21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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207.Stella クリスマスイベント編<5>

 一組の幼少カップルを連れて、町の北門にやってきた俺達一行。

 

 ここから先は、モンスターが出現する領域だ。しかも、辺境の地なのでモンスターは、はじまりの町よりもはるかに強力であることが予想された。

 護衛対象は、足の遅い子供二人。クエスト条件には、対象NPCの騎乗ペット及び乗り物アイテムへの同乗は不可とわざわざ書かれている。歩いてモンスターのいる地帯を突破しなければならない。

 

 このゲームでは普段、NPCは死んでも時間経過で勝手に復活する。チャンネル間の整合性を取るための措置だ。

 だが、このような限定クエストとなると、失敗の結果、どんなことが起きるか判らない。個人向けクエストの重要NPCが死亡した事例では、時間が経ってもNPCは蘇ってこなかったと話に聞いた。

 なので、万全を期することにしよう。

 

「ヒスイさん、料理buffをかけよう」

 

「了解いたしました」

 

 そう言って、俺とヒスイさんがインベントリから取り出したのは、一つの錠剤(タブレット)

 それを口の中に放りこみ噛み砕くと、身体の奥底から力が湧いてくるのが感じられた。

 

「ヨシムネ、それは?」

 

 ゼバ様が、俺達の行動を不思議そうに見ていた。

 

「これは、料理スキルで作る錠剤を食べて、ステータスアップしたんだ」

 

「ステータスは強さを数値化したものだったか。ふむ、強くなる薬か。きっと、それもまた魔法的な効果があるのだろうが……薬の調合のスキルではなく、料理スキルによるものなのか?」

 

「ああ、摂取することで補助効果(buff)がかかるアイテムのポジションは、MMORPGにおいては伝統的に料理の役目なんだ」

 

 21世紀に存在したゲームでは、生産関連のスキルに料理スキルがある場合が多く、料理アイテムも登場した。

 だが、味覚を感じられるフルダイブVRでもないのに料理を食べても、味なんて判るわけもない。そのままでは、ただの数値的な空腹度の回復用途にしか使えない。

 そこで、料理をより効果的にゲームに組み込むためなのか、料理を食べるとステータスがアップする効果が多くのゲームで導入されていたのだ。

 

 料理を食べるとステータスが上がる効果は、普通のゲームがフルダイブVRゲームに進化しても引き継がれたようだが、今度は別の問題が発生した。それは、VRでは料理を食べるのに時間がかかるのだ。ステータスを上げたいだけなのに、時間がかかる食事なんてとてもしていられない。

 そういった理由があり、瞬時に食事が取れるステータスアップ用の料理が、今日(こんにち)のVRMMOには実装されているのだ。錠剤や栄養ブロック、ゼリー飲料といった形だな。

 

「ふうむ。結晶加工食品でも、可能なのだろうか……」

 

「元々結晶食は食べやすいペレットだけど、多分、ステータスアップ可能な料理は作成可能だろうね。そういったレシピを探してプレイするのも、ありなんじゃないかな」

 

「む! いや……だが、私はアルトサックスを極めなければならない。結晶料理は、他の者に任せることにしよう」

 

『料理は任せて』『私もやってみたい』『ゲームの中なら食べ放題作り放題』『農業もできるのか?』

 

 こりゃあ、新規に実装されたという、岩と結晶の『星』ダガーは、いずれギルバデラルーシの皆さんで埋め尽くされそうだな。

 そんなことを思いながら、俺は補助魔法を使いステータスをさらに向上させた。

 

 さて、戦闘準備も完了したので、流星の丘へ向けてレッツゴーだ。

 

「流星の丘って、遠いのか?」

 

 俺は、後ろを歩く少女にそう話を振った。

 

「いえ、歩いて10分程度です」

 

「へえ、結構遠いな」

 

「えっ、近いと思いますけど……向こうに見えますよね?」

 

 いや、MMORPGの移動時間として考えたら、遠いぞ。

 一日にゲームができる時間は限られているのに、狩り場まで移動10分とか、ちょっとだけイラつく遠さだ。まあ、古いタイプのMMORPGの場合、狩り場に到着した後は一時間二時間平気で()もって雑魚敵を狩り続けるのだが。

 

 あと、真っ直ぐ歩いて10分だとしたら、モンスターが道中に出た場合は……。

 

「ヨシムネ様、右手方向からグレムリンです」

 

 おおっと、敵だ。

 いつだったか、廃墟を探索したときに遭遇した小さな悪魔モンスターが三体、サンタコスで現れた。

 俺は弓を構え、矢を撃つ。

 ゼバ様も、投げナイフをサイコキネシスで飛ばし、見事に命中させていた。

 

 俺が矢を当てた敵はその場で沈黙。ナイフが刺さった敵はひるんだものの突撃を続け、飛び出したヒスイさんの剣撃を受けて倒れた。

 

 うん、問題なく倒せるな。

 俺は解体用のナイフをグレムリンの死骸に当て、解体スキルで素材に変換すると、インベントリにしまって皆の元へと戻った。

 

「す、すごいです! 一瞬でやっつけちゃいました」

 

 俺達の戦いを不安そうに見守っていた少女が、感激した様子ではしゃぎ始めた。

 相方の男の子は、女の子の手をにぎってプルプルと震えている。モンスターが怖かったのだろうか。

 

「ま、敵が山ほど来ない限りは傷一つつけずに守り切るから、安心してくれ」

 

 そうして、次々と襲撃してくるモンスターを倒しながら進むこと25分ほど。ようやく、俺達は目的の丘まで到着した。

 北門から丘は見えていたというのに、なんとも手こずらせてくれたもんだ。最後の方は、グレムリンが10体まとめてやってきたからな。俺が範囲魔法を使えなかったら、子供達に敵が流れていたかもしれない。

 

 そんなこんなで丘に足を踏み入れたところ、役所で聞いていた通り、空が急に暗くなった。

 空には星々が輝き、大量の流れ星が落ちているのが見えた。

 

「わあ、すごい……」

 

 少女が感激して、男の子の手をにぎったまま丘の上を登っていく。

 俺は敵がいないか注意を払いながら、それを追う。

 丘の上には、俺達以外にも幾人かの集団が複数すでにいて、一様に空を見上げているのが見える。800チャンネルにいるってことは、配信か撮影を行なっているのだろう。邪魔をしないよう、こちらからは不干渉でいこうと思う。

 

「はわー」

 

「ほわぁ……」

 

 丘の上に辿り着くと、少女と男の子が、口を開けて呆然としながら星空を見上げていた。

 

 俺とヒスイさんは、その二人の脇に立ち、敵がいつ出現してもいいように武器を構える。

 だが、敵が出現する兆候は一切ない。周囲の集団も、武器を構えている様子はないようだ。イベント用の安全地帯かな? 俺は弓を構える体勢を解いた。

 

 そして、遅れてゼバ様が丘の上にやってきて、空を見上げた。

 

「これは……見事な夜空だ」

 

『作り物の世界がこれほど美しいとは』『私も行ってみたい』『残念ながら、今日限定の光景だ』『そんな……』

 

 ふむ。敵を警戒してよく見ていなかったが、確かにこの光景は、「すごい」の一言に尽きるな。

 なんだかもう、流れ星が多すぎて、逆にやりすぎと言ってしまっていいレベルにある気がするぞ。

 

「あ、そうだ、お願い事、お願い事……」

 

「お姉ちゃん、なんて言えばいいんだっけ?」

 

「『Rest in peace』って三回言うのよ」

 

「うん……」

 

 なにやら、少女達が口々に何かを唱えだした。

 

「ヨシムネ、これは何かの儀式か?」

 

 ゼバ様が不思議そうに尋ねてきた。

 

「うーん、俺の知る流れ星の作法だと、願い事を三回唱える、なんだけど、ちょっと彼女達は違うみたいだな」

 

「彼女達の作法は、流れ星に死者の安息を願うヨーロッパ国区での伝統的な方法ですね。『Rest in peace』、安らかにお眠りください、という言葉を三回唱えるというものです。『Rest in peace』はRIPと略されることもあり、かつてお墓にもこの文字が刻まれていたそうです」

 

「なるほどなー」

 

 ヒスイさんの解説に、ふと、21世紀のインターネットで外国人がよくRIPとか書きこんでいたなと思いだした。

 

「なるほど、聖なる言葉か」

 

 ゼバ様が納得したように言うが、ヒスイさんは「いいえ」と否定する。

 

「聖句と言うほど厳密なものではありません。慣用句程度ですね」

 

 そんな会話を交わしている間に少女達は流れ星に願い終わったのか、いつの間にか空を見上げていた顔を下げて、俺達の方を見ていた。

 

「終わったか?」

 

 と、俺が尋ねると、「はい」と二人は元気よく答える。

 そして、ゼバ様が二人に向けて言った。

 

「流星に何を願ったのだ」

 

 その言葉を聞いて、少女は恥ずかしそうにして答え始める。

 

「私達のお父さんとお母さん達が、天国に行けますようにって。そして、私達は幸せな夫婦になるので、天国で見守っていてくださいって、お星様にお願いしたんです」

 

「ふむ……天国とはなんだ?」

 

「えっ!?」

 

 おおう、そういえば、サンダーバード博士が前に、ギルバデラルーシは死後の世界の存在を信じていないって言っていたな。

 困惑する少女のために、俺は横からゼバ様に解説を入れることで助けを出した。

 

「天国って言うのは、人が死んだ後に魂が向かう場所だな。この世界にない、別の次元の楽園だ」

 

「そのような場所、初めて聞いたが……」

 

「架空の場所……いや、違うな。人間は、この世から魂が消滅した後、天国に旅立って安らかな眠りにつくと〝信じている〟んだ」

 

「なるほど、そのような死生観があるのだな」

 

『興味深い』『別次元に存在する魂の柱か』『誰がそのようなものを作ったのだ?』『魂が消滅した後も残り続けると考えるとは、ロマンチストだな』

 

 そう、人間はロマンチストなんだよ。

 ロマンチストなので、もう少しこの流星の丘の光景を楽しむことにしようか。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 空を見上げること10分ほど。俺は特に何も願うことなく頭を下げた。

 

「よし、それじゃあ、帰ろうか。二人も、デートは終了でいいかな?」

 

「はい。ありがとうございました」

 

 少女が礼を言ってくれるが、それはまだ早い。家に帰るまでが遠足ってな。

 

「さて、帰りも、モンスターに気をつけながら行こうか」

 

「うっ、それがありましたね……」

 

 おおう、少女がひるんで、男の子はガクガクと震えだしたぞ。驚かしすぎたか。

 大丈夫、さっきの倍の数が来ても、守ってみせるさ。

 

 ……などと意気込んだものの、帰りは一度もモンスターと遭遇せず、俺達はすんなりと救貧院に帰り着いた。

 

「皆さん、本当にありがとうございました!」

 

 少女が、今度こそ元気よくお礼の言葉を述べてくれる。男の子も、か細い声で「ありがとう……」と言ってくれた。

 

「これ、私達からのお礼です」

 

 と、少女がこちらに何かを差し出してきた。

 

「ん? いや、依頼主は役所だから、報酬はそっちから貰うことになっているんだが……」

 

 俺がそう言うと、少女は「ほんの気持ちですので」と言って、手に何かを握らせてきた。

 それは、星形のチャームだ。

 

「聖教のシスターさんと一緒に作ったんです。手作りですが、受け取ってくれると嬉しいです」

 

 そう言って、少女はヒスイさんにもチャームを渡す。男の子は、恐る恐るといった様子でゼバ様にチャームを渡していた。

 

「うん、ありがとう。大切にするよ」

 

「あっ、それ、シスターさんが聖魔法をこめたんですけど、一ヶ月すると効力が失われてしまうらしいので、そんなに大切にしなくても……」

 

 そう言われて俺はチャームのアイテム情報を確認すると、『レアアイテムドロップ率上昇(微) 効果期限:300年1月24日まで』とあった。ふむ。なるほど。少女達の個人的な心意気でくれたプレゼントと言うよりは、護衛クエストのシステム的なクエスト報酬って感じか。

 

「うん、良い効果だ。こちらからもお礼を言うよ」

 

「いえ。今回は、本当にありがとうございました」

 

 お礼合戦になりそうだったので、そこで話を切り上げ、俺達は救貧院を後にすることにした。

 町の役所に向かい、改めて受付で報酬を貰う。クエスト中に遭遇するモンスターがそこそこ強かったこともあったのか、それなりの金額と消費アイテムが報酬として貰えた。

 

「というわけで、クリスマス限定クエストは終了だ。どうだったかな?」

 

 広場の星の柱の前で、俺は視聴者とゼバ様に向けて、そう話を振った。

 

「恋愛についてはまだよく解らないが、あの二人には末永く仲良く過ごしてほしいものだ」

 

『二人には友愛を感じられた』『恋愛は友愛の深いものなのか?』『チャームというのか? あのアクセサリーは興味深い形をしている』『なかなか激しい戦闘で、見応えがあった』

 

 うん、良好な反応だな。クリスマス限定クエストの配信は、無事成功したと言っていいだろう。

 

「マザー・スフィアによると、いつになるかは知らないが、いずれこの『Stella』もギルバデラルーシのみんなに公開されるようだ。だから、みんなも機会があったら季節のイベントを人間と一緒に楽しんでもらいたいな」

 

「現実世界とゲーム内の季節が噛み合わないことが、いささか残念だが」

 

 惑星ガルンガトトル・ララーシにも季節の概念があるんだなぁ。平均気温180℃の世界だから、どうあってもゲーム内と環境は合わないが。

 

「大丈夫。人類の大半が惑星テラの外に住んでいるから、人類も自分の住環境とは季節が合っていないよ。その辺りの感覚のズレは、ギルバデラルーシと大差ないと思う」

 

「そういう問題だろうか……」

 

 俺の発言に、ゼバ様が突っ込んでいるのだかあきれているのだか、よく解らないコメントをする。

 いやいや、惑星テラの南半球に住む人なんて、今、夏なのにゲームの中は冬だぞ。よくあるよくある。

 

「というわけで、本日の予定は全てこなしたわけなんだけど、どうする? 終わる?」

 

「まだ、そこまで長くやっていないのではないか」

 

「どうなんだろう、ヒスイさん」

 

「そうですね。配信開始からまだ二時間も経っていませんので、続けて問題ないでしょう」

 

「じゃあ、何をしようか」

 

 うーん、と悩んだところで、ゼバ様が「アルトサックスを練習したい」と言いだした。

 

「了解。じゃあ、音楽が有名な町まで行って、聖教の人達に防音室でも借りようか」

 

「音楽が有名な町か」

 

「うん、その町は楽譜もそろっているだろうから、練習曲も用意してみよう。それでゼバ様が今日中に上手く吹けるようになったら、俺とヒスイさんを加えた三人でセッションでもしてみようか」

 

「それはよいな」

 

『よきかな』『今日中に演奏できるようになるのか?』『指使いが難しそうだったが』『大長老ならやってくれるだろう』

 

 まあ、無理だったら無理で、その時さ。

 方針を決めた俺達は、飛竜船に乗って音楽の町に向かい、楽譜を買って聖教が運営する楽団用の防音室を借りた。

 

 その後、ゼバ様は拙いながらも簡単な曲を吹けるようになり、ヒスイさんのトランペットと俺のベースギター(町で買った)という変則的な組み合わせで簡単な曲を合奏した。

 その成果に視聴者達も満足し、クリスマス配信は大成功と言っていいまま終わることができたのだった。

 

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