21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信! 作:Leni
運動ホールにテーブルが多数運びこまれ、飲み物や食べ物も用意されて、立食パーティーが始まった。
立食とは言っても椅子もちゃんと用意されており、立つのに疲れた子供が座って、早速お菓子の袋を開けている。
「ヨシムネさん、お菓子配りおつかれさまでした!」
ハマコちゃんが、ジュースの入ったコップを持ってこちらにやってきた。
俺はハマコちゃんからコップを受け取り、「ありがとう」と返しておいた。
ああ、そうだ。気になったことをせっかくだから聞こうか。
「途中で小さな子が、目を赤くしていたんだが、なんでもアナザーが怖くて泣いちゃったらしい。アナザーってなんだろう?」
ハロウィンと言うことで、みんなでホラー映画でも観たんだろうか。
「そういえば午前中はアナザーの時間でしたかー。実は、『アナザーリアルプラネット』という、養育施設と子供のいる家庭でしかプレイできないMMOゲームを子供達はプレイするんですよ」
……そうだ、思い出した。『アナザーリアルプラネット』は、昨日の配信で視聴者が言っていたワードだ。だから、子供のアナザーって言葉がすごく気になったんだな。
俺が納得している間にも、ハマコちゃんは説明を続ける。
「そこは、痛覚軽減がされていない、もう一つの現実世界です。そこで子供達は、現実世界における刃物や突起物の危険さ、火の危険さ、誰にも気づかれずに肉体を喪失することの怖さなどを学びます。それと並行して、通常のゲームと同じ設定の養育施設向けMMOゲーム『ネバーランド』もプレイすることで、現実とゲームの違いを学びます」
今の時代の子供は、そんな教育がされているのか。
と、思ったら、ハマコちゃんが俺の横に近づいてきて、耳打ちをする。
「実は、『アナザーリアルプラネット』では、人間の子供に扮した被害者役のAIが、子供達に判らないよう混ざっているんです。包丁で怪我をしたり、火で大火傷を負ったり、猛獣に襲われたり、川に流されて帰ってこなかったりして、子供達に被害を見せつけることで、現実世界に存在する危険を教え込むんです」
「それは……トラウマものだな」
「トラウマになるくらい強烈に教えこむわけですね。特に川流れ関連は重要ですよ。遺体回収ができずに魂のサルベージを行なえないと、ソウルサーバにも入れませんから。そしてその一方で、『ネバーランド』にてゲーム内の刃物や火、水、モンスターは怖くないと学ぶわけです」
そこまで言って、ハマコちゃんは耳打ちを止めた。
なるほどなー。この歳の子でも、リアルの刃物は怖いとしっかり学ばされているわけか。
って、ああ、そうか。
お菓子配りの時のヒスイさんの列が俺より短くて、そして今も子供達に距離を取られている理由が判ったぞ。
「ヒスイさーん! ちょっとこっちに来て」
猫系の仮装をしている子供達に近づこうとして、避けられているヒスイさんを呼んだ。
「お呼びでしょうか?」
肩を落としながら、こちらにやってくるヒスイさん。
そんなヒスイさんに、俺は気づいたことを素直に教える。
「ヒスイさんが小さな子に避けられているのは、腰にエナジーブレードの柄を下げているからかもしれない。みんなそれが、危ない刃物だって理解しているんじゃないか。そして、AIが人に向けて無闇にそれを振るわないということは、まだ理解できていないってわけだ」
「そんなことが……気づきませんでした」
ヒスイさんがショックを受けたような顔でそう言った。
そう、ヒスイさんは常にエナジーブレードの柄を携帯している。海水浴の時は、これでスイカ割りをやったこともある。海水浴客達はそれを怖がってはいなかったが、もし子供達がエナジーブレードを怖がっているとしたら……。
「ああ、確かに、AIは人類の隣人であり、頼れる親友ですよと学ぶのは、11歳以降のことですね! 学習装置で人類の歴史を学ぶのが、その年齢からなんですよ」
ハマコちゃんが追加で、そんな情報を出してきた。学習装置は、脳に直接情報を叩き込んで物事を学ばせる機械のことだな。
俺とハマコちゃんの説明にヒスイさんは納得したのか、アンドロイドの職員を呼んで、エナジーブレードの柄を渡した。職員はその柄を持ってどこかへと去っていく。
「渡してよかったの?」
俺はヒスイさんにそう尋ねる。
「はい、ロックしてありますから、他人の手に渡ってもブレードを展開できません。これなら……」
すると、ヒスイさんが武装解除したことに気づいたのか、猫系の仮装をした子供達が近づいてくる。
それをヒスイさんは笑顔で迎え、一緒に遊び始めた。うんうん、上手くいってよかった、よかった。
◆◇◆◇◆
子供達と一緒に騒いでいるうちに、立食パーティーの終わりの時間となった。テーブルは片付けられ、子供が残したお菓子は職員達が回収していった。
ちゃんと誰から回収したかは記憶しており、お菓子は後でまた返すらしい。
そして、最後のイベント。ハマコちゃんに昨日頼まれていた歌の披露だ。
今日歌うのは、俺だけでなくヒスイさんも。つまり、デュエットである。
今回の曲は、20世紀末に放送されていたテレビアニメのエンディング曲だ。
映画はともかくとして、テレビアニメを見るという習慣が昔からなかった俺。でも、ゲームは昔から好きで、家庭が裕福なのをいいことにいろいろなゲームを買ってもらっていた。
ある時、大好きなとあるゲームがテレビアニメになると知った俺は、珍しくそのアニメを視聴することにした。
見事にそのアニメにはまり、毎週のように同じ時間、テレビの前でじっと番組を眺めていた。その当時聞いていたエンディング曲が、今回の曲、『ポケットにファンタジー』である。
ヒスイさんと二人で、そんな思い入れのある曲を歌い始める。
ヒスイさんが大人に憧れる子供役のパートを歌い、俺が子供時代を懐かしむ大人役のパートを歌う。
歌にもちょっとだけ出てくる、そのアニメに登場する黄色い電気ネズミのモンスター。それがなんと、今の時代になっても子供達に愛され続けているキャラクターなのだとか。
当時のゲームもVRやインプラント端末向けにリバイバルされて発売されており、子供達に人気だと聞く。当然、俺もこの時代に来てから、プライベートでプレイしてクリア済みだ。
だから、ゲームの用語が出てくるこの歌の内容も、子供達は理解してくれるだろう。歌詞にこめられた意味を本当に理解できるようになるのは、大人になってからという、そんな歌なのだが。
そうして俺とヒスイさんは最後まで曲を歌いきり、子供達から大きな拍手を貰った。
「ヨシムネさんとヒスイさん、ありがとうございました! 続けて、子供達から、お返しの歌を贈ります!」
えっ、なにそれ嬉しいサプライズ!
ハマコちゃん、粋なことしてくれるじゃないか。
アンドロイドの職員が「並びましょう」と号令をかけると、子供達が整列していく。
お菓子を貰うために列を作った以外では、子供達を整列させるということは今までなかったのだが、ここへ来て綺麗な整列である。
合唱は並んでするものだという概念が、この時代でも存在するのだろう。
そして、年長の子供が代表して俺達に向けて言った。
「ヨシムネさんが読んでいたという、20世紀の漫画をヒスイさんから教えてもらい、その漫画が映画化されたときの主題歌を練習しました。私達が歌う曲は、『Coming Home To Terra』です」
すると、どこからともなく伴奏が流れて、子供達は歌い始めた。
『Coming Home To Terra』。『
この映画の原作は、20世紀に描かれたSF漫画だ。コンピュータに支配された人類の姿と、コンピュータに排斥され、それでも地球を目指す超能力者達の姿を描いた名作である。
俺がやってきた600年後の未来は、マザーコンピュータに管理され、超能力が一般的になった世界だ。そのことを知った俺は、ふとこの漫画のことを思い出したことがあった。
そして、プライベートの時間を使ってライブラリで漫画を読みふけり、アニメ映画も視聴した。
その様子をヒスイさんに見られていたのだろう。
いつの間にか子供達とやりとりをして、曲の練習をさせていたってわけか。
もしかしたら子供達は将来、このアーコロジーを出ることになって、他惑星やスペースコロニーに移住するかもしれない。アーコロジーの土地は有限なのだ。
そうなったとき、遠くの地でこの曲を思い出して、惑星テラを懐かしむこともあるかもしれないな。
やがて、子供達が歌い終わる。見事な合唱に感動した俺は、全力で拍手を送った。
そして、隣に立つヒスイさんに言う。
「ヒスイさん、実は結構前から、この施設行き計画していただろう?」
合唱、結構練習してないと、こうは歌えないぞ。
すると、ヒスイさんは笑顔で答える。
「さて、どうでしょう」
見事にはぐらかされた。
そんなやりとりがあったものの、互いの歌の披露も無事に終わったので、別れの時がやってきた。
「それじゃあみんな、いい子でいろとまでは言わないが、元気でいろよー!」
「次は配信で会いましょう」
子供達に向かってそう言い、運動ホールを後にする。
子供達の中には、ヒスイさんと別れたくなくて、ぐずりだす子がいた。この短時間で、よく懐いたものだなぁ。
ヒスイさんは職員からエナジーブレードの柄を返してもらい、いつでも護身戦闘ができるにゃんこに戻った。
そして、ハマコちゃんは、空中を浮遊していたカメラを回収した。どうやら、配信を終えたようだ。
「本日はありがとうございました! 子供達は大喜びでしたし、配信の視聴者数も大記録です」
ハマコちゃんはあらためて俺達に礼を言ってきた。
「おう。正直、養育施設のハロウィンパーティーが、どう観光局の仕事に関わってくるか判らなかったままだが」
俺がそう言うと、ハマコちゃんはにっこりと笑って答える。
「ヨコハマ・アーコロジーには、こんなに子供を笑顔にできる有名人がいるんだというアピールですね! つまり、メインは養育施設ではなくヨシムネさん達でした!」
「……マジか」
思わぬ事実に、俺は驚いた。俺、ハマコちゃんの中では有名人枠なわけ?
「ヨコハマ・アーコロジーは軌道エレベーターの存在から、商業的、産業的な場所だと見られているんです。スタジアムはあるものの、有力な地元選手も少なく……でも、観光名所は、いっぱいあるんです! 注目さえしてもらえば、観光客はいっぱい来るはずなんです」
「そうか。応援しかできないけど、頑張って」
「はい、今後はヨシムネさんをどしどし推しますので、よろしくお願いします!」
そんなハマコちゃんの言葉に苦笑しつつ、養育施設前で俺達は別れた。
そして、キャリアーにヒスイさんと二人で乗りこみ、家路につく。
キャリアーの中で、俺はヒスイさんに向けて言った。
「俺、配信者として有名になってきたかな?」
「それなりには。ですが、まだまだいけるはずです。今後も頑張りましょう」
今日会った子供達は、俺の配信をどれくらい見てくれているのだろうか。
さすがに、視聴者増のために各地の養育施設をドサ回り、とかはしないが、子供にも好かれる配信にしたいものだ。
「ちなみに、ヨシムネ様の配信は、現実世界での料理回がありますので、珍しさはあるものの上級者向けです」
子供泣くやつじゃん!
万人に受ける内容って、無理なんじゃないか。
俺は配信の難しさを改めて実感した。