一新した俺は、自宅の魔法工房に戻り、次の迷宮をヒスイさんに教えてもらうことにした。

 

『次に紹介するのは、『世界の迷宮』です。迷宮の番号は『72』。この迷宮は、第一階層しか存在しない固定MAPのオープンワールドエリアです』

 

「MAP固定……? ランダム生成じゃないってこと?」

 

『はい。通常のRPGやアクションゲームと同じく、内容が一切変動しない固定MAPです。攻略情報がそろっていれば、簡単に踏破が可能でしょう』

 

「はー、そんなのもローグライクにはあるんだ」

 

『ターン制での行動は『Rogue』を踏襲していますからね』

 

 オープンワールドということは、MAP上をどこまで移動しても画面が切り替わらないわけだ。それにローグライクの要素を足すと……。

 

「一度敵対したモンスターが、どこまで逃げても追いかけてくるってこと?」

 

『そうなりますね』

 

「はー、やっかいな……」

 

 そう言いながら、俺は転移門のダイヤルを『72』に合わせた。

 ルール説明画面で、ヒスイさんの説明になかった内容は以下の通りだ。

 

・死亡しても、一度MAPに記録された情報は消失しない。

・手に入るアイテムは全て鑑定済み。

・エリア上には、ほこらが点在し、中に入ると強力なアイテムが手に入る。

・食料は落ちていない。果樹から果物を採取し食べるか、モンスターを討伐した際にまれに落とす生肉を食べることとなる。

・魔族の商人がアイテムを販売している。アイテムの対価は金貨である。

・金貨は落ちていない。宝箱に入っていたり、モンスターがまれに落としたりする。

・道を開くスイッチや、鍵で開く扉、ツルハシで壊れるもろい壁など、多数のギミックが存在する。

・ボス以外のモンスターは、ターン経過で復活する。全てのモンスターは、プレイヤーが迷宮を出た時点で復活する。

 

「なんか、アクションRPGの説明書きでも見ている気分だ」

 

『ローグライクさんの懐は広いから』『アクションゲームさん並に懐広い』『新鮮さをプレイヤーに提供しようとすると、ゲームは自然と複数のジャンルを兼ねるようになっていくもんだ』『ゼロから新しい要素を生み出すのって難しいから、組み合わせる的な?』

 

 ゲーム制作については詳しくないから、ノーコメントで。

 さて、聞きたいことは聞けたので、俺は転移門の中に飛びこみ、『世界の迷宮』に向かった。

 

 転移先は、石造りの部屋の中だった。背後には、迷宮の出入り口らしき豪華な扉が存在する。開けようとしてみたが、開かない。おそらく『世界の鍵』を入手しないと開かないのだろう。

 

 部屋の中央には祭壇があり、その祭壇の上には鞘に入った一振りの剣が置かれていた。

 俺はその剣を手に取ると、鞘から抜く。長すぎず短すぎず、いい感じの剣だ。剣の名前は……デュランダル。確か、刃がものすごく頑丈という逸話を持つ、伝説の聖剣か何かの名前だったかな。鞘は剣帯と共に腰へと自動で装着された。

 

 鎧の類は見当たらないので、俺は背後の扉とは別の部屋の出口に向かった。どうやら外、というかフィールドエリアとつながっているらしい。

 部屋の外に出ると、草原が広がっており、空の上には太陽が存在していた。後ろを振り返ると、『デュランダルのほこら』という文字が、俺が出てきた出口付近に表示されていた。どうやらあそこは、ほこらであったようだ。

 俺は聖剣を右手に握ったまま、マス目に区切られた草原を進む。

 

「はー、迷宮とはなんだったのか。いや、『ラビリンス 魔王の迷宮』って映画に出てくる迷宮は、普通に空とかあった気もするけど」

 

『まあRPGのダンジョンでも、たまにこういうのありますし?』『君が迷宮と思えばそれが迷宮だよ』『このゲーム100も迷宮あるから本気で言った者勝ちになっていそう』『私達は迷宮のことを何も解っちゃいない……』

 

 そんなやりとりを視聴者と交わしながら、こちらに向かってきたウサギ系モンスターを倒す。

 モンスターの姿が消え去ると、生肉がドロップした。

 

 生肉を取得すると、手の中の生肉がインベントリに消えていく。

 

「ところでヒスイさん、肉を焼くための器具なんかは……」

 

『ありません。生で食べましょう』

 

「生肉食かぁ……馬刺しは食べたことあるけど、やっぱり生肉のまま食べるのは抵抗あるな」

 

『寿司食べるのに?』『他にもあれ食べるんでしょう? 生魚の切り身』『刺身な』『美味しいよね、刺身』

 

 うーん、鮮魚の刺身と生肉刺しはまた違うんだよな。

 理由、理由は……。

 

「ほら、豚肉って火を通さないと食中毒になるっていうから、生肉食は危ないって頭に刷りこまれているんだよ」

 

『21世紀人にも、そういう何かが危ないって条件反射が存在しているんだな』『刃物も火も怖がらないのに、生肉なんて怖がるのかぁ』『ジェネレーションギャップやね』『600年のジェネレーションギャップすげえな』

 

 あー、確かにこの時代の人達が、刃物とか火とか流れる水に恐怖感じている様子を内心面白く思っていたけど、俺にだってそういう要素がちゃんとあるのか。気づけてよかった。

 そんなことを考えていると、ヒスイさんからも言葉が届く。

 

『オーガニックの豚肉を生で食べると危険な理由は、食中毒を引き起こす菌だけではなく、有鉤条虫(ゆうこうじょうちゅう)などの寄生虫も存在するからですね。なお、培養豚肉はどちらの危険性もないため、生食が可能です』

 

「なるほどなー。普通の二級市民はオーガニックな肉を普段食べないから、生食を危険と思っていないのか」

 

『それと、自動調理器の発展による成果もありますね。……視聴者の皆様、ヨシムネ様の真似をして現実世界で料理する時は、くれぐれも食品衛生に注意を払うようにしてくださいませ。血中ナノマシンの治療効果にも、限界は存在します』

 

 そんな会話を繰り広げながら探索すること十分ほど。森の中に突入したところ、うっかりモンスターに囲まれ、魔法工房に死に戻りした。

 

「死んだか……でも、あそこまで行ったMAPは残っているんだ。少しずつ攻略していくぞ!」

 

 そう気合いを入れてから二時間後……ダンジョンらしき場所を見つけたり、湖を船で渡って重要そうな鍵を見つけたり、中ボスらしき敵を倒したら単に強い武器を守っているだけだったり、遠くに転移する魔法陣の位置を特定したりと、いろいろな体験をした。ここまで埋まったエリアMAPは全体の四分の一ほど。

 

「これは……長い戦いになりそうだ」

 

『今日では終わらん感じ?』『だろうねぇ』『明日で終わればいいね』『今日入れて残り三日ですか』『あまりローグライクを見ている気分にはならないけど、探索アクションとしてこれはこれであり』

 

「プレイしているこっちの気分としては、常に新しい場所に向かっているから、かなりローグライクの気分だぞ……。いや、ローグライクを語れるほどローグライクには詳しくないが」

 

 何度も死亡を繰り返すうち、俺が使いやすいと思った武器を拾える場所を覚えたりしたので、そういう点では運要素やランダム要素は薄くなっているかもしれない。

 

 その後も俺はプレイを続け、ライブ配信が四時間経過したところで今日の配信を切り上げることにした。

 

「待っていろよ、『世界の鍵』! 明日こそ手に入れてやる!」

 

 ちなみにウサギモンスターの生肉は、味がついていて美味しかった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 そして明くる日、俺は二時間ほどのプレイの後に、『世界の迷宮』の大ボスと対面していた。

 大ボスの正体は、複数の翼が生えた超巨大な天使っぽい敵。名前はメタトロンだ。翼は生えているものの、移動はせず身体の向きを頻繁に変えて弱点らしき場所を狙いにくくさせてくる。さらに、様々な攻撃方法でこちらを翻弄(ほんろう)してきた。

 その中には、床のマスに罠的な魔法を仕掛ける攻撃もあり、その魔法に対処するため、今まで集めたアイテムを駆使することが求められた。

 

 そして、奮闘虚しく、というか相手のHPも表示されていたのだが半分も削れないうちに、俺は負けた。

 

 魔法工房にて、俺は叫ぶ。

 

「ちくしょー! ああもう! メタトロン用に使えそうなアイテムを集めてから、再挑戦だ!」

 

 再度の挑戦で、俺は無事メタトロンを倒すことに成功した。

『世界の鍵』を手に入れ、俺はエリア入口に繋がる転移魔法陣的な何かが出現するのを待つ。

 だが、待てども一向に魔法陣は現れない。ターンを経過させても現れない。

 

「……もしかして、徒歩で帰れと」

 

『そうなりますね。頑張ってください』

 

 ヒスイさんの無慈悲な言葉が俺を襲った。

 

「うがー、もうHP回復ポーションの在庫ないぞ! 自然回復駆使して、駆け抜けろってことかよ!」

 

 この迷宮では、アイテムが固定位置で拾えるため、複数拾ってストックしておけるHP回復ポーションが、攻略を円滑に進める上でかなり重要なポシションを占めていた。

 この大ボスのいる山頂に来るまでには、モンスターの群れを何度か相手にしなくてはならないので、HP回復ポーションの使用は必須と言えた。

 

「大丈夫だ、遠距離攻撃を主体にすれば、いける、いける……」

 

 いけなかった。

 

『死んだー!』『盛り上がってまいりました』『ヨシちゃんの運命やいかに!』『で、配信始めてから四時間過ぎたけど、本当にどうするの?』

 

「これからが本当の地獄だ……。お前達には最後まで付き合ってもらうぞ……」

 

 それからメタトロンを倒すこと二度。俺はようやく、『世界の鍵』を迷宮の外へと持ち帰ることに成功した。勝因は、各地に点在する魔族の商人からHP回復ポーションを買い占めることだった。

 

 ちなみに迷宮の外は山岳地帯のドラゴンの巣で、人は特に誰も待ち構えてはいなかった。

 ドラゴンは卵を守っており、こちらを威嚇してくるが、俺はスルーして魔法工房へと戻った。剣ビームが見られなくて残念という声が、視聴者から漏れた。

 

「はい、終わり。今日はこれで終わりー。配信開始から五時間も経っているじゃないか! みんなもよく付き合ってくれたな!」

 

『地獄に落ちるときは一緒だよ』『死を煽った以上、最後まで付き合わないと』『正直やらなくちゃいけないことほったらかしだけど、後悔していない』『感動をありがとう、ヨシちゃん』

 

 うん、なんだかいいシーンっぽいけど、ゲームクリアとかしたわけじゃなくて、数ある迷宮のうちの一つをこなしただけだからな。

 俺はゲームを終了してSCホームに戻り、五時間ぶりにヒスイさんと対面する。

 

「ヒスイさんも、ずっと解説ありがとう」

 

「助手ですから」

 

 解説はしてくれても、ヒントは出してくれないんだよなぁ。

 もう少し柔軟な対応にならないかと思いながら、俺は今日の配信を終えた。

 

 そして、SCホームでヒスイさんと、今日の配信の振り返りをする。

 

「ヨシムネ様。失敗を重ねて少しずつ成長し、成功をつかみとる姿、とても美しかったですよ。ですので、残る一日はボーナスタイムです」

 

「……ボーナスタイム?」

 

 俺は、ヒスイさんが突然言い出した意外なワードに、思わずオウム返しをしてしまう。

 

「はい。明日紹介する迷宮は、アクション性の高い、メトロイドヴァニア迷宮です」

 

 ……ローグライクって、そういうのもありなのかよ!

 

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