21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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17.ヨコハマ・サンポ(位置情報ARアクション)<2>

 行政区から、キャリアーと呼ばれる乗り物に乗って次のポイントへ向かう。

 街の各所にこのキャリアー乗り場が建てられていて、今回ヒスイさんが選んだキャリアーは二人乗り。完全な自動運転で動いており、ヒスイさんが指定した最初の観光名所に向かって高速移動している。

 

 ちなみにギガハマコちゃんは、半透明のエアースクーターとかいう物に乗って、暴走した半透明の雑魚ロボットを左手のエナジーショットで蹴散らしながら、こちらを追ってきている。AR世界で大暴れだ。

 

「芸が細かいな。見ていて楽しいけど、人が車を運転中のときにもこれが表示されるとしたら危ないな」

 

「アーコロジー内の乗り物は、全て自動運転で運行されており、人による操縦は事故の危険性があるため違法となっております。人がアーコロジー内で乗り物を操縦できるのは、このヨコハマにはありませんが専用サーキットのみですね」

 

「まあ、自動運転が発達すればそうなるか」

 

『惑星にはサーキットなんてあるのか』『ソウルコネクト内でしか乗り物操縦したことねえな』『私、馬に乗れるよ!』『乗馬スキルなしで乗れんのそれ』『無理ー!』

 

 本当に未来人はリアルで操縦というものをしないようだ。まあ、車って危ないからな。21世紀じゃ、毎年相当数の人が交通事故で亡くなっていた。それがなくなったのは、まさに技術の進歩の賜物と言えるだろう。

 

 キャリアーは透明なアクリル板のような物で全方位覆われており、高速で流れる景色を楽しむことができる。ただ、アーコロジー内部は天井で上が閉じていて、そこに照明が付いているため、少々閉塞感がある。

 

 ううむ、しかし、次に外に出るときは男ボディに戻ってからと思っていたのだがなぁ。見事にガイノイド姿での外出になってしまった。

 今日の俺の服装はキャミソール。薄着である。アーコロジー内は、暑くない程度の春と初夏の間っぽい室温に固定されているため、寒さは感じない。

 服装は当然ヒスイさんのチョイスである。ヒスイさん自身は、いつも着ている行政区職員の制服のままだというのに。

 

「着きましたよ」

 

「おっ、さすがあれだけ速度を出してただけあって、着くのが早いな」

 

 途中、信号の類で停車することもなかったため、スムーズに到着した。管理された自動運転のなせる技といったところだ。

 

『ここはヨコハマVRラーメン記念館よ! いろんなラーメンの味が旧式VRで楽しめるわ!』

 

 ギガハマコちゃんがそう解説を入れてくれる。

 

「ヒスイさん、旧式VRって何?」

 

『そこは私に聞いてよ! 旧式VRは、その名の通り、ソウルコネクト技術が発達する前のVR技術よ。VR機器と脳で情報をやりとりして、脳を錯覚させて架空のできごとがあたかも現実で起こっているように認識させるの』

 

「なるほど、俺の想像する本来のフルダイブVR技術はそれだな。でも、なんで、ラーメンでVR?」

 

『当然、ラーメンの味を最大限に楽しむためよ! ここでは旧式VRで無数の種類があるラーメンを食べることができるの。食べ物はやっぱり、魂なんかじゃなくて脳で直接味を感じないとね!』

 

「ソウルコネクトも旧式も、どっちも現実じゃないVRであることに変わりはないと思うんだがなぁ」

 

『ソウルコネクトで食う飯、美味しいよ?』『リアルの合成肉も嫌いじゃない。滅多にリアルに戻らないけど』『旧式VRとか触ったことないわ』『美味ければどっちでもいい』

 

「それより、敵が出現したようですよ」

 

 ヒスイさんがそう俺に向けて言ってきた。そうだ、ギガハマコちゃんと雑談している場合じゃなかった。ゲーム中だ。

 

『あれは製麺ロボット、ギガカットマン!』

 

「ラーメンはVRで食うのに、なんで製麺ロボットがいるんだろう……」

 

 俺は、目の前に出てきたARのゲームパッドを握り、先ほどギガサクラコさんから入手したパーツを選択する。ヒスイさんの事前説明が正しいなら、これがギガカットマンの弱点のはずだ。

 パーツはアイビーム。目からビームである。なんで受付ガイノイドの技が目からビームなんですかねぇ……。

 ともあれ、効果は抜群だったようで、一分もしないうちにギガカットマンは沈んだ。ギガハマコちゃんはパーツを新たに受け取っている。

 

「では、せっかくですので、記念館に寄って一杯いただいていきましょうか」

 

 そうヒスイさんに促され、俺達はヨコハマVRラーメン記念館へと入った。

 

『わくわく』『ラーメンって料理食ったことないわ』『私、ゲーム内で作ったことありますよ』『検索によると麺料理か……面白そう』

 

 視聴者の期待はそこそこのようだ。

 

「でも、旧式VRって脳に直接刺激を与える技術みたいだけど、俺達ってガイノイドだから体験できないんじゃね?」

 

「ミドリシリーズは有機ガイノイドですので、旧式VRも体験できますよ」

 

「有機だと何が他のと違うのかは解らんが、解った」

 

 うかつに説明を聞くと頭がパンクしそうな話題だったので、俺は話を打ち切って施設の案内ロボットに電子マネーであるクレジットを支払い、VRラーメンを注文した。

 席に案内され、すぐさま目の前にラーメンが出てくる。

 どんぶりを触ってみると、しっかりと陶器の感触が返ってきて、しかも熱い。すでに俺はVRの影響下にあるようだ。

 

「これ、椅子がVR機器なのか?」

 

「いいえ、この施設自体がVR機器ですよ。さ、いただきましょう」

 

「このラーメン、視聴者にも見えてる?」

 

「はい、キューブくんにもAR表示されています」

 

「なるほど。いただきます」

 

 俺はVRで表示されているらしき割り箸を割り、ラーメンを食べ始めた。うん、オーソドックスな醤油味。向かいの席では、ヒスイさんが味噌ラーメンを食べている。

 

『美味そう』『うちの自動調理器、ラーメンに対応しているかなぁ』『やってるMMOの料理クランにラーメン依頼してみよう』『うちのコロニーはラーメン屋あるみたい。行ってみよう』『腹減ってきた』『満腹度減ってきた』

 

 食べながら周囲を見てみると、他にお客さんはいない様子。ただ、ギガハマコちゃんがAR内でしっかりラーメンを食っていた。芸が細かいな、この観光ゲーム。プレイヤーと一緒に観光を楽しむのか。暴走ロボット退治はどうした。

 

「ごちそうさまでした。いやー、久しぶりにラーメン食べるからか、かなり美味く感じたよ」

 

「美味しかったですね。ヨシムネ様と出会う前は、食事など一切取ったことがなかったのですが、最近は美味しい食事にはまってしまいました」

 

「ガイノイドだって、いろいろ趣味を楽しんでもいいってことだね」

 

『そもそも食事をできる機能がついている時点で、かなりのハイエンド機』『ソウルインストールするなら、食事機能はほしいよなぁ』『二級市民の配給クレジットじゃ、ゲーム内アイテム購入を相当我慢しないとハイエンド機買えないぞ』『儚い夢だった』

 

 さて、視聴者達の悲哀はさておき、ラーメンも堪能したし巻いていこうか。

 次に向かったのは、ヨコハマ港だ。

 

「港、港かぁ。未来でも海運が残っているんだな」

 

「重力制御装置が必要な空運や、地形が邪魔をする陸運と比べたら、海を行く海運は安く物を運べますからね」

 

『あっ、それ私が説明しようと思ったのに!』

 

「はいはい、ギガハマコちゃんは暴走ロボットを倒そうねー」

 

 敵として登場したギガマリーンマンは、ギガカットマンのパーツ、エナジーソーサーで切り刻まれた。手に入れた新規パーツはジェット水流である。

 

「港には展望台がありますので、海を眺めていきましょうか」

 

 そうして俺達は展望台に移動し、巨大タンカーが出入りする海を目の前に小休憩を取った。

 

『これがリアルの海……』『おお、母なる海よ……』『いつか生で見てみたいなぁ』『海水浴行ってみたい』『ゲームと遜色ないな』

 

 スペースコロニー在住が多い視聴者は、惑星テラ固有の海という物に憧れがあるようだ。

 いつか、ヒスイさんと海水浴に行くライブ配信なんかをやってみるのもいいかもしれないな。

 

 そして次は水族館だ。

 ヨコハマ・アクアパークという場所である。

 

『侵入者は排除。侵入者は排除』

 

『いけー! ジェット水流よ!』

 

 うーん、ゲーム部分は、順路だとちょっと簡単すぎるかもしれないな。まあ、ゲームに慣れていない人も万が一プレイする可能性もあるから、こんなものだろうか。

 

『水族館?』『生きている魚が見られるテーマパークだよ』『なにそれすげえ!』『リアルの魚とか、培養魚肉と合成魚肉でしか見たことない……』

 

 未来の人達は、いろいろな物をリアルで見たことがないようだ。VRゲーム内では、リアルと遜色ない体験をできるのだがな。

 

「日が暮れる前に配信を終えたいので、少し見るだけにしておきましょうか」

 

 そうヒスイさんが水族館の前で言った。

 今日一日でこのゲームをクリアするつもりだからな。時間は無駄にできない。

 

「入場クレジットがちょっと勿体ないけどな」

 

「ヨシムネ様はクレジット配給額が大きいのですから、少しぐらい散財しても問題ありませんよ」

 

『どんどんヨコハマにクレジットを落としていってね!』

 

『この観光局の回し者、なかなか言いよる』『可愛い』『なんだかんだで行政区のキャラクターなんだよなぁ』『生々しいギガハマコちゃん好き』

 

『視聴者のみんなも、いつかヨコハマに来てね!』

 

『ヨシちゃんの歌唱ライブがあるなら考える』『何それ胸熱』『ヨシちゃんのお歌回はまだかな?』『永久保存版ですね』

 

「やめてくれ、俺に芸術センスの類を求めないでくれ」

 

 学生時代、演劇をやっていたから声に張りはあるが、音感はないんだよ!

 

 そんな会話を交わしつつ、水族館の中を巡る。

 

「あのカニとか美味そうだ」

 

『いや、グロイでしょ』『蜘蛛みたいでキモい』『肉になっていない魚介類って、不思議な見た目しているなぁ』『引くわあ』『いや、カニ美味いぞ』

 

「こちらには大型の魚がいますよ」

 

「ふーん、ってうわ、糞してる」

 

『汚え!』『うわー、水が汚れてそう』『餌の食べ残しとかでも水は汚れるそうですよ』『リアルってやっぱりめんどいね』『水の循環装置や清掃ロボはいるんだろうけど、なんだかなぁ』

 

 ううむ、視聴者の夢を壊してしまった。

 これでイルカショーとか見れば夢も広がるんだろうが、そこまで見ている時間はない。ちなみに、館内はまばらに人が歩いていた。観光客って本当に居たんだな。

 

「さて、次に行きましょうか」

 

 次に向かったのは、造船所だ。

 造船と言っても、海の船を作る場所ではない。なんと、宇宙船を作る造船所だった。

 造船所の前で立ちはだかる敵は、ギガシャトルマン。だが、新たなパーツ、シャークトルネードで儚く散っていった。

 

『なぜサメ』『サメが空中泳いでおる』『どういう技だこれ』『やばい、ツボにはまった』

 

「サメは宇宙にも行けるぞ。映画の話だけど」

 

 そんな無駄話を挟みつつ、ヒスイさんが案内を始める。

 

「ここでは、特別な船を作っています」

 

「特別?」

 

「一般的な宇宙船は、宇宙で建造されています。重力がない方が建造しやすいですからね。ただ、このヨコハマ・アーコロジーでは実験区があり、研究者の方が多くいるため、実験目的の宇宙船が作れるようになっているのです」

 

「へー、実験目的。たとえば?」

 

「宇宙でのデータ取りをするための実験室付き小型宇宙船とかですね。惑星の地上で作った製品が、宇宙空間でも問題なく動作するかなどを調べます」

 

『宇宙船、一度は乗ってみたい』『自分で操縦してみてえ』『私は作っているところがみたい!』

 

『では、見学を希望してみましょうよ!』

 

 視聴者のコメントに、そうギガハマコちゃんが言った。

 

「実験船なら機密とかあるんじゃないのか?」

 

 俺がそう聞いてみると、ギガハマコちゃんは笑みを深めて答えた。

 

『今なら、建造中で見学可能な物が一隻あるわよ』

 

「有能だな、この観光ゲームキャラクター……」

 

 そうして、俺達は造船所の中に入り、遠目で宇宙船の建造される様子を眺めた。

 建造は全てロボットが行なっている。まあ、人が働かなくてよくなった時代に、工場勤めの作業員がいたりはしないよな。

 

「この宇宙船って、動力は何を積んでいるんだ」

 

 と、俺は気になったことをヒスイさんに尋ねた。聞くのはギガハマコちゃんでもいいのだが、動画的にちゃんとヒスイさんの活躍する場面も作ってあげないとな。

 

「この宇宙船は小型ですので、核融合炉ですね。割と枯れた技術ですが、それゆえに安定性があります」

 

「核融合かー」

 

 さすがの俺でも知っている技術だ。

 

「大型の軍艦などは、縮退炉を積んでいます」

 

「縮退炉って、ブラックホールの力だとかいう……」

 

「はい、そうです。軍艦の武装としては主砲に陽電子砲がありますね」

 

「反物質! やだ、この未来世紀、SFすぎる。素敵!」

 

『新エネルギーはロマンがあるよな』『ソウルエネルギーもテレポーテーション以外で軍事利用可能レベルにならんもんか』『まあ、陽電子砲は実験で三度撃たれただけで、実戦では一度も使われていないんだけどな』

 

 そうは言うが、反物質の砲撃なんてする必要な敵がいたら、今頃人類は遊び呆けるだけとか言っていられないぞ。

 

「ちなみにミドリシリーズの内蔵動力は超小型核融合炉です。燃料は水ですね。他にも食物をエネルギーに変えるバイオ動力炉を搭載しています」

 

 ヒスイさんが胸を張りながら、そう主張した。

 

「そう言えば水泳の特訓していたときに、内蔵動力あるって聞いた気がする」

 

「業務用ローエンド機や、民生用は充電式の大容量バッテリーで動いていますから、ミドリシリーズはすごいのです」

 

「この時代でも電気って使っているんだ。電気って偉大だなぁ」

 

「感心するのはそちらですか……」

 

 だって、現代から600年も経っているのに、電気使い続けているんだぜ? エジソンとテスラの偉大さが解るってもんよ。

 そんな会話を楽しんで、造船所の見学は終わった。

 

「さて、時間も押していますので次に向かいましょう」

 

「次はどこ?」

 

「ふふ、見てのお楽しみですよ」

 

 焦らすなぁ。

 俺達はキャリアーに乗りながら、アーコロジー内を移動した。すると、突然アーコロジーの天井が透明な物に変わり、空が見えた。

 そして、進行方向に何かすごい物が見える。

 それは、天を突く巨大な建造物。どこまでも空に続いている。

 

「次の観光スポットは、郊外にある軌道エレベーター。ヨコハマ・スペースエレベーターです」

 

 また、すごくSFっぽいものが来やがった!

 


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