21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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193.未知との遭遇

「よっ、みんな久しぶり!」

 

 惑星ガルンガトトル・ララーシの人類基地、その宿泊施設にある談話室で、俺はノブちゃん達にそう挨拶した。

 

「ひさ、えっ、久しぶり……?」

 

「なんじゃ、ヨシムネ。昨日会ったばかりではないか」

 

 俺の挨拶に、ノブちゃんは混乱し、閣下はうろんげな視線を向けてくる。ラットリーさんはただ黙ってニコニコとしている。

 うーん、そんな反応も、今となっては懐かしい……。

 

「いや、俺もゲームの中で楽器の練習をしてきてな……約一年間過ごしてきたぞ……」

 

「ええっ、本当ですか!?」

 

「ヨシムネ……ここに到着してからまだ半日しか経っておらんぞ。どれだけの加速倍率でプレイしたのじゃ」

 

 うん、ヒスイさんが急いだ方がいいからって言うからさ……。

 そんなヒスイさんは、俺の飲み物と茶菓子を談話室に用意されたカウンターへ取りにいっている。

 

「お待たせしました。基地ではカカオとサトウキビの栽培をしているようで、チョコレートがお茶請けに用意されていました」

 

「お、サンキュー、ヒスイさん。こっちに来て、何か飲み食いできるとは思っていなかったよ」

 

「一応、生身の人間が来ても大丈夫なよう、食品生産工場が基地内にあるようです」

 

「ああ、惑星の土でカカオを育てているイメージをしていたけど、そういえば今の時代は野菜や果物って工場生産だったね……」

 

 ヒスイさんからコーヒーとチョコの載った皿を受け取り、俺はノブちゃん達が座るテーブル席に着く。

 すると、お茶を飲んでいたノブちゃんが、コップをテーブルに置き、俺に向けて言った。

 

「ヨシちゃんは、なんていうゲームで、一年間、過ごしたんですか? 私がプレイしたのは、『吟遊詩人・悠久なる旅人』というタイトルでしたけど」

 

「『cyberpunk:punkrock』だな。タイトル通りサイバーパンクの世界観で、反体制派のパンクロッカーになって、音楽で企業群の支配体制をぶち壊すってゲームだった」

 

「それはなんともまあ、今時にしては本当にロックなゲームじゃな」

 

 俺の説明に、閣下が呆れたように言う。

 うん、確かに、あのゲームをずっと続けたら、マザー・スフィアの支配体制に対しても反抗しそうなほど反骨精神が養われそうだった。

 

 以前、ヒスイさんにゲームとリアルを混同するのはやめようと言った俺だが、ゲームによるリアルへの影響って地味にあるとも思っている。

 ゲーム内で美味しそうな食事シーンを見たら、リアルでも同じような物が食べたくなる。スノーボードを滑るゲームをやっていたら、リアルでもスキー場に行きたくなる。ゲームや漫画、アニメの人への影響って、確かにあるのだ。

 

 ゲームの中で悪人プレイしたからって、リアルでも悪いことをしたくなるとかは、そうそうないけどね。人間には理性があるので。

 でも、『cyberpunk:punkrock』は、ちょっとなぁ……。あれだけ濃い人間ドラマが繰り広げられる反体制ゲームをやったら、現実でも反発心をこじらせそうだな、なんて思わないでもない。

 

「で、練習の成果はどうじゃった?」

 

「一人でできることはやりきったつもりだ。後は、実際の曲を合わせて練習する時間かな」

 

「それは重畳(ちょうじょう)。では、惑星テラと異なる大気の音への影響も考えて、楽器と場所を借りて一度リアル側で練習を――」

 

「グリーンウッド様ー、ウリバタケ様ー、ブラシェール様ー、いらっしゃいますかー?」

 

 と、会話の途中で俺達を呼ぶ声が。グリーンウッドは閣下の家名、ブラシェールはノブちゃんの本名だな。

 

「おお、ここじゃ、ここ」

 

 閣下が声の主に手を振る。すると、やってきたのはミドリシリーズのガイノイド、フローライトさん。

 フローライトさんは、俺達のテーブル席までやってきて、ぺこりとお辞儀をする。

 

「皆様、おはようございます。宿泊施設では快適に過ごせたでしょうか」

 

「うむ。手狭ではあったが、問題なく眠れたのじゃ」

 

 おおう、閣下、さすが元貴族。あのそこそこ高めのホテルと遜色(そんしょく)ない部屋も、手狭に感じたらしい。

 

「申し訳ありません、VIP用の豪華施設の類は用意していないのです……」

 

「よいよい。それより、用件はなんじゃ?」

 

「はい、では、早速ですが、本日のご用件を説明させていただきます。ゲーム配信者のお三方には、この星の先住種族、ギルバデラルーシの重鎮に会っていただきます。それぞれの担当は別の方で、三人には、お相手にソウルコネクトゲームを紹介してもらうことになります。特別な依頼ですので、達成後にクレジットで報酬が支払われます」

 

 む、やっぱりその仕事が来たか。

 ギルバデラルーシとゲームで遊ぶのか。人間じゃなくても、VRゲームは遊べるんだな。魂を接続するという手法だから、種族に関係なくプレイが可能なのかね。

 

「あの、それぞれ別の方、なんですか? 私達、全員で、会うわけではなく……?」

 

 ノブちゃんが不安そうな顔で、フローライトさんに尋ねた。

 

「はい。そうですね。それぞれ異なる場所にいらっしゃる、別の方です。各々がギルバデラルーシ全体に対して影響力の強い人物ですので、最初にこの方々へゲームを紹介するという試みです」

 

「紹介するゲームはなんでもいいかの? 私だと、『MARS』が得意じゃから、それの紹介になりそうじゃが」

 

 今度は閣下がフローライトさんに質問をする。

 

「今回使うタイトルは、こちらでいくつか選定してあります。もちろん、要望があれば選定されていないタイトルも審査のうえで許可を出します。ですが、ロボット搭乗ゲームは、ギルバデラルーシには自らが乗りこむ乗り物の文化がないので、初手に持ってくることは厳しいかと思われます」

 

 乗り物の文化、ないのか! そういえば、外燃機関自体がないとか言っていたな。

 超能力があるからテレポーテーションで全部済ませているのだろうか。

 

「ウリバタケ様は何か質問ありますか?」

 

 フローライトさんにそう尋ねられたので、俺も質問を一つすることにした。

 

「この基地で会うの?」

 

「いえ、この基地は人間用の温度環境に整えられていますので、面会は外で行ないます。外は気温が極めて高いので、アンドロイドボディの感温機能を調整しておいてください」

 

 あー、人間と同じ感覚に設定したまま外に出たら、気温100℃超えで熱くてのたうちまわるとかになるのか。気をつけよう。

 

「では、質問がないようでしたら、詳しい打ち合わせを行ないます――」

 

 フローライトさんに説明を受け、俺達はバンドの練習を取りやめ、それぞれの目的地に向かうことになった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 俺とヒスイさんは、フローライトさんに直接案内され、空飛ぶ乗り物に乗って惑星内を移動した。

 その乗り物は、機械翼のある小さな航空機。大気中を飛ぶなら、この時代でも機体に翼があった方が安定するのだろうか?

 

 揺れも加速の圧もない飛行は二十分ほど続き、俺達はギルバデラルーシの居住地に到着した。

 青く輝く建材で作られた、建物群。美しい都市だ。

 

 その都市の中を歩いて進むと、そこかしこから打楽器と弦楽器の音と、低めの歌声が聞こえてきた。

 都市全体で合唱を行なっているようだ。

 ギルバデラルーシの歌声は、人間基準で聞いても特におかしいところはなく、聞いていて不快感を感じるだとか、不調になるだとかいったことは起きないようだった。むしろ、いい声過ぎて気分が高揚するくらいだ。

 

 さらに、ギルバデラルーシの言語はすでに翻訳済みのようで、視界に歌の翻訳歌詞がAR表示されるのが見えた。

 歌詞の内容を見るに、生命の賛歌を歌っているようだ。

 

「到着しました。ここです」

 

 歌を背景にしばらく進むと、フローライトさんが一つの建物の前で歩みを止めた。

 青い建材の建物。一階建てだが、高さはそれなりにある。人間よりもギルバデラルーシの背が高いからだろう。

 

 建物に扉はなく、扉の代わりにサイコバリアが張られているのが見える。

 フローライトさんは、そのサイコバリアの膜に真っ直ぐ進み、バリアをまるでないかのように通過した。

 

「さ、どうぞ。このバリアは室内に外の埃を入れないためだけの物です」

 

「んじゃ、失礼しまーす」

 

 俺はヒスイさんより先に建物内に入場する。

 建物内は……なんというか、複数の機械が置かれてごちゃごちゃとしていた。

 

「あれ、ギルバデラルーシには機械の文化はなかったはずでは?」

 

 俺がそう疑問を口にすると、フローライトさんではなく、室内に居た別の人物が答えた。

 

「ああ、散らかっていてすまねえな。ここは俺が間借りしている部屋だ。ギルバの奴らが機械に疎いのはその通りだ」

 

 その台詞を放ったのは、ギルバデラルーシではなく、人間だった。

 短くかりこまれた黒髪にアジア人っぽい黄色い肌、浅緑色のツナギを着た、三十代ほどに見える男性だった。

 

 現在のこの場所の気温は200℃を超えているので、生身の人間ではないのだろう。おそらく、俺と同じようにアンドロイドにソウルインストールした人間だ。

 というか……。

 

「どこかで見覚えがあるような……」

 

「おっ、お前も『MARS』をプレイした口か? 俺っちも有名になったもんだなぁ。俺は田中宗一郎(たなかそういちろう)つうもんだ。機械技師をやってる」

 

 

「『MARS』で田中さん……ああ! タナカ・ゲンゴロウ室長のご先祖様!」

 

 ロボットアクションゲーム『MARS~英傑の絆~』に登場した、ロボット好きの技術者NPCと同じ顔だ!

 

「ん? なんだお前、日本田中工業の関係者か?」

 

「ニホンタナカインダストリをスポンサーにして、ゲーム配信者をしている瓜畑吉宗といいます」

 

「おっ、じゃあ、お前が、今回来てくれるっていう21世紀人か!」

 

「ああ、はい、21世紀の山形県から来ました」

 

「うひひ、お前の方がご先祖様じゃねえか!」

 

「21世紀に子供は残していませんけどね……」

 

「子供を作る前にガイノイドボディになってんのか。性を超越するには、まだ若いだろうに」

 

 性を超越……。そこまで達観したつもりはないけれども。

 

「タナカ様、そろそろ大長老を……」

 

 と、フローライトさんが横からそんな言葉を投げかけてきた。

 

「おお、すまねえな。調整は終わっているぞ」

 

 そう言いながら、田中さんは部屋の中に置かれていた一番でかい機械の箱に向けて歩いていく。

 そして、箱の横に備え付けられたパネルで、なにやら複雑な操作を始めた。

 うーん、今まで散々見てきたこの時代の未来感あるガジェットの数々よりも、あの機械はどことなくアナログっぽさが強いぞ。

 

「さて、ウリバタケ様。これからお目にかかるギルバデラルーシの重鎮について、再度説明します」

 

 フローライトさんが、俺に向けてそう話しかけてきた。

 

「ああ、お願い」

 

「ここにいらっしゃるのは、ギルバデラルーシ型アンドロイドにソウルインストールした、元大長老です。ギルバデラルーシは一人の長老の下で群れを作る社会性の生物で、大長老は世界各地にいる長老を束ねる、ギルバデラルーシで一番尊い存在です」

 

 うん、社会性っていうのは、蟻とか蜂とかの女王を頂点とした群れを作る生物の生態だな。

 

「彼の方は、約500年前にお亡くなりになり、この地方の『魂の柱』に魂を保存されていました。それが、今回、田中様が開発したギルバデラルーシ型アンドロイドへ実験的にソウルインストールして、500年ぶりに蘇りました」

 

 ケイ素で作る有機コンピュータの開発が難航しているって記念祭の説明会で聞いたけど、ソウルインストールを試せるだけの水準は満たしていたんだなぁ……。

 

「彼の方は、ソウルコネクトゲームにも関心を寄せており、先日SC空間への接続実験にも成功しました。大変開明的なお方です」

 

「よし、調整終了だ。起動するぞ!」

 

 フローライトさんの説明に割り込むように、田中さんが言った。

 すると、田中さんがいじっていた大きな機械の箱から空気が抜けるような音が聞こえ、ゆっくりと箱が開いていった。

 

 箱の中から出てきたのは、体高3メートルほどの人型の存在だ。

 銀色ののっぺりとした頭部を持ち、光沢のある黒色の服を着た巨人。服の胸部は大きくはだけてあり、銀色に光る胸部には複雑な紋様が刻まれている。

 ギルバデラルーシ。そのアンドロイドのお目見えだ。

 

「おう、ゼバ。外の様子は見えていたな? お前にお客さんだ」

 

「そこはまず、身体の調子を聞くのではないか?」

 

 田中さんの言葉に、ギルバデラルーシの大長老がそう言い返す。大長老の声は、口から出た物ではない。そもそもギルバデラルーシの頭部に口はない。胸部の紋様が振動して、低い声を出していた。

 

「俺っちの調整は完璧だ。調子を聞くまでもねえな」

 

「そうか」

 

 そこまで言葉を交わしたところで、大長老は箱から出てくる。

 そして、ゆっくりと歩き、俺の方へと近づいてきた。

 

「はじめまして。私はゼバ・ガ・ドランギズブ・ゼ・ゲルグゼトルマ・ガルンガトトル。よろしく、教導官殿」

 

 お、おう……。名前長え。

 

「お初にお目にかかります。瓜畑吉宗です」

 

「ウリバタケ、ヨシムネ、どちらが名前であるか?」

 

「ヨシムネが名前で、ウリバタケが家名ですね」

 

「そうか。よろしく、ヨシムネ。私のことはゼバと呼んでくれ。人間にとって、私の名前は長くて覚えにくいのだろう?」

 

 さっき長いと思ったばかりなので、俺は思わず苦笑してしまった。

 すると、横からフローライトさんが説明をしてくれる。

 

「ドランギズブ地方のゲルグゼトルマ族の長老にして大長老であるゼバ様、という意味の名前です」

 

 解説できなくて、ヒスイさんがぐぬぬとしている気がする。だが、今回の交流担当官はフローライトさんなので、ヒスイさんは落ち着いてほしい。

 

「本当は元大長老なのだが、生きている元長老や元大長老を示す名が存在しないので、このような名乗りとなった。そのうち名が変わるかもしれない。しかし、ゼバという個体名は変わらないので、ゼバと覚えてくれ」

 

「はい、ゼバ様ですね」

 

 俺がそう言うと、ゼバ様はわずかに前屈しこちらに手の先を向けてきた。

 

「人間は、こういうとき手と手を握りあうのだろう?」

 

 握手か。

 俺は、わずかに躊躇(ちゅうちょ)して自分の手を彷徨(さまよ)わせた後、意を決して彼の手を取り握手をした。

 手、でけえ。しかも八本指。

 

「よろしく」

 

 そうゼバ様が言ったので、俺も笑顔で答える。

 

「よろしくお願いします」

 

 握った手を上下に振った後、俺達はゆっくりと手を放した。

 そして、俺は安堵のため息をついて、言った。

 

「いやー、手を触れたら化学反応が起きて爆発! とかならなくてよかった」

 

「何を言ってるんだ、おめえは」

 

 田中さんが呆れたように突っ込みを入れてきた。

 さらに、ヒスイさんが言った。

 

「この惑星の生物を構成するケイ素化合物は、非常に安定しています。心配せずとも、存分に触れあえますよ」

 

「そもそも俺っちが、触れただけで爆発するようなアンドロイドを作るわけがねえだろうが」

 

 ヒスイさんの説明に続けて、田中さんがそう言った。

 すると、ゼバ様が胸の紋様から「キュイキュイ」と奇妙な音を出した。

 

「何の音?」

 

 俺がそう言うと、フローライトさんが答える。

 

「ギルバデラルーシの笑い声ですね」

 

「私もこの身体で笑ったのは初めてだ。しっかりと笑えるのだな」

 

「俺もテストのために笑わせようとはしたんだがなぁ。どうやらジョークのセンスは俺にはないらしい」

 

 そんなことを田中さんが言うと、ゼバ様がまた「キュイキュイ」と胸を震わせた。

 

「おっ、どうやら俺にもセンスはあったようだな! がはは!」

 

 田中さんのその言葉に、俺も釣られて笑いが漏れる。

 こうして、俺の初めてになる異星人とのコンタクトは、無事成功したのであった。

 

 さあ、挨拶が終わったら、次はゲームの時間だ。張り切って遊ぶとしようか!

 

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