21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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189.おせち作り<2>

 巻き()で丁寧に巻いた伊達巻きを包丁で慎重に切り分けていく。

 一つ、二つ、三つ……。

 

「ふー、伊達巻きは強敵だったな……」

 

『ああ、まさかあんなことになるとは』『長く苦しい戦いだった……』『味は大丈夫なのかな?』『味の答えは正月に明かされる……』『味見しないって怖いな!』

 

「味見を絶対にしないとは言っていない。どれ、この端の方を……」

 

『あー、ずるい!』『味覚共有機能オンにしろよぉ!』『レギュレーション違反、レギュレーション違反です!』『こんな暴挙が許されていいのか……』

 

「あー、もう解ったって。実は許可申請自体は出しているんだ。今、オンにするな」

 

 配信用メニューを呼び出し、空間投影画面を操作して味覚共有機能をオンにする。

 そして、伊達巻きの端の方をパクリと食べた。

 

「んー、ちょっと薄味か?」

 

『そう? 美味いよ』『甘いんだな、これ』『食べたことない食感だ』『魚を使っているとは思えない』

 

「俺は今回これ作るまで、伊達巻きの材料が白身魚だって知らなかったよ……」

 

 卵だけでなんか上手いこと作るのだと思っていた。山形の実家でも、市販品を買ってきて切って出していただけだしな。

 

「あー、お姉様ずるいですよ! 甘いものを独り占めして!」

 

 と、視聴者とやりとりしていたら、甘味大好きサナエちゃんが近寄ってきた。

 

「おう、サナエは栗きんとんできたのか?」

 

「ふふーん、完璧ですよ。なので、ご褒美に伊達巻きの味見を」

 

「じゃあ、このもう一つの端の方を……」

 

「んむ」

 

 口に直接放ってやると、サナエはもぐもぐとその場で咀嚼(そしゃく)を始めた。

 そして、しっかりと味わって飲みこんでから、彼女は言う。

 

「私は、もう少し甘めの方が好みですね」

 

「栗きんとん、甘くし過ぎていないだろうな……?」

 

「やだなあ。甘味は、ただ甘ければいいというものではないですよ。バランスが大事なんです、バランスが。素人のお姉様は黙っていてください」

 

「お、おう……」

 

 サナエ、甘味のプロにでもなったのか?

 まあ、彼女の一品目は上手くいったということにしておこう。

 どれ、俺の方は二品目に入る前に、他の人達の様子を見にいこうか。まずはヒスイさん。

 

 俺はサナエを置いて、一人でヒスイさんのもとへと向かう。

 すると、ヒスイさんはまな板の前でエナジー包丁を使ってニンジンの飾り切りをしていた。梅の花の形に切られたニンジンが美しい。

 ちなみにエナジー包丁は野菜は切れるが生肉は切れないという、人の指に優しい包丁だ。エナジーハサミはあってもエナジー包丁はそれまで存在していなかったため、配信用にヒスイさんがニホンタナカインダストリに特注で作らせたらしい。

 本当は俺に使わせたかったようなのだが、伊達巻きは魚肉を使っているからあの包丁では切れないんだよな。

 

「あれ、ヒスイさん。担当って(こい)のうま煮じゃなかったっけ」

 

 俺が尋ねると、ヒスイさんはエナジー包丁の動きを止めずに返す。

 

「鯉のうま煮と各種煮しめと梅ニンジンを並行して作っています」

 

「お、おう。手際いいな……」

 

「担当が終わり次第、他の方のサポートにつこうかと」

 

「……了解。順調なようでよかったよ」

 

 俺はそう言って、隣のタナカさんの方へと移動する。

 

『さすがヒスイさんです』『料理用プログラム使って本気出しているんだろうなぁ』『最初は品数多くてどうなるかと思ったけど、アンドロイド三人いるなら安心だな』『包丁も金属製じゃないし』

 

 視聴者の言うとおり、金属ではなくセラミック製らしき包丁を使って、カマボコを切っているタナカさんが見えた。

 さすがに彼も慣れない料理でいきなり金属の刃を使うのは、ハードルが高かったのかもしれない。

 

 俺は、包丁を慎重に使いこなすタナカさんの横からゆっくりと近づいていき、驚かせないように声をかけた。

 

「タナカさん、調子はどう?」

 

「ん? ああ、この形になるまで、なかなかハードだったよ……」

 

「カマボコ作りなぁ。俺も市販のカマボコを切るだけだと思っていたんだが、まさかヒスイさんが魚から用意するとは思わなかった」

 

「身をすりつぶすのにフードプロセッサーがなかったら、今頃疲れて倒れていただろうね」

 

「21世紀の旧式設備ですんません……」

 

 エナジー包丁は用意したが、他の設備が21世紀の道具ばっかりにしてしまったんだよな。

 アンドロイドでもないのにそれを見事に使いこなしたタナカさんは、正直言ってすげえ。

 

「よし、全部切り終わった。紅白でめでたいね」

 

 タナカさんは、切り分けたピンク色と白色のカマボコをそれぞれ一つずつ手に取って、カメラ役のキューブくんに見せつけた。

 

「紅白がめでたいって、そういう感覚この時代でもあるんだな」

 

「そうだね。宗教観が変わったこの時代でも、ニホン国区ではまだ、何々がめでたいだとか、何々が縁起いいとか、そういった風習はいくらか残っているね。惑星テラの外にあるニホン系コロニーでは、どうだか知らないけれど」

 

『赤と白の何がめでたいの?』『あー、縁起をかつぐのは確かにまだあるかもなぁ』『何々をするとレアドロップが出やすいみたいな嘘テクが広まることも』『ところでヨシちゃん味見は?』

 

「全部味見していたらキリがないので、カマボコはなしだ。紅白は、なんでめでたいんだろうなぁ?」

 

「僕もそれは知らないな」

 

「ヒスイさんがこちらを見て解説したがっているが、ハマコちゃんを待たせているのでスルーだ」

 

 向こうから「そんな」と聞こえたが無視し、俺はタナカさんと別れてハマコちゃんのもとへと向かう。

 

「ハマコちゃん、調子はどう?」

 

「はい! 紅白がめでたいのは、諸説がありすぎて時空観測実験をしても一つにしぼれていないようですよ!」

 

「いや、そっちを聞きたいわけじゃなくて、料理はどう?」

 

「完璧です! 酢の物、全部作り終わりましたよー」

 

 ハマコちゃんに任せていたのは、ちょろぎを始めとした酢の物だ。

 こちらにも紅白なますという縁起のいい料理が混ざっている。いや、そもそも、おせち料理の大半に、なにかしら縁起のいい(いわ)れが用意されているらしいのだが。

 

「芋煮会の時から思っていたけど、ハマコちゃんって料理の手際いいよね」

 

「そこは年の功だと思ってくだされば!」

 

 ハマコちゃん、何気に稼働年数が長いっぽいからなぁ……。

 

「全部終わったなら、他の人の手伝いをお願いするよ」

 

「お任せください! 張り切っちゃいますよー。これも全て、楽しい新年を迎えるため! 正月は、記念祭を見ながらおせち料理です!」

 

 お元気そうでなによりです。

 

 さて、一通り回ったので、俺も料理の続きをやろうか。

 二品目は、黒豆だ。いいつやが出せるよう、俺も張り切っちゃいますか!

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「これをこう詰めて……よし、三段重のおせち、完成だ!」

 

 最後のお重を詰め終えると、俺はキューブくんに完成した料理を披露した。

 

 色鮮やかなおせち料理。その詰め方にもいろいろ形式があるようで、今回はハマコちゃんの指示に従って三段のお重に詰めた。三段で一人前、それがこの場にいる五人分なので計十五段だ。合計するようなものでもないが。

 完成したおせちをお重に詰めるだけでもそれなりに時間がかかったが、三段重を食べられるとなると、なかなか豪勢な正月となることだろう。

 

 キューブくんの料理撮影が終わったので、俺は三段重を重ね、ふたをし、超能力を発動させた。

 それは、1月1日の正月になるまで、絶対に解けないようにした強力なエナジーバリア。バリアの中は、時間が停止している。これで、消費期限が近い料理も、余裕で正月までもつようになる。

 

「じゃ、これ、銀河標準時の1月1日0時まで時間停止させて開けられないようにしたから、各自持ち帰って正月に楽しんでくれ」

 

 俺はそう言いながら、三段重を一つずつ、四人に手渡していく。

 

『うわー、いいなぁ』『美味しそうだった』『でかいエビの焼き物がすごかった』『自動調理器に作らせたくても、材料の多さで躊躇(ちゅうちょ)する』『一人分だと材料あまりそうだしなぁ』

 

「そういうときは、リアルの友人と材料持ち寄って自動調理器に人数分作らせると、材料もあまりにくいんじゃないか?」

 

 俺がそう言うと、視聴者達が『なるほど』とコメントを返してくる。

『リアルに知り合いがいない』というコメントは、さすがに知らんとしか言えない。そこまでは付き合いきれない。

『ソウルサーバに入っていてリアルで料理が食べられない』だと? ゲームの中で、料理スキル使っておせち作れ!

 

「というわけでおせちは無事に完成したので、今年の配信もこれで終了だ」

 

『うおー、マジかー』『終わってしまった……』『一年の締めでゲームしないゲーム配信チャンネルがあるらしい』『今日は豪勢だった。メンバーも料理も』

 

「来年の始めは宇宙暦300年記念祭に出演するので、是非とも見てくれよな。それでは、皆様よいお年をお迎えください。21世紀おじさん少女のヨシムネでした!」

 

 俺はキューブくんに向けて手を振り、視聴者に向けて別れの挨拶をした。

 最初の配信を始めたのは今年の四月だったが、振り返ってみると、いい一年だった。記念祭のお仕事もこの調子で無事に成功させて、来年も楽しくやりたいものである。

 

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