21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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19.ヨコハマ・サンポ(位置情報ARアクション)<4>

『感じるわ……サンポ星人の邪悪なオーラを! 決戦の時は近いわ!』

 

「とってつけたようなラストバトル感」

 

「ゲームコンセプト的に隠しボスの登場などはないでしょうね」

 

「隠し要素ならあるかもなぁ」

 

 そういうわけで観光局前。出てきた敵は、ロボットではなくチープな低ポリゴンでできた3Dホログラムの顔だった。

 

『出たわね、サンポ皇帝! 勝負よ!』

 

 そうギガハマコちゃんが叫ぶと、俺の前に再びゲームパッドが現れる。

 それと同時に、今まで存在しなかったBGMが聞こえ始めた。おお、ラスボス演出か。

 

 俺はテンションを上げ、ギガハマコちゃんを操作してサンポ皇帝とかいう敵と戦い始める。

 中ボス戦のときと同じように、弱点となるパーツのアイコンが光って知らせてくれるため、パーツを入れ替えつつ多彩な攻撃でダメージを重ねていく。

 そして、とうとうラスボスを撃破することができた。激戦の末、とは言えない。そんなに難易度の高いゲームじゃないからな。

 

『やったわ! これでヨコハマ・アーコロジーの平和は守られた! ヨシムネ! ヒスイ! 視聴者のみんな! ここまで助けてくれて本当にありがとう!』

 

「ああ、楽しかったよ。ところで、BGMがまた新しく鳴り始めたけど、これはエンディング曲?」

 

『ええ、残念ながらもうこれでお別れよ! エンディングが終わったら、観光局の受付に行ってゲームクリアしたことを知らせてね! では、また会いましょう!』

 

 ギガハマコちゃんはそう言って、すうっとその場で消えていった。あっさりした別れだ。

 そして、視界にAR表示でスタッフロールが流れ始める。その後ろでは、ギガハマコちゃんの歌うエンディング曲が流れている。

 

「なんだろ、この歌」

 

「『横浜市歌』という、ヨコハマ・アーコロジーに古くから伝わる歌ですね。古い歌なので、歌詞は現代語訳されています」

 

 歌の自動翻訳は、翻訳されていない歌声が耳に響き、頭の中に訳詞が思い浮かぶという仕組みになっている。

 普通の言葉は、相手の言葉がそのまま訳されて聞こえるのだが、歌は別ってことだな。

 

 ちなみに、ヒスイさんの説明によると『横浜市歌』の作詞は森鴎外らしい。

 明治の文豪じゃねえか。そんな時代からある歌だったんだな。今まで存在すら知らなかったよ。

 

 そんな歌と共にエンディングを最後まで眺めた俺は、先ほどギガハマコちゃんに言われたとおり、観光局の局舎へと入って受付に向かうことにした。

 すると、受付にいたのは、少し見覚えのある顔だった。

 

「あの、『ヨコハマ・サンポ』をクリアしたのですが……ギガサクラコさん?」

 

 俺が敬語でそう話しかけた相手は、チュートリアルで倒したギガサクラコさんの姿をしていた。

 制服もそのキュートな顔も、うり二つだ。

 

「いらっしゃいませ。わたくし、受付ガイノイドのサクラコと申します。ギガサクラコは私がモデルのゲームキャラクターとなっております」

 

「なるほどー」

 

『あんなやられ役でよかったのかな』『そこのところ聞きたい』『ヨシちゃん聞いて?』『チュートリアル役になった感想!』

 

 いや、いきなりそんなこと話しかけるのもどうなんだ。サクラコさんは視聴者コメントなんて見えていないわけだし。

 そんな葛藤をしている最中の俺に、サクラコさんが続けて話しかけてくる。

 

「ゲームクリアの記念として、粗品を差し上げることとなっているのですが……少しこちらに事情がありまして、ここでお待ちいただけますか?」

 

「あ、はい」

 

 待つ間の時間があったので、俺は視聴者の期待に応え、サクラコさんにゲームに登場した感想を聞くことにした。

 

「ゲームのチュートリアル役を務めた感想……そうですね、私のようなただの一職員がそのような役に抜擢されて光栄です」

 

『天使か』『まあそうだよね』『よかった……チュートリアル役を嫌がるガイノイドはいなかったんだ……』『可愛いなぁ。ヨコハマは可愛いに溢れている』『これが惑星テラだ!』

 

 そうやって時間を潰すこと数分。

 サクラコさんが、「お待たせしました。今担当の者がこちらに参ります」と言うと、局舎の奥から俺達に近づいてくる姿があった。

 それはなんと、行政区の制服を着たギガハマコちゃんだった。

 

「どうもー、ヨコハマ・アーコロジー観光大使のハマコちゃんです!」

 

 なるほど、ギガハマコちゃんとは別人か。確かに、手足のメカっぽい部分はなくなり、人間のような手足になっている。

 そんなハマコちゃんには、耳にアンテナがついている。ギガハマコちゃんと同じように、ガイノイドであるようだ。

 

「ギガサクラコさんみたいに、ギガハマコちゃんにもモデルがいたのか」

 

『ハマコちゃん可愛い!』『武装したギガハマコちゃんも可愛かったけど、制服姿もいいね!』『実在人物のゲーム化! そういうのもあるのか!』『このハマコちゃんは戦ったりしなさそう』

 

「はい、そうなんですよー。観光局でヨコハマ観光を盛り上げるのには、どうしたらいいかという話になって、ゲームを作ろうって企画が立ちまして。そこで、私を主人公にしたらどうだって局長が言いだしたんですよー」

 

「ギガハマコちゃんとはだいぶキャラクター性が違うね……」

 

「性格なんかは勇ましくなるようデザインしたらしいですよ。あのゲーム、なかなか上手くできていたと思います。でも、プレイしてくれる人がなかなかいなくて……。今日は配信ありがとうございました。私も見ていました!」

 

「おっ、見てくれてたのか。ありがとう」

 

「で、どうでしたか!? ゲームの感想は?」

 

 うーん、ここは素直に褒めるべきか否か。

 俺は少し悩んだ末に、正直に思ったことを話すことにした。

 

「このゲーム一人用だろう? 面白かったけど、団体で観光している人には向いていないんじゃないか」

 

「やだなー、今時、惑星テラへ団体旅行なんてする金満な集団なんてそうそういませんよ!」

 

「テラ出身の一級市民なら?」

 

「惑星テラの一級市民はだいたい研究職の方ですけど、集団行動向いていない人ばかりですよ。経営者の方もたまにはいらっしゃいますけどね!」

 

 そういうものなのか。

 

『俺も惑星テラ旅行したい』『リアルで旅行とかすごい』『近隣惑星行くだけでも一苦労』『引きこもりが性に合ってるわ』

 

 うーん、視聴者達は旅行したくてもできない感じかな。それなら、これからもリアルのテラを配信していかないとな! そう俺は使命感に燃えた。

 

「旅行で多いのが、夫婦旅行ですね。まあ、二人ならヨシムネさんがやっていたように、一人がプレイしてもう一人が横から見守る形でも問題なさそうですよ。交互にプレイするのもいいですね!」

 

「交互にプレイか。今回、俺一人で遊んでたけど、ヒスイさん、それでかまわなかった?」

 

「私達の配信は、ヨシムネ様がプレイする光景を配信するというコンセプトですので、あれでいいのですよ。私は助手です」

 

 なるほどね。

 それなら、これからも遠慮なく俺一人でいろいろプレイしていくことにしよう。

 

「それでー、クリアの記念として粗品を贈呈します! これ! 『ヨコハマ・サンポ』タペストリー!」

 

 そう言って、ハマコちゃんが携えていたバッグから何かを取り出して、こちらに差し出してくる。

 それは、ドット絵でギガハマコちゃんや登場ロボット達が描かれた、大きめのタペストリーだった。

 

「おおー、この絵柄はいいな! この時代にドット絵とかこだわりを感じる!」

 

「えへへー、頑張ってデザインしてもらいました! お二人でのプレイなので、二枚どうぞ!」

 

「ありがとう、部屋に飾らせてもらうよ」

 

「SCホーム用のデータも送りますね。ヒスイさん、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

『いいなー』『ドット絵!』『ドット絵はいい……趣がある』『MMO中に暇つぶしでやる安価なゲームはドット絵の物も多いな』

 

 ゲームの中にいるのに暇つぶしで別のゲームをやるとは、不思議な生態しているな、未来人……。

 

「今日は一日、ヨコハマ観光おつかれさまでした! それでは、私はこれで失礼しますね!」

 

 そう言って、ハマコちゃんは去っていった。

 楽しい子だったな。

 ともあれ、これでゲームは全て終わったと言える。ライブ配信も、もう終わり時だろう。

 

「じゃあ、そろそろ配信も終わろうか。みんな、長時間付き合ってくれてありがとう!」

 

「おつかれさまでした。次回以降の配信の予定は、別途SNSでお知らせいたします」

 

『おつかれー』『おつかれさま』『またよろしく!』『もうお別れかぁ』『今日はボリュームたっぷりで満足』

 

「意外とリアルの世界も悪くない。21世紀おじさん少女のヨシムネでした!」

 

「ミドリシリーズのヒスイでした」

 

 そこまで言って、ヒスイさんは今までカメラ役を務めてくれていたキューブくんを手元に引き寄せた。配信を切ったのだろう。

 

「ん、ヒスイさん今日もありがとう」

 

「いえいえ、これからも配信頑張っていきましょう」

 

 そうやって互いをいたわりながら、俺達は観光局を後にし、住居区へ向かうキャリアーに乗り込んだ。

 今日のライブ配信はトラブルもなく、大成功だったと言えるだろう。この調子で今後もやっていきたいものだ。

 さて、次回は何を配信しようか!

 


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