21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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173.21世紀おじさん少女のブリタニア旅行<7>

「はあー……こんなに立派なお部屋……私が使ってもいいんでしょうか……」

 

 数々のアトラクションで存分に遊び倒して、時はすでに夕刻。俺達は、今朝チェックアウトしたのと同じホテルにやってきていた。

 そして、今度は新たに四人部屋へチェックインしている。泊まるのは、俺とヒスイさん、閣下、そしてノブちゃんだ。トーマスさんはグリーンウッド家の屋敷で仕事があるとのことで、一人帰宅している。

 

「よいよい。そんなにお高い部屋でもあるまいし、気にするではない」

 

 ホテルの宿泊代は、閣下のおごりということはなく、各々がそれぞれ支払っている。まあ、ヒスイさんの分は俺が一括で払ったが。

 だから、ノブちゃんもしっかり料金を払っているので、何も気兼ねすることなどないのだが……。どうも、高級ホテルの豪華さに圧倒されているようだな。

 

「ディナーも楽しみにしておくがよい。今日はよいオーガニックのソーセージが出るとのことじゃ」

 

「わわ……オーガニックなんて稀少な料理を……私なんかが……」

 

「ノブちゃんって、オーガニックそんなに食べたことないわけ? 両親の経歴からして、普段から食べていそうなものだけど……」

 

 俺がそう尋ねると、ノブちゃんは首を振って否定した。ノブちゃんの両親は、元々は惑星テラの自然保護区の中で生きていた、自然愛好家だ。

 

「私自身は……あくまでアーコロジー育ちで……両親も贅沢をしない人達でしたから……」

 

「へえ、しっかりとしたしつけを受けていそうだな」

 

『ノブちゃんって養育施設育ちじゃないんだな』『子供育てるとかガッツある両親だ』『つまりノブちゃんには、幼馴染み属性が不足している……?』『ああ、乙女ゲームが趣味なのってそういう……』

 

 ノブちゃんに友達が不足しているのは、確かだと思う。

 一回コラボしただけの俺を追って、リアルでブリタニア国区まで旅行しに来るくらいだし。

 

「さて、まずはディナーの前に着替えようではないか」

 

 と、閣下にうながされ、キューブくんのカメラを窓際に向け、マイクロドレッサーでフォーマルな格好にそれぞれ着替えた。

 慣れない格好にノブちゃんは、わたわたとしっぱなしだったが、なんとか落ち着かせてレストランへと向かった。

 

 ディナーのマナーとかノブちゃん大丈夫かな、と思ったが、彼女は見事な所作でコース料理を最後まで食べきっていた。

 

「さすがフランスの女ってところかな」

 

「いえ……単に両親から教えられただけで……旧フランス圏というのは、関係ないと思いますけど……?」

 

 えー。俺の中では、フランス人ってフランス料理食べるために、マナーがしっかりしているイメージがあるんだけど。

 

 さて、食後のお茶も飲み終わり、夕食後は昨日と同じくゲームセンターに入り浸る。

 クレーンゲームがあったので全員分のぬいぐるみをゲットしてみたり、メダルゲームでメダルを無駄に増やしてみたりして、存分に遊んだ。

 ギャンブル用のチップと違って、メダルゲームのメダルはクレジットで追加購入が可能だった。ゲームとギャンブルの境界線って曖昧だと思うんだが、いいんだろうか。まあ、メダルは景品との交換が一切できないから、そこがポイントだったのかな。

 

 そして、楽しい時間も終わりがやってくる。就寝だ。

 

「今日もやるのか、寝顔配信」

 

「はい、それも三人の有名配信者が並んで眠る様子を映します」

 

 ヒスイさんがキューブくんを後ろにはべらせながら、寝顔配信の準備を整えていた。

 

「ベッドがなぜかくっついていると思うたら、そういうことか……」

 

「わわ……私、寝相に自信がないです……」

 

 閣下は苦笑し、ノブちゃんは慌てている。だが、ヒスイさんがやる気なので諦めてほしい。

 そしてその日、閣下とノブちゃんの寝顔は、全宇宙に公開されることになった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ブリタニア旅行三日目。ここまで来ると、三日間ずっと配信に付き合っていた重度のファンのコメントに、疲れが見えてきていた。

 寝顔配信しているからって、夜遅くまで起きている方が悪いのだが……。

 

「ブリタニア国区の料理って……美味しくていいですね……」

 

 朝食を食べながら、ノブちゃんが言う。ノブちゃんは朝がそんなに強くないのか、どこかぽやぽやとしている。

 ガイノイドボディなのに朝に弱いってあるんだなぁ、などと新発見した気分で、俺はパンを何個もおかわりした。

 

「で、とうとう最終日なわけだけど、今日はどこいくんだ?」

 

 食後のコーヒーを飲みながら、俺は閣下に尋ねた。

 

「うむ。我がグリーンパーク最大の施設に案内する予定じゃ。きっと、度肝を抜かれるぞ」

 

「そこまで言うなら、楽しみにしておこう」

 

 閣下が思わせぶりに言うので、俺は詳細を聞かず引くことにした。

 

「あれ……ヨシちゃんって……旅行の日程知らないんですか……?」

 

「ヨシムネ様は、行き先をあえて見聞きしないでいることで、新鮮なリアクションを視聴者に見せているのです」

 

「そんなことが……勉強になります……!」

 

 いや、ノブちゃん、ヒスイさん。俺そんな立派なこと考えていないと思うよ?

 

 そうしてホテルをチェックアウトした俺達が向かったのは……広大な開けた土地だった。

 ウェンブリー・グリーンパークは全体的に木が多く、いかにも森の中に作られたテーマパークという印象をこれまで抱いていた。だが、ここだけ妙に人工的な整地された土地が広がっている。

 

 そして、そんな土地の一角に、スタジアムらしき巨大な建造物が一つ。

 

「うーん、スポーツスタジアムか何かか?」

 

「ふふふ、残念ながら大外れじゃ」

 

 俺の予想は、どうやら全然当たっていなかったようだ。

 建物の中に入り、しばらく歩く。やがて、俺は驚くべき光景を目にすることになった。

 

「うわー! マーズマシーナリーだー!」

 

 辿り着いたのは、格納庫らしき場所。そこで俺は、ゲームの中で何度も見た人型搭乗ロボットが、ずらりと並べられているのを目撃した。

 

「うむうむ。ウェンブリー・グリーンパーク名物、マーズマシーナリー搭乗体験コーナーなのじゃ!」

 

『ヒュー』『これ全部本物かぁ』『自然と触れあうというコンセプトに欠片もかすってねえ!』『これ絶対閣下の趣味だよね』

 

 うーむ、搭乗体験とはまたすごいことだな。

 

「では、さっそく乗ってみるかの。おっと、ヒスイだけは超能力が使えないので、重機時代のマーズマシーナリー体験コースになる」

 

「いえ、私はできましたら、ヨシムネ様のオペレーター役をやりたいと思います」

 

「そうか? それなら、そうするのじゃ」

 

 そういうわけで、俺達はマーズマシーナリーの搭乗体験をしてみることになった。

 まずは、太陽系統一戦争時のパイロットスーツに着替える。

 こればかりは、マイクロドレッサーで瞬時に着替えるというわけにはいかず、更衣室での着用だ。

 

「ノブちゃんは、ゲームでマーズマシーナリー動かしたことある?」

 

「あ、はい。『MARS』のストーリーモードをやったことあります。オンライン対戦は……未経験なんですけど……」

 

「そやつ、アルフレッド・サンダーバード編のRTA最速記録保持者じゃぞ」

 

「マジで!? ノブちゃんすごいじゃん」

 

「うふふ……」

 

 すぐに着替え終わったので格納庫へ戻り、わくわくしながら乗る機体を選ぶ。

 

「やっぱりここは、日本製のベニキキョウだよな」

 

『ヨシちゃんベニキキョウ好きね』『オンラインモードの機体もベニキキョウベースだっけ』『いいなー。本物のマーズマシーナリー自分も乗りたい!』『乗りたいなら、ウェンブリー行けばいいんだぞ』『クレジット貯めるかぁ……』

 

 施設の係員の誘導に従い、俺はコックピットへと搭乗する。コックピットの中は、ゲームで乗り慣れた空間だ。

 マーズマシーナリーは体高8メートルしかないロボットなので、この空間は正直言ってそんなに広くない。だが、ロマンは十分詰まっている。

 

「うへへ。おおっと、んん! こいつ……動くぞ!」

 

 そんな言葉を口にしながら、俺はヒスイさんの誘導に従い、ベニキキョウを超能力で起動させた。

 そして、モニターに映る案内に従い、機体を動かす。

 

「歩いた!」

 

『歩いただけでこの喜びよう』『でも、リアルマーズマシーナリーですぜ』『うらやましい!』『まだ動く機体が残っているとはなぁ』

 

 それから俺は、モニターに表示される誘導に従い格納庫から出て、広大なエリアに移動した。建物内部に作られた、広い空間だ。そこらにエナジーバリアが張られている。

 俺はそこで、存分にベニキキョウを走らせた。

 

「うひょー、ロボット動かしてる!」

 

『これ、ヨシムネ、先走るではない』

 

『あわわ、ヨシちゃん、私ちゃんと動かせています? 私ちゃんと動かせています……?』

 

 おおっと、他の二人の存在を忘れてしまっていた。俺は機体の動きを止めて、二人の到着を待った。

 

『安全措置は十分取られておるが、機体を破損されても困るのじゃ。慎重に動かすのじゃぞ。接触事故が特に怖いでの』

 

「了解!」

 

 そして俺は、機体を浮かせてみたり、スラスターを吹かせてみたりして操縦を楽しんだ。

 

『うむ、問題ないようじゃな。では、外に出て模擬戦でもしてみるかの』

 

「模擬戦! そういうのもあるのか!」

 

『事故防止のため接近戦はなしで、張りぼての銃からAR弾を撃つだけのなんちゃって遠距離戦となるがの』

 

「おう、接近戦なしか。まあ、やってみようか」

 

『あわわ……お手柔らかにお願いします……』

 

 ノブちゃんは操作が怪しいな……大丈夫かな。

 そうして、俺達は建物の外にマーズマシーナリーを走らせ、エナジーバリアで囲まれた広大な外のフィールドで、銃撃戦を楽しんだ。

 

「閣下強すぎ!」

 

『ふふふ、年季の違いじゃな』

 

『ううー、かすりもしませんでした……』

 

 その後、30分ほどマーズマシーナリーを動かしたところで、他の客も増えてきたので、体験コースを終えることにした。

 パイロットスーツを脱ぎ、服を着直す。

 

「いやー、貴重な体験ができたな!」

 

『ああ、元の格好に戻ってしまった』『パイロットスーツよかったのに』『独特の味があるよね』『素直にエロいって言え!』『そんな、俺達はヨシちゃんにそういうの求めていないというのに!』『自分に正直になれよ……』

 

 ううん、妙に若い男らしき抽出コメントが多いな……? いつもは、性別を超越したようなコメントばかりだというのに。

 まあ、ロボットの操縦なんてイベント、食いつくのは若い男ばかりでもおかしくないか。

 

「では、お土産コーナーに案内するのじゃ。この施設のお土産コーナーはちょっとした自慢じゃぞ」

 

「へえ、閣下がそこまで言うなら、期待できそうだな」

 

 そうして閣下に案内されたのは、マーズマシーナリーのお土産屋さん。未来のプラモであるセルモデルが大量に売られていた。

 

「うわ、すごいな」

 

「ラインナップ、すごいじゃろ。じゃが、数で驚いていてはまだまだじゃぞ。なんと、ここでは自分の好きな機体のセルモデルをオーダーメイドで発注できるのじゃ。名づけて、セルモデルカスタマイズサービスじゃ」

 

「……うん? 自分でデザインするってこと?」

 

「いいや、個人が持つ『MARS』等のゲームデータから、オンラインモードでカスタマイズした機体のデータを引っ張ってこられるのじゃ」

 

「マジで!?」

 

『え、すごくね?』『何その素敵なサービス』『あー、そういうサービス、前にオンラインで見たことあるけど、もしかして閣下の事業?』『閣下って筋金入り過ぎません?』

 

 自分だけのセルモデル……いいね!

 

「ということは、俺の熱帯用機体の『ギンカイ』も……」

 

「うむ。10分もあれば、組み上げる前のパッケージになってセルモデル化できるのじゃ!」

 

「おおー、やるやる。お土産に買っていくぞ!」

 

「うう……ヨシちゃんいいなぁ……私……ストーリーモードしかやっていないから……自分の機体がないんですよね」

 

 おおっと、ノブちゃんはカスタマイズサービスを受けるための機体がないようだ。

 まあそれでも、既製品のセルモデルはいっぱいあるし、マーズマシーナリーぬいぐるみとかマーズマシーナリーキーホルダーとか売っているので、適当にお土産は見つくろえると思う。

 

「……ん? キーホルダー? この時代、物理的な鍵なんて、みんな使わないよな?」

 

 お土産コーナーの一角にあるキーホルダーを見て、俺は首をかしげた。

 

「鍵は使われなくなりましたが、鞄等にぶら下げるファッションアイテムとして残り続けています」

 

 ヒスイさんの説明に、なるほどなーっとなった。

 

 さて、それじゃあ、お土産購入タイムだ。自分用のお土産と、あとはヨコハマにいるサナエとハマコちゃん用に何かを買っていこう。

 ここはマーズマシーナリー関連しか並んでいないが、他のお土産コーナーにも案内してもらって、面白そうなお土産を見つくろうことにしよう。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「三日間、楽しかったのじゃ」

 

 お土産も購入し終わり、俺達はウェンブリー・グリーンパークを後にしていた。

 そして、テレポーター施設の前で閣下の見送りを受けている。

 

「私は二日間でしたけど……いっぱい、いっぱい楽しかったです……!」

 

 ノブちゃんともお別れだ。彼女とは、この旅行を通じてだいぶ打ち解けた気がする。ヨコハマに戻ったら、またコラボ配信を企画してもいいかもしれない。

 

「みんな、お世話になったな。それじゃあ、またVR上で会おうか」

 

 そう言って、俺達は名残惜しくも別れを告げ、俺とヒスイさん、そしてノブちゃんはテレポーター施設へと入っていく。

 ノブちゃんと施設内で別れ、俺とヒスイさんの二人はヨコハマ・アーコロジー行きの便を待つ。

 

「どもども、ブリタニアはお楽しみになりました?」

 

 そう言って現れたのは、アテンダントのトキワさんだ。

 

「やあ、楽しかったよ。また来たいな」

 

「それはよかったです。視聴者の皆さんも、三日間楽しめましたか?」

 

『もちろん』『旅行っていいねぇ』『トラブルもなく、無事でよかった』『迷子……』『おおっと、ノブちゃんをとがめるなら相手になるぞ』『まあ迷子くらいは可愛いものだよ』『旅行って知らない人と顔を合わせる機会多いから、対人トラブルが怖いんだよね』『まーでも、配信している人に絡んでくる剛の者はおらんでしょ』

 

「ああー、妙に他の来場客から遠巻きに見守られていると思ったら、配信中だったからか」

 

「あはは、ヨシちゃん気がつかなかったんですか? 配信中の人は、AR表示でそれと判るようになっているんですよー」

 

 トキワさんが、キューブくんにピースをしながら笑って言った。

 

「さて、では13時の便、まもなく出発ですよー。お忘れ物はないですか? やり残したことは?」

 

「やり残したことがあっても、今更間に合わないだろう」

 

 トキワさんの言葉に、俺は苦笑して返す。

 

「あれあれ、別にいいんですよ。ヨコハマ便をキャンセルして、旅先で会った愛しのあの子へ告白に向かっても」

 

「そういうの、いいから!」

 

『ヨシちゃんの配信にラヴ要素はなかった』『ヨシちゃんが恋愛とか、お父さん許しませんよ!』『お兄さんも許しませんよ!』『お姉ちゃんも許しませんよ!』『お母さんは許します』『お母さん!? というかマザーだこれ』『く、やっぱり見守っていやがったか……』

 

 配信も終わりだというのに、今更マザーとか出てこられても困るなぁ。

 

「では、021号室、ご開帳ー」

 

 テレポーターの部屋に入り、俺は出発時間までのんびりと待つ。

 そして、ふと視線を下げると、肩掛け鞄から顔を出したぬいぐるみが目に入った。

 

 ホテルのゲームセンターにあった、クレーンゲームの景品だ。サラブレッドを模した、馬のぬいぐるみである。

 それに手を触れながら、俺は旅の思い出にひたる。

 

 ウェンブリー・グリーンパーク。三日間では全てを回りきれなかったが、いつかまた行ってみたいものである。

 




第三章はこれで終了です。
第四章および最終エピソード『宇宙暦300年記念祭』編に続きます。
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