21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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196.The Twinkle(落ち物パズル)

 エナジーマテリアルの弦を指で勢いよく弾く。

 ベースギターに内蔵された機器がそれを増幅し、腹に響く低音を奏でる。

 

 ベースは縁の下の力持ちだ。

 ギターのように存在を強く主張することも、ドラムのようにリズムを激しい音で作り出すこともしない。

 しかし、ベースが存在しないと、とたんに音楽から深みが消えてしまう。

 

 そんな心意気で気持ちよく弦を弾いていったところで、曲はサビに突入する。

 俺は、顔を上げて目の前のマイクに向けて、歌声を放った。

 

 チャリティーソングに相応しい、慈愛に満ちた歌詞をノブちゃんが歌い、俺と閣下でコーラスをする。

 ヒスイさんのおとなしめのドラムが身体にリズムを生み出し、ラットリーさんのリードギターが心臓にビートを刻む。そして、閣下のキーボードが、心に響くメロディを奏でていった。

 

 歌声と楽器で紡がれる調和の音を支えるように、俺はベースを爪弾き、曲に彩りを与えた。

 

 やがて、七分にも及んだ長い曲が終わる。

 演奏の手を止め、俺は曲の余韻にひたる。

 

 と、次の瞬間、演奏を行なっていた部屋に拍手の音が響いた。

 その方向を見てみると、フローライトさんが一人、手を打っていた。

 

「見事な演奏ですね。これなら、記念祭当日も期待できそうです」

 

 そう言ってこちらに近づいてくるフローライトさんに、閣下が対応に出た。

 

「うむ。練習はまだまだ必要じゃがの。1月1日までにどれだけ合同で練習できるか……」

 

 1月1日は宇宙暦300年記念祭の開催日だ。

 今日は12月18日なので、そう日は残されていない。VRならばいくらでも時間加速はできるが、今回のようにリアルでの練習はそう多くはできるものではないのだ。

 俺達はそれぞれが楽器の練習をしてきたが、一緒に組んで音を合わせるということは今までしたことがないので、合同練習の機会は多ければ多いほどいいのだが……。

 

 だが、そんな俺達の事情を知ってか知らずか、フローライトさんが言う。

 

「そんな皆様に残念なお知らせです。ギルバデラルーシの方々が、次のゲームをご所望です」

 

「やはりか。記念祭が終わるまで、待たせるわけにはいかぬのか?」

 

 閣下の言葉に、フローライトさんは首を横に振って否定する。

 

「皆様が担当している重鎮の方々との交流は、記念祭の成功に不可欠です。彼らに人類への興味をより深く持ってもらえれば、ギルバデラルーシの全ての方々が記念祭にも興味を持ってくれるというわけです」

 

「まあ、言わんとすることは解らないでもない」

 

「解ってくださいましたか。では、これよりゲームの時間です。さあ、撤収、撤収ですよ」

 

 そういうことになった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「ゲルグゼトルマ族の全員に、ソウルコネクトチェアが行き渡った」

 

 ゼバ様からそう伝え聞いた俺は、今回のゲーム紹介をライブ配信して行なうことに決めた。

 ゲルグゼトルマ族の中でVR接続できる暇のある者は全員つないでもらい、ゲームの楽しさを学んでもらうのだ。

 

 そうと決まれば、話は早い。ゼバ様にテレパシーでゲルグゼトルマ族へ連絡を入れてもらい、その間に俺とヒスイさんはライブ配信のセッティングをする。

 惑星内限定の配信環境はすでに整っており、今回はその中でゲルグゼトルマ族に限定して通信を制限する。

 

 よその部族はまだ接続できるようにはしない。

 試験的な配信なので、まだゼバ様の権限で収まる範囲に留めたいのだ。いやまあ、ゼバ様はかつて全ギルバデラルーシを束ねた存在なのだが。

 

 というわけで、配信スタートだ。

 

「どうもー、600年前からタイムスリップしてきた、タイムスリッパー。21世紀おじさん少女のヨシムネだよー」

 

「ここで自己紹介か。皆の者、聞くがよい。私はゼバ・ガ・ドランギズブ・ゼ・ゲルグゼトルマ・ガルンガトトル。長き時を超えて蘇った、元大長老である」

 

「助手のガイノイド、ヒスイです。本日はよろしくお願いいたします」

 

 口上を終えると、緑あふれる地球の自然風景に整えられたSCホームにやってきた視聴者達が、口々にコメントを発し始める。

 

『よき』『よきよき』『よきかな』『素晴らしい』

 

 例のごとくコメントは総意を抽出する機能を使っているが、つかみは良好っぽい。

 そんな視聴者に向けて、俺は言った。

 

「今、視聴者のみんなが立っている場所は、惑星テラに存在する植物という生物の上だ。惑星ガルンガトトル・ララーシにおける、結晶生物みたいなものだな」

 

『おお』『これが異星の風景』『異星の結晶か』『炭素生物よきかな』『よきよき』

 

「結晶生物相当の存在ならば、人間はこれを食するのか?」

 

 ゼバ様がそう質問をしてきたので、俺が答える。

 

「今、立っている草は食べないけど、似たような植物の一部を食べるぞ。ヒスイさん、サンプル出せる?」

 

「はい、では、葉野菜などをいくつか」

 

 ヒスイさんが、ゼバ様の前にレタスやキャベツ、白菜、それに長ネギやホウレンソウ等を出現させ、宙に浮かせた。

 

「なるほど。これなどは、今、下にある生物に似ているな」

 

 ホウレンソウを手に取りながら、興味深そうにゼバ様が言った。

 

『よきかな』『興味深い』『どのように食するのだろう』『火は使うのか?』

 

 視聴者が野菜に注目したので、俺はヒスイさんに頼んで、料理風景と実際の料理を映像で流してもらった。

 その様子をゼバ様も一緒になって『よきかな』と眺めていた。

 

 さて、導入はここらへんにして、本日のゲームをやっていこう。

 

「本日プレイするゲームは、こちら! 『The Twinkle』、落ち物パズルゲームだ!」

 

「ふむ。落ち物パズルゲームとは、どのようなものか」

 

「まず、パズルゲームから説明するぞ。パズルゲームは、頭を使って用意された謎を解き明かしていく、パズルをデジタルゲーム化したものだ」

 

 俺がそう言うと、ヒスイさんが俺の目の前に様々なパズルを用意してくれる。

 ふむ、これなんかいいな。ルービックキューブ。

 

 俺はキューブを手に取ると、勢いよく回していく。そして、1分ほどで全面の色が揃った。

 

 その間にも、ゼバ様はヒスイさんの解説で、様々なパズルを手に取って確認していた。

 

「ほら、色が全面そろった! こういうパズル……ギルバデラルーシの文化にはパズルの類は存在するかな?」

 

「ああ、似たような物がある。こちらのパズルに似た立体物が、最近流行しているようだ。私達は、絵画や彫刻にも造詣が深いからな」

 

 俺の質問に、ジグソーパズルを手に取ったゼバ様がそう答えた。

 

「ほうほう。では、今度ギルバデラルーシの絵画も見せてもらうことにしようか」

 

「うむ。楽しみにしておくとよい」

 

 俺はキューブを手放し、さらに説明を続けた。

 

「落ち物パズルゲームは、そんなリアルにあるパズルをゲーム化したものとは違い、デジタルゲーム独自に生まれたジャンルだ」

 

 歴史は割と古く、西暦1984年のソビエト連邦で生まれた『テトリス』が落ち物パズルの祖である。

 

「上からブロックが落ちてくる。そのブロックを積み上げていき、特定のルールでブロックを消す。そして、ブロックが天井まで積み上がらないようにしながら、ブロックを消し続けるというパズルゲームが、落ち物パズルだ」

 

 ヒスイさんが、『テトリス』のデモ画面を表示してくれる。ゼバ様は、それを興味深そうに眺めた。

 

「そして、この落ち物パズルの最大の特徴。それは、人同士で対戦ができるということだ!」

 

 俺は腕を組み、そう力強く主張した。

 

『対戦……』『戦う……』『仲間同士で?』『安全か?』『安全だろう』『よきかな』『安全に競い合う』『よきかな』『よき』『よきよき』

 

「というわけで、今日の配信は、ゲルグゼトルマ族で落ち物パズルの対戦をしていくぞー!」

 

 俺がそう言うと、コメントが『よきかな』で埋め尽くされた。どんだけ期待値が高いんだ。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

『The Twinkle』のブロックは、全四色に色分けされている。その色ブロックが二個一組で、一組ずつ上から落ちてくる。ブロックの色の組み合わせはランダム。

 そして、次々と落ちてくるブロックをフィールド上に積み上げていく。同じ色のブロックが三個以上並んでそろうと、そろったブロックは消える。ブロックの並びは、縦と横、そしてななめにそろえばよい。

 

 色がそろったブロックが消えると、そのブロックの上に乗っていたブロックは宙に浮くが、すぐに下に落下する。

 落下した先でさらに色がそろうと、『連鎖』となり、そのブロックも消える。

 

『連鎖』をすると、対戦相手のフィールドに、『お邪魔ブロック』を落とすことができる。

『お邪魔ブロック』は色が存在しないブロックで、隣接したブロックの色をそろえて消したときに、一緒に消滅する。それ以外の手段では消すことはできない。

 

 自分のフィールド上で次々とブロックを『連鎖』させて消していき、相手のフィールドにどんどん『お邪魔ブロック』を積み上げ、相手のフィールドをブロックで埋め尽くせば、自分の勝ちになる。

 

「という感じのルールだな。600年前にも普通にこういうルールの落ち物パズルはあった」

 

「ふむ、伝統なのだな」

 

「伝統というか、著作権や特許権の保護期間を終えて、真似し放題になったというか」

 

「著作権か。製作者の名誉は守られてしかるべきだな」

 

「その辺の感覚も通じるんだなぁ……」

 

 そんな感じの会話をしながら、俺はゲームを起動し、チュートリアルを始める。

 

 まずは、ゼバ様にチュートリアルを試してもらう。

 画面の指示に従い、ゼバ様は自分の前に出現したパネルを操作して、ブロック……このゲームでは、『クリスタル』をフィールドに落としていく。

 

 キラキラと輝く結晶状のブロックが、目の前に積み重なっていく。

 そして、ゼバ様はチュートリアルの指示通りに『連鎖』を行なった。

 

『おお』『よき』『美しい』『よきかな』『よき』『自分もやってみたい』

 

 お、ゲームをやりたい人が出てきたな。発言者のIDをチェックチェック。

 そうするうちに、チュートリアルが終わったので、早速、対戦に入る。

 

 まずは、俺とゼバ様で試験的に対戦してみることにする。

 正直なところ、俺はこのゲーム、得意である。

 

 ヨコハマの部屋にあるVR機器にもインストール済みで、日々閣下を相手に勝利を重ねているのだ。

 だからまあ、最初は様子見からだな。

 

「じゃあ、対戦スタートだ!」

 

「よき戦いとしようか」

 

『大長老の初陣だ』『キュイキュイ』『負けるな』『勝利こそ(ほま)れ』『死してなお勝利すべし』

 

 物騒だな! これ、単なる遊びだからな!

 

 そうして始まった一試合目。

 俺は、まずのんびりとフィールド右にクリスタルを高く積み上げていく――って、ええ!? ゼバ様、めっちゃ操作速え!

 

 俺が油断しているうちにゼバ様は五連鎖を決め、俺のフィールドにドカンと『お邪魔ブロック』である『クリアクリスタル』が降ってくる。

 

「や、やりおったな。こちらが手加減しているうちに」

 

「油断する方が悪いのだ」

 

『よき』『よきかな』『それでこそ大長老』『いくさに生きた時代の者は違うな』『キュイキュイ』

 

 くっそー。ここから挽回だ。

 

 一連鎖、二連鎖、三連鎖。って、向こうがまた四連鎖しただと!?

 こちらの三連鎖は、相手の四連鎖と相殺になり、残り一連鎖分のクリアクリスタルが俺のフィールドに降り注ぐ。

 

「うおお、負けるか!」

 

「もう遅い」

 

 そう言いながらゼバ様がすさまじい勢いでクリスタルを積み上げて、連鎖を始めた。

 俺も急いでクリアクリスタルを崩して連鎖の余地を作ろうとするが、間に合わない。俺のフィールドがクリアクリスタルで埋まる。

 そして。

 

『FINISH!』

 

 試合は俺の負けで終わった。

 

『よきかな』『よき戦いであった』『これがゲームであるか』『素晴らしい』『期待以上だ』

 

 うん、俺は負けたが、ゲルグゼトルマ族のゲームへの印象は、良好なまま終わったらしい。

 正直、俺の勝ち負けとかはどうでもいいので、この結果は最良だ。

 

「ふう、楽しかった。ゼバ様も楽しめたかな?」

 

「うむ。このような遊戯があるとはな」

 

「落ち物パズルは、リアルではできない遊びだからねぇ」

 

「テーブルゲームでの戦いとは、また違ったよさがある」

 

「気に入ってもらったようで何よりだ。よし、じゃあ次の対戦行くぞー。俺は抜けて、視聴者からゼバ様の対戦相手を一人選ぶぞ」

 

 そして俺は、先ほど自分もやってみたいと言っていたIDをこの場に招待することにした。

 相手を呼び出し、俺の横に転送する。やってきたのは、体高3メートルほどのギルバデラルーシの中でも一番小さな個体だ。

 

「ふむ、おぬしは確か、最近生まれたばかりの者であったな」

 

 ゼバ様はその相手の姿を覚えているのか、納得したように言った。

 

「……よき」

 

 呼ばれた個体は、ただそれだけを言った。

 

「緊張しているのか?」

 

 俺はそう言ったが、ゼバ様は「違うな」と否定した。

 

「産まれたばかりで、まだ自我が薄いのだ」

 

「え、でも、この子、自分もやってみたいって発言した子だぞ」

 

 俺がそう言うと、ゼバ様は突然「キュイキュイ」と笑いの音を出し始めた。

 すると、視聴者コメントも一斉に『キュイキュイ』と歓喜の音で埋まっていく。

 

「そうかそうか。これほどまでに若い個体が、そこまで興味を示したか」

 

 本当に嬉しそうにゼバ様が言った。

 そして、呼び出された個体が小さく言う。

 

「対戦……希望」

 

「うむ、相手になろうではないか」

 

 そうして場は整い、対戦が始まった。

 ゼバ様は、ものすごい勢いで連鎖の布石となるクリスタルを積み上げていく。

 一方、若い子はたどたどしくパネルを操作している。

 

 ううむ。ゼバ様、手加減を知らないな。ここはゼバ様じゃなくて、俺が対戦した方がよかったか。

 そして、予想通り戦いはゼバ様の一方的なもので終わった。

 

「あーあ、ゼバ様、やっちゃったね」

 

「なんだと」

 

「相手の実力に合わせて手加減くらいしてやらないと。相手は自我が薄い若い子だよ」

 

「む、だが、あやつは、ご機嫌だぞ」

 

 ゼバ様にうながされて若い子を見てみると、わずかに胸の紋様を震わせて、「キュイキュイ」と音を発していた。

 どうやら、負けたというのに、すごく楽しかったらしい。

 

「お、おお? あれだけ一方的でも楽しいものかね」

 

 俺がそう言うと、若い子は小さく呟くように言う。

 

「また……やりたい……」

 

『よきかな!』『よき!』『よきよき!』『感謝』『感謝を』『ヨシムネに感謝を』『人間に感謝を』

 

 お、おおう? なんかえらいことになってないか?

 

「ヨシムネよ、ゲルグゼトルマ族を代表して感謝の意を伝える。おぬしは、若き者に道を示したのだ」

 

 ゼバ様にそう伝えられ、俺は困惑しながらその言葉を受け取った。

 俺、単にゲームを遊ばせただけだよね!?

 

 その後、俺達は対戦相手を入れ替え、ゲームを続行。視聴者同士の戦いや、最強王者ヒスイさんの戦い、ゼバ様による十人抜きなどを行ない、落ち物パズルを全力で楽しんだ。

 俺はほぼ司会に徹したが、何度もゲルグゼトルマ族の視聴者から感謝を伝えられ、反応に困ってしまった。それだけ、生まれたばかりの若者が何かに興味を持つことは、すごい事態なのだろう。

 

 そして、その日は五時間の長きにわたって配信を続けた。まだ続けたいという視聴者の声に、ソウルコネクトチェアにこのゲームがインストールされているので、ゲルグゼトルマ族同士で対戦して遊んでくれと言い残し、配信を終えた。

 

 ゼバ様が去り際に、「ヨシムネには、何か感謝の印を贈らねばな」と言い残したのが印象に残った。

 ギルバデラルーシの感謝の印ってなんだろう。ものすごい演奏でも聞かせてくれるのだろうか。

 

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