21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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163.シリウスのごとく(演劇シミュレーション)<1>

 11月10日、地方によっては冬に入ったと言ってもよくなってきた、この時期。ヨコハマ・アーコロジーの内部は、春のような暖かさが常に保たれている。

 季節を体感できるのは、ヒスイさんがわざわざ用意してくれる、旬の食材を使った料理を食べるときくらいだ。

 まあ、今の時代、食材も工場生産されているので、旬なんてものはあってないようなものなのだが。

 

 そんな秋と冬の狭間にある我が家に、来客があった。

 意外なお客様。マンハッタン・アーコロジーの芸能人、ミドリシリーズ一号機ミドリさんだ。

 

「実は、お願いがあってさ」

 

 居間にあるテーブルの席に着いたミドリさんが、俺に向かって言う。

 今日の彼女は、どうやら俺に用事があるようだ。なお、ヒスイさんは、席を外してお茶の用意をしている。

 さて、人気芸能人からのお願いごととはなんだろうか。

 

「『ネバーランド』で行なわれる催し物に参加してほしいの。『ネバーランド』は解る?」

 

「あー、確か、養育施設に入った子供が、ゲームの遊び方を学ぶVR空間、だったか? 『アナザーリアルプラネット』の対になっている養育MMO」

 

「そう、それね。その『ネバーランド』で、幼い子供向けのステージイベントが開かれるんだ。そこで出し物をやってくれないかな」

 

「ふーん。どんな出し物?」

 

「そこはヨシムネが決めていいよ。3歳から5歳の間の小さい子向けのショーね」

 

「本当に小さい子だなー。その年齢向けなら、ヒーローショーとかか」

 

「うーん、権利関係の調整が必要なやつは間に合わないかもね」

 

「間に合わないって、イベント開催日いつさ?」

 

「11月20日」

 

「あと10日しかねーじゃねーか! そんだけの期間で、何を用意しろって言うんだよ!」

 

「いやー、ごめんごめん。ステージに出る予定だったパントマイマーが一人、老衰でお亡くなりになってね。ソウルサーバ入居手続きの関係で、出られなくなったんだよ。それで、常日頃から暇をしていて、時間加速機能をがっつり使って出し物の練習をできそうなピンチヒッターが、ヨシムネだったわけ」

 

 老衰で亡くなるようなヨボヨボの老人が、ぎりぎりまでイベント参加の予定を入れていたっていう事実がすごいな。

 まあ『ネバーランド』はVR空間だから、体調とか関係ないんだろうけど。

 ちなみに、時間加速機能を高い加速倍率で使う場合、生身の脳では対応できなくなる。そういう点で、ガイノイドボディを持つ俺が相応しいと、ミドリさんは言っているのだろう。

 

「つまり、10日の間にVRの時間加速機能を駆使して、出し物を用意しろと?」

 

 俺がそう尋ねると、ミドリさんはうなずいて答える。

 

「そうそう。やってくれる?」

 

「ううーん……」

 

 その間、配信はできなくなるだろうな。結構長い期間だよなぁ。

 

「出し物をあとで配信していいなら……」

 

「あ、それは全く問題なし。まあ、子供向けの出し物を大人の視聴者に流して、受けるかは知らないけどー」

 

 まあ、3歳から5歳の幼児向けコンテンツを流すことになるわけだしな。

 しかし、どんなことをするかだ。ステージでやるショーか。歌でも歌うか?

 

「演劇などは、どうでしょうか」

 

 と、おぼんにお茶とお茶菓子を載せて戻ってきたヒスイさんが、そんなことを言った。

 

「演劇、いいね!」

 

 立ち上がっておぼんの上のお茶菓子を手に取りながら、ミドリさんが言う。

 演劇、演劇かぁ……。

 

「俺に演劇をやらせたら、結構なものだぞ」

 

「確か学生時代、演劇部だったのですよね?」

 

 俺の言葉に、ヒスイさんがそう問い返してくる。

 

「ああ。裏方とかじゃなくて、役者担当だったぞ。よし、それじゃあ出し物は演劇に決まりだ。でも、俺以外の役者はどうするかな……」

 

 一人劇か、ヒスイさんを入れて二人劇? それじゃあちょっと物足りない。

 となると、知り合いに頼んで出てもらう必要がある。時間加速機能についてこられる人じゃないとダメだな。

 

「役者は、暇をしている我が妹達を適当に誘えばいいよ。どうせ『ネバーランド』の中だから、見た目はいくらでも変えられるしね」

 

 お茶菓子を食べながら、ミドリさんが言う。

 ふむ、ミドリシリーズから選出するのか。また参加枠を狙って、競争になりそうだな。

 

「演目は何にしましょうか?」

 

 俺の横に座ったヒスイさんが、そう議題を提示しようとするが、候補はもう頭の中に浮かんでいる。

 

「子供向けの演目といえば……『桃太郎』だ! みんなで『桃太郎』をやるぞ!」

 

 当然、俺は桃太郎役だ!

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 そうして演劇の公演が決定し、ミドリさんはマンハッタン・アーコロジーへと帰っていった。

 そして、その日の午後。俺はヒスイさんと一緒に、SCホームへとログインした。

 バーチャルの日本家屋の中には、ミドリシリーズが20人ほど集まっている。

 

「ヨシムネ様。これが今回の演劇スタッフに選ばれたミドリシリーズです。存分に使い倒してください」

 

 ヒスイさんが俺の横に立ってそう言った。

 おー、この全員がスタッフね。役者もこの中から選ぶとなると、まあほどよい人数なんじゃないかな。

 

「じゃあ、本番まで10日しかないし、さっそく時間加速機能を使って練習に入る感じか? 場所はこのSCホームでいいかな」

 

 俺がそうヒスイさんに確認を取ると、彼女は「いえ」と首を横に振った。

 

「演劇を体験できるゲームがありますので、それを使って稽古をしましょう。このゲームです」

 

 ヒスイさんはゲームの起動アイコンを腕の中に呼び出し、それを掲げてゲームの起動を行なった。

 

「時間加速の倍率はとりあえず10倍でいきましょう」

 

 そんな言葉と共に、背景がゲームのタイトル画面へと切り替わる。

 ふーむ、ゲームで稽古か。さっきミドリさんに打診を受けたばかりなのに、ヒスイさんの中ではもう公演までのビジョンができていそうだ。ここはお任せするとしよう。

 

「ゲーム名は……『シリウスのごとく』ね」

 

 俺は背景に浮かぶタイトルを眺めながらそうつぶやく。

 それを聞いたヒスイさんは、うなずいて答える。

 

「はい、同名の人気漫画が原作の演劇シミュレーションゲームです。プレイヤーは漫画の主人公となり、原作のストーリーを追体験していく……というゲームなのですが、今回はそのストーリーモードはプレイしません」

 

 ヒスイさんはタイトル画面からメニューを呼び出す。

 ストーリーモードという表示が一番上にあるが、それではなく劇団モードというのを選んだ。

 

「プレイヤーが独自の劇団を作り、自由に劇を稽古する劇団シミュレーターとしてのモードです。これを使って、ヨシムネ様だけの一座を作り上げましょう」

 

「お、いいね。座長は俺かな?」

 

「はい。指導員などはNPCが担当し、演劇本番で動く劇団員は私達ミドリシリーズが担当します。また、この劇団モードで作成した衣装や大道具は、『ネバーランド』にコンバートが可能なため、ここで用意した物全てをそのまま本番でも使い回すことが可能です」

 

「おー、コンバート可能なのか。そりゃいいね」

 

 そんな会話をしている間にも背景は切り替わり、壁が一面の鏡となっている大広間に変わった。

 ふむ、察するに、ここは稽古場かな。

 

「では、まずは劇団としての形を整えましょうか」

 

 ヒスイさんはそう言いながら、空中にメニューを投影する。そして、言葉を続けた。

 

「座長はヨシムネ様が担当するとして……まず、一座の名前から決めましょうか。『ネバーランド』でのステージイベントにも、その一座の名前で登録します」

 

「ふーむ、名前ね。一座……劇団……劇団ミドリとか?」

 

 俺がそう言うと、ミドリシリーズ達がざわめいた。

 

「ミドリってあのミドリのこと?」

 

「いや、さすがにミドリシリーズのことでしょう」

 

「でも、ミドリのことと勘違いされそうだよね」

 

「ヨシちゃんが座長なのに、ミドリの名前を冠するのはないわー」

 

「はいはーい、ヨシムネ座がいいと思いまーす!」

 

 何やら話し合っていたかと思うと、ミドリシリーズの一人が手を上げて、俺に向けて言ってきた。

 ヨシムネ座……ないわぁ。

 

「名前は勘弁してくれ」

 

「じゃあ苗字はどうー?」

 

「ウリバタケか。劇団ウリバタケ。うん、まあそれっぽいかな」

 

「決定! 決定で!」

 

 ミドリシリーズの一人が勝手に決定を出すと、周囲の子達が一斉に拍手をした。どうやら決まってしまったらしい。

 それを受けて、ヒスイさんは満足そうにメニューの中に一座名を入力した。

 

「一座の名前が決まり、座長が決まりました。では、他の役職を割り振っていきましょう。まずは、全体を見る舞台監督から」

 

「はい! トキワ、舞台監督やります!」

 

 そう言って手を上げたのは、先ほど決定を勝手に出したミドリシリーズの一人。胸元の名札(ミドリシリーズは俺に判るように名札をつけている)を見るに、トキワという名前らしい。

 

「舞台監督は役者を兼任しませんが、よろしいですか?」

 

「よろしいでーす!」

 

 ヒスイさんの確認に、元気に答えるトキワさん。

 そして、その後も音響、照明、美術といった役者以外の担当者を決めていく。

 

 その中で、一つ決まったのが、今回俺達がやるのは21世紀風の演劇ということだ。

 つまり、VR空間内だからといってどこからともなく大道具を出したり消したりせず、照明や音響もAIの自動制御ではなく担当者が手動で調整するという方針だ。

 

「で、脚本。『桃太郎』は複雑な内容じゃないから、脚本家を決めずに、全員で内容を相談して決めたいと思うが……」

 

 俺がそう言うと、ヒスイさんがメニューを見ながら意見を出してくる。

 

「ヨシムネ様、ゲームのプリセットに、『桃太郎』がいくつかあります。衣装や脚本のセットですね」

 

「おお、いいんじゃない? 俺達は正直なところ素人だから、そういう物の助けはどんどん得ていくべきだ」

 

「では、プリセットを適用します」

 

 ヒスイさんが何やら操作をすると、彼女の手元に冊子の束が出現した。

 

「プリセットの幼児向け『ももたろう』の台本です。皆様、ご確認ください」

 

 わっとミドリシリーズが集まって、ヒスイさんの手元から台本を取っていく。俺も一冊、台本を拝借して、中身を確認する。

 ふむ。ふむふむ。

 

「いいね。わかりやすい『ももたろう』だ」

 

 そして、最後まで台本を読み切った。

 内容は単純明快だ。確かに、三歳から五歳の幼児向けに相応しい感じだ。

 ただ、一点だけ要望がある。

 

「童謡の『桃太郎』を挿入できないかな? ももたろうさん、ももたろうさんってね」

 

「駄目だね! 歌は駄目でーす!」

 

 と、舞台監督のトキワさんからNGが入った。

 ふむ、どうしてだろうか。

 

「今回のステージイベントは、世界中の子供達が観に来るんですよね? なので、日本語の歌を歌うと、他国語圏の子供達には歌の内容が理解できないんですよー」

 

「ん? 歌を聴くときって、翻訳歌詞が視界にAR表示されるだろう?」

 

 歌はメロディに合わせる必要があるので、音声翻訳がされずに歌詞表示されるんだよな。

 なお、演劇のセリフは歌劇じゃない限り、ちゃんと音声翻訳されて相手に伝わるようになっている。

 

「相手は3歳から5歳の子供ですよ? 歌に合わせて翻訳歌詞を見て、さらに劇も同時に観るなんて難しいことできませんよー」

 

「なるほどなー。じゃあ、ステージイベントには、歌手の人は出ていないのかな」

 

「いるらしいです。でも、歌詞の内容は二の次でしょうね。知らない言語の歌を理解できないまま聴くことになると思いますねー」

 

 ふむふむ。でも、俺達はそれをしないというわけだな。

 まあ、問題はない。

 

「じゃあ、台本もこれをそのまま使うということで。どの役を誰がやるか、決めていこうか」

 

 俺がそう言うと、役職を割り振られていなかったミドリシリーズの子達が一斉に手を上げて、やりたい役を主張しだした。

 

「犬! 犬がいいです!」

 

「鬼やりたい。虎柄ビキニで」

 

「あんたは子供向けで何やろうっていうんだよ……」

 

「お婆さん役やりたいなぁ。桃からヨシちゃんを取り上げるの」

 

「桃太郎役はヨシムネに決定なわけ?」

 

「そりゃあ、そこはそうでしょうよ」

 

 ああうん、座長権限で、桃太郎役は俺ということで。

 そんなわけで、体感3時間にも及ぶ喧喧囂囂(けんけんごうごう)とした話し合いの結果、無事に役の割り振りは終わり……劇団ウリバタケは、加速された時間の中で始動するのであった。

 

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