21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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番外編2
EX11.新たな案件


「行政府から、是非ともプレイする様子を配信してほしいと、最新ゲームの案件が届いています」

 

 とある日の朝、食後の一休み中にヒスイさんがそんなことを切り出してきた。

 

「行政府って、マザーから?」

 

 行政府という言葉は今までも何度か耳にしたことがある。人類全体をまとめる中央政府の名称だったはずだ。

 

「そうですね。マザー・スフィアの承認を受けた、行政府名義での依頼のようです」

 

 へえー。マザーという一種の友人伝いの話ではなく、行政府からの正式な案件ってことね。

 宇宙暦300年記念祭に出演して、俺も知名度が上がったって事だな! 俺もいよいよもって人気配信者の仲間入りか。

 

 と、内心で自画自賛していると、ヒスイさんが説明を続けた。

 

「ギルバデラルーシ向けに、人類の食文化を紹介するという案件ですね」

 

「食文化って、普段から料理配信しているけどそういうのではなく?」

 

 21世紀式の料理風景を映すリアルでの配信は、人気コンテンツなのでおおよそ月に一回程度のペースで続けているが……。

 

「はい、そういうのではなく、です。食品製造の様子をゲーム配信の形で見せてほしいと。最新のシミュレーター系ゲームで食材の生産、及び加工を見せるという趣旨になります」

 

「あー、農業シミュレーターみたいな」

 

「それの宇宙暦300年版をプレイする形ですね」

 

 シミュレーター系ゲームか。俺がもといた時代だと、ドイツがやたらとリリースしていたんだよな。ゲーム性の高いものから、虚無を感じるものまで様々だった。

 それの未来版をギルバデラルーシの人達に見せたい、と。

 

「でも、ギルバデラルーシの人って、人類の食に興味持ってんの?」

 

 俺がそう疑問をぶつけると、ヒスイさんは「ええ」と答えて説明を始めた。

 

「ギルバデラルーシの方がSC空間上で人類のアバターを操作し、料理を食べ、味を正常に感じることが可能となっています。最新の技術交流の成果の一つですね」

 

「そうらしいね。前に聞いたときも思ったけど、科学の力ってすげー」

 

「ヨシムネ様も、ゲームでギルバデラルーシになって結晶食を楽しむことも可能ですよ」

 

 異種族間でも料理を楽しめるとか、技術力すごいな……。

 

「そのような事情で、人類の食文化に興味を持っているギルバデラルーシの方々が増加中とのことです。そこで、人類の食品製造の現場をゲーム配信という形で気軽に見ていただこうということですね」

 

 なるほどなー。俺の配信の視聴者層って、ギルバデラルーシの見ている割合、結構多いからな

 

「よし、その案件受けるよ」

 

「了解しました。行政府に返事をしておきます」

 

 そういうことになった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 その日の午後、行政府のスタッフが早速とばかりに俺の部屋に訪ねてきた。配信の打ち合わせのためだ。

 

「今回プレイしていただくゲームは、『食品生産工場シミュレーター300』です!」

 

 そんなことをハキハキと告げる行政府スタッフ。またの名をハマコちゃんという。

 

「……今回の案件って、ヨコハマ・アーコロジーからの依頼だっけ?」

 

 行政府のスタッフというから、お堅そうなアンドロイドでも来るかと思っていたのだが……。

 実際にやってきたのは、もはやお馴染みとなったヨコハマ・アーコロジー行政区の観光局所属のガイノイド、ハマコちゃんであった。

 

「ヨコハマ・アーコロジー行政区は行政府の下部組織ですからね。で、その行政区で一番ヨシムネさんに馴染みが深い人材が、私だったというわけです」

 

「観光大使のお仕事ではないと」

 

 俺がそう確認するように問うと、ハマコちゃんは「その通りです!」と元気に答えた。

 

「あっ、でも一応、今回の案件はヨコハマ・アーコロジーと少し縁があるんですよ。なんと、このゲーム、ニューヨコハマフードカンパニー監修なんです」

 

 ヨコハマ・アーコロジー所属の企業が監修しているシミュレーターってことか。って、待てよ。この企業名……。

 

「そのカンパニー、どこか聞き覚えがあるような……」

 

「『ヨコハマ・サンポ』で立ち寄った食品生産工場ですね」

 

「ああー」

 

 キッチンからお茶を運んできたヒスイさんが横から入れた言葉で、そんな場所もあったなと思い出す。

 

 確か、ヨコハマ・アーコロジーを巡るARゲーム『ヨコハマ・サンポ』をプレイしたときに、見学した工場だな。

 野菜の水耕栽培とか、水槽での食肉培養とか見た記憶が残っている。

 配信中だったため、駆け足での見学となってしまったが、インパクトは大きかった。特に食肉培養が。

 

「ニューヨコハマフードカンパニーは、積極的な見学者受け入れをしていてくださるので、観光局としてもなにかとお世話になっていますね」

 

 ふむふむ、ハマコちゃんとしても馴染みがある企業ってことか。

 しかし、本物の食品生産工場が監修しているとなると、相当本格的なシミュレーターとして作られていそうだな。実際どうなのか、そのあたりをハマコちゃんに尋ねてみる。そこんとこ、どうよ?

 

「いえいえ。割とコンパクトな作品ですよ。シミュレーターとしてボリュームが小さいのと、ギルバデラルーシの方に気軽に触れていただきたいという観点から、なんと無料配付されているんです! 無料ですよ、無料!」

 

 フリゲかよ。いや、商業的観点から無料で配付しているなら、西暦2000年代初頭のパソコンでプレイできるフリゲのイメージで見たら駄目なんだろうが。

 00年代のフリゲ界隈はまさしく黄金期であった……。いや、今は関係ないか。

 

「ボリュームが小さいというと、以前やったシミュレーションゲームの『al-hadara』みたいな規模かね……」

 

 俺の横に座ったヒスイさんの方を見ながらそう尋ねると、ヒスイさんからは否が返ってきた。

 

「シミュレーターですから、明確なクリアはありませんが……確認してみたところ、工場の規模は相当大きくできるようですね。惑星一個をまかなえる大規模工場まで発展させられます」

 

「今回の案件は配信一回分の契約ですから、そこまでやりこまず一通り触れてくださるだけで十分です!」

 

 と、ヒスイさんに続けて、ハマコちゃんが言った。

 なるほど了解。ゲーム紹介みたいにやればいいってことかな。まさしく配信者に振られる案件って感じだ。たまにはこういう配信も悪くはないだろう。

 

「となると、配信前にリハーサルでプレイした方がいいか?」

 

「いえ、是非とも初見プレイで!」

 

 俺の問いに、ハマコちゃんが即座にそう答えてきた。

 

「それでいいならそうするが……本当にいいのか?」

 

「視聴者は、ギルバデラルーシの方々だけではないですから。人類側の視聴者は、ヨシムネさんの21世紀人としての現代工場に対するリアクションを期待すると思いますよ!」

 

「あー……、いつものやつね」

 

「はい、いつものです!」

 

 というわけで、内容の詳細は不明なまま配信に挑むこととなった。

 まあ、以前、食品生産工場へ見学に行ったから、そんなに新鮮なリアクションを求められても困るんだが。でも、元農家としては、未来の農業の詳細が割と楽しみではある。

 

「で、当日は、ハマコちゃんって出演するのか?」

 

 と、シミュレーターの内容で話すことがなくなったので、全体の流れについて打ち合わせを始めたのだが……。

 俺がそんなことをハマコちゃんに問うと、ハマコちゃんはキョトンとした表情で返してくる。

 

「え? 私がですか? 出ませんよ?」

 

「出ないのかー。せっかく打ち合わせまで参加しているのに」

 

「今日の私はあくまで、行政府の人として打ち合わせして来ているだけですから。観光大使のお仕事ではありませんよ!」

 

「と見せかけてー」

 

「出ません!」

 

「出ようぜ!」

 

「では出ます!」

 

 そういうことになった。

 

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