21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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EX4.ウリバタケ・ヨシムネのお宅拝見

 異星人との交流を兼ねた宇宙暦300年記念祭が終わって、一週間が経った。

 遠い異星への旅から帰還した俺は、遅い正月休みを満喫していた。だが、さすがにそろそろ仕事始めをするころだろうと、ヒスイさんと次の配信の打ち合わせを始めた。

 

「ギルバデラルーシの方々が接続してくるでしょうから、大規模な自己紹介と番組紹介から始めるべきではないでしょうか」

 

「新規さんがドカッと増えるのか。まあ、いつものことだな」

 

 そんな感じでヒスイさんの提案を検討していたそのとき、部屋に荷物が届いたことを知らせるチャイムが鳴った。

 

「取ってきますね」

 

 そう言ってヒスイさんが席を外したので、一息つこうと俺は居間のテーブルに座ったままのんびり茶をすする。

 それからすぐに、玄関の荷物置き場に向かっていたヒスイさんが戻ってきた。

 両手に大きな荷物を抱えている。一抱えある大きな箱だ。

 

「惑星ガルンガトトル・ララーシからの荷物のようです」

 

「ガルンガトトルって……もしかしてギルバデラルーシの人達から?」

 

 惑星ガルンガトトル・ララーシとは、異星人ギルバデラルーシが居住する星だ。一週間前まで滞在していた惑星だな。

 そこから届いた荷物とは……まさか忘れ物があったとかじゃないよな。

 

「品目は、絵画だそうです」

 

 そんなヒスイさんの言葉に、俺は首を傾げた。

 なぜ絵画?

 

「とりあえず、開けてみましょう」

 

 ヒスイさんは、そう言って荷物の梱包を解き始める。

 やがて、中から出てきたのは……きらびやかな一枚の絵であった。見事な彫刻が彫られた額縁に収まっている。

 

「おおー、こりゃあすごい」

 

 思わず俺はそんな感嘆を漏らしていた。

 それは、人物画であった。

 俺とヒスイさん、それと人間大に縮んだギルバデラルーシの大長老ゼバ様の三人が、横に並んで一様にダンスしている。

 おそらくは、ギルバデラルーシ向けに配信したダンスゲーム『ダンスレエル300』のプレイ風景だ。

 三人のダンスが、やけにキラキラと光る画材で描かれている、躍動感あふれる見事な絵画だった。

 

「ヨシムネ様、手紙が同封されていました」

 

 ヒスイさんがそう言って、光沢のある一枚の紙を差し出してくる。

 その紙を受け取って、目を通すと、知らない言語で書かれた文書が目に入った。だが、その知らない言語の上に、なじみ深い21世紀の日本語が浮かんできた。

 

 ええと、手紙の差出人は……大長老のゼバ様か。

 

 曰く、ヨシムネはギルバデラルーシの文化に興味を示してくれた。大変光栄であり、芸術家や職人達も喜んでいた、と。

 さらに、ギルバデラルーシを代表する有名画家が、ヨシムネに絵を見せたいと要望したため、これまた高名な彫刻家の作った額縁に入れて新作の絵画を贈ることにした、だそうだ。

 

「なるほどなー。これが、ギルバデラルーシの文化ってわけかぁ。額縁も絵も、すげーキラキラしているな」

 

「おそらく、ガルンガトトル・ララーシ独自の結晶生物が、素材になっているのではないでしょうか」

 

 ヒスイさんのそんなコメントに、俺はうなずく。

 惑星ガルンガトトル・ララーシは、ケイ素生物が生息する星だ。そこに住むギルバデラルーシは、結晶生物という知性を持たないケイ素生物を食糧としていた。

 何度かその結晶生物を目にする機会があったが、その名の通りキラキラした結晶体でできていた。このやたらときらびやかな絵画と額縁も、それに通ずる輝きを宿している。

 

 さらにゼバ様からの手紙を読み進めると、こんなことが書いてあった。

 

「ギルバデラルーシは赤外線も視ることができる種族で、本来なら絵画にもそれが現れるんだそうだ」

 

「生物としてのスペックが、人類とは根本から異なるというわけですね」

 

「ただ、この絵は人類でも問題なく鑑賞できるよう色使いに気をつけた、特別製の一枚らしい」

 

 見る人のことを考えた、粋な一枚ってことだ。

 はー、しかし見事な絵だなぁ。

 

「どこに飾りましょうか」

 

 ひとしきり絵画を楽しんだ後、梱包していた箱を片付けたヒスイさんが、そう尋ねてくる。

 

「配信に映したいから、遊戯室の壁かなー。あっ、そうだ……!」

 

 いいことを思いついた。次の配信は、この絵画を視聴者に見せつつ、自己紹介も兼ねることにしよう。

 リアルの部屋から配信だ!

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「どうもー、21世紀おじさん少女だよー。正月休みが明けて、初めての配信だ!」

 

「助手のヒスイです。惑星テラへと戻りまして、今日はいつものヨコハマ・アーコロジーの自室からお送りします」

 

『わこつ』『新鮮な配信だー!』『よきよき』『よきかな』『うわー、異星の人がいるー!』

 

 そうして始まった生配信。今日は今までとは違い、ギルバデラルーシの人達がアクセスしてきている。人類の視聴者は驚いているようだが、どうにか慣れてほしい。

 

「うんうん。新年からは、二つの種族が混在して視聴するようになったぞ。人類の人達も、どうか寛容にギルバデラルーシの人達を受け入れてほしい」

 

『まかせろー』『もうSNSでフレンドになったもんねー』『ネトゲで初心者講習手伝いました!』『人類の方々には世話になった』

 

 うーん、なんともワールドワイド。いや、この場合はユニバーサルワイドか?

 仲よさげな様子に俺は満足し、配信を先に進めることにした。

 

「さて、新年初の配信ということで、初見の人もだいぶいると思う。自分のことながら、記念祭でだいぶ目立ったし、惑星ガルンガトトル・ララーシからの初接続も多いはず」

 

「ヨシムネ様の公式デビューでしたからね。開始直後ながら、いつもよりも接続数がだいぶ増えています」

 

 ヒスイさんがそう言いながら、接続者数を空間投影でポップアップさせた。

 うへえ、こりゃすごい接続者数だ。

 だが、俺はそれにひるむことなく、言葉を続ける。

 

「そういうわけで、改めて、この配信チャンネルの仲間達を紹介していきたいと思う。題して、『ウリバタケ・ヨシムネのお宅拝見』!」

 

 俺がそう言うと、ヒスイさんが横で小さく拍手をした。画面上には、きっとヒスイさん作のタイトルがポップアップしていることだろう。

 

『自己紹介ではなく……?』『ヨシちゃんのおうちを見られるの?』『ヨシちゃんのプライベートスペース……!』『人類の生活空間か』『興味深い』

 

「ふふふ、気になるか? おじさん少女の自宅が気になるか? 俺なら正直中年男性の自宅紹介とか、勘弁してほしいけどな!」

 

『おじさんとか関係なく21世紀人の生活様式は気になる』『その視点があったか……!』『歴史的価値が?』『いやあ、さすがに600年前の生活は再現していないだろう』

 

「さあ、どうだろうね。というわけで、まずは俺の自室から見ていこうか。あ、リアルの配信なので、カメラ役はカメラロボットのキューブくんが担当しているぞ!」

 

 俺がそう言うと、前方で宙に浮く球体ロボットのキューブくんが、電子音を出して返事を返してくれた。

 そうして、俺とヒスイさんは配信開始地点の居間から移動して、俺の自室に入った。

 

「これが俺の部屋だ!」

 

 ババーン、と映したのは、カーペットの敷かれた一人部屋だ。

 部屋の隅には布団が畳んであり、壁に沿うようにして棚が置かれている。その棚の上には、未来のロボプラモであるマーズマシーナリーのセルモデルや、ブリタニア土産の馬のぬいぐるみなどが飾ってある。

 まだ棚はスカスカだが、今後旅行の機会も多いだろうから、少しずつ品は増えていくだろう。

 

『これが人類の寝室であるか』『あれ? ベッドは?』『エナジーベッドじゃないの』『いや、布団があるからそれを床に敷くんだよ』『あー、あの隅のふかふかした寝具か』

 

「そうだぞ。この布団っていう寝具を床に敷いて、その上に寝るんだ」

 

 俺がコメントにそう返すと、床に寝転ぶのかと驚く視聴者が出た。

 

「いやー、でも、21世紀の頃から布団で寝るのに慣れているからね。今さらベッドとか違和感あるわ」

 

『最古参の視聴者は、『-TOUMA-』で布団を見慣れているぞ!』『なるほど?』『くっ、ここにきて古参アピールか……!』『『-TOUMA-』はライブ配信のアーカイブたどらなくても動画で見られるから、最古参でなくても見てるぞー』

 

 おおっと、そういえば、俺がこの時代に来てからの初の配信ゲームは、江戸時代の日本が舞台だから、布団で寝る風景もお馴染みか。

 

「ちなみに押入れっていう、布団を本来しまう場所を開けると……」

 

 俺は、部屋に据え付けられた押し入れの引き戸を唐突に開ける。すると、その押し入れ内の上の棚に、一人の少年が横たわっているのが見えた。

 

『ひえっ!』『なんじゃあ!?』『えっ、人?』『ホラー展開!』

 

 いや、暗がりに人が横たわっていて驚くかもしれないが、そんな物騒な何かじゃない。

 

「ウリバタケ家の愉快な仲間の一人、アンドロイドボディに家事ロボット用簡易AIを積んだ、ホムくんだ。基本的に家を留守にするときに留守番役として起動させるから、普段はここで電源を落としているぞ」

 

『あー、そういう』『死体かと思った』『押入れっていうのは、要は荷物置き場か』『クローゼットじゃないんだね』

 

 クローゼットの中に立たせておいて、開けたらホムくんが! という方が視聴者に対してインパクトはあっただろうけど、ヒスイさんに止められたんだよね。普段通りの風景を見せるべきだって言われて。

 

「というわけで、俺の部屋は以上だ。まあ、寝室として使っているから、面白いものは特にはなかったな」

 

 面白いものは、十分あった(ホムくん)という突っ込みを受けつつ、次はヒスイさんの部屋の紹介だ。

 

「ヒスイさんの部屋はすごいぞー。さあ、オープン!」

 

 一度居間へと戻り、そこからヒスイさんの部屋へと続くドアへと向かう。

 未来的な自動ドアがスライドし、その先にあったのは……。

 

「イノウエさん専用キャットハウスだ!」

 

 キューブくんのカメラが、ヒスイさんの部屋を赤裸々に映す。

 ヒスイさんの部屋は、部屋中が猫のための玩具と施設であふれていた。部屋の壁にはキャットタワーが設置され、その頂上には猫型ペットロボットのイノウエさんが寝転んでいる。

 

『ええっ……』『マジか』『これはひどい』『これ、ヒスイさんの部屋じゃなくて、イノウエさんの部屋では?』

 

「イノウエさんの居場所が、私の居場所です」

 

 俺の隣で、ヒスイさんが誇らしげに言う。

 俺も正直この個人部屋とは思えない猫天国にはあきれているんだが、ヒスイさん曰く、「自室は自分をいたわるための部屋。つまり、私がイノウエさんに癒やされるための部屋です」だそうだ。

 まあ、ペットであるイノウエさんが思いっきり行動できる部屋が、どこかに必要だということは、俺も理解しているんだが……。

 

「ちなみにヒスイさんの部屋には寝具はないぞ」

 

『驚愕』『本当か』『AIとは休まなくていいのか?』『疲れない・病まないが、AIの強みだからな』

 

 俺も21世紀にいた頃はパソコンを24時間電源入れっぱなしにしていたから、それより高度な機械であるこの時代のアンドロイドやAIが、24時間の常時稼働に耐えられるのは当然だった。

 

「というわけで、猫の楽園ヒスイさんワールドでしたー。さあ、次行くぞー」

 

 次に向かったのは、園芸部屋。

 我が家はベランダがないので、植物用のライトを設置してある。夜になると消灯する。

 

 家にベランダがないのはちょっと窮屈だけど、日の当たる方向のことを考えずに園芸ができるのは楽と言えば楽。

 

「本当は、ガルンガトトル・ララーシの結晶生物を育ててみたいんだけどなー」

 

「結晶生物は惑星外への持ち出しが規制されていますので、不可能ですね」

 

 園芸部屋で元気にワサワサ動くマンドレイクのレイクを眺めながら、俺とヒスイさんはそんな言葉を交わした。

 うーむ、いつか結晶生物が輸出される日が来るだろうか。

 

『惑星テラの環境では、生育は難しい』『ああ、ガルンガトトル・ララーシって気温すごく高いんだっけ』『二〇〇℃だったか三〇〇℃だったか……』『むしろ、なんでマンドレイクは惑星テラで育つの?』

 

 レイクの原産地、惑星ヘルバは惑星テラに酷似した環境の惑星らしいからなぁ。

 

「今年も作物を育てて料理する予定だから、楽しみにしてくれよな!」

 

 というわけで、料理をするための台所へと移動。

 21世紀風のシステムキッチンに、冷蔵庫と、時間停止機能付きの食料保存庫。その食料保存庫に繋がった形の自動調理器。

 

「我が家の自動調理器は高級品なので、食料保存庫から自動で材料を取りだして料理を作ってくれるぞ!」

 

『うわ、うらやましい』『地味に面倒臭いんだよな、自動調理器に手動で食材入れるの』『数百年前は家庭用ロボットがあらゆる家事をやってくれたらしいのに……』『一家に一台家事ロボットほしい……』

 

 あー、昔の中流家庭には、家事ロボットなるマシーンがあったらしいね。

 現在では、膨大な人数がいる全ての二級市民に支給することが困難なので、家事ロボットは廃れたらしいけど。

 

 代わりに、それぞれの家事をこなす個別の家電が存在する。

 家事ロボットが掃除洗濯炊事全てをやっていたのに対して、現在では自動化された掃除用家電、洗濯用家電、炊事用家電がそれぞれ各家庭に存在するわけだ。

 どうやら格安の炊事用家電は、食材を手動で投入する必要があるようだけれども。

 

 この時代の二級市民は、宵越しの金は持たない主義の人が多すぎて、行政から無料配付される最低限の格安家電で生活している人が多いらしいんだよなぁ。

 まあ、そんな他所様の台所事情はともかく、次の部屋だ。

 

「最後に、遊戯室だ! ここで普段、VRゲームを遊んでいるぞ!」

 

 キューブくんを率いて向かった先には、部屋の一画に大きな椅子が置かれている、広めの部屋があった。

 椅子はVRゲームに接続するためのソウルコネクトチェア。その他に、値段のお高いコンピュータも置かれている。そのコンピュータを使って、この我が家全体の管理を行なったり、配信作業を行なったりしている。

 

 ちなみに、部屋にはコンセントが存在しない。この時代の家電は、全て非接触給電である。コンセントに溜まった埃が原因の火災なんて起きようがないのだ。

 その旨を視聴者に向けて言ったら、『コンセントとは……?』と困惑したコメントが返ってきた。うーん、ジェネレーションギャップ(六〇〇年)。

 

「まあそれはそれとして、本日の目玉は、これだ!」

 

 俺はそう言って、キューブくんに壁の絵画を映させる。

 

『おお!?』『これは……』『ヨシちゃんとヒスイさんと……?』『よきかな』『小さいギルバデラルーシ?』『よきよき』

 

「これは惑星ガルンガトトル・ララーシで、ギルバデラルーシの人達向けに配信した、ダンスゲームのプレイ風景の絵画だな。背の低いギルバデラルーシは、VR空間で小さくなった大長老のゼバ様だ。友好の証に、ギルバデラルーシの有名画家さんが描いてくれた」

 

 俺がそう解説すると人類側の視聴者達が、そのダンスゲームの配信アーカイブを見たいと言ってきた。

 

「だそうだけど、ヒスイさん?」

 

「ガルンガトトル・ララーシでの限定配信のアーカイブは、後日公開します。お楽しみに」

 

「だってさ。いやー、待たせるねー」

 

「私達だけで完結した配信ではないため、公開までに時間がかかっています。ご了承ください」

 

 まあ、ギルバデラルーシの人達の事情とかもあるだろうからね。仕方がない。

 

 それから話を戻して、絵画の話題に。ギルバデラルーシの文化についても、知りうる限りで視聴者達に説明していく。

 

「しかし、この塗料? 顔料? 絵に使う素材からして人類のそれとは違うんだけど、絵自体はちゃんと人類に通じるものがあるよなー」

 

『確かに、理解できない絵ではない』『むしろ人類が描いた前衛的な絵画の方が、理解しにくいこと多いわ』『人類の絵画も気になるな』『人類の音楽はよかった。次は絵画か』

 

「人類の絵画かー。絵心がないから、その辺はよく分からないなぁ」

 

 視聴者のコメントにそう返すと、横からヒスイさんが言う。

 

「絵画の練習ができるゲームを見つくろっておきますか?」

 

『画伯ヨシちゃん!』『よきかな』『こうして一人の有名絵師が誕生するのであった』『次やるゲームは決まったな……』

 

 決まってないよ!?

 

「いや、俺、本当に絵は下手なんだって! 学校の美術の成績は底辺をさまよっていたし、演劇部でも書き割り作りには手を出すなとか言われていたし……」

 

「音痴を克服したヨシムネ様なら、いけます」

 

「いやいやいや、歌唱力とダンス力の次は画力とか、ヒスイさんは俺をいったいどんな人間にしたいの!?」

 

 俺の突っ込みに、ヒスイさんは柔らかい笑みを返すのみ。

 そんなオチを最後に、正月休み明け最初の配信は無事に終了時間を迎えるのであった。

 

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