21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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EX7.野球しようぜ!

 とある日の昼下がり。次の配信についての打ち合わせを終え、ヒスイさんが淹れてくれたコーヒーをのんびりと楽しんでいると、不意に来客を知らせる玄関チャイムが鳴った。

 すぐさまヒスイさんが玄関に向かうと、聞き慣れた声が玄関の方向から響いてきた。

 

「おーっす、ウリバタケー、野球行こうぜー」

 

 いつぞや聞いたものと同じ台詞で登場したのは、ミドリシリーズの姉妹の一人。プロのアンドロイドスポーツ選手であるオリーブさんだ。

 

「オリーブさん、いらっしゃい。また野球観戦の誘いか?」

 

 以前も、オリーブさんは日曜夕方アニメのナカジマくんのノリで、野球観戦を誘ってきたことがある。

 現在は二月。21世紀の日本だと、プロ野球はまだ開幕していない時期だが、こちらではどうなのだろうか。

 

「いや、今回は観戦じゃないぞ。野球、しようぜ!」

 

 ニコリと笑って、オリーブさんがそんなことを言い出す。

 

「……草野球でもすんの?」

 

 野球経験なんてないんだけどなぁ、俺。オリーブさんとキャッチボールをしたことがあるくらい。試合の類は、学生時代に体育の授業で、ソフトボールを何回かやった程度である。

 そんな事情を説明する前に、オリーブさんは笑顔でまくし立てるように言ってきた。

 

「聞いておどろけ! なんと、プロ野球のオープン戦に出られるぞ!」

 

「……は?」

 

 え、ちょっと待てよ。プロ野球って、プロ野球だよな?

 

「いやいやいや、プロ野球って、プロに交じって俺が出るってこと?」

 

「うん、その通り」

 

「いや、おかしいだろ!?」

 

 俺が叫ぶようにそう言うと、オリーブさんはニヤリと笑って言葉を返してくる。

 

「安心しろ。単なる始球式の誘いだ」

 

「あっ、そういう……」

 

 俺はホッとして、椅子から浮かしかけていた腰をおもむろに下ろした。

 それからオリーブさんが詳しく説明するというので、とりあえず席に着いてもらい、ヒスイさんにコーヒーと茶菓子を出してもらうよう頼んだ。

 

 俺も冷めかけていたコーヒーを一口飲んで落ち着き、改めて対面に座ったオリーブさんの説明を聞く。

 

「ヨシも知っての通り、ヨコハマ・スポーツスタジアムはプロ野球の試合が開催される場所だ」

 

「去年、オリーブさんと一緒に観戦しにいったからな。さすがに覚えているよ」

 

「で、今は二月。この時期は、伝統的なオープン戦の時期だ」

 

 オープン戦か。確か、プロ野球のリーグが本格開催される前に行われる試合のことだったかな。

 オープン戦はリーグ優勝を決める勝敗にはカウントされない、練習的な意味合いを持つ非公式試合だったはず。

 

「つまりだ。ヨコハマ・スポーツスタジアムでオープン戦を一試合やるってわけ。その始球式に、ヨコハマのアイドルであるヨシが抜擢された。うん、姉として鼻が高い!」

 

「いつの間に俺、ヨコハマのアイドルになってんの?」

 

 俺がそんな疑問を挟むと、キッチンから菓子の皿を持ってきたヒスイさんが言う。

 

「今までの実績を考えれば、当然だと思います」

 

「……確かに、ヨコハマの催し物には、何回か出ているなぁ」

 

「さらに、宇宙暦300年記念祭のステージに出演したことで、ヨコハマが生んだ宇宙的アイドルとして、局所的人気が出ているそうです」

 

「そんなことになってんの!?」

 

「ハマコ様からそう聞いております」

 

 ハマコちゃんかー。ヨコハマ・アーコロジーの観光局員さんだ。

 

「つまり、ヨコハマで行われる催し物のここ一番を任せるに相応しい奴として、ヨシが抜擢されたってことだ。誇っていいぞ!」

 

 オリーブさんはそう言ってから、茶菓子に手を付け始めた。

 

「なるほどなー。ま、そういうことなら出てみるかな」

 

 そう答えると、俺も目の前に置かれた茶菓子を食べることにする。バウムクーヘンだ。自動調理器は、お菓子も作ってくれる万能家電である。

 それから菓子とコーヒーを平らげ終わると、オリーブさんが改めて言った。

 

「んじゃ、始球式は出るってことで……練習、しようぜ!」

 

 始球式の練習か。どうせなら綺麗な豪速球、投げてみせるぜ!

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 そして時は過ぎ、二月末。ヨコハマ・スポーツスタジアムのマウンドに、俺は立っていた。

 今日の俺は、始球式に相応しい格好をしていた。上はニホンタナカサムライズのユニフォーム。下は白いラインが入った黒のジャージだ。

 左手には、革の野球グローブをはめている。何も持たないフリーな右手は、観客席へ向けて手を振ることに使う。

 

 マウンドの上で俺は、スタジアムに満員となった観客から見守られながら、開始の時を待つ。

 やがて、打席にニホンタナカサムライズのマスコットロボットであるイエヤスくんが立つ。キャッチャーは同じくニホンタナカサムライズの監督だ。

 

 さあ、練習の成果を見せるときだ。

 グローブの中に収まっていた硬球を右手に握る。そして、オリーブさんに指導された投球フォームで、キャッチャーへ向けて硬球を投げ放った。

 

「行けえ!」

 

 そうして放たれたボールは……ふんわりと山を描き、ゆっくりとキャッチャーへ向けて進んでいく。

 キャッチャーとしてミットを構えていた監督は、余裕をもってそのボールをキャッチする。それから遅れて、イエヤスくんが軽くバットを振り、ふんわりとした空振りを見せた。

 

 ……うん、様式美だ。

 それからスタジアムに拍手が響き、俺は両手を上げて観客席へ向けて腕を大きく振った。

 

 拍手に続いて歓声も響き、「ヨシちゃーん」と俺を呼ぶ声まで聞こえてきた。

 

 観客へ十分にアピールを終えた俺はマウンドを降り、ダイヤモンドから歩いて去る。

 控え室に移動しスタッフさんからねぎらわれた俺は、そのままユニフォームを着た状態でヒスイさんとオリーブさんが待つ観客席へと移動する。

 

 内野の指定席。そこへ向かうと、周囲から拍手が向けられた。それに対し、俺は笑顔で「どうもどうも」と返しながら、ヒスイさんとオリーブさんの間に空けられた席に座る。うーん、両手に花だな。

 

「おつかれさまです」

 

「おつかれー」

 

 二人にそう言われ、俺は「なんとか練習通りにいけたよ」と息をついた。

 

「おう、ヨシ。見事な山なりボールだったな!」

 

 オリーブさんのその言葉に、俺は笑顔で言葉を返す。

 

「アイドルっぽかったか?」

 

「完璧!」

 

 そう言い合い、俺とオリーブさんは二人であははと笑った。

 うん、俺は始球式の練習をしっかりしたが、豪速球を投げる練習はしなかった。

 

 オリーブさん曰く、アイドルたるもの、ゆるい雰囲気でゆるいボールを投げてこそ、だそうだ。

 

 思い返してみると、以前オリーブさんが始球式に出たときも、ゆるいヘロヘロボールを投げていた気がする。

 始球式で求められる仕事は、観客達が笑顔で試合の始まりを迎えられることだ。オリーブさんはそう主張する。

 

 運動に縁のなさそうなアイドルが始球式で豪速球を投げれば、それはそれで意外性があって盛り上がるだろう。

 しかしだ。俺やオリーブさんは、超高性能のガイノイドボディ。豪速球を投げられるのは当然で、そこに意外性は欠片もない。

 それならば、ゆるい雰囲気でふんわり始球式を終えた方が、より盛り上がるそうだ。

 

「見事に仕事をこなしましたので、今後こういった仕事が増えるかもしれませんね」

 

「そっかー。スケジュールが合えば、受けてもいいかもしれないな」

 

 ヒスイさんの言葉に俺はそう返し、始まっていた試合に目を向けた。

 ちなみに、俺はアイドルの職で一級市民になったわけではなく、生身の肉体を献体したことで一級市民になっている。なので、仕事を受ければ、その分だけギャラが支払われる。これ以上、資産が増えても使い道はないのだが……まあ、減るならともかく増える分には問題は起きないので、気にしないでおこう。

 

 さて、仕事は終えたので、後は野球観戦を楽しもう。

 と、その前に……。

 

「お姉さーん、ビールください!」

 

 俺は観客席を練り歩いて売り子をしているガイノイドからビールを一杯受け取り、勢いよく喉に流し込んだ。

 仕事終わりに野球観戦と来たら、ビールがないとな!

 

 そうして俺は、旧世紀から続く伝統的競技のオープン戦を心行くまで楽しんだのだった。

 

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