21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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165.ももたろう

 ステージイベントの期日まで残り日数が少ないので、休憩も加速したVR空間内で取る。

 いつもならば『sheep and sleep』でのんびりとした時間でも過ごすところだ。だが、今回は多数のミドリシリーズを引き連れているので、10倍に時間加速した状態のSCホームを休憩所とした。

 

 なので、稽古の期間中は、友人のSCホームへの訪問を拒否する設定に変えている。

 現実時間での5日目に、グリーンウッド閣下から『接続できないのじゃが?』とメッセージが届いたが、残念ながら締め出すことにした。

 

 さて、畳敷きの休憩所では、のんびりと読書をして過ごせるように、漫画を壁の本棚に用意してある。主に演劇や役者を題材にした漫画セットだ。

 今回のゲームの原作である『シリウスのごとく』も最終巻まで全巻そろっている。VR空間ゆえに、複数人同時に同じ巻数を読むことができるので、劇団ウリバタケでは『シリウスのごとく』のプチブームが到来していた。

 演技指導のNPCカビーア氏が漫画ではかなりいい役どころだったので、役者のミドリシリーズ達がカビーア氏の指導を稽古中、積極的に受けるようになったという副次的な効果まで生まれている。

 

 なお、全員が『シリウスのごとく』を全巻読み終わったので、現在は幾人かが、21世紀の役者漫画を読みこんでいる最中だ。

 そんな様子を眺めていたら、その幾人のうちの一人が、単行本片手にこちらに寄ってきた。

 

「ねえヨシさん、この漫画の続きは?」

 

「それは作者がアレしたので続きは描かれてないよ」

 

「そんなぁ……」

 

 本というものは、ちゃんと完結して最終巻まで出るとは限らないのだ。

 たまに、作者死亡後、他の人に引き継いで続刊ということも起こるけれど。

 

「うわー、この漫画、最初は黒電話使っていたはずが、作中年代飛んでいないのにスマートフォンが出てきたー……」

 

 おっと、トキワさんはどうやら、20世紀から21世紀にかけて描かれたご長寿役者漫画を読んでいるようだな。

 電話機の移り変わりは、作中の年代が固定されていない長期連載ではままあることだ。

 子供探偵の推理漫画とかでも、そんなことが起きていた。

 

 さて、休憩所に用意したのは、漫画だけではない。

 劇団員の仲を深めるべく、パーティーゲームを用意してある。桃太郎を題材にしたすごろくゲームだ。

 VRではなく、モニターでプレイするタイプのゲームである。俺が元いた時代のゲームなので、この時代からするとレトロゲームということになるだろうか。

 

「ぎゃー、キングボンビー!」

 

「うけるー」

 

「えい、うんちカード」

 

「ええっ、そんなぁ」

 

「あはは、うんちだー」

 

「ぷよぷよぷよよーん!」

 

 美少女ガイノイドがうんちとか言うんじゃありません!

『美少女はトイレに行かない』をリアルで実践している存在なのに、小学生みたいにうんちに喜んじゃってまあ……。

 

 と、お茶を飲みながら皆の様子を眺めていたら、漫画本を手に持ったトキワさんがこちらに近づいてきた。

 

「ヨシちゃん、ヨシちゃん。現実では、もう8日目に入ったようですので、本格的なリハーサルをしません?」

 

 リハーサルか。でも、本番に使われる『ネバーランド』の劇場の詳細データとかあるのかね。

 

「衣装着て、大道具も小道具も全部出して、照明も音響も使って、本番さながらの状況で稽古するんですよー」

 

「……ああ、ゲネプロな」

 

「ゲネプロって言うの?」

 

「言うの。通し稽古とも言う」

 

「なるほど。で、ゲネプロが上手くいったら、プレビュー公演!」

 

「……公演って、誰相手に?」

 

「ミドリシリーズ全員呼んで、お披露目でーす。今回の参加抽選に落ちた無様なみんなに、私達の成果を見せつけるのです」

 

 趣味悪!

 でもまあ、本番前に観客を入れてリハーサルをすること自体は悪くない。

 

 俺は了承をして、リアルの9日目にミドリシリーズを集めてもらうよう、トキワさんに頼んだ。

 さて、加速した時間の中で何十日も練習し続けてきたが、仕上がりは上々だ。

 練習通りにやれば、問題はない。問題はないのだが……そんなにすんなりいくほど世の中というものは上手くできてはいないと、俺は思うんだよな。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

『こうして桃太郎は、お爺さんとお婆さんと一緒に、幸せに過ごしましたとさ。めでたし、めでたし』

 

 ミドリシリーズを集めてのプレビュー公演が終わった。

 だが、ナレーション通り『めでたし、めでたし』とはいかなかった。

 

「うはは、ぐだぐだじゃん! うけるー」

 

 ミドリさんが大笑いしながら、こちらを指さしてくる。

 そう、舞台はぐだぐだだった。

 

 ずれる音響、セリフを忘れてAR表示された台本を棒立ちで読み上げる犬、アクションシーンでこける鬼、衝突事故で割れる背景。ゲネプロではあれだけ上手くいっていた舞台は、いざふたを開けてみたら大失敗だった。

 

「みんなAIなのに、失敗内容が人間的すぎてびびるわ……」

 

 演目を終え、観客を交えての反省会を開き、俺は開口一番そう言った。

 いや本当、本番になって緊張して失敗するとか、AIなのにありえるのか?

 

「業務用プログラムを動かしていないときの、プライベートの高度有機AIは、人間的な振る舞いをするよう作られておる。いにしえのAI技術者の遊び心じゃな」

 

 プレビュー公演の観客にちゃっかり混ざっていたグリーンウッド閣下が、そんな解説を入れた。

 なるほど、この演劇は、ミドリシリーズ達にとって業務外なのか。業務用ガイノイドが重要な仕事中に緊張して失敗をしましたとか、しゃれにならんからな。

 

「しかし、プライベートだからって、いざ本番で失敗されたら困るぞ。どうしろって言うんだ」

 

「そこは、経験あるのみじゃな」

 

 閣下が笑いながらそう言った。

 

「通し稽古は、とことんやったつもりなんだけどなぁ」

 

「観客を入れていないただの練習じゃろ? 必要なのは本番の経験じゃ」

 

 ふうむ。本番の経験。つまり、やるべきことは……。

 

「俺達が慣れるまで、観客のみんなにもとことん付き合ってもらうぞ……」

 

「あ、私、余計なこと言ったかの? 正直、観るのは一度で十分なのじゃが」

 

「大丈夫、時間加速機能使うから、閣下の仕事に支障はないよ」

 

「私は、息抜きをしにここに来たのじゃが……」

 

「大丈夫、大丈夫」

 

 こうして、子供向け演劇『ももたろう』の完成度はより高まった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 来たる11月20日。

 俺達劇団ウリバタケは、本来ならば子供と養育施設職員しか入れないゲーム空間『ネバーランド』へ特別にログインしていた。

 今回のステージイベント『ワンダーランド』は、2000人を収容できる野外ステージにて開催される。

 2000人収容といっても、観客の総数がたったの2000人ということではない。実際には億に到達するほどの子供が観客として訪れているのだ。

 MMORPGで使われるチャンネル制度を導入し、子供達は各チャンネルに分かれて野外ステージの観客席に着いている。

 

 ステージの上は各チャンネル共通で、観客席だけチャンネルが複数に分かれている仕組みだ。

 そして、俺達劇団ウリバタケは、ステージから見える観客席をニホン国区のヨコハマ・アーコロジーの子供達が座るチャンネルに合わせてもらっている。つまり、ステージの上から観客席を見ると、ヨコハマの子供達が見えるということだ。

 

 ステージイベントはすでに始まっており、自分達の番が来るまで、俺達は観客席で演目を見させてもらっている。

 

「他の演目のクオリティが高すぎてびびるわ」

 

 ステージの上で繰り広げられるラインダンスを見ながら、俺は戦々恐々とする。

 どの演目もプロの仕事って感じだ。この中に、素人である俺達の『ももたろう』が混ざるのか。それ、大丈夫なの?

 

「だいじょーぶ! 自信持ちなさい!」

 

 ミドリさんが俺の背中を勢いよく何度も叩いてはげましてくれる。

 うーん、ミドリさんが言うなら、間違いはないのか?

 でもなぁ。オーケストラ演奏とかサーカスとかやっている中で、『ももたろう』だぞ?

 

「劇団ウリバタケ様、開演30分前です! 準備をお願いします!」

 

「ほら、ヨシムネ、気合い入れなさいよ!」

 

「……うん、まあ、やるしかないか」

 

 俺は両手を握りしめて気合いを入れ、座長として皆を引き連れ、観客席からバックヤードに戻る。

 そして、『シリウスのごとく』から持ち込んだ衣装を取りだし、着た。

 桃太郎役の俺の出番は、第二幕からだ。第一幕で桃から生まれる桃太郎赤ん坊バージョンは、人形を使う。産声はナレーションのヒスイさんの担当である。

 

 だから、出だしが上手くいくかは、ヒスイさんと、お爺さん役、お婆さん役の三人にかかっている。あと、照明、音響、それと背景や大道具を移動する黒子達もだな。

 ああ、なんだ。思ったよりも多くの人が責任持っているじゃないか。責任が分散して割とどうとでもなるようになる。つまり、大丈夫!

 

「あああああ! 緊張してきましたあああああ!」

 

 その一方で、トキワさんがガクガクと震えだした。

 

「……いや、トキワさん舞台の上に立たないじゃん。舞台監督の仕事はもう九割終わっているよ」

 

「いやでも、アクシデントが起きたら、アドリブでの指示出しが……」

 

「アクシデントが起きなかったら、ほとんど何もしなくていいってことじゃん。だから、どっしり構えていな」

 

「気軽に言いなさる!」

 

 ま、失敗したら失敗したで、責任は俺達に仕事を斡旋したミドリさんに負ってもらうことにしようか。

 

「演目終了です! 次、劇団ウリバタケ様お願いします!」

 

「はああああ……。それじゃあ、幕の設置お願いでーす……」

 

 俺達の番が回ってきたので、トキワさんは黒子役のミドリシリーズ達に指示出しをし始めた。

 野外ステージということで、本来ここに幕は存在しない。

 だが、俺達は劇場を想定してリアルの3日目まで練習していたので、外付けの幕を用意した。

 

 他の演目でも幕を使っている人達はいたので、俺達だけが浮くということはないだろう。

 ステージに幕が運ばれる。そして、その幕の後ろに第一幕の背景を設置していく。

 

 やがて、全ての準備が終わり、トキワさんの指示で歌なしの童謡『桃太郎』が流れ始める。

 演目開始だ。とうとう幕が開き、ヒスイさんのナレーションが始まる。

 

『むかしむかし、あるところに……』

 

 そして――

 

『……めでたし、めでたし』

 

 無事に、演じきった。

 

 再び流れ始める童謡『桃太郎』のメロディ。それに合わせて、ステージに役者が並んでいく。カーテンコールだ。

 ステージ上で整列した俺達は、小さな子供達による万雷の拍手を受けて、観客席に向けて手を振った。

 音楽が終わり、やがて幕が閉じる。

 

 演目はこれで終了だ。俺達は総出で背景を舞台袖に動かし、速やかに撤収していく。

 VRなのだからこんな物はボタン一つで消してしまえるのだが、見えないところでも21世紀風の演劇を徹底しているので、全部手作業だ。

 

 全ての道具をステージ上から除けて、幕も撤去したところで、改めてトキワさんがパネルを操作して道具類を消去した。

 そして、バックヤードに引っこみ……。

 

「うおおおん! ヨシちゃーん! 大成功だよー!」

 

「お、おう……トキワさん、ガチ泣きじゃん!」

 

「泣くに決まってんでしょー!」

 

『ももたろう』の成功は、彼女にとってよっぽどの出来事だったようだ。

 周りを見ると、他のミドリシリーズの目にも涙が浮かんでいる。

 三十分にも満たない短い公演だったが、初めて体験する本番での成功は、感極まるのにも十分だったようだな。

 

「ヨシちゃんは、なんで泣いてないのおおお!」

 

「いや、演劇は学生時代何度も経験したし……まあ、楽しかったよ」

 

 そうやって、みんなでわちゃわちゃとしていると、満足そうな顔をしたミドリさんが拍手をしながらこちらに近づいてきた。

 

「いやー、みんなよくやってくれたね。私も鼻が高いよ」

 

 そんなミドリさんを見て、トキワさんはどこからともなく取りだしたハンカチで涙をふきながら言う。

 

「あんたは何もしていないでしょー。スポンサー面するんじゃないですよ」

 

「いや、確かにクレジットは一銭も出していないけどさぁ……ま、いいよ。それよりも、私の出し物が後にあるから、せっかくだから見ていってね」

 

 へえ、ミドリさんも演目担当しているのか。

 何をやるのか気になったので、聞いてみたところ……。

 

「私達も『ももたろう』に負けてないよー。出し物はコントだよ! マンハッタンのプロ達の力量、見せてあげる!」

 

「うわー、私達の印象持っていかれそう!」

 

 意外な演目を聞いて、トキワさんが驚きの声をあげている。コントか。五歳以下の子供に解るような内容なんだろうか。

 

「気にしない気にしない。私達は競っているわけでもないんだし」

 

 そう言って、ミドリさんは笑いながら去っていった。

 

「本当に全部、大爆笑で印象かっさらわれたらどうしましょうか……?」

 

 しなくていい心配をしだすトキワさん。

 ふむ、ここは何かいい感じのことを言って、はげますところか。

 

「トキワさん、さっき子供達から貰った拍手、もう忘れてしまったかい?」

 

 俺の言葉に、はっとするトキワさん。

 

「大事なのは演目の質じゃなくて、子供達の笑顔だぞ」

 

「ヨシちゃんいいこと言った! そう、あれだけの拍手が貰えたんだから、他にどれだけすごい演目があったからって、私達の成功は陰らないですよね!」

 

「うんうん」

 

 俺達は中身のないいい感じのセリフを交わし合い、十分にはげまし合ってから野外ステージの観客席に戻っていった。

 なお、ミドリさん主演のコントは、めちゃくちゃ解りやすくかつ、とてつもなくクオリティが高かった。思わず劇団ウリバタケ一同で大爆笑をしてしまった。プロの力量ってすごい。

 俺達の『ももたろう』も、これくらいのインパクトを子供達に与えられていたなら嬉しいのだが……。アンケートって取っていないのかな。ううむ、後でミドリさんに劇の評判がどうだったか、聞いてみることにしようかね。

 

「さて、それじゃあ戻って打ち上げでもするかい?」

 

 全演目が終了したので、俺はミドリシリーズの面々に尋ねる。すると……。

 

「あ、私、やりたいことがある!」

 

 そう言ったのは、『ももたろう』で犬を担当した役者の子だ。

 

「カビーア師匠に公演の成功を伝えたい!」

 

「……あの指導員NPCのカビーア氏?」

 

「そうそう、あれだけ熱心に指導してくれた師匠に、ぜひ報告を!」

 

「でも、カビーア氏って簡易AIだろう?」

 

「簡易AIでもお世話になったんだから、礼は尽くさないと!」

 

 犬役の子がそう言うと、他の役者達も口々にそうだねと賛同し始めた。

 

「……まあ、いいんじゃない?」

 

 使いこんだ道具を大切にするみたいなあれだろうか。それとも高度有機AIは、簡易AIにも何か特殊な思いを持っているとか?

 俺は不思議な気持ちになりながら、『ネバーランド』を後にするのであった。

 

 なお、公演の成功報告を受けたカビーア氏は、「よくやった」とぶっきらぼうに答えるのみで、特殊なやりとりは何も発生しなかった。

 でも、ミドリシリーズ達はカビーア氏とのやりとりで、すごく喜んでいた。

 

「どういうことなの……?」

 

 盛り上がる彼女達を俺は、よく理解できていないまま眺める。

 すると、トキワさんが近づいてきて、言った。

 

「あれは単に、漫画の原作キャラとのやりとりを楽しんでいるだけですね」

 

「ただの原作ファンかよ!」

 

「私達って業務用ガイノイドなので、普段、漫画とか読まないですからね。漫画にはまったのは、これが初めてじゃないですかねー」

 

 そういえばヒスイさんも俺と出会うまで、ゲームをやったことがなかったと言っていた。

 ううむ、もう少し、ミドリシリーズ達と遊ぶ機会を増やしてあげた方がいいかもしれないな。

 

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