21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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18.ヨコハマ・サンポ(位置情報ARアクション)<3>

 俺達は巨大な建造物の前でキャリアーから降りる。

 ここは軌道エレベーター南口前。軌道エレベーターとは、その名の通り惑星の静止軌道までの高さがある巨大なエレベーターである。見た目は、すごくぶっとい塔だ。

 

「はー、地震大国の日本で軌道エレベーターが建つとは思ってもみなかったわ」

 

「現代の建築物は、震度7の地震でも、ぴくりとも揺れないですよ」

 

「揺れを逃がすとかじゃなくて、揺れない」

 

「はい、揺れません」

 

「でも、津波の心配はあるよね? 海の近くに建ってるっぽいけど」

 

「軍艦にも採用されているエナジーバリアが海岸線にも設置されていますので、それで防ぎます」

 

 なるほどなー。27世紀の未来人は、地震も克服したんだな。

 そう感心していると、俺達に付いてきていたギガハマコちゃんがシリアスそうな口調で言った。

 

『ここは今までにないサンポ星人のパワーを感じるわ。ヨシムネ、今までに手に入れたパーツを駆使して戦って!』

 

「おっ、中ボスか?」

 

『大型警備ロボット、ギガスペースマンよ!』

 

 半透明にAR表示された巨大なロボットが、俺達の前に立ちはだかる。それを俺は、ARのゲームパッドでギガハマコちゃんを操作して迎え撃つ。敵の弱点となっているパーツのアイコンが光って知らせてくれるため、それを順次選択しての戦闘だ。

 

 軌道エレベーターの入口は、割と人通りが多い。そんな入口前でARゲームをプレイする俺達を、道行く人達は横目で眺めて通り過ぎていった。

 あの配信者のヨシムネがこんなところで配信を! とかの反応を期待していたのだが、そう上手くは行かないか。

 そもそも、俺の配信を見ている人の大半は二級市民なので、惑星テラの軌道エレベーターを出入りしているはずがなかった。

 

 ギガスペースマンの体力は高かったのだが、動き自体は遅かったので特に苦戦することなく倒すことができた。

 

「大勝利!」

 

『ヨシちゃんのドヤ顔いただきました』『警備ロボットなのにふがいない』『そこはほら、ゲームだからね?』『操られているからスペック発揮できない説』

 

「本当の警備ロボットは、常人が肉眼で追えないほど俊敏な動きをするため、こういったゲームにスペックそのままで出すことはできないでしょうね」

 

 そうヒスイさんが抽出コメントに返答する。

 

『そうなるな』『頼りになるわぁ』『スペースコロニーの警備ロボットとか、しっかりしてくれないと困るしな』『コロニーと一緒にご臨終は困るわぁ。魂サルベージされる前に成仏しそう』『それこそ異星人以外に誰がコロニー襲うんだって話ですが』

 

 宇宙軍とかあっても、今の人類は平和で何よりだな。安心して、ゲーム漬けの生活を送れるってもんだ。

 

「さて、では次の観光スポットに参りましょうか」

 

「あれ、軌道エレベーターの中は見ていかんの?」

 

「中は広大ですので、今日一日ではとても見て回れませんよ。またの機会にしましょう」

 

『そうね、軌道エレベーター内はヨコハマ観光局の管轄外だから、私も付いていけないわ!』

 

 ゲームのAR適用範囲外ってことね。一応、今回はゲーム配信って名目だから、範囲外に出るのは趣旨に合わないな。

 そういうわけで、俺達は次の観光スポットへと向かった。

 

「ここは飲食店が並ぶエリアですね。産業区からも近いので、働く市民の方はここで食事を取ることが多いです」

 

「お、寿司屋があるじゃん。寿司も久しぶりに食べたいなー」

 

「あの店はオーガニックな養殖魚を扱った店ですので、少しお高いですよ」

 

「……またの機会にしておこう」

 

 そうして、キャリアーを徐行させ、並ぶ店舗の看板を確認しながら飲食店エリアの中を進み、やがてゲームの示す観光ポイントに到着した。

 

『着いたわね! ここは古くからヨコハマの街に存在する、名スポットよ』

 

 そこは、21世紀に居た頃に横浜に来たことのない俺でも知っている場所だった。

 

「横浜中華街じゃないか!」

 

『街華中』と書かれた門が、俺達を歓迎していた。

 そして、その門の前では、新たな敵が俺達を待ち構えている。

 

『あれは、中華街の料理ロボット、ギガヒートマン! バーナー攻撃が得意なはずよ、気を付けて!』

 

 門の前で、俺はゲームに集中する。

 そんな俺達の横をキャリアーから降りた市民の人達が通り過ぎていく。飯を食いに来たのだろう。

 

「おっ、ARゲーム中だってさ。どんなゲームだろ……『ヨコハマ・サンポ』? 知ってる?」

 

「聞いたことないですね。あ、ミドリシリーズのライブ配信中みたいですよ。後でチェックしておきましょうよ、先輩」

 

 そんな会話が、俺達の近くで交わされている。

 

『やったねヨシちゃん! 注目浴びてるよ!』『新たな視聴者二名入りまーす』『一級市民の視聴者増えるの?』『すごくね?』『ヨコハマ・アーコロジー在住の視聴者は元々いるぞ』『このゲームの情報を事前に流したの、その人だからな』

 

 そんな抽出コメントを聞きながら、俺はギガヒートマンに勝利した。獲得パーツは、おそらくバーナー攻撃だろう。

 

「さて、では遅くなりましたが昼食にしましょう」

 

「そうだな。さっきのラーメンはVRだったしな」

 

『私も飯店でエナジー補給しなくちゃ!』

 

『ギガハマコちゃん、飯で動くんか』『バイオ動力炉搭載とか高性能機やなぁ』『戦闘用ガイノイドなのに意外な機能』『美味しそうに飯を食う女子はいいものだ』

 

 そういうわけで、俺達はヒスイさんの案内で飯店に入り、昼の飲茶を楽しんだ。

 本格的な中華料理はあまり食べたことがないが、美味かった。ヒスイさんも満足していたようだ。

 

『リアルで贅沢に飯を食う……その発想はなかった』『リアルの身体は維持するだけが基本』『ゲームの中で食いたい放題できるからなぁ』『でもリアルで満たされるってどこか憧れるわ』『コロニーにも美味しい飲食店はありますよ』

 

 スペースコロニーの飲食店事情は知らないが、二級市民の人達はあまりいい食生活をしていないようだ。

 まあ、VR空間で食を楽しめるなら、リアルでわざわざこだわる必要って確かにないんだよな。

 俺は人間らしい生活を送りたいので、食べる必要がないガイノイドなのにリアルで食事を取っているが。

 

 そんなこんなで食事を終えた俺達は、再びキャリアーに乗り、アーコロジー内を進んでいく。

 移動時間も、視聴者達と会話を交わせば暇をすることもない。

 移動速度が速いため高速で背景が流れていくが、どうも見覚えのある区画に入った気がする。

 

「ここは確か、産業区画?」

 

「はい、そうですね。ニホンタナカインダストリの支社がある区画ですね」

 

「こんなところにも観光スポットがあるのかな」

 

「ええ、きっと楽しめますよ。着いたようですね」

 

 到着したのは、巨大な建物の前。看板が見える。何々、ニューヨコハマフードカンパニー?

 

『ヨコハマ・アーコロジーの食を支える、食品生産工場よ!』

 

「おー、工場見学か」

 

『穀物・野菜・果物の生産に加え、培養肉、合成肉の生産、そしてそれらの食材を使った食品加工を行なっているわ。むっ、あれはギガファームマン! 野菜爆弾の使い手よ!』

 

「野菜爆弾ってなんだよ!」

 

 俺はそんな突っ込みを入れつつ、工場の前でゲームパッドを持ってアクションゲームに勤しんだ。

 

「これ、普通にギガハマコちゃんが観光案内をしてくれるだけの観光アドベンチャーじゃ駄目だったのかな」

 

『アクションパートがなかったら寝てたかも』『ゲーム部分のおかげでメリハリがあっていいよね』『頑張ってARコントローラーがちゃがちゃいじるヨシちゃんに和む』『俺は観光部分も好きだよ』『眠くなるだけで嫌いとは言ってないさ』

 

 もしかすると、視聴者達はゲームに慣れ親しみすぎて、アクションゲームパートがあると安心できるのではないだろうか。

 さて、そのアクションパートも無事に終わった。

 

「工場見学に行きましょう」

 

 工場では、浅めの水槽に満たされた液体に浸かった野菜が、ライトに照らされてすくすくと育っていた。ううむ、これが野菜工場。

 

「俺は元農家だが、21世紀の農業知識はここではなんの役にも立ちそうにないな!」

 

『ファンタジー系MMOにおいでよ』『ゲームなら役に立つ』『入ろうぜ、農家クラン!』『(くわ)とじょうろで君もレッツ農家』

 

「いやごめん、鍬とじょうろとかそんな使わんわ。普通に機械使う」

 

『おのれ21世紀』『中世ファンタジーの敗北』『ゲームの題材にするには中途半端だよな、21世紀』『学園アドベンチャーで見るくらい?』

 

 21世紀の知名度はあまり高くないようだ。まあ、あの時代はいろいろ過渡期って感じはしなくもない。

 そして工場見学は進み、培養肉コーナーへ。

 

「水槽に満たされた肉片の海……SFやなぁ」

 

『こうやって肉ってできるんだ』『動物まるまんま育てているわけじゃないんだな』『動物の形にすると、骨とかの廃棄がでますから』『確かに廃棄は非合理的』『合理性追求しないなら、工場産じゃなくてオーガニック食材でやるだろうしなー』

 

 視聴者から見ても、この光景は珍しいようだ。

 順路を進み、今度は食品加工工場へ。作っているのは、取れたてのジャガイモでのポテトチップスだ。

 

「できたてのポテトチップスをいただいてきました」

 

「お、サービス品?」

 

「はい」

 

「じゃ、遠慮なくいただこうか」

 

 定番の味って感じで、美味しかった。

 以上で工場見学は終わり、その後も俺達は実験区、市民体育館、ヨコハマ・スポーツスタジアムと巡っていった。

 

 実験区はこのアーコロジーの代表的区画らしいが、中に観光名所はないため入口に寄っただけ。

 市民体育館は、サイボーグの人が運動プログラムをインストールした時に身体を慣らすための場所とのこと。

 そして、スタジアムはサイボーグスポーツやアンドロイドスポーツが人気で、ヨコハマ・アーコロジー在住の二級市民がよく通っている場所らしい。

 

「惑星テラにも二級市民って住んでいるんだな」

 

「主に、一級市民や準一級市民の子孫ですね。環境に触発されて働き始めて、準一級市民に昇格する方も多くいらっしゃいます」

 

「働かなくてもいいのに働くって、不思議だけどやりたくなっちゃうんだよな」

 

『ヨコハマ観光局は、少数枠だけれど人間の職員募集中よ!』

 

 ギガハマコちゃんがさりげに求人をしている。でも、ヨコハマ在住ではなく、視聴者達のようなスペースコロニー在住の二級市民から職員採用ってあるのかね。謎である。

 

 そして、俺達はこれまた見覚えのある区画へと辿り着いた。

 ショッピングモールである。

 

「動画のリアルパートでおなじみのホヌンの苗とペペリンドの苗も、ここで買ったんだ。ヒスイさんに勧められてね」

 

 ショッピングモールの中では、通信販売サービスのカメラ代わりであるロボットがあちこちに行き交っている。このロボットを通じて、在宅しながらVRでショッピングモールを見て回ることができるのだ。

 

「今思うと、苗を買って動画に映し始めたのは、リアルを映し続けて俺に男ボディを使わせない策略だったんじゃないかって思ってるよ」

 

「さて、それはどうでしょうね」

 

『策士ヒスイさん』『ヨシちゃんが男になるとか……』『お父さん絶対に許しませんよ!』『ヒスイさんもヨシちゃんが女の子の方がいいの?』

 

「いいえ、女の子がいいのではなく、ミドリシリーズなのがいいのです。私達の新たな妹です」

 

「いつの間にか本当に妹になっていた件について」

 

 ミドリシリーズって、互いに何かやりとりをしているっぽいからな。妙に仲がいいようだ。俺はそのやりとりには混ざっていないのだけれど。

 それでも俺が妹なのか。

 

「さて、観光スポット巡りも、このショッピングモールと最後の観光局への帰還を残すのみです。何か買っていきますか?」

 

「そうだなー、猫型のペットロボットとかかな」

 

「それでしたら、直接ニホンタナカインダストリに発注をしましょう」

 

「あそこ、ペットロボットも扱っているんだ」

 

「ロボット全般に強い企業ですよ」

 

 そうなると、特に買う物もないので、俺は前回寄ったガーデニングエリアで何かを探すことにした。

 

「うわっ、なにこれ動いてる」

 

 とあるコーナーにパイナップルを地面に半分埋めたような植物が売っており、葉の部分がわっさわっさと動いていた。

 

「他惑星原産の生命体ですね。知能は低く、文明は築いていません。植物扱いのようです」

 

「生き物かー。ペットにどうだろう、ヒスイさん」

 

「お世話はお任せください」

 

『動く植物がペットとか』『どういうことなの』『トレントならゲームで見た』『マンドレイク?』『宇宙は広大だわ』『可愛い』『可愛いか?』『ヨシちゃんの方が可愛いよ』

 

 動く植物を購入し、荷物として部屋に送ってもらうよう頼んでショッピングは終了。

 ショッピングモールを出て、ゴールである観光局に戻ることにした。

 

 ヨコハマ・アーコロジーをぐるっと回って一周か。なかなか上手くできているゲームだな。

 ギガハマコちゃんもいいキャラしているし、このまま埋もれたままにするには勿体ないゲームだ。

 俺達の配信で少しは知名度が上がって、他にもプレイする人がでてきたりしたら配信者冥利につきるのだけれど、はたしてどうなるだろうか。

 


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