21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

209 / 231
209.St-Knight 年間王座決定戦<1>

 宇宙暦299年12月31日、大晦日(おおみそか)

 最後のリハーサルを終えた俺は、ヒスイさんと一緒に宿泊施設の自室でくつろいでいた。

 俺はボディの内蔵端末にインストールされたモンスター育成RPGをやりこみ、ヒスイさんはその俺の様子をじっと見守っている。

 

 なんともゆったりとした時が流れるが、突如、部屋に来訪者を知らせるインターホンの音が鳴った。

 すぐさまヒスイさんが動いて、対応に出る。

 ヒスイさんが扉の近くで、二、三喋ると、そのままゆっくりと扉を開けた。

 

 扉の向こうには、マザー・スフィアと……なぜかゼバ様がいた。

 

「ヨシムネさーん、ちょっと出てきてくださいー」

 

「はいはい」

 

 俺はゲームをスリープさせると、ゼバ様がくぐれそうにない高さの扉を通り、部屋の外へと出る。

 

「どしたん?」

 

 俺がそう尋ねると、マザーではなくゼバ様が答えた。

 

「記念祭まであと数時間なので、皆を率いて会場入りしたのだ。それで、ヨシムネに挨拶をと思ってな」

 

「まだ結構時間あると思うけど、もう会場入りしたんだ」

 

 俺達だって、まだ会場の控え室には向かっていない。談話室で年越し蕎麦を楽しめる時間の余裕すらあるぞ。

 

「うむ。それで、少々暇でな。もしこれからの予定がないなら、暇つぶしに付き合ってくれ」

 

「あー、ごめん。ちょっと予定埋まっちゃっているんだ。『St-Knight』っていうゲームの年間王座決定戦の決勝戦を見にいくんだ」

 

「そうか。それは残念だ」

 

 明らかにテンションが下がった感じで、ゼバ様が言う。

 悪いことしたなぁと思っていると、マザーが横から声を投げかけてきた。

 

「それなら、ヨシムネさん。ゼバさんを連れて、決勝戦の観戦に向かってください」

 

「え、いいの?」

 

「いいですよー。特等席のチケットまでつけちゃいますよ!」

 

「マジで。そりゃ、太っ腹なことで」

 

 年間王座決定戦の特等席ってあれだ。公式配信に映る特別会場の座席だ。

 その特等席の競争率はすさまじく、抽選のみでのチケット販売だったはずだが、マザーは特権で当日だというのにまだ空席を確保していたってことか。

 

「ふむ、よく解らないが、どこに出かけるのだ?」

 

「ああ、とあるVR格闘ゲームの対戦を見にいくんだ」

 

「ほう。年間王座決定戦と言ったか。王とは、人間の群れの中で一番偉い存在を言うのだったな。つまり、そのゲームの頂点を決める戦いか」

 

「いや、ちょっと違うな」

 

 俺は、ニヤリと笑ってゼバ様の言葉を否定した。そう、これから行なわれるのは……。

 

「VRゲームで一番強い奴を決める戦いだ」

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 特別会場へと入り、指定席へと移動する。

 本来、VRゲームの試合を観戦する時は、システム側が位置情報の重複も問題なく処理してくれるので、各々が好きな席を確保できる。人がいくら同じ場所に重なろうが、上手いことやってくれるのだ。

 だが、この特別会場だけは事情が違う。リアルと同じように人が重なることはできず、チケットで指定された席に座らなければならない。

 それも全て、この特別会場が、公式の配信に流すための場所だからだ。全員が最前列にいて、後列に誰もいない風景とか映せないよな。通常会場では、各々が好きな席を自由に確保できるようになっているので、この特別会場は好き者のための場所ってことだな。

 

 そんな収容人数2000人の特別会場、その比較的前の方の席に、俺達は座る。

 右から順に、ヒスイさん、俺、ゼバ様、メイドさんの並びだ。

 

 そう、俺達三人だけでなく、もう一人観戦に付いてきた人がいる。

 見覚えのある顔だ。具体的には、芋煮会でチャンプが連れてきた道場メンバーの中にいたり、『Stella』でチャンプのそばにいたりした黒髪のメイドさんだ。そんなメイドさんの正体をヒスイさんが明かしてくれた。

 

「こちら、本日の出場者の一人、クルマム様の母親であるトウゴウジ・ハナガクレ様です」

 

「どうも、解説に呼ばれましたトウゴウジです。よろしくお願いします」

 

 トウゴウジさんが、頭を下げて挨拶をした。チャンプの母親か。めっちゃ若くて背が低いので、全然そうは見えない。

 しかも、チャンプの親なのにクルマ姓じゃないんだな。夫婦別姓ってやつかな。

 

「よろしくお願いします。確か、芋煮会の時にいらっしゃいましたよね?」

 

 俺がそう話を振ると、トウゴウジさんは笑顔で答える。

 

「その節は、大変お世話になりました」

 

「お若いっすねー。正直、お子様がいらっしゃるようには見えない。十代に見えますよ」

 

「アンチエイジングしていますから。これでも五十歳を超えています」

 

 この時代のアンチエイジングはすごそうだ……。

 

 さて、そんな合法ロリメイドさんに衝撃を受けている間にも、会場の熱気は少しずつ上がっていく。

 開始まであと五分となり、客席は満席となっていた。

 

「トウゴウジさんも、空手をたしなんでいるんですか?」

 

 待ち時間で手持ち無沙汰になったので、俺はトウゴウジさんに話題を振っていた。

 

「はい、リアルでもゲームでも、来馬流の空手を。元々は、薙刀(なぎなた)をやっていたのですが、クルマ家に(とつ)いでからは空手一筋です」

 

「はー、トウゴウジ家って、薙刀で有名な家系とかです?」

 

「いえ。代々の近衛の家系というだけですね」

 

 近衛って、ファンタジーものでよく出てくる、王様を守護する役割のことか。

 

「えっ、やんごとない一族の護衛役? すごくない?」

 

「そうですね。まあ、本当の護衛は専用のアンドロイドがやりますので、人間の近衛は儀礼的な意味合いが強いのですけど。そして、私はこのように背が低く、背を伸ばす施術も受けなかったので、近衛の役にはつきませんでした」

 

「でも、空手はやると」

 

「はい。昔から武道は好きですから」

 

 うーん、全然知らない世界だ。でも、元公爵のグリーンウッド閣下だって、今でもメイドとか家令を雇っているんだよな。特権階級って、この時代でもあるんだなぁ。

 

 などと思っていると、会場にアナウンスが入り、いよいよ開始の時間となった。

 リングアナウンサーがリングに上がり、右手のマイクを口元に当てて、叫んだ。

 

『ナーイト!』

 

 すると、観客が一斉に叫ぶ。

 

「ナーイト!」

 

 お、おうっ! 突然だったので、反応できなかった。

 なるほど、今のは『St-Knight』配信のゲーム開始時の挨拶と同じやつだ。もしかすると、これがあの作法の元ネタなのかもしれない。

 

 さて、いよいよ始まる年間王座決定戦。その決勝戦の対戦カードは、予想通りの組み合わせだ。元チャンピオン対現チャンピオン……すなわち、チャンプことクルマム対ミズキさんだ。

 

 いきなり決勝戦が始まる、ということはなく、まずは前座からだ。

 行なわれるのは、三位決定戦。選手紹介が男性アナウンサーの声でなされ、選手がそれぞれのテーマ曲と共に入場する。

 

 二人の選手の武器は、それぞれ長槍と双剣。『St-Knight』は武器を使っての格闘ゲームなのだ。

 武器を使うからこそ、ただの格闘ゲーム好きだけでなく、様々なMMORPGから強豪プレイヤーが集まっているのだ。

 

「さて、どっちが勝つかな」

 

「リーチが長い方が有利ではないのか?」

 

 異星人という正体を隠すため、身長180センチメートルほどの黒人男性のアバターに扮したゼバ様が、そんな疑問を持つ。

 

「いえいえ。リアルですと確かにリーチが長い方の有利ですが、ソウルコネクトゲームですと、そうとは限りません」

 

 トウゴウジさんが、俺の代わりにそんな説明をしてくれる。

 

「そうなのか。すまないな、ゲームにはうといのだ」

 

「あ、トウゴウジさん。こちら、ゼバ様です。惑星テラのとあるやんごとない一族の元代表者の方です」

 

「や、やんごとない一族ですか……それはまたすごいですね」

 

 俺がゼバ様の嘘のプロフィールを紹介すると、トウゴウジさんは腰が引けていた。

 

 宇宙暦300年記念祭はまだ開始していないので、ゼバ様の正体は秘密だ。

 トウゴウジさん一人になら、正体がばれてもどうにでもなるだろうが、ここは他の観客の会話が横から聞けてしまう特別会場。うかつな発言には、注意してもらいたい。

 

 そんなやりとりの最中、三位決定戦が始まった。

 試合は二ラウンド先取。先に相手の体力ゲージを削りきった方がそのラウンドを取り、次ラウンドに残り体力は持ち越さないルールだ。

 

 選手二人の実力は拮抗しており、激しい攻防が繰り広げられる。そして、戦いは最終ラウンドである第三ラウンドまでもつれこんだ。

 

「強い、強いんだけど……」

 

 二人は強い。でも、正直に言うと……これは前座でしかないと感じる。

 

「超電脳空手道場でのチャンプとミズキさんの動きと比べると、正直、見劣りするな」

 

「あらあら」

 

 俺の言葉に、嬉しそうに笑うトウゴウジさん。

 いまいちリング上の戦いに乗り切れない俺だが、ゼバ様は試合展開にいちいち驚き、全力で楽しんでいた。

 

「ふう、超能力を使わない武器同士の戦いが、これほど熱いものだとは思わなかったぞ」

 

「一応このゲーム、超能力も使えるんだけどね。今の二人は、武器のみで戦うスタイルみたいだ」

 

「ふむ。超能力と武器を組み合わせて戦うのか?」

 

「そうだね。そういう人もいるよ」

 

「それはまた、興味深い……」

 

 そうして、試合は決着がついた。勝ったのは、双剣使いの方だ。

 会場が歓声に包まれ、双剣使いは嬉しそうに右手の剣を上に突き上げた。そして、双剣使いと槍使いはリング上で互いに健闘をたたえ合い、音楽と共に退場していった。

 

 なるほど、リアルの格闘技と違って、全力で戦っても怪我はしないから、さわやかな終わり方になるんだな。

 

 そう感心して見ていると、アナウンスが入り決勝が行なわれる旨が伝えられる。

 会場のボルテージはさらに上がる。俺は、体感気温が上昇したような錯覚を覚えた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。