21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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23.Stella(MMORPG)<1>

 今日の配信は、前口上を述べるために、リアル側から始めることにした。

 ライブ配信だが今回はSCホームに人を集めないため、そのあたりの融通は利くのだ。

 場所は、部屋のガーデニングの前だ。

 

 さあ、ライブ配信開始だ。俺は、宙に浮かぶカメラ担当のキューブくんに向けて。軽く手を振った。

 

「どうもー。人の金で焼肉食べたい、21世紀おじさん少女のヨシムネだよー」

 

「猫型ペットロボットの購入を検討中、助手のヒスイです」

 

『わこつ』『わこつでーす』『お前の顔が見たかったんだよぉ!』『ちょうど成分が不足していたところだ』

 

 俺達の挨拶に合わせて、抽出コメントが読み上げられる。今日もみんな元気だ。

 

「ガーデニングあるから、猫飼うのはちょっと迷うよね。プランター倒しそう」

 

「そのあたりは本物の猫ではなくあくまでロボットですから、被害から守りたい物を設定できます」

 

「被害自体は起こすんだ」

 

「だって、猫ですから」

 

 まあ、飼うなら本物の猫じゃなくて、ペットロボットだな。ペットロスでヒスイさんが悲しむ姿とか見たくないし。

 そうして、会話を終えた俺達は、カメラにガーデニングの様子を映させた。

 

「野菜はだいぶ茎が伸びてきたよ。宇宙植物は……いつもわさわさ動いているな」

 

 ホヌンとペペリンドの生育は、ヒスイさんの適切なお世話の甲斐あって順調だ。

 宇宙植物は……、本当になんなんだろうな。文明を作るほどの知能はないというが……。

 

『惑星ヘルバのマンドレイクだな』『マンドレイクって……』『そう名付けられたってだけで、テラの伝承とは関係ないよ』『ヨシちゃんマンドレイクに名前つけた?』

 

「名前? ペットとかじゃないし、つけてないぞ」

 

『つけよう』『動く生物だし、ペットみたいなもん』『真の仲間』『別に食べるわけじゃないですし』『寿命長いよそいつ』

 

「そっか。じゃあレイクで。元気に育てよー」

 

『即決』『適当すぎる……』『まあでも覚えやすいよね』

 

「では、今日のガーデニングコーナーはこれで終ー了ー!」

 

「SCホームへと向かいましょうか」

 

 ヒスイさんと一緒に、俺はソウルコネクトチェアの所へと向かい、一人で座る。

 ヒスイさんはいつもの通り、俺の横で立ったままだ。

 

 俺は目を閉じ、魂が機器に接続される感覚に身を委ねた。

 そして、目を開くと相変わらず真っ白なSCホームの空間が、目に飛び込んできた。まだ模様替え配信を行なっていないのだ。

 視聴者の姿はない。今回はアバターを招いての配信ではないためだ。

 

 そんな何もない空間に、ヒスイさんが物質化した『Stella』のアイコンを抱えながら登場した。

 ヒスイさんの姿を確認した俺は、視聴者に向けて言葉を発した。

 

「今回遊ぶゲームは『Stella』だ!」

 

『とうとうMMOが来たか』『ヨシちゃんと一緒にプレイできる!』『人生へようこそ』『最近のゲームやね』

 

 二級市民は大半の人が、MMOをプレイして日々を過ごしている。なので、こうしてゲーム名を言っただけで、彼らからはいいレスポンスが返ってくる。

 

「それじゃあ、ヒスイさん。ゲームを起動お願いね。このゲームを知らない人もいるだろうから、解説もお願い」

 

「かしこまりました」

 

 ヒスイさんがそう返事をすると、抱えていたアイコンを頭上に掲げた。

 すると、真っ白なSCホームから、ゲームのタイトル画面へと背景が切り替わる。

 

 小さな光が瞬く、青い空間。『Stella』のロゴが空中に表示され、おとなしめのタイトル曲が鳴り響いている。

 ゲームの起動を確認したヒスイさんは、概要を話し始める。

 

「『Stella』は『sheep and sleep』でおなじみのメーカーが、開発、運営しているMMORPGです」

 

『それがおなじみなのは、ここだけだよ!』『安眠動画とか新基軸すぎた』『また寝顔配信してね』『24時間耐久寝顔編集動画とか作られてたね』

 

 確かに、他に動画探したけど、少ししか見つからなかったなぁ、『sheep and sleep』。いいゲームなのだが。

 

「多次元時空ファンタジーを銘打っており、プレイヤーは複数存在する世界を自由に巡っていきます。各世界は『星』と呼ばれ、『星』ごとに地形、気候、そして住人の文化などが異なっています。プレイヤーは各々の気に入る『星』を見つけて定住する人が多いようですが、もちろん、複数の『星』を巡って冒険に生きるのもありですね」

 

『全部盛り』『欲張りさん向けMMO』『一つの星がそこそこでかい大作ゲームだよ』『期待の新作が期待通りだった』

 

 なるほど。大作ゲームと言うだけあって、視聴者にもプレイヤーは多いようだな。

 

「では、早速キャラクターメイクから始めていきましょう」

 

 ヒスイさんがゲームを操作し、タイトル画面を終了させる。そしてキャラメイクの画面に。背景は青い空間のままだが、眼下になにかの『星』であろう小さな大地が浮かんでいるのが見える。

 

『キャラクター名を入力してください』

 

 システム音声にそう告げられ、入力ウィンドウが目の前に表示された。

 俺は、そこにヨシムネと日本語で入力。すると、発音も求められたので、「ヨシムネ」と発声する。

 

『キャラクター名が決定しました。性別を選んでください』

 

「ふむ。キャラクター名の重複とかは大丈夫なのかな」

 

「現代のMMOは21世紀のゲーム人口と比べてプレイヤー数が膨大なので、キャラクター名での個人識別は行なわれていません。運営側は市民IDとゲーム固有のキャラクター番号で、キャラクター個人を識別していますね」

 

「なるほどなー。と、性別選択か。性別は残念ながら女。次はアバターの外見設定。アバターは現実準拠でっと」

 

 リアルと同じ姿にするアバター作成も、もう慣れたものだ。スポンサーの意向なので、これからもこのスタイルを続けることになる。

 ヒスイさんも、アバターの設定を終えたようだ。しかし、オンラインゲームなのにキャラメイクを二人同時にできるんだなぁ。

 

『種族を選択してください』

 

「さて、ここからが本番だ。実は今回、俺は縛りプレイをしようと思っている。そのコンセプトは……かたつむり観光客!」

 

『なんぞそれ』『観光客は解るけどかたつむり……?』『かたつむりは雌雄同体だから、つまりおじさん少女』

 

 かたつむりが雌雄同体……それは知らんかったわ。

 まあ、これには別の由来がある。

 

「かたつむり観光客は、21世紀に存在したとあるフリーゲームの最弱キャラメイクのことだ。一番弱い種族と一番弱い職業を組み合わせたものだな」

 

 フリーゲームとは、アマチュアが作成した無料のゲームのことだ。インターネットで配布されるのが一般的だ。

 

『で、出たー! 誰もついてこられない得意の21世紀ネタだー!』『最弱キャラメイクするのか』『やっぱりマゾゲーマイスターじゃないか!』『でも、このゲーム種族間のバランス取れているよ』『戦闘で弱くても他で有利とかな』

 

「まず、かたつむりの特徴を言うと、戦闘用の装備は背中防具と遠距離武器のみ。背中防具はマントや外套(がいとう)だな。近接武器は禁止。近接攻撃したいなら徒手空拳での格闘だ」

 

『刀使わんの!?』『ヨシちゃんのアイデンティティが!』『刀にセーラー服もう見られないんですか!』『ヨシちゃんのずんどこアクションが見られないだと……』

 

 刀人気だな……。確かに最初の動画からずっと使い続けていたけれどさ。

 

「防具も、先ほど言った背中防具以外禁止。ただ、動画的な見栄えの問題があるので、防御力の存在しないアバター装備は全部可とする」

 

 このゲームの装備には実装備とアバター装備の二種類があって、実装備は攻撃力や防御力のある装備のこと。アバター装備は、それらの数値が存在しない見た目だけの装備だ。

 実装備の上からアバター装備を被せるといったこともでき、強い実装備なのに見た目が気に入らない……という場合もアバター装備をすることで見た目を自由にいじることができる。

 そしてアバター装備の大半が、課金アイテム……リアルのお金であるクレジットで購入するものになっている。

 

「そしてかたつむりの他の特徴は、速度が非常に遅いことと、塩に触れると死亡すること。移動速度の遅さは配信時間に影響があるから、あくまで戦闘速度だけがのろまな種族を選択したいな。塩は……そんな項目このゲームにはないだろうから、無視しておこう」

 

『それなら生産向けの種族だな』『妖精の類か?』『ドワーフは……のろまだけどかたつむりって感じのひ弱さじゃないな』

 

「かたつむりは鈍く、脆く、非力で、不器用で、学習能力がない種族だ」

 

『さすがにそんな種族はいない』『そんなんいたら即上方修正されるわ』『マゾすぎる……』『やっぱりマゾゲーマイスターなんやなって』『破滅に向かい突き進む姿勢、嫌いじゃないよ』

 

「いや、今回はヒスイさんとの協力プレイだから、むしろ難易度は下がっているんだって!」

 

 そう、ヒスイさんも現在キャラメイク中だ。同じVRマシンから接続しているので、今、隣で黙々と作業をしている。オンラインゲームなのに、こうやって一台のマシンで同時プレイできるのが面白いな。

 

「ちょっといろいろ見てみようか」

 

 俺は、キャラメイクの操作画面をいじり、種族一覧を表示させた。

 そこには、八つの種族名が載っていたのだが、これではとても足りない。俺は、その他の種族という項目を選んだ。

 すると、ずらっと百種類の種族名が画面に並んだ。

 

「んー、これとかホブゴブリン。雑魚敵っぽくね」

 

『モンスターじゃん』『残念、妖精です』『惑星テラの伝承の方かぁ』

 

「ふーむ、ホブゴブリンは非常に脆弱な妖精だが、手先が器用で様々な生産活動に精通している、か。候補の一つだな」

 

 他の種族も選択して、詳細を確認していく。

 

「スライム。速度が低いのはいいな。あ、耐久値が高すぎるから駄目か。難しいな」

 

 そうして視聴者の助けを得ながらいろいろ検討していくうちに、その種族に辿り着いた。

 

「天の民。滅びた『星』の元支配者層で、弱い肉体と低い魔法資質をあわせ持つ脆弱な種族。ただし、配下に強力な補助を与えることができる」

 

『テンプレテイマー御用達』『テイマーを見たら天の民と思え』『なおダイレクトアタックを受けた場合は……』『合法ロリショタ種族』

 

「なるほど。テイマーをしないならよわよわってことだな。いいじゃん。テイマープレイやサモナープレイはしないつもりだし。これに決定っと」

 

 俺は、天の民で種族を決定する。すると、作成中のアバターの背が130センチほどに低くなり、和製ファンタジー小説のエルフのように耳が伸びた。

 可愛い。

 

『スキルを三つ選択してください。これは、あなたの歩む道の指標となります』

 

 そうシステム音声に告げられる。

 スキルの選択か。事前調査で聞いていたとおりだ。

 

「ヒスイさん、解説よろしく」

 

 俺の後に種族選択を終えたヒスイさんに、俺は視聴者への説明を任せた。

 

「はい。ここではスキルを三つ選び、それによってキャラクターの肩書きが決定されます。いわゆる職業のようなものですが、数値的なボーナスは存在しません。あくまで肩書きです」

 

 視聴者に見えるように操作画面を移動させながら、ヒスイさんは説明を続ける。

 

「スキルは無数にあり、キャラクターメイキング後も選んでいないスキルを自由に覚え、鍛え上げることができます。ですが、選択スキル以外のスキルの数値は、全てマスクデータになります。一方で、選択スキル三つは数値が可視化され、どれだけ育ったかが確認できるようになっています」

 

 マスクデータとは、具体的な数値が見えない隠しデータのことだ。

 たとえばこのゲームに剣スキルが存在するとして、選択スキルに剣スキルを選択しなかった場合、プレイヤーは剣スキルのゲーム的な数値を確認することはできない。

 

「敵を倒して経験値を稼ぎキャラクターのレベルを上げるといった、キャラクターレベル制度は採用されていません。ただし、スキルのレベルは存在しており、行動に応じてスキルレベルが上昇していきます。選択スキル以外は、スキルレベルが隠されていて見えませんが」

 

 このゲームは、選択スキルでキャラクターの方向性を決定するが、その実態は完全スキル制のゲームだ。

 だが、21世紀に存在した完全スキル制のオンラインゲームにありがちな、スキルレベルの合計値上限などは存在しない。つまり、どこまでもキャラクターを育てていくことができる、プレイ時間=キャラクターの成長度となるゲームである。ただし、選択スキル以外の数値はマスクデータだから、成長ぶりを確認するのは難しいが。

 

「選択スキルは成長ボーナスがあり他のスキルよりも育てやすくなりますので、よく考えて三つ選択しましょう」

 

「というわけで、観光客っぽいスキルを三つ選ぶぞ!」

 

『観光客のスキルとはいったい』『視力上昇スキルとか?』『観光とかしたことないわ』

 

「歩行、登攀(とうはん)、釣りでいこう」

 

『歩行は理解できるが他は……』『観光客とはいったい』『観光は観光でも自然観光だった』『惑星観光とか夢のまた夢やわぁ』

 

 まあそう言うな。元ネタの観光客に近い物を選んだのだ。

 

『あなたの肩書きは冒険家です』

 

 スキルを選択して決定を押したら、そんなシステム音声が流れた。どうやら俺は冒険家になったらしい。

 

「観光客にはならなかったか」

 

『そりゃそうよ』『当たり前すぎる……』『釣り観光とか聞いたことない』『冒険家というかアウトドア愛好家やな』

 

 まあ、無理に肩書きを観光客にするつもりはない。観光客になる組み合わせを見つけるまでに、いったい何回スキルを選択して調査しなくてはならないんだ、ってなるからな。

 

「よし、キャラメイク完了。ヒスイさんも終わった?」

 

「はい。種族はアマゾネス。スキルは大剣、防具熟練、自然回復です。肩書きは重剣士でした」

 

「ヒスイさんのコンセプトは、女性限定種族の戦士ってところだね。かたつむり観光客は弱いので、初期ペットの少女で戦うんだ」

 

『ペット』『ペットって……』『姉をペットにするとかインモラルすぎる』『盛り上がってまいりました』

 

「あー、ここでいうペットは、旅の仲間って意味だから。愛玩動物扱いってわけじゃないぞ!」

 

「天の民のヨシムネ様の配下として、邁進いたします」

 

「ん、天の民補正で、ヒスイさんに余計な補助効果(buff)とか付かないよね?」

 

『天の民補正はテイムモンスター限定』『支配種族とはなんだったのか』『まあPT全員に補助効果とかあったら壊れ性能すぎるし』『よわよわロリロリ』

 

 そんなわけで、キャラメイク終了。

 システムで直接装備欄を潰せればよかったのだが、そういう仕様はないようだ。なので、自主的に装備縛りをやっていくことになる。

 ゲームにのめり込みすぎないよう自らに課した制限だが、この状態でどこまでやれるかという矛盾した期待もちょっとだけ湧いてきていた。

 しかし、別にマゾゲーが好きなわけではないということは、ここにしっかり宣言させていただこうと思う。

 


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