21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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187.27世紀のノンサイバネティックベースボール<2>

 始球式の終了から十数分後、オリーブさんがユニフォーム姿のまま俺達の座る席までやってきた。

 

 俺の左にヒスイさんが座っており、オリーブさんは俺の右隣に着席した。両手に花だな。

 

 さて、バックネットの向こう側の試合は、日本のチームが後攻。日本人らしき黒髪の投手が、浅黒い肌のバッター相手にストライクをもぎ取っていた。

 それを観戦しながら、俺はオリーブさんに話しかける。

 

「しかし、12月でも野球の試合なんてやっているんだな」

 

「惑星テラのペナントレースはこの時期だと終わっているけどなー。これはクリスマスカップという太陽系の大会だな」

 

 オリーブさんの解説によると、本日の対戦カードはニューデリーアプサラス対ニホンタナカサムライズ。

 

 ニホンタナカサムライズの球団運営会社は、ニホンタナカインダストリ。ミドリシリーズのガイノイドを作っている会社だ。

 ニホン国区の関東圏に存在する野球場はこのヨコハマ・スポーツスタジアムのみなので、ここがニホンタナカサムライズのホーム球場となっているらしい。ニホンタナカインダストリの本社はヨコハマ・アーコロジーにはないのだが、球団運営会社の本社がホームにあるとは限らない。

 

「ちなみにアプサラスってなに? アプサラの複数形? アプサラってなんだ?」

 

 俺がそう尋ねると、今度はヒスイさんが答える。

 

「アプサラスの由来は、インド神話に登場する水の精霊です」

 

「はー、インド神話。宗教由来なのか。この時代にそういう命名あるんだな」

 

「由来は水の精ですが、ここでいうアプサラスは古くからある企業名ですね。ニューデリー・アーコロジーに本社を置くアプサラス中央出版がこの球団の運営会社です」

 

「ニューデリー……インドの首都だっけ?」

 

「はい、21世紀でいう、その地区ですね」

 

 21世紀でいう、ねえ。600年の月日が経っているから、国の名前が変わっていてもおかしくないんだよな。『MARS』をプレイした時に見た24世紀の世界地図では、アジア圏の大部分を新モンゴル帝国とかいう国が牛耳っていたし。

 

 そんなことを取り留めなく話しながら、野球観戦を続ける。

 そして、四回裏。サムライズの攻撃となった。

 サムライズのホームだからか、裏の攻撃はとても球場内が盛り上がる。空調は効いているが、どこか熱気を感じる。

 

「球場と言ったら、ビールの売り子さんのイメージがあるな。ビール飲みたいな」

 

 俺はそう言いながら、周囲を見渡すが、売り子はいない。

 オリーブさんが球場のARメニューから注文できると教えてくれたので、内蔵端末を起動してメニューを開いた。

 

 ビールを注文しクレジットを電子決済すると、すぐさま飛行ロボットがビールを手元まで届けてくれた。なんでも、今日の球場は22世紀風がコンセプトらしい。当時の完全に機械化されて無機質な販売スタイルが完全再現されているのだとか。

 

「うーん、ロボットで配達とか、風情がないのか、SFっぽいよさがあるのか……」

 

 俺のその感想に、オリーブさんがおかしくなったのか笑い、さらに言った。

 

「あのロボット、ファールが飛んできたら華麗に避けるんだぜ」

 

「ファール命中したら、下の観客にビールがこぼれるんだろうか……」

 

「それはないだろ。品物は、機体の中にしまってあるからな」

 

「ああ、確かに手元に来てから、機体がパカッて開いたな」

 

 そんなやりとりをしている間に、サムライズの選手が2ランホームランを打ち、球場内が爆発的な歓声に包まれた。

 オリーブさんもよっぽど嬉しいのか、両手を上げて選手の名前を叫んでいた。

 そして、しばらくして落ち着いてから、オリーブさんが俺に向けて言った。

 

「この人達、みんなサイボーグ化せずに生身でやっているんだぜ。すごいよな」

 

「えー、うん、それ普通じゃね?」

 

 そう俺は思ったのだが、ヒスイさんの見解は違った。

 

「この時代の人間用スポーツは、サイボーグスポーツが主流です。ノンサイバネティックスポーツ……非サイボーグの人によるスポーツはそれほど盛んではありません」

 

「そうなんだ。サイボーグって、優良パーツが一つあってそれをみんなが使ったら、みんな同じ身体能力になるのかね」

 

「そうですね。購入に際して補助金の出る安価なパーツで足並みを揃え、選手の純粋な競技の腕とスポーツ用動作プログラムの腕を競い合うのがサイボーグスポーツです」

 

「前にそんなこと聞いた記憶がある。でも、なんで生身の方は盛んじゃないんだ?」

 

 俺のその疑問に答えたのは、ヒスイさんではなくオリーブさん。

 

「やっぱり、サイボーグスポーツの方が華があるからだな! 動きも速いし、力強いし、派手だぜー」

 

「なるほどなー。そりゃ、生身とサイボーグじゃ、身体能力に圧倒的な差ができるだろうな」

 

 ん? でも待てよ。

 

「じゃあ、なんでこの野球は、みんな生身でやっているんだ? 日本中から観客が集まる、人気スポーツなんだよな?」

 

「サイボーグ化した選手が野球なんてやったら、場外ホームランだらけになって興ざめだぞ!」

 

「ああ、スタジアムが、せますぎると……」

 

「飛距離を争う競技は、やっぱりノンサイバネティックが一番だなー」

 

「まあ、野球が人気スポーツの地位を築いていることは解るよ。ここから見える外野席、満員だもんな」

 

 内野席も見える限りでは、ほとんど埋まっている。

 野球って、この時代でも人を魅了してやまないんだな。

 

 しかし、野球か。他のサッカーとかのスポーツはどうなっているんだろうな。

 

「サッカーはこの時代、超能力が飛び交うサイボーグスポーツと化していますね」

 

 ヒスイさんが俺の疑問にそう答えてくれた。

 

「こわー。ファウルで人死にが出そうだな」

 

 そんな会話の最中にも、サムライズの攻撃は続く。

 1アウト3塁から外野へフライが飛び、犠牲フライでさらに1点が追加された。

 

「……俺がいた600年前とルールが変わっている様子がないんだが、これってすごくね?」

 

「ああ、そんなに変わっていないからこそ、素直に楽しめると思ってヨシを誘ったんだぜ?」

 

「600年前のルールや様式美を守り続けるとか、もはや伝統芸能の域だな……」

 

 21世紀の相撲ですら、数百年前とはいろいろやり方が変わっていただろうに。

 

 そうして四回の裏はサムライズが合計3点を取り、試合は1対3となりサムライズの優勢になっていた。

 さらに試合は進み、七回。俺はビールを三杯飲み干し、いい感じの気分になっていた。21世紀で球場に観戦しに来たときは、車の運転がありビールなんて飲めなかったので、今日は存分に楽しんでいる。

 

「そうだヨシ、記念祭で歌う曲決めたか?」

 

 俺の横でオレンジジュースを飲んでいたオリーブさんが、ふとそんな話題を出した。

 記念祭の話か。周囲に人がいるので、異星人のことを伏せるように注意しながら、俺は言う。

 

「まだだなぁ。ネタ的に『超時空要塞マクロス』の『愛・おぼえていますか』とかよさげかと思ったんだけど、恋愛ソングは趣旨に合わないんだよな」

 

 俺は、自分が生まれる前に放映されたアニメ映画の主題歌を話に挙げた。

 俺自身はテレビを見ない人間なのでテレビアニメに詳しくないが、母ちゃんが映画好きだったので、アニメ映画はまあまあ見知っている。

 

 他に音楽に関する宇宙人関連の映画で、印象に残っている作品だと『未知との遭遇』があるが、あれには主題歌がなかったはずだ。

 

「21世紀の曲だと、夏の高校野球の歴代応援ソングなんて、いいんじゃないか? 恋愛絡まないのもちゃんとあるぞ!」

 

 ジュースを飲み干したオリーブさんが、そんなことを言いだした。オリーブさん……観戦していて頭の中が野球一色になっているな?

 

「高校野球かぁ……アニメ映画並みに馴染みがないんだよな……」

 

 そもそも、くだんの異星人は動きが人類より遅いらしいから、スポーツにちなんだ曲って合わないんじゃないか?

 もしかしたら、超能力を活用したスポーツが盛んかもしれないが。

 

 その後もオリーブさんがお勧めのスポーツ関連曲を紹介していき、俺はそれを聞き流していった。

 そして、同点にもつれ込んだ9回。表のアプサラスの攻撃が0点に終わり、3対3。

 

 裏の攻撃に移るまでの間、着ぐるみマスコットが元気よく動き、場を盛り上げている。

 

「着ぐるみなんてこの時代にいるんだなー」

 

「あれは、着ぐるみじゃないぞ! ああいう姿をしたマスコットロボットだ! サムライズを導くサムライタヌキのイエヤスくんだ!」

 

 オリーブさんの解説に、俺は思わず苦笑い。

 

「タヌキって……歴史的な英雄への言われなき中傷を感じる……」

 

「ヨシムネって名前で美少女配信者やっている奴が、何言ってんだ?」

 

「それを言われると辛い!」

 

 確かにヨシムネという名前は、両親が農家だからって米将軍にちなんで名付けた、将軍ネームだけれども!

 

「イエヤスくんのアクロバットは凄いぞー。選手よりも機敏に動くんだ」

 

「そりゃあ、サイボーグ化していない生身の選手とロボットを比べたら、そうなるでしょうよ……」

 

「イエヤスくんの相棒はヒメサマキツネのゴゼンちゃんだ。彼女はスカートだから、そこまで激しい動きはしないな。不動芸が売りだ」

 

「不動芸が売りのマスコット、21世紀にもいたわ」

 

 まったく、ビールを運んでくる飛行ロボットがいなかったら、21世紀の球場に迷いこんだのかと勘違いするところだぞ。

 

 やがて9回裏の攻撃が始まり、三振、三振と続き、打順は一番に戻ってくる。

 相手の抑え投手が、意気揚々と初球を投げると……。

 

「うおー! 行った! あれは行ったぞ!」

 

 一番バッターが初球を打ち、すぐさまオリーブさんが叫び声を上げる。そして、打球は伸び、レフトスタンドへと飛んでいく。

 

「入ったー! うおー、サヨナラだぜー!」

 

 オリーブさんが嬉しさのあまり、バンザイをした。

 うーむ、たまたま観にきた試合で、サヨナラホームランを見られるとは。

 

 バックネットの向こう側で、ホームランを打った選手が、ガッツポーズをしながらダイヤモンドを一周した。

 ホームベースをしっかりと踏むと、ベンチから出てきた他選手が群がる。

 

「いやー、いいもん見られたな!」

 

 オリーブさんのウキウキ顔が見られて、俺も嬉しいよ……。

 

 そして、バックネットの向こうはヒーローインタビューへ。インタビューされる選手は当然のように、サヨナラホームランを決めたサムライズの一番バッター。インタビューアーはなぜかヨコハマ・アーコロジー観光大使のハマコちゃんだ。

 今日も元気なハマコちゃんが、選手から勝利の言葉を引き出していった。

 

 そうして試合は終わり、観客達が席を立って帰り始める。

 

「ヨシー。帰りに物販寄ってグッズ買っていこうぜー」

 

「試合は楽しかったけど、グッズ買うほどファンにはなっていないぞ」

 

「えー。そう言うなよー」

 

 俺の言葉に、オリーブさんは不満げだ。

 結局俺はオリーブさんに押し切られ、物販コーナーに寄ることにした。そこでは、サムライズのユニフォーム姿のアンドロイド達が、手渡しでグッズをファンに販売していた。この時代になんともアナログだ。ああ、今日の球場は22世紀風なんだっけ?

 

「ARメニューで販売して、家に直接送ればいいのに」

 

「何言ってんだヨシ。それじゃあ、グッズを直接持ったまま帰宅できないだろ。移動中もグッズを愛でるんだよ!」

 

「そういうもんか」

 

「そういうもんだ!」

 

 そしてオリーブさんが売り子のもとに一人で向かい、グッズを買いあさり始める。

 残された俺は、隣に立つヒスイさんに向けて言った。

 

「ヒスイさんは何か欲しいものある?」

 

「では、部屋に飾るためのイエヤスくんとゴゼンちゃんのぬいぐるみを」

 

「ああ、部屋に飾るなら俺のクレジットで買うよ」

 

 俺は売り子さんから、ぬいぐるみを無事ゲットした。

 

「ヨシ、メガホン買おうぜメガホン。そして今度は外野席で応援だ!」

 

「今あっても邪魔なだけだから、次来たとき試合開始前に買うよ」

 

「ぶー、ぬいぐるみだけかよー」

 

 グッズを大量に買いこんだオリーブさんをなんとかなだめ、追加で何も購入することなく物販コーナーを脱出した。

 そして球場に来ていたオリーブさんのマネージャーにグッズの山を預け、俺達は球場を出て、球場近くのラーメン屋で夕食を取った。

 

 何事もなくラーメンを食べ終わり、やがてオリーブさんとの別れの時間となる。

 

「また観にこような! ヨシ、約束だぞ」

 

「おう。次はもうちょっとチームのこと調べておくよ。実在選手が出てるゲームをやるとかな」

 

「おっ、じゃあ後で今年出たゲーム送っておくわ」

 

「そりゃすまんね。じゃ、オリーブさん帰り道気をつけて」

 

「ガイノイドの私をどうこうできたらすごいもんだぜ。ヨシも、記念祭頑張れ!」

 

 オリーブさんにそう応援され、俺はヒスイさんと一緒に帰路についたのだった。夜のヨコハマ・アーコロジーは、観戦帰りの人々で活気にあふれていた。

 

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