21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信! 作:Leni
さて、必要な栄養素材が集まったので、肉の生産に取りかかっていこう。
培養肉と合成肉の選択肢があるが、せっかくだから二つとも導入しようと思う。両者とも加工して、試食で食べ比べだ。
まずは、培養肉から。
「食肉培養器と、培養液精製器を購入と」
そうして搬入された食肉培養器は、人間の子供サイズの透明な容器だった。大きなシリンダーとでも表現すれば良いのだろうか。早速とばかりに配置して、同じく搬入された培養液精製器も近くに並べて両者を接続する。
そして、初期から工場で働き続ける万能お世話ロボットに培養液を精製させる。すると、培養液精製器から食肉培養器に培養液が流れ込み、シリンダー内部がにごった液体で満たされた。
「さて、なんの肉を作ろうか」
どうやら培養する肉の遺伝子情報なるものも、購入する必要があるらしい。
とりあえず……。
「牛肉かな」
『牛かー』『王道』『癖の少ない味』『牛とは?』
おっと、ギルバデラルーシにとっては、牛も未知の生物か。
とりあえず、遺伝子購入画面から対象生物のプレビューを表示させた。
「これが牛だ。品種によって体毛の色は様々だが……今回は、そうだな。黒毛和牛を選ぼう」
真っ黒な体毛に、ガッチリとした体躯。立派な角に愛嬌のある顔。うん、牛だ。
『強そう』『サイボーグじゃない生身の人間だと、突進されたら死ねる』『角が厳ついなぁ』『この体躯ならば食べごたえがありそうだ』
視聴者の反応も悪くないので、黒毛和牛の遺伝子情報を購入。
そのデータを食肉培養器にセットして、培養器のメニューを操作していくと……。
「おっ、培養する部位が選べるな」
「ジャーキーにするなら脂が少ない部位が良いですよ! 外もも肉がオススメです!」
ハマコちゃん、ジャーキーやけに推すじゃん。まあいいや。外もも肉の培養で、っと。
そうして稼働を始める食肉培養器。しかし、じっと見ていても、これといって何も発生しない。そのため、時間を早送りすることに。
すると、シリンダー内部の液体に浮かぶようにして、小さな組織片が発生した。
それは時間の経過とともに増殖を続け、やがて大きな肉塊へと変わった。
『うわあ……』『神秘的な光景である』『かなりグロテスクだなぁ』『グロテスクか。カブの栽培風景とさほど変わらないのでは?』
うん、人類とギルバデラルーシで反応が二分したな。ギルバデラルーシにとっては、生肉の増殖は野菜の生長とたいして違いがないのかぁ。有機生命とケイ素生命の視点の違いよ……。
まあ、人類側である俺は、一度ヨコハマ・アーコロジーで培養肉の製造現場を見ているからか、そこまでショッキングには感じていないが。
「精肉の培養ですから、まだグロテスクさは少ない方ですよ。食肉培養技術のもとは人類用の再生医療ですから、そちらの方面では培養器に眼球や内臓などが浮かぶことになります!」
ハマコちゃんが、そんな説明を挟んできた。
なるほど、再生医療か。遺伝子情報があれば好きな動物の肉の部位を選んで培養できるってことは、人体でも同じことが可能に決まっているよな。
「人体の悪くなった部位を取り替え放題ってことか」
「はい、脳以外は……と注釈が付きますが!」
「魂にも記憶が詰まっているにしても、脳を新品にしたら駄目だよな。となると、脳の寿命が現在の人類の寿命ってことになるのかね」
「脳に関しても、たとえ損傷したとしても、インプラント端末で補助演算がされます。なので、ヨシムネさんがいた21世紀と違って、痴呆の心配もありませんよ!」
「600年の進歩ってすごいなぁ……」
「脳以外を総取り替えしての性転換すら可能なのが、今の医療ですね」
うーむ、俺みたいに異性のアンドロイドボディへ換装しなくても、生身で性転換すらできるとは……。未来すごい。
と、そんな会話をハマコちゃんと繰り広げている間に、培養器の中の肉塊が人間の頭ほどの大きさまで成長した。
やがて、培養器から製造完了の合図が出て、培養器の中から培養液が付属のタンクへと流れ出ていく。
そうして、培養器の底には見事な肉の塊が残った。
「次はいよいよジャーキーの作成ですね!」
「あ、ごめん。肉の加工機材買ってなかったわ」
「ええっ!? ガッカリですよ、ヨシムネさん!」
いやー、すまんかった。とりあえず、培養肉第一号は、そのまま市場に出荷っと。
あらためて、次こそはと機材を買いそろえ、ついでにジャーキーの味付け用に醤油を醸造する設備も整える。醤油の材料として大豆はすでにあるので、小麦のゼリー土栽培だ。
成分を集めるだけで完成する合成醤油なるものも造れるようだが、せっかくだから一からの醸造を試してみた。
そうして、いよいよ牛の外もも肉と、醤油を始めとした調味料の用意が整った。
調理用の機材で、醤油味のジャーキーが作られていく。機材はステンレスの箱といった見た目だが、内部カメラでジャーキーが作られていく様子を映像で見ることができた。
ジャーキーの形状も自由に選ぶことが可能だったため、とりあえず定番の平たい長方形で作らせた。
「試食しましょう!」
完成すると同時に、ハマコちゃんがそんなことを言い出した。
食いしん坊キャラかよぉ、とツッコミを入れそうになるが……いや、俺は分かっているぞ、ハマコちゃん。配信の進行に協力してくれているんだよな?
なにせ、俺の配信にはこれといった台本がない。だから、途切れない進行をするには、こうやってアドリブで配信が面白くなりそうな発言をしてもらう必要があるのだ。よきかな。
そうして、目の前に並べられたできたてのビーフジャーキー。それを俺とハマコちゃんが一枚ずつ手に取り、口に運ぶ。
うん、なかなか美味しいじゃないか。
「この馴染みのある醤油味がいいですね!」
「だよなぁ。日本人は醤油がなきゃ駄目だな」
ハマコちゃんと俺は、そんなことを言い合いながらジャーキーを一枚食べきった。
視聴者コメントは、味が気になるという声で一色となった。
さて、次は合成肉だ。
今までこの時代で生活してきて知り得た情報だが、合成肉は培養肉より安い。
しかし、その理由までは知らなかった。だが今回、その製造工程を見て、理由を察することができた。
「カートリッジに素材を詰めて、プリンターで肉を印刷……培養液で増殖させるのと違って、材料と製造時間に無駄が少ないな」
目の前で作られていく合成肉を見て、俺はそんなコメントをした。
肉の印刷、すごいな。3Dプリンターでの時間をかけた印刷というよりも、判子を押すかのようにポンと一瞬で成形完了しているけれども。
完成した合成肉をよく見ると、ちゃんと脂のサシも入っている。合成の仕上げ項目に霜降りがあったのには、思わず笑ってしまった。日本人がやたらと神聖視している、あの霜降りだ。今回作るのはジャーキーのため、脂少なめの赤身肉を仕上げ項目で指定したが。
そうして完成した合成肉を先ほどの調理用の機材で、醤油ジャーキーに加工した。
その味はというと……。
「こっちも美味い」
「ですね!」
「培養肉より合成肉の方が安いから、味が劣っていると思っていたが……それはないようだな」
「市場価格はあくまで、製造コストの違いでしかないということですね!」
『製造工程は合成肉の方が見ていて面白い』『培養肉も悪の組織っぽくて悪くないぞ!』『悪の組織じゃなくて市民のための工場なんだよなぁ』『道具を使った食糧生産は効率が良いな……』
というわけで、試食も終わったので、各種商品を並行して生産し市場に流していく。
扱う品目もだいぶ増えたため、運営資金がどんどん貯まっていく。
プレイは順調だ。だが、そろそろ配信の終了予定時間が近い。何か新商品を開発するとしても、あと一個が限界だろう。
……そう思ったときのこと。ヒスイさんが不意に告げた。
「食糧が十分行き渡り、惑星の人口が増えました。その結果、超能力の使用が解禁されたようです」
おっと、それはまさか……。
「エナジーマテリアルの導入や、超能力を用いる設備の購入が可能となりました」
「よしよし、それじゃあ、超能力設備を導入するぞ!」
「こちらが、現在導入可能な製品カタログとなります」
「どれどれ……」
ヒスイさんが差し出してきた空間投影画面にさっと目を通していく。
……おっ、いいのがあった!
「お世話ロボットに、サイコキネシス機能搭載! アップグレードだ!」
『まさかの』『そこかよぉ!』『賢い』『サイコキネシスは便利だ』『どこまでロボットを使い倒す気なんだ、ヨシちゃん』『よきかな』
そうして実施されるアップグレード。お世話ロボットはサイコキネシスを使い、縦横無尽に工場内を駆け巡るようになった。
アームを使うことなく食材を運ぶとかの方向を予想していたんだが、まさか自身の移動に使うようになるとは……。お世話ロボットの周囲だけ無重力空間みたいだ。
と、そんな機動兵器と化したお世話ロボットの姿を見ている間に、配信終了予定時間となった。
最後まで視聴者の反応はよく、ギルバデラルーシらしきコメントも多かったため、今回の案件は好感触だったと言っていいだろう。
しかし、まだまだ導入できる要素は多く残っていた。プライベートで続きをプレイするのも悪くないかな、と思うのだった。
◆◇◆◇◆
案件配信の翌日。次の配信をどうするか、居間でヒスイさんと打ち合わせしていると、部屋にハマコちゃんが訪ねてきた。
昨日の配信の反省会でもするのかと思っていたら、なにやらハマコちゃんは荷物をかかえていた。
「こちら、ヨシムネさん宛ての贈答品です!」
「うん? 行政府からの報酬か何か?」
「いえ、ニューヨコハマフードカンパニーからですね」
「……?」
昨日のゲームを監修した企業から、なぜ贈答品が?
あれかな。商業誌に連載している漫画に、実在するお菓子を登場させたら、お菓子を製造している会社から感謝のお菓子が贈られてくるみたいな?
そんなことを考えながら、ハマコちゃんに渡された荷物の封を開ける。
すると、中には酒瓶と、ジャーキーを始めとした食品のパッケージが。さらに、紙の手紙が一通収められていた。
やっぱり謝礼の品かな、と思いながら手紙を開く。
すると、以下のような内容が、綺麗な手書き文字の日本語でつづられていた。
このたびは、弊社監修の『食品生産工場シミュレーター300』のライブ配信をしていただき、厚く御礼申しあげます。
配信の成功を祝して、感謝の品を贈らせていただきます。
弊社の食品生産工場にて品種改良を重ねたトウモロコシから造り、金属樽で熟成したウイスキーとなります。
オーク香料の添加物によりこれ以上ない香り高さを誇る逸品であると、自信を持って薦めさせていただきます。
ぜひとも同梱した厳選おつまみセットと共に、美味なるひとときをお楽しみください。
「ああー、そういうことか……」
「どういうことでしょうか?」
手紙を横から覗き込んでこようとはしない行儀の良いヒスイさんが、俺に問うてくる。
うん、これは純粋な贈答品じゃない。
「俺が配信中に、添加物を拒否して、トウモロコシの蒸留酒を木樽で熟成したいと言ったからかな。添加物入りのウイスキーの美味さを知らしめるために、わざわざ送ってきたんだな。一種の挑戦状?」
「なるほど」
「あはは、多分その通りかと!」
荷物を持ってきたハマコちゃんも、笑って肯定した。
挑戦状で正解か……。ならば。
「ヒスイさん、予定変更。次の配信は、リアルでハマコちゃんと一緒にウイスキーの試飲会だ」
「了解しました」
「私も呼んでくださるんですね。ごちそうになります!」
そういうことになった。
なお、後日、味覚共有機能を使った配信で飲んだウイスキーは、極上の味だったと言っておこう。
今回の更新は以上で終了です。また気が向いたときか、配信するゲームのネタを思いついたときにでも更新します。