21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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183.宇宙暦300年記念祭事前説明会<1>

 宇宙暦299年12月8日。本日は、宇宙暦300年記念祭なる催し物の説明会がある。

 時刻は日本時間の午後三時。俺とヒスイさんは昼食を食べ、午後のティータイムも十分に満喫した後、VRで説明会の会場にアクセスした。

 

 VRなので、移動時間も一瞬だ。何かすごい施設が待っていたということもなく、ごくごく普通の長テーブルと椅子が並ぶ大きめの会議室っぽい部屋に到着した。

 部屋の内部には、すでに人が多数訪れていて、そこかしこで人が雑談をしているのが見てとれた。

 

「うーん、俺には判別つかないが、ここにいる人達みんな有名な歌手なんだろうか」

 

 俺がそう言うと、ヒスイさんは「そうですね」と端的に返答した。なるほど、やっぱりか。

 長年芸能人や歌手をやってきた有名人に、過去の世界からタイムスリップしてきたというだけで有名になった俺が交じるのは、ちょっと気後れするんだよなぁ。

 

 と、そんなことを思っていると、ヒスイさんがふと視線を横に向けて言った。

 

「ヨシムネ様、あちらにヨシノブ様がいらっしゃいます」

 

「えっ、ノブちゃん?」

 

 ノブちゃんといえば、俺の友人の人気ゲーム配信者だ。あわてて俺はヒスイさんの視線を追う。

 すると、そこには一人ぽつんと着席し、頭を下げてじっとテーブルを見つめているノブちゃんの姿があった。

 ノ、ノブちゃん……。完全に周囲を拒絶する人見知りモードに入っておる……! いたたまれない!

 

「おーい、ノブちゃん!」

 

 俺は、あまりに見ておられず、ノブちゃんに急いで声をかけた。

 

「…………!?」

 

 すると、ノブちゃんは勢いよく頭を上げてこちらを確認し、半分泣きそうな顔でこちらに笑みを向けてきた。

 

「ヨシちゃん……お久しぶりです……!」

 

「おう、ノブちゃんも出場者に選ばれたのか?」

 

「はい……。不思議なことに……選ばれました……」

 

 俺はノブちゃんに話しかけながら、彼女の席の隣まで歩く。

 そして、椅子を引いて彼女の右隣に座った。

 

「不思議? 配信で歌とか歌っていなかったのか?」

 

「ええと……歌唱アシストを無効にした『アイドルスター伝説』のRTAは……したことありますけれど……」

 

「それだ! あのゲーム、アシスト無効にした場合、歌唱能力がちゃんと備わっていないと、ストーリー進行しないからな! そこが評価されたんじゃないか?」

 

「ええっ……別に視聴者の方に向けて、歌専門の配信をしたわけでは……ないのですが……」

 

 心底驚いた、といった顔でノブちゃんが答えた。

 すると、俺の右に着席したヒスイさんがさとすように言う。

 

「一つのゲームでの行動が評価されるほど、ヨシノブ様は注目されているということですね」

 

「そ、そうですかね……」

 

 ノブちゃんが照れたように視線を俺達から外す。可愛い。

 と、そんなやりとりをノブちゃんとしていた最中のこと。

 

「おーい、ヨシムネー」

 

 遠くから俺を呼ぶ声が届いた。

 俺が声の方向に視線を向けると、そこにはまた見覚えのある姿が。友人のゲーム配信者であるウィリアム・グリーンウッド閣下と、そのメイド長のラットリーさんだ。

 彼女達は、スタスタと歩いてこちらに近づいてくる。

 

「うむ、ヨシムネ、ヨシノブ、ヒスイ、この間ぶりじゃの」

 

「よう、閣下も選ばれていたのか」

 

 近くまでやってきた閣下とラットリーさんに、皆で挨拶をする。

 そして、そのまま閣下達はノブちゃんの左隣に座った。知り合いが増えてノブちゃんは、ほんのり嬉しそうだ。

 

「閣下まで呼ばれているとはなぁ……」

 

「なんじゃ? ヨシムネは自分が呼ばれて、私が呼ばれないと思っていたのか? 私の美声にかかれば、この程度わけないのじゃ」

 

「あらー、閣下は今年に入るまで音痴だったではないですかー」

 

 ラットリーさんの突っ込みに、閣下は苦い顔をする。

 

「まあ、元音痴ということなら、俺だってそうだし」

 

 俺がそう言うと、閣下は「そうじゃろそうじゃろ」と楽しそうに言う。

 

「グリーンウッド閣下も……『アイドルスター伝説』で、歌を……練習したのですよね?」

 

 と、ノブちゃんが閣下に話しかける。

 

「む? そうじゃな。ヨシムネからあのゲームを紹介されての。長く厳しい修行の時間だったのじゃ……」

 

「うふふ……。私も、ヨシちゃんがあのゲームをプレイしているのを見て、自分でも配信してみたんです……! そうしたら、今回、選ばれちゃいまして……」

 

「そうじゃったのか。ずいぶんとアナログな歌唱練習をさせられるゲームじゃが、効果は確かなのじゃなあ……」

 

 閣下がしみじみと言った。

 

「ヒスイさん、よくあのゲーム見つけたよね」

 

 俺がそう言うと、ヒスイさんが答える。

 

「21世紀や20世紀が舞台のゲームは、一通りチェックしてあります」

 

「助手の鑑だな……」

 

「ラットリーも、メイド長ならヒスイを見習うのじゃ」

 

 俺の言葉に、閣下がそんなことを言ってラットリーさんを口撃する。

 だが、ラットリーさんは「そういうの、メイドの仕事じゃないのでー」と取り合わない。

 

 その後も俺達は雑談をして説明会開始までの時間を潰す。

 やがて、告知されていた開始時間になり、着席を促すアナウンスが部屋の中に響いた。

 

 部屋に集まった一同が着席していき、ざわめきも収まっていく。

 すると、部屋の前方に用意されていた席に、二人の人物が突然出現した。一人は、耳にアンテナを付けたガイノイド。もう一人は、三十歳前後の男性だ。

 

 ガイノイドの方は……見覚えがあるような気がする。あれって、ミドリシリーズの一人じゃないか? 名前は覚えていない。普段は名札をつけて俺のSCホームに来てくれるので、数百人いるミドリシリーズの顔と名前は、まだ全員分は一致していないのだ。

 

 俺がまじまじと見つめている間に二人は着席し、そしてガイノイドの方が話し始めた。

 

「皆様、本日はお集まりいただき、まことにありがとうございます。これより、宇宙暦300年記念祭の事前説明会を始めさせていただきます。わたくし、本件の担当官をしております、フローライトと申します」

 

 フローライト。聞き覚えがあるぞ。

 

「ミドリシリーズだよな?」

 

 俺は隣に座るヒスイさんに、小声で話しかける。

 

「はい。一番若い機体です」

 

 ああ、確か、前にロールアウトしたばかりの子として名前が挙がっていた。

 配属先は機密と言われたが、この事業の担当官だったわけか。

 

 俺達が私語を交わしている最中、フローライトさんがニホンタナカインダストリのミドリシリーズの最新型番であるといった、簡単な自己紹介がされた。そして、次に彼女の隣に座る人間の男性が話し始める。

 

「私はアルフレッド・サンダーバードだ。本件の直接の担当官ではないが、本来の仕事に関わりが強い催し物のため、説明要員として今日は来ている」

 

 彼のその言葉に、周囲からざわめきが聞こえた。

 正直なところ、俺も「マジか」と小さく呟いていた。

 アルフレッド・サンダーバード。ゲーム『MARS~英傑の絆~』の主人公であり、歴史に名を残す科学者であり、伝説的パイロットだ。

 

「本人……?」

 

 ノブちゃんのその呟きを彼女の左隣に座る閣下が拾った。

 

「フレディ本人じゃな。久しぶりに見たのじゃ」

 

 ああ、閣下って300年前から生きているから、サンダーバード博士と知り合いなのか……。

 サンダーバード博士の親友のマクシミリアン・スノーフィールド博士とも閣下は知り合いだったようだし、彼女も歴史的人物なのだなぁ。

 

 そんなやりとりの間にも、サンダーバード博士の話は進み、自分が太陽系統一戦争から生きている本人だと語っていた。

 一通りの自己紹介が終わったところで、話し手はフローライトさんに戻る。

 

「今回お集まりいただいた皆様には、銀河標準時の来年1月1日に行なわれる祭典にて、歌を披露していただく予定です。本日は、その行事への参加を了承していただけるかの、最終確認となっております」

 

 ふむ。まあ、ここまで来て辞退する人などほとんどいないだろうが……。

 

「ところで皆様、周囲にいらっしゃる歌手の顔ぶれを見て、一つ気がつくことがないでしょうか?」

 

 むむ? そう言われても……。

 俺は周囲を見回すが、閣下やノブちゃん達以外は知らない顔しかいなかった。

 

「ノブちゃん、解る?」

 

「えっと、何も解りません……」

 

 俺の質問に、ノブちゃんが申し訳なさそうに答えた。ご、ごめん。答えを期待していたわけじゃないんだ。

 

 そして、フローライトさんの言葉が続く。

 

「この場の皆様の中に、生身の肉体を持っている方はいらっしゃいません。出場者に選ばれた方は皆、アンドロイドにソウルインストールをしている人間です」

 

 えっ、そういうこと?

 俺も閣下もノブちゃんも、みんなリアルではガイノイドボディだ。わざわざ、そういう人からメンバーを選んだってことなのか。

 

「今回の祭典に出場していただく方は、アンドロイドの身体を持っていることが最低条件です。その理由は……サンダーバード博士、お願いします」

 

「ああ。記念祭が開催される場所は、ちょっと特殊な環境下にあるんだ。テラフォーミングがなされていない場所。生身の肉体では、滞在することが不可能な場所だ」

 

 テラフォーミングがなされていない場所。

 宇宙に人類が進出している今の時代なら、そんな場所はそこらにあるだろう。惑星テラと同じ環境にある天然の星など、まず存在しないだろうからな。

 つまり、祭典の舞台は、未開拓の惑星……?

 

「記念祭が開かれる場所は、惑星ガルンガトトル・ララーシだ」

 

 ……なんて?

 全く聞いたことがない場所だ。だが、周囲からはざわめきが起こっており、隣に座るノブちゃんも驚きの顔だ。

 

「知っているのか、ノブちゃん!」

 

「えっ……ヨシちゃん、知らないんですか……?」

 

 えっ、知らなきゃおかしい類の話?

 俺がひるんでいると、サンダーバード博士が続けて言う。

 

「皆が知っての通り、この惑星には、とある存在がいる。人類が宇宙で初めて出会う、高度な知性を持つ生命体。惑星テラの炭素生物とは異なる進化をしたケイ素生物だ」

 

 ……マジか。そういえば、以前、宇宙からやってきた情報生命体と戦うゲームである『ヨコハマ・サンポ』をプレイしたときに、そのような存在のことを耳にしたような気がする。

 驚いているのは俺だけじゃないのか、ざわめきは大きくなる。だが、そのざわめきも気にせず、サンダーバード博士が言い放った。

 

「ここにいる皆には、異星人ギルバデラルーシを相手に歌を披露してもらう」

 

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