21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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170.21世紀おじさん少女のブリタニア旅行<4>

 競馬を楽しんだ俺達一同は、その勢いのまま競馬場に併設された乗馬場へとやってきていた。

 安全な馬ロボットで、乗馬体験ができるという施設だ。

 

 俺とヒスイさんはマイクロドレッサーを使って乗馬服に着替え、その上からエナジーマテリアルでできたプロテクターを着こんだ。このプロテクターがあれば、万が一馬上から頭を下にして落ちても、無傷でいられるという触れこみだ。

 

 そして、土が平らに敷かれた乗馬場に、馬ロボット達がやってくる。

 それぞれ俺とヒスイさんの前に止まった馬ロボット。それを見て、閣下が自分の馬ロボットをなでながら言葉を発した。

 

「まずは挨拶からじゃな。言葉をかけてやってから、鼻先に手の甲を近づけるのじゃ。すると、馬は匂いを嗅いで、相手を認識するのじゃ」

 

 ふむふむ。

 

「絶対に手の甲じゃからな? もし指先を近づけたら、指をかまれて骨折する可能性があるのじゃ。本物の馬が相手だった場合じゃがのう」

 

『怖っ!』『ええー、馬って草食じゃないの?』『草食でも、地面に生えている草をまとめてかみちぎれるくらいのアゴの力はあるってことですね』『人なつこい生き物相手の経験は、アナザーでも積んでねえや』

 

 うーむ、山形の農家だった俺だが、俺自身は牧場関連者とは縁がなかったんだよな。

 うちは昔からの地主だったから、牧場にも土地を融通していたらしいのだが……交流は親父任せだったからなぁ。

 

「では、試してみるのじゃ」

 

 よし、まずは声をかけて……。

 

「見事な白い毛並みだな。よし、お前の名前はドゥン・スタリオンだ」

 

 手の甲を鼻先に近づけてみると、ふんすふんすと馬は俺の匂いを嗅いだ。うーん、ロボットなのに本格的だ。

 

「ヨシムネ、そやつの名前はクアスじゃぞ……」

 

「ありゃ、名前すでにあったのか。そりゃ失礼」

 

 その後も、背に触れるなどして馬との交流を深め、いよいよ騎乗することになった。

 

「できました」

 

 説明を受けるなり、ヒスイさんがいきなり騎乗に成功していた。

 

『さすがヒスイさんです!』『やるじゃん』『無敵のAI様に不可能はなかった』『で、ヨシちゃんは?』

 

「うおー、どうやって乗るんだ、これ!」

 

 俺はあぶみに片足をかけて、かつての閣下のごとくその場でぴょんぴょんしていた。

 その横で、乗馬場の係員さんがどうしていいか解らずおろおろとしている。係員さんは若い人間の女性だ。

 

「ヨシムネ、とりあえずその飛び跳ねるのを止めるのじゃ」

 

「お、おう……」

 

 閣下の言葉に従い、俺は動きを止める。

 すると、係員さんが俺の後ろに来て、俺の身体を誘導してくれた。

 そして、俺は鞍の上に乗ることに成功した。

 

「うおー、俺はやったぞ!」

 

『はいはい』『係員に感謝しておけよ!』『馬がロボットじゃなかったら、どうなっていたことやら』『ヨシちゃんもこういう失敗するんだなぁ』

 

 失敗していないんですけど!

 

「それでは、ゆっくりと歩かせるのじゃ。馬は賢いので、騎手の不安を簡単に感じ取るでのう。馬を信じて、しっかりと乗るのじゃ」

 

 そうして、俺達は夕方まで乗馬を楽しんだ。

 俺も一応、並足で歩かせるところまでは成功したが、もっと乗馬に慣れるまで本物の馬にはまだ乗らないよう、閣下に注意されたのであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「ここがウェンブリー・グリーンパーク一番の宿泊施設、ホテル『ロイヤルシークレットガーデン』じゃ」

 

 閣下に案内されて到着した本日の宿。

 そこは、見た目きらびやかな高級ホテルであった。

 

「はー、閣下は、こんな立派なホテルまで所有しているのか。さすが公爵家」

 

「む、ここは確かにパーク内の施設ではあるが、所有者は私ではないのう。ホテルのオーナーは、元ブリタニア教国の王室の者なのじゃ」

 

「おお、つまりグリーンウッド公爵家の上司か」

 

「元じゃがな。太陽系統一戦争後、マザー・スフィア達行政府へ素直に国土をゆずり、王室の資産と、特別に与えられた一級市民の地位で、悠々自適な生活を送っておる元国王の一家じゃな」

 

「へえ、大政奉還した後の徳川慶喜みたいだな」

 

「日本の歴史には詳しくないので、徳川なにがしは知らぬのじゃが……」

 

 しかし、ブリタニア教国の主は、教主や教皇とかではなく国王だったのか。

 

「ブリタニア教国の国教って、どんな宗教だったんだ?」

 

「ぬ、それか。そうじゃな。21世紀人のヨシムネからすると、新興宗教ということになるかの。魂の実在が証明された第三次世界大戦後に興った新しい宗教での。ブリタニア国民の魂は、ブリタニアの大地に還るという国粋主義的な教義じゃった」

 

「へえー」

 

 イギリスで主流だった一神教勢力を打ち負かすほどの新興宗教か。それが一国を作り上げるとか、歴史ってすごい。

 

『魂が死後どうなるかは未だに解明されていないんだよな』『でも土地に還るはないわぁ』『宇宙でも魂は発生するんだから、土地に縛られているわけがない』『自分はブリタニア系コロニー在住だけど、死んだらスペースコロニーから光年単位で離れている惑星テラまで魂が飛んでいくのか?』『ないない』

 

 うーん、俺はお盆にお経をあげてもらって、新年を神社で祝うくらいの典型的宗教ごちゃ混ぜ日本人だった。なので、宗教にこれといった偏見も思い入れも持っていない。ここは、ノーコメントとしておこう。

 

「で、部屋はロイヤルスイートじゃなくてもいいんじゃな? 私のコネで安くしてもらえるぞ?」

 

 ホテルの受付の前で、閣下がそんなことを言い出す。

 ヒスイさん、ロイヤルスイートの紹介なんてされていたのか。閣下の言葉に、そのヒスイさんが返す。

 

「今回の旅行は、二級市民の方が少し無理をすれば実践可能というコンセプトです。ですので、ロイヤルスイートはお断りします。競馬場のVIPルームも本来過ぎた扱いだったのですが……」

 

「そうか。まあ、一般向けの客室でも、ここは立派なホテルじゃから、十分に歓迎してくれるであろう」

 

 そして、ヒスイさんが受付でチェックインを済まし、俺達は客室へと向かった。

 部屋の中は、十分に広く取られている。二つのベッドが隙間なく並んでいるのが少し気になるが、ホテルの二人部屋といったらカップルや夫婦が泊まることが多いだろうから、そういうものだと思っておこう。

 

 部屋の中に入った俺達は、まずナノマシン洗浄機で全身を綺麗に洗った。これでお風呂いらずである。

 一般向けの客室に風呂場はついていないようなので、身体の洗浄はこれで終わりだ。

 

 次に、部屋に備え付けられていたマイクロドレッサーで、外出用の動きやすい服からホテル用のフォーマルな服へと着替える。

 マイクロドレッサーはその場で服を作り出し着せてくれるという高級家電の一つなのだが、さすがは高級ホテル。全ての客室に、この家電が完備されているらしい。

 なお、着替えの瞬間はキューブくんには撮らせていない。配信に生着替えとか流したら、アカウント停止の危機だ。

 

 その後、部屋で視聴者達と雑談していると、俺の内部端末にホテル側から夕食の時間を知らせる案内が届いた。

 そのままホテル内部のレストランへと向かうと……閣下が俺達を待ち受けていた。

 

「夕食は期待しておくのじゃ。なんと、私が経営する牧場で育てた牛の肉を格安で出しているのじゃ。オーガニックな牛肉じゃぞ」

 

『マジかよ』『オーガニックな牛肉とか、お高い』『鶏肉ならまだしも、なあ』『馬肉じゃないんだな』『よかった、レースに勝てなくて、肉にされる馬はいなかったんだ……』

 

「む、馬肉用の馬も育てておるが、サラブレッドではなく、肉質がよい専用の品種じゃぞ」

 

 その後、配信の味覚共有機能をオンにした俺は、高級ホテルの夕食を楽しんだ。

 いや、あえて言い換えよう。ディナーを楽しんだ。

 コース料理の食器を使う順番が一瞬解らなかったが、昔読んだ格闘技漫画に出てくる地上最強の生物のセリフ、「外側から使用しろ」を思い出してなんとかなった。

 そのことを視聴者に伝えたら、妙に盛り上がっていたな。多分、チャンプ経由でその漫画を読んだことがある人達だったのだと思う。

 

 ディナーの後は、閣下にホテル内のカジノへ誘われたが、ギャンブルは競馬で十分楽しんだのでお誘いは断った。カジノもおそらく入場時に無料で配られるチップのみで、賭け事を楽しむのであろう。

 カジノへ行く代わりに、俺達はホテル内にあるというレトロゲームの復刻筐体がそろったゲームセンターへと向かった。

 俺にとっても懐かしい、20世紀のゲーム筐体の数々に、メダルゲーム各種。そこで俺は、童心に返り全力で楽しんだ。

 

『何気にヨシちゃんによるモニターゲームの初配信だな』『こういうのもたまにはいいよね』『ソウルコネクト以外のゲームも上手いじゃん、ヨシちゃん』『マザーが驚喜しそうな場所だ……』

 

「いやー、こういうのもたまに遊ぶならいいもんだな!」

 

「そろそろ就寝時間ですよ」

 

 と、ヒスイさんに呼ばれたので、ゲームの時間は終わりだ。

 

「ニホン国区からの時差も含めますと、すでに20時間以上活動しています。早急な休息が必要です」

 

「そういえば、日本とこっちじゃ時差8時間あるんだったか。感覚的には疲れていないんだけどなぁ」

 

「ヨシムネ様のボディはガイノイドですので、身体的な疲労は蓄積しません。ですが、精神は人のそれなので徹夜は厳禁です」

 

「はいよー。時差があるなら、こっちに来る前に、『sheep and sleep』で起床時間調整しておけばよかったな」

 

「そうですね。次の機会があるなら、そうしましょうか」

 

 そうして客室に戻った俺は、マイクロドレッサーでパジャマに着替え、ベッドの前で待機していたキューブくんの前に立った。

 

「それじゃあ、旅行一日目はこれで終了だ。また明日も、配信に付き合ってくれ」

 

「いえ、ヨシムネ様。配信はまだ終わりではないですよ」

 

「ん? もう就寝じゃないのか?」

 

「これより、ヨシムネ様の寝顔配信を行ないます」

 

『いえーい』『やったぜ』『待ってた』『助かる』『寝顔助かる』『みんな寝顔に喜びすぎだろう……』『最近『sheep and sleep』の配信されていなかったから……』

 

 くっ、今までVR内での寝顔配信はしてきたから、今更リアルだからって断れない……!

 

「でも、正直、寝顔配信って何も起こらないから、視聴者にとって虚無過ぎると思うんだが!」

 

「そこは、適度に私が小粋なトークをして場をもたせますよ」

 

「ヒスイさん、休もう?」

 

「業務用ガイノイドですので、無休での活動が可能です」

 

 そんなこんなで、俺達は旅行一日目を無事に過ごすことができた。

 明日はいよいよ、アミューズメントパークで本格的に遊ぶことになる。疲労を明日に持ち越さないため、俺は観念して視聴者達に寝顔を晒すことにしたのだった。

 

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