21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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155.養育施設のハロウィン<2>

 運動ホールにテーブルが多数運びこまれ、飲み物や食べ物も用意されて、立食パーティーが始まった。

 立食とは言っても椅子もちゃんと用意されており、立つのに疲れた子供が座って、早速お菓子の袋を開けている。

 

「ヨシムネさん、お菓子配りおつかれさまでした!」

 

 ハマコちゃんが、ジュースの入ったコップを持ってこちらにやってきた。

 俺はハマコちゃんからコップを受け取り、「ありがとう」と返しておいた。

 

 ああ、そうだ。気になったことをせっかくだから聞こうか。

 

「途中で小さな子が、目を赤くしていたんだが、なんでもアナザーが怖くて泣いちゃったらしい。アナザーってなんだろう?」

 

 ハロウィンと言うことで、みんなでホラー映画でも観たんだろうか。

 

「そういえば午前中はアナザーの時間でしたかー。実は、『アナザーリアルプラネット』という、養育施設と子供のいる家庭でしかプレイできないMMOゲームを子供達はプレイするんですよ」

 

 ……そうだ、思い出した。『アナザーリアルプラネット』は、昨日の配信で視聴者が言っていたワードだ。だから、子供のアナザーって言葉がすごく気になったんだな。

 俺が納得している間にも、ハマコちゃんは説明を続ける。

 

「そこは、痛覚軽減がされていない、もう一つの現実世界です。そこで子供達は、現実世界における刃物や突起物の危険さ、火の危険さ、誰にも気づかれずに肉体を喪失することの怖さなどを学びます。それと並行して、通常のゲームと同じ設定の養育施設向けMMOゲーム『ネバーランド』もプレイすることで、現実とゲームの違いを学びます」

 

 今の時代の子供は、そんな教育がされているのか。

 と、思ったら、ハマコちゃんが俺の横に近づいてきて、耳打ちをする。

 

「実は、『アナザーリアルプラネット』では、人間の子供に扮した被害者役のAIが、子供達に判らないよう混ざっているんです。包丁で怪我をしたり、火で大火傷を負ったり、猛獣に襲われたり、川に流されて帰ってこなかったりして、子供達に被害を見せつけることで、現実世界に存在する危険を教え込むんです」

 

「それは……トラウマものだな」

 

「トラウマになるくらい強烈に教えこむわけですね。特に川流れ関連は重要ですよ。遺体回収ができずに魂のサルベージを行なえないと、ソウルサーバにも入れませんから。そしてその一方で、『ネバーランド』にてゲーム内の刃物や火、水、モンスターは怖くないと学ぶわけです」

 

 そこまで言って、ハマコちゃんは耳打ちを止めた。

 なるほどなー。この歳の子でも、リアルの刃物は怖いとしっかり学ばされているわけか。

 

 って、ああ、そうか。

 お菓子配りの時のヒスイさんの列が俺より短くて、そして今も子供達に距離を取られている理由が判ったぞ。

 

「ヒスイさーん! ちょっとこっちに来て」

 

 猫系の仮装をしている子供達に近づこうとして、避けられているヒスイさんを呼んだ。

 

「お呼びでしょうか?」

 

 肩を落としながら、こちらにやってくるヒスイさん。

 そんなヒスイさんに、俺は気づいたことを素直に教える。

 

「ヒスイさんが小さな子に避けられているのは、腰にエナジーブレードの柄を下げているからかもしれない。みんなそれが、危ない刃物だって理解しているんじゃないか。そして、AIが人に向けて無闇にそれを振るわないということは、まだ理解できていないってわけだ」

 

「そんなことが……気づきませんでした」

 

 ヒスイさんがショックを受けたような顔でそう言った。

 そう、ヒスイさんは常にエナジーブレードの柄を携帯している。海水浴の時は、これでスイカ割りをやったこともある。海水浴客達はそれを怖がってはいなかったが、もし子供達がエナジーブレードを怖がっているとしたら……。

 

「ああ、確かに、AIは人類の隣人であり、頼れる親友ですよと学ぶのは、11歳以降のことですね! 学習装置で人類の歴史を学ぶのが、その年齢からなんですよ」

 

 ハマコちゃんが追加で、そんな情報を出してきた。学習装置は、脳に直接情報を叩き込んで物事を学ばせる機械のことだな。

 俺とハマコちゃんの説明にヒスイさんは納得したのか、アンドロイドの職員を呼んで、エナジーブレードの柄を渡した。職員はその柄を持ってどこかへと去っていく。

 

「渡してよかったの?」

 

 俺はヒスイさんにそう尋ねる。

 

「はい、ロックしてありますから、他人の手に渡ってもブレードを展開できません。これなら……」

 

 すると、ヒスイさんが武装解除したことに気づいたのか、猫系の仮装をした子供達が近づいてくる。

 それをヒスイさんは笑顔で迎え、一緒に遊び始めた。うんうん、上手くいってよかった、よかった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 子供達と一緒に騒いでいるうちに、立食パーティーの終わりの時間となった。テーブルは片付けられ、子供が残したお菓子は職員達が回収していった。

 ちゃんと誰から回収したかは記憶しており、お菓子は後でまた返すらしい。

 

 そして、最後のイベント。ハマコちゃんに昨日頼まれていた歌の披露だ。

 今日歌うのは、俺だけでなくヒスイさんも。つまり、デュエットである。

 

 今回の曲は、20世紀末に放送されていたテレビアニメのエンディング曲だ。

 映画はともかくとして、テレビアニメを見るという習慣が昔からなかった俺。でも、ゲームは昔から好きで、家庭が裕福なのをいいことにいろいろなゲームを買ってもらっていた。

 

 ある時、大好きなとあるゲームがテレビアニメになると知った俺は、珍しくそのアニメを視聴することにした。

 見事にそのアニメにはまり、毎週のように同じ時間、テレビの前でじっと番組を眺めていた。その当時聞いていたエンディング曲が、今回の曲、『ポケットにファンタジー』である。

 

 ヒスイさんと二人で、そんな思い入れのある曲を歌い始める。

 ヒスイさんが大人に憧れる子供役のパートを歌い、俺が子供時代を懐かしむ大人役のパートを歌う。

 

 歌にもちょっとだけ出てくる、そのアニメに登場する黄色い電気ネズミのモンスター。それがなんと、今の時代になっても子供達に愛され続けているキャラクターなのだとか。

 当時のゲームもVRやインプラント端末向けにリバイバルされて発売されており、子供達に人気だと聞く。当然、俺もこの時代に来てから、プライベートでプレイしてクリア済みだ。

 

 だから、ゲームの用語が出てくるこの歌の内容も、子供達は理解してくれるだろう。歌詞にこめられた意味を本当に理解できるようになるのは、大人になってからという、そんな歌なのだが。

 

 そうして俺とヒスイさんは最後まで曲を歌いきり、子供達から大きな拍手を貰った。

 

「ヨシムネさんとヒスイさん、ありがとうございました! 続けて、子供達から、お返しの歌を贈ります!」

 

 えっ、なにそれ嬉しいサプライズ!

 ハマコちゃん、粋なことしてくれるじゃないか。

 

 アンドロイドの職員が「並びましょう」と号令をかけると、子供達が整列していく。

 お菓子を貰うために列を作った以外では、子供達を整列させるということは今までなかったのだが、ここへ来て綺麗な整列である。

 合唱は並んでするものだという概念が、この時代でも存在するのだろう。

 そして、年長の子供が代表して俺達に向けて言った。

 

「ヨシムネさんが読んでいたという、20世紀の漫画をヒスイさんから教えてもらい、その漫画が映画化されたときの主題歌を練習しました。私達が歌う曲は、『Coming Home To Terra』です」

 

 すると、どこからともなく伴奏が流れて、子供達は歌い始めた。

 

『Coming Home To Terra』。『地球(テラ)へ…』というアニメ映画の曲である。

 この映画の原作は、20世紀に描かれたSF漫画だ。コンピュータに支配された人類の姿と、コンピュータに排斥され、それでも地球を目指す超能力者達の姿を描いた名作である。

 

 俺がやってきた600年後の未来は、マザーコンピュータに管理され、超能力が一般的になった世界だ。そのことを知った俺は、ふとこの漫画のことを思い出したことがあった。

 そして、プライベートの時間を使ってライブラリで漫画を読みふけり、アニメ映画も視聴した。

 

 その様子をヒスイさんに見られていたのだろう。

 いつの間にか子供達とやりとりをして、曲の練習をさせていたってわけか。

 

 地球(テラ)への愛を歌った曲なので、惑星テラに住む彼らにふさわしい曲だ。

 もしかしたら子供達は将来、このアーコロジーを出ることになって、他惑星やスペースコロニーに移住するかもしれない。アーコロジーの土地は有限なのだ。

 そうなったとき、遠くの地でこの曲を思い出して、惑星テラを懐かしむこともあるかもしれないな。

 

 やがて、子供達が歌い終わる。見事な合唱に感動した俺は、全力で拍手を送った。

 そして、隣に立つヒスイさんに言う。

 

「ヒスイさん、実は結構前から、この施設行き計画していただろう?」

 

 合唱、結構練習してないと、こうは歌えないぞ。

 すると、ヒスイさんは笑顔で答える。

 

「さて、どうでしょう」

 

 見事にはぐらかされた。

 そんなやりとりがあったものの、互いの歌の披露も無事に終わったので、別れの時がやってきた。

 

「それじゃあみんな、いい子でいろとまでは言わないが、元気でいろよー!」

 

「次は配信で会いましょう」

 

 子供達に向かってそう言い、運動ホールを後にする。

 子供達の中には、ヒスイさんと別れたくなくて、ぐずりだす子がいた。この短時間で、よく懐いたものだなぁ。

 

 ヒスイさんは職員からエナジーブレードの柄を返してもらい、いつでも護身戦闘ができるにゃんこに戻った。

 そして、ハマコちゃんは、空中を浮遊していたカメラを回収した。どうやら、配信を終えたようだ。

 

「本日はありがとうございました! 子供達は大喜びでしたし、配信の視聴者数も大記録です」

 

 ハマコちゃんはあらためて俺達に礼を言ってきた。

 

「おう。正直、養育施設のハロウィンパーティーが、どう観光局の仕事に関わってくるか判らなかったままだが」

 

 俺がそう言うと、ハマコちゃんはにっこりと笑って答える。

 

「ヨコハマ・アーコロジーには、こんなに子供を笑顔にできる有名人がいるんだというアピールですね! つまり、メインは養育施設ではなくヨシムネさん達でした!」

 

「……マジか」

 

 思わぬ事実に、俺は驚いた。俺、ハマコちゃんの中では有名人枠なわけ?

 

「ヨコハマ・アーコロジーは軌道エレベーターの存在から、商業的、産業的な場所だと見られているんです。スタジアムはあるものの、有力な地元選手も少なく……でも、観光名所は、いっぱいあるんです! 注目さえしてもらえば、観光客はいっぱい来るはずなんです」

 

「そうか。応援しかできないけど、頑張って」

 

「はい、今後はヨシムネさんをどしどし推しますので、よろしくお願いします!」

 

 そんなハマコちゃんの言葉に苦笑しつつ、養育施設前で俺達は別れた。

 そして、キャリアーにヒスイさんと二人で乗りこみ、家路につく。

 キャリアーの中で、俺はヒスイさんに向けて言った。

 

「俺、配信者として有名になってきたかな?」

 

「それなりには。ですが、まだまだいけるはずです。今後も頑張りましょう」

 

 今日会った子供達は、俺の配信をどれくらい見てくれているのだろうか。

 さすがに、視聴者増のために各地の養育施設をドサ回り、とかはしないが、子供にも好かれる配信にしたいものだ。

 

「ちなみに、ヨシムネ様の配信は、現実世界での料理回がありますので、珍しさはあるものの上級者向けです」

 

 子供泣くやつじゃん!

 万人に受ける内容って、無理なんじゃないか。

 俺は配信の難しさを改めて実感した。

 

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