21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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195.ダンスレエル300(ダンス)<2>

 チュートリアルを終え、ゲーム本編を開始する。

 とはいえ、まだ最初は簡単なダンスから始めた方がいいだろう。

 

 俺は、曲目の発表年代を20世紀から21世紀初頭までに指定し、さらにダンスの難易度が低い曲を探す。

 すると、見覚えのある曲名が最初に出てきた。

 

「おっ、『butterfly』じゃん。これにしよう」

 

「どのような曲なのだ?」

 

 俺が曲を決めると、ゼバ様が興味深そうに尋ねてきた。

 

「ゼバ様は、俺が元々600年前の時代に生きていたって知っているか?」

 

「うむ、宗一郎から聞いている。災難であったな」

 

「俺がいた600年前に世界的ヒットを飛ばしたダンスゲームがあって、この曲はそのゲームを代表する収録曲の一つだ」

 

 足でタイミングよくパネルを踏むという、新ジャンルとして登場したそのダンスゲーム。今までになかったその遊び方は一世を風靡(ふうび)し、いくつかの代表曲と共にゲーマーの記憶に深く刻まれた。

 そんな代表曲の中でも、とりわけ有名なのがこの『butterfly』だ。

 この曲は、そのゲームでも初心者用の難易度で知られていた。そのため、多くの人が、ゲームセンターや家庭用ゲーム機で気軽にこの曲を踊った。

 

「じゃあ、開始するぞー」

 

 俺とゼバ様、そしてヒスイさんが横に並んで、曲を開始する。

 すると、遠くに山脈が見える草原に背景が変わり、軽快な伴奏が始まった。

 

 俺も、単に下半身のステップを踏むのではなく、全身を動かすダンスとしてこの曲を踊ることは初めてだ。

 さて、どんなダンスになっているのか……。

 

 女性ボーカルの歌声に合わせ、頭の中に流れてくるイメージの指示に従い、俺はダンスを全力で踊った。目の前に反転した虚像もいるので、解りやすい。

 ダンスの内容は、さすがに難易度が低いこともあって、基本的なステップを繰り返し、簡単な上半身の動きを入れる程度だ。

 

 だが、曲のテンポ自体は、それなりに速い。

 

 俺はゼバ様の様子を気にしながら、リズムに合わせてダンスを続けた。

 ゼバ様は……楽しそうだな。ときおり胸部から「キュイキュイ」と音を出している。

 

 そして、三分ほどの曲が終わり、俺達三人はダンスを終えた。

 

「ふいー、ちゃんと踊れたかな? ゼバ様、どうだった?」

 

「ふむ……サムライとは?」

 

「え、ダンスじゃなくて歌詞についてか? サムライは、俺の出身地の日本って地域に昔いた、戦闘を行なう階級だな」

 

「戦闘……狩人か?」

 

「いや、獣じゃなくて、土地の奪い合いとかで襲ってくる人間を撃退するための職業だ」

 

「……!? そうか。人間は人間同士で争うのであったな」

 

 ゼバ様は、驚いたのか身をのけぞらせた。

 

「そうだね。惑星テラの歴史は、人間同士の争いの歴史だ。争っていないのはここ300年ほどじゃないか?」

 

 太陽系統一戦争が終わってからは、人類文明に争いらしい争いは起きていないらしい。マザー・スフィアによる管理統治のおかげだな。

 

「争わないで済むよう、進化したのだな」

 

「うーん、生物的な進化というよりも、社会制度を整えた感じだな。社会が崩壊したら、また争い出すと思うぞ」

 

「なるほど。覚えておこう。では次に、バタフライとは?」

 

 歌詞に興味津々だなぁ、ゼバ様。

 

「バタフライというのは惑星テラにいる生物で、虫っていう種類の小さな生物の一種で――」

 

 俺はヒスイさんも交えて、ゼバ様に歌詞にまつわるあれこれを説明することになった。

 それを踏まえて、もう一度俺達は『butterfly』を踊った。

 

 ゼバ様も今度こそ完全に満足したようなので、次の曲へいこう。

 

 さて、ダンスを踊る前に、一つ話をしよう。

 俺がこちらに飛ばされる直前の2020年。その当時に、コントローラーを片手に持って実際にダンスを踊るという、実にハードなダンスゲームシリーズがあった。

 

 当時すでに多くいたゲーム動画の配信者達は、このゲームを上手く使った。

 コントローラーを持って踊るだけでなく、モーションキャプチャ等を使って身体の動きを取りこんで、連動した3Dモデルを踊らせてその様子を動画配信していたのだ。

 

 俺もときどきその動画をネットで見ていた。

 その中でも、三頭身のデフォルメされたケモ耳幼女キャラクターに踊らせた動画シリーズは、見ていて可愛くて仕方がなかったのを覚えている。

 

 そのダンスゲームの収録曲の中でも一番好きな曲である『Land Of 1000 Dances』が、なんとこの『ダンスレエル300』にも収録されていた。

 なので、次に踊る曲はこれに決めた。

 

『Land of 1000 Dances』の邦題は『ダンス天国』。ゲーム用に書き下ろされた曲というわけではない。

 

 ヒスイさんによると、元々は西暦1960年代にアメリカで発表された楽曲らしい。

 その曲がアレンジされ、カバーに次ぐカバーで、何度もヒットチャートに躍り出た経歴を持つとのことだ。

 

「1000か……。人間は10進法を使っているのだな」

 

 ヒスイさんの解説を聞いていたゼバ様が、そんなことを言いだした。

 

「ん……? あ、ああー、そうか、ゼバ様達は8本指だから、10進法を採用していないのか!」

 

「うむ、私達が普段使っている数は16進法だ」

 

「それはまた、コンピュータとの相性がよさそうだなぁ……」

 

「そうなのか」

 

「ああ、コンピュータは2進法や16進法を使って計算するらしいぞ」

 

 正直、ITにはあまり詳しくないのだが。パソコンは問題なく操作できていたが、俺は根っからの文系ならぬ農業系だ。

 

「2進法は数の桁が膨大になりそうだ」

 

 ゼバ様がそんな感想を述べたので、俺もちょっと考えてから答える。

 

「コンピュータは数字の桁数がどれだけ膨大になっても、間違えることなく正確に計算をしてくれるからな」

 

「計算ならば大長老だった私に勝てる者は、そうそういないぞ」

 

「俺もアンドロイドボディだから、計算力だけはすごいぞ」

 

「ああ、そうか、今の私は生身ではないのだったな。計算する力も変わっているかもしれないな」

 

 そんなことを言い合ってから、俺達はダンスを開始した。

 背景は、落ち着いた雰囲気の酒場らしき場所。その酒場に作られたステージの上に、三人並んで立っていた。

 

 そんなステージの上で、俺はダンスを踊る。

 大好きな曲なので、ノリノリになりながら踊った。まさしくダンス天国だ。

 

 ゼバ様の接待なのに、俺自身が楽しんで曲が終わった。

 

「美しい音色だった。管楽器というのか?」

 

「あー、サックスとかトランペットとかが伴奏に使われているよね、この曲」

 

 ゼバ様の感想に、俺はそう答えた。

 管楽器は彼らの文化にはないのか? 俺が首をかしげていると、ヒスイさんが言った。

 

「ギルバデラルーシは人間と違い、呼吸をしません。ですので、呼気で演奏する楽器が存在しないのです。彼らの声は、声帯を呼気で振動させるのではなく、肉体のけいれんによって出されています」

 

「ああ、そうか! ゼバ様、顔に口がないもんな!」

 

「一応、道具で風を送り金管で音色を出す巨大な楽器はあるのだが、個人が携帯して持つ気鳴楽器は存在しないな」

 

 ゼバ様の説明に、俺はパイプオルガンを思い浮かべた。確かに、あんなもの持ち運びできるわけがない。アコーディオンみたいな楽器はないのかな?

 そこで気になって、俺はゼバ様に質問をする。

 

「じゃあ、ギルバデラルーシが使っている楽器には、どんな物があるんだ?」

 

「金属の弦を弾いて音を出す弦楽器と、結晶を叩いて音を出す打楽器が主だな。管楽器の美しい音色は、正直言うとうらやましい。私も可能ならば演奏してみたいものだ」

 

「田中様に頼めば、アンドロイドのボディに呼吸機能を搭載してもらえるかもしれませんね」

 

 おお、ヒスイさん、それナイスアイディアじゃね?

 

「ふむ……それもありか……」

 

 要検討ということにして、次の曲へと移る。

 

 次に俺が選んだ曲は、『Dragostea Din Tei』。邦題は『恋のマイアヒ』。その曲を三人で踊る。

 

 ダンスのステージは空を飛ぶ飛行機の翼の上で、VRと解っていてもなんとも足がすくむ思いだった。

 でも、手を横に広げて飛行機のポーズで踊るのは、とても楽しかった。

 

 ダンスの難易度は少し上がっていて、三人で前後に交差する動きや、三人で肩を組む動作が入ったが、それもゼバ様は楽しめたようだ。人間と同じサイズになっていてよかったな。

 

「別れの曲か。恋という概念は未だよく解らないが。子孫繁栄に必要な感情なのは解るが、友情とどう違うのか」

 

「恋愛曲に関しては、歌詞は深く考えずにそういう文化もあるのか、で流しておくれ」

 

 などという会話を交わす一幕もあった。

 そして、その後も何曲か21世紀の曲を選んで踊り、開始から2時間半ほど経ったところで、今日はお開きにすることにした。

 

 ゲームを終了し、SCホームの白い空間へ戻ってくる。

 

 すると、田中さんとフローライトさんがちゃぶ台の前に座って煎餅を食べながら、俺達を迎えた。

 フローライトさんが、座ったままこちらに向けて言う。

 

「おつかれさまでした。初めてのゲーム体験、いかがでしたか?」

 

 ゼバ様に向けて話しかけたのだろう。俺は彼の言葉を待つ。

 

「これは、体験の楽しさをテレパシーネットワークに載せるか迷うところだな」

 

 ふむ? その心は?

 

「とてもよき体験だったので、この感覚をネットワークに載せてしまいたいが、そうすると他の者が自分で直接体験するときの楽しみを奪ってしまうことになる」

 

「あー、ネタバレに関する注意ね」

 

 ゼバ様の言葉に、納得して俺はそう言った。さらにゼバ様が続ける。

 

「うむ。我々の娯楽は、音を奏でるか、誰かが思考した物語を受け取るか、テーブルゲームをするか、物作りをするか程度であった。ゆえに、そのあたりを配慮する必要はあまりなかったのだが……」

 

 まあ、身体の動きが遅く、コンピュータもないのでは、娯楽の種類も限られるわな。

 

「我々は群体生物だ。それゆえに若い個体は自我が薄く、個ではなく群れとして動こうとする。娯楽を自発的に楽しもうという気概が少ないのだ。だが、この娯楽の登場で、もしかしたらその在り方が変わっていくのかもしれない」

 

「……なんか、えらいことになりそう?」

 

 俺がそう尋ねると、ゼバ様は声を明るくして答える。

 

「原始的な群体生物からの脱却は、私達の長年の課題だったのだ。惑星テラの時間でいう約512年前、敵対種族の根絶に成功し、生活に困難がなくなってからというもの、どうやら個を尊ぶ風潮が新たに芽生えたようだ」

 

「ゼバ様が亡くなってからのこと?」

 

「そうだ。私は敵対種族との最後の大決戦で死んだからな。その後のことは、テレパシーネットワークで伝え聞いた話しか知らない」

 

 そんな話をした後、その場は解散となり、現実に戻った俺はヒスイさんと二人で、基地へと帰った。フローライトさんは、まだゼバ様のところでやることがあるらしい。

 

 そして翌日。

 

 フローライトさんが俺達のもとへとやってきて、俺達が帰った後のことを話した。

 俺達が『ダンスレエル300』をプレイする様子を編集して一本の動画にし、それをゼバ様に頼んでギルバデラルーシのテレパシーネットワークに流したところ、大反響があったようだ。

 次々に「自分もやってみたい」という声があがったらしい。それも、自我が薄めの若い個体からも、プレイの希望があったのだとか。

 

 さらに、俺達以外のゲームプレイも成功したらしい。つまり、ノブちゃんと閣下だ。

 ノブちゃんは、彼らが文学をたしなんでいるということで、アドベンチャーゲームを。閣下は、いずれロボットゲームを伝える布石として、レースゲームをそれぞれ紹介したようだ。

 

 ゲーム文化は問題なくギルバデラルーシに受け入れられたため、彼らにソウルコネクトチェアを配給することが決定したらしい。

 急ピッチで製造が進められ、年内には全世界のギルバデラルーシに届ける予定だとか。

 そして、そのソウルコネクトチェアを使って、宇宙暦300年記念祭を会場に来られない遠くのギルバデラルーシ達に見せるのだとか。マザー・スフィアは、惑星上にいるギルバデラルーシの全員に、記念祭を見てもらうことを目標にしている、らしい。

 

 うーん、歴史が動いたって感じだ。

 そのきっかけに、俺達のダンス体験があったのかと思うと、感無量だな。

 俺は、宿泊施設の談話室の一角を使い、ヒスイさんと二人で祝杯を挙げることに決めたのだった。

 

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