21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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162.雑談回再び

 ある日の午後。俺はSCホーム内でライブ配信を開始すべく、空中に投影したパネルをいじっていた。

 本日、ヒスイさんは猫休暇。午前中からずっとヒスイさんに声をかけても、イノウエさんとたわむれ続けていて生返事だった。なので、俺の独断で今日のヒスイさんは休養日という扱いにした。

 そして、放置された俺は、なんとなく一人で雑談配信でもしようと思い立ったのだ。

 

 リアルパートはお送りしない予定なので、キューブくんの出番もなし。カメラワークは、VR空間なので専用ソフトがなんか勝手にいい感じにしてくれるはずだ。

 ちなみに配信告知用のSNSアカウントはヒスイさんの管理なので、告知なしの突発ライブ配信だ。

 

 よし、3・2・1……。

 

「どうもー、21世紀おじさん少女だよー。今日のヒスイさんは、顔面がお猫様の腹毛にくっついて離れなくなってしまったのでお休みだ。というわけで、雑談するぞー」

 

『わこつ』『突発過ぎる!』『告知もせずに配信とな』『んもう、代わりに私が拡散しておきますね……』『俺も俺も』『新鮮な配信!』

 

「拡散あざーす! 俺、SNSとかやらないからさぁ」

 

『ヨシちゃんと交流したい……』『ヨシちゃんにクソコメつけたい……』『ヨシちゃんを炎上させたい……』『人間五十年。下天の内をくらぶれば』『心臓熱くなってきた……』

 

 すぐ心臓熱くするな、この視聴者達……!

 でも、今日は歌わないぞ。俺一人での配信だから伴奏の流し方が判らないからな!

 

「雑談、雑談。たまにはゲームから離れてどうでもいいこと話そうか」

 

 とは言っても、俺からゲーム関連トークを抜かしたら何が残るか……。21世紀の農業トークとかマニアック過ぎるだろうし。

 ああ、そうだ。21世紀関連の話題はいいかもしれない。何気に、俺って歴史好きの人達に注目されているらしいから、せっかくだからそういう方面のサービスも悪くない。

 

「よし、それじゃあ、21世紀人から見た宇宙3世紀の素敵技術についてトークしていくぞー」

 

『おー』『最新科学!』『でもヨシちゃん、科学とか解る?』『クレジットとかちゃんと使える?』『子供扱いなのか、老人扱いなのか……』『原始人扱いです』

 

「原始人言うなや! ……さて、最近俺が驚いた未来の技術。それはー……インスタントの粉スープ!」

 

『は?』『スープ?』『最新科学は?』『粉スープ……飲み物……?』

 

 おうおう、視聴者さん達が困惑しておられる。

 でも、ちゃんと宇宙3世紀の素敵技術の話だ。俺は、真面目な顔をして言葉を続けた。

 

「宇宙3世紀の粉スープはすごいんだ。お湯を注いだら、混ぜなくても瞬時に溶けきる。地味にすごい」

 

 なんと、粉からコーンスープを作っても、あの溶けきっていない特有のねとっとした塊、いわゆるダマが一切生まれないのだ!

 

「しかも冷たい水でもちゃんと溶ける! 冷製スープがお湯いらず! 地味にすごい!」

 

『待って、熱いスープ作るのにお湯を注ぐの?』『水に溶かしてレンジ使うのでなく?』『入浴施設のお湯じゃないよね?』『そりゃあ、お風呂のお湯じゃ、スープを飲むには温いでしょう』

 

 ん? ちょっと視聴者が思わぬところで引っかかったな。

 お湯がどうこう……。もしかして、未来人、熱湯使わない?

 

「うちの台所には、0度から100度までの水が自在に出せる料理用給湯器があるんだ。まあ、料理するときは水から沸かすことが多いから、そんなに頻繁には使っていないんだけど」

 

『危なくね?』『お湯が肌に当たったら、一発で火傷じゃん!』『こわー……』『ほら、ヨシちゃんはガイノイドボディだから』『あー、それなら危なくないのか』

 

 おおう。火を怖がるなら、熱湯も怖がるってことか。これもまたAI達による幼少期からの教育のたまものってわけか。

 でも、俺が普段使っている給湯器は、そんなに危ないものじゃない。

 

「通常の水道の蛇口とは別で、熱湯を出すためだけに使っているから、不注意で火傷するってことはありえないな」

 

 回転寿司のお茶用の熱湯出る蛇口で手を洗うなんて事故は、家庭では起こらないのだ。

 

「21世紀では電気ポットっていう、お湯を沸かして溜めておいていつでも熱湯が使えるようにする家電があったんだけど、普通に使っていて火傷することはそうそうなかったよ。それに、うちの料理用給湯器は21世紀の電気ポットとか電気ケトルと違って、倒れてお湯がこぼれるってことがないから、安全だよ」

 

 俺のその言葉に対し、『そうかなぁ……?』と懐疑的な視聴者コメントが流れる。大丈夫、給湯器怖くない。

 

「多分、給湯器で火傷するより、自動調理器から取りだした熱々の料理が載った皿をひっくり返して火傷する可能性の方が、はるかに高いぞ」

 

『あー』『確かに』『そうなの?』『うっかり手を滑らした皿から熱々のスープが!』『うへー、経験あるわ』『まあその程度の火傷なら一時間もかからずに治るが』

 

「家事ロボットがいた時代なら、皿をひっくり返すこともなかったんだろうけど……、今の時代、家事ロボットなんてまず見かけないらしいね。閣下の家にはいるらしいけど」

 

『家事ロボットかぁ』『そんな時代もあったらしいね』『300年くらい前か?』『中流家庭が、ローン組んで万能家事ロボットを無理して買っていた時代か』『太陽系統一戦争前を題材にしたホームドラマでよく見ますね』

 

 家にロボットが居る生活。俺からしたらSFだが、この時代の人から見ると時代劇扱いになるのかね。

 

「まあそんな感じで、実は水からじゃなくて、直接お湯を注ぐことでも作れるインスタントの粉スープ。21世紀のそれと比べたらかなりすごいんだよ。溶かしたあとに混ぜなくてもいいし、溶けきらないなんてこともない。地味に技術進歩を感じたわけ」

 

 俺がそう言うと、『本当に地味だな……』とコメントが返ってくる。

 でも、この時代の素敵技術というワードで最初に思い浮かんだのが、この粉スープだったのだ。ヒスイさんがイノウエさんの相手をしていて忙しかったので、ちょうど先ほど、自前でインスタントのオニオンスープを用意したからだとも言う。

 

「まあ、うちの自動調理器は時間操作機能があるから、本格スープを作ろうと思えば瞬時に作れるんだが……自動調理器の食材は使ったら補充してやる必要があるから、口寂しいからって常に本格スープを作って飲むというわけにはいかないんだよな」

 

 うちの食材補充担当はヒスイさんだから、本格スープを常時飲んでも俺自身は手間かからないが。

 と、この場にいない猫ジャンキーに思いをはせていると、『自動調理器の難点って食材補充じゃなくて食費では?』とコメントが来た。

 食費、食費か……。

 

「ほら、俺って一級市民だから……エンゲル係数すごいことになっても痛くはないというか……」

 

『ブルジョワジー!』『格差を感じるわぁ』『ゲームにクレジット使おうと思ったら、真っ先に削るのは食費だよね』『ヨシちゃんって食には妥協しないタイプの人っぽい』

 

 まあ、自動調理器も一度買い換えて、高級モデルにしたしなぁ。

 あ、そうそう、調理用家電といえば……。

 

「そう言えば、さっき少しコメントで出たレンジもすごいよな、レンジ」

 

 21世紀にも存在した電子レンジ。しかし、この時代のそれは電子レンジではないレンジなのだ。

 

「マイナス数十度から数百度まで、ボタン押すだけで瞬時に出来上がるの。どうなってんの、あれ?」

 

『サイコパワーだよ』『パイロキネシスっすなぁ……』『ゲームで見るパイロキネシスは炎を出す印象強いけど、熱量操作が本質だからね』『私、パイロキネシス適性高いから超能力供給のアルバイトをしているよ』『つまりレンジは人力で稼働している』

 

「急にアナログ感出たな……まあ、そのレンジだよ。一瞬で熱々になるのに、皿を持っても熱くないのもすごいね。うっかり床に落としても割れないし、それでいて手触りは金属じゃないし……素材いったい何?」

 

『普通にセラミックスだろ』『セラミックス。粘土。つまり陶磁器』『21世紀に陶磁器ってなかったの?』『んなわけない』

 

「そりゃあ、陶磁器くらいあったよ! うーん、ただの粘土じゃなくて、何かすごい素材が混じっているんだろうなぁ……。まあ、21世紀にも割れないセラミック素材とか普通にあったけど」

 

 セラミック包丁とかあったよな。まあ、セラミックとか言われても、何でできているのかは全く知らないんだが。

 

「それよりも、レンジにかけて料理が熱々なのに、皿が熱くないのがすごいなぁって」

 

 そんな俺の感想に、『それは単にレンジがすごいだけ』とコメントが返ってくる。

 

「うん? どういうこと?」

 

『一瞬で温めるから、皿に熱さが伝わりきっていないので食卓に運ぶ間くらいは、皿も熱くならない。皿自体もヨシちゃんのいた時代と比べて熱伝導率低くなっているけれど、それでも普通の陶磁器なら時間がたつとスープ皿とか普通に熱くなるよ』『ああ、確かに熱くならないってことはないよな』『詳しいな、解説兄貴』『皿の材質とか気にしたことないなぁ』『うちのコロニーは金属皿が一般的な文化圏だから、すぐ熱くなるわ……』

 

「へえー、なるほどなー」

 

 そういえば、ラーメン食べたときとか、普通にどんぶり熱くなっていたわ。

 さすがに、どうやっても熱くならない謎の耐熱食器とか、存在しないのかな? 熱伝導率低い未来不思議マテリアルくらいあるか。

 

「金属皿を使った料理といえば、海外……日本から見た国外料理のイメージがあるなぁ。インド人やネパール人が経営しているカレー屋とか、韓国料理屋とかで使われていたのを覚えている」

 

『ニホン国区は金属食器使わないの?』『器は陶磁器か木製の文化圏だね。スプーンやフォークは普通に金属使う』『ヨシちゃんのお料理配信では、調理器具は普通に金属使っていたよね』『そりゃあそうだろう』『でも、最新の調理器具はエナジーマテリアル製だよ。形状が自由自在』

 

「エナジーマテリアル……?」

 

『エナジーバリアとかのあれ』『ヒスイさんが持っているエナジーブレードとかに使われているやつ』『ソウルエネルギーを加工して物質化した素材』『身近な例だと、俺らでも使える刃物のエナジーハサミとか』『確か、焼肉回でエナジーエプロンを着ていたな』

 

「ええ、そんなの調理器具にすんの……?」

 

 要するに、宇宙戦艦とかが張るバリアを調理器具にするんだろ? ちょっと思考が追いつかない……。

 

『消滅させれば汚れがその場に落ちるから、わざわざナノマシン洗浄機のナノマシン代を払わなくて済む』『せこいな!』『生活の知恵と言え!』『ナノマシン洗浄代って地味に高いからな』

 

 この時代、光熱費はほとんど無料。でも、ナノマシン洗浄機に関しては使ったらその分だけ料金請求がある。

 まあ、ナノマシンって工業製品だから、使えば使うだけ素材の料金がかかるのも納得だ。

 

「ちなみに、21世紀の日本の光熱費は、電気代、水道代、ガス代、あと地域によって灯油代を払う必要があったな」

 

『電気代……?』『電気って、クレジット払って使うものなの?』『ヨシちゃんのいた時代は核融合発電すら実現していなかったから』『水に料金かぁ』『今でも惑星テラの天然水とか買おうと思ったら、相当なクレジットが必要だぞ』

 

「今の時代の光熱費といえば、超能力代だな。ちょっと気になってこの前調べてみたんだけど、時間操作で高速調理するタイプの自動調理器とか、時間停止機能のある食料保存庫とかに払うみたいだ」

 

『さっきのパイロキネシス使うレンジもそうだね』『いわゆる超能力家電』『無料ってわけにはいかないよなぁ』『そりゃあソウルエネルギーを供給するアルバイトがあるんだから、使う側がクレジット払わずどうするよ』『みんな無制限に使ったらエネルギー資源が枯渇してしまう』『無からソウルエネルギー作り出せるようになれば無料になるかもね』

 

 ソウルエネルギーなぁ……。エナジーバリアとかもソウルエネルギーから作られているなら、想像以上に今の文明の超能力依存度は高いっぽいぞ。てっきり、発電したエネルギーをなんかSF的な技術で半物質化しているのかと思っていたんだが、全然違った。

 もしAIが人類に反逆をしたらというか、AIが人類の管理を放棄して全滅させたとしたら、AIは自力でバリアすら張れなくなってしまうのか。

 何気に共存共栄しているんだな。

 

「うーん……家畜からソウルエネルギーって取り出せないのか? かつては荷車を動かす動力として馬とか牛とかを使っていたんだから、動物からソウルエネルギーを絞ってもいいと思うんだけど」

 

『ナイスアイデア、とでも言うと思った? 残念! 無理でした!』『動物は、そんなにソウルエネルギー持ってないんよ』『超能力を行使できるのは、現状人類のみ』『超能力学の基礎の基礎ですね』

 

「知らなかった……イルカとか賢そうだけど超能力使えないのか」

 

『なぜイルカ』『素で賢いからじゃない?』『賢さでいうと、猫だって脳をチップに置き換えたら人語を解するぞ』『超能力と賢さに因果関係はない』『人外レベルの超能力適性があるヨシちゃんとか、全然賢くないからね!』

 

「一応、俺だって東京の農大出た程度の学歴あるんですけど!?」

 

『がーくーれーきー?』『そんなんこの時代では通用しませんわ』『脳に直接知識ぶち込める時代ですよ、おばあちゃん』『でも学園ものギャルゲーはいいものだ』『あれって大学じゃなくて高校がベースでしょ?』

 

「学校が不要になったのに、遊びの中に残り続けているってなんか不思議な感覚だな……」

 

『ギャルゲーは勉強パートないけど、MMOの魔法大学とかは普通に授業あるからなぁ』『そのゲームでしか役に立たない魔法理論!』『サービス終了したら無意味になる(はかな)さよ』『やっぱMMOやるなら百年保証ですわ』

 

 って、結局ゲームの話になってしまったな。

 まあ、こういう脱線も悪くないか。

 

 そうして俺は一人で視聴者達と会話を続け、この日は三時間ぶっ通しで配信を続けたのであった。

 ヒスイさん不在のただの雑談でも、意外と間が持つものである。たまにはこういう日も悪くない。

 

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