21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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EX16.ミュータント・ベースボール~コーシエン2999~(スポーツ)

 甲子園。それは、かつて日本にて行なわれていた、学生たちの野球の祭典。

 春と夏の年二回、全国から選抜、または地区大会を勝ち抜いた野球の強豪校が、甲子園球場と呼ばれる野球の聖地にてぶつかり合う高校野球全国大会だ。

 特に夏の甲子園は注目度が高く、全試合が日本全国に生中継でテレビ放送され、多くの野球ファンを熱狂させた。

 

 だが、そんな野球の祭典が続いたのも、第三次世界大戦が勃発するまでのことだったらしい。

 

「甲子園球場は、ドーム球場ではありませんでした。第三次世界大戦以降、地球環境は悪化し、大気は汚染され、屋外でのスポーツ競技はことごとく衰退していくことになります」

 

 俺の視聴者への説明を引き継ぐように、ヒスイさんが言う。うん、実は今、ライブ配信中なんだ。

 今日の配信ゲームは、野球ゲーム。しかも、甲子園球場が舞台なのだとか。そこで、甲子園なる存在を知らない大半の視聴者に、ゲームの前提を説明していたわけだな。

 

「そんな悲劇があったものの、高校野球全国大会は第三次世界大戦の終戦からしばらくの期間、続きました。ですが、甲子園球場はその開催場所としての役目を終え、甲子園という大会の通称もなくなりました」

 

 このあたりは、俺も配信前にヒスイさんから説明を受けたな。

 常温核融合炉の発明を契機に勃発した第三次世界大戦は、地球をめちゃくちゃにしてしまった。その影響は、野球というスポーツにまで及んだと。戦争って怖いわぁ。

 

「現在もプロ野球の興行が続いていることからも分かる通り、野球という文化は無事に継承されています。その野球の歴史に、甲子園という若者たちの祭典は、確かに存在していたわけですね」

 

『野球いいよね……』『馴染みのない競技である』『ギルバデラルーシは激しい運動苦手なんだったか?』『野球は小さい頃にやったきりだなぁ』『つまり今日は学生野球のゲーム?』

 

 視聴者が、ヒスイさんの説明にそんなコメントを返してくる。

 まあ、この前置きだと、甲子園球場が舞台の高校野球ゲームだと思うよな。でも、違うんだよなぁ。

 

「人類のみなさん、こんな歴史IFに馴染みはありませんか? もし、第三次世界大戦で惑星テラが、人類が滅んでいたら」

 

 ヒスイさんのその唐突な話題転換に、視聴者の抽出コメントから困惑の声が返ってくる。

 その反応に、ヒスイさんはうっすらと笑みを浮かべて、さらに続けた。

 

「第三次世界大戦は、地球環境を徹底的に破壊しましたが、人類は滅亡することなく、現在までその繁栄は続いています。しかし、もし、あの戦争で徹底的な大量破壊兵器の応酬がされていたら……人類は滅亡し、惑星テラは死の星となっていたかもしれません」

 

 そのヒスイさんの言葉を引き継ぎ、俺は言う。

 

「俺のいた21世紀だと、世界大戦が起きて人類が滅びかけて、ごくわずかに生き残った人々が滅びた文明の跡地で生き残る『ポストアポカリプス』って創作ジャンルがあったんだが……核兵器による影響で、ミュータントっていう新生物が産まれる展開がよくあったんだ」

 

「今回のゲームは、そんな大量破壊兵器の応酬によって滅んだ後の惑星テラにて発生した、ミュータントたちが主人公です。さあ、本日プレイするゲームは、こちら」

 

 SCホームのいつもに日本庭園にて、俺の隣に立つヒスイさんが、キューブ状のゲームアイコンを掲げる。

 

「『ミュータント・ベースボール~コーシエン2999~』。第三次世界大戦によって人類が滅亡したIFの惑星テラで、ミュータントたちが甲子園球場の跡地を発掘し、かつての人類文明を理解するために白球を追いかけます」

 

「というわけで、今回は俺とヒスイさんで『野球ゲーム』の対戦だ!」

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 人類滅亡後に、大量破壊兵器によって発生したミュータント。その実態は、人類以外の地球生物が核兵器や化学兵器、ウィルス兵器などの影響を受けて、急速に進化した存在だ。

 そんなミュータントという字面からは、おどろおどろしい容姿を連想しそうなものだが……。実際、俺もミュータントというから、21世紀の頃にプレイしたポストアポカリプス系の洋ゲーを覚悟していた。

 

 だが、ゲームを開始してみると、なんとミュータントたちはケモ度が高めの獣人が大半であった。まあ、ゲームだからね。キモい見た目の怪人を操作して野球なんてしたくないだろうという、開発サイドの心づかいなのだろう。

 

「しかし、なんだな……ミュータントというか、プロ野球のマスコットみたいだな、この獣人……」

 

 ゲーム開始後、予定通り、長くなりそうなストーリーモードではなく対戦モードを選択したヒスイさんと俺。

 ここからは、俺も初見。そのチーム一覧を見て判明した登場人物たちの容姿は、いずれもポップでキャッチー。

 

「確かに、現実の野球チームのマスコットロボットにも似た、可愛らしい見た目をしていますね」

 

 ヒスイさんも、俺の言葉に同意するようにそう言った。

 

 たとえば、ヨコハマ・アーコロジーに本拠地を置く『ニホンタナカサムライズ』という球団のマスコットロボットに、サムライタヌキのイエヤスくんという存在がいる。

 かつての21世紀における日本のプロ野球の各球団にも、着ぐるみマスコットがそれぞれ存在していた。

 このゲームのミュータントは、そんなマスコットに酷似した容姿をしているのだ。

 

「ポストアポカリプスゲームのグロいミュータントか、せいぜいが『ミュータント・タートルズ』くらいを想像していたら、まさかのケモとは……」

 

『可愛いじゃん』『人類的には可愛く見えるのか』『未知の生物に見える……』『種族間の感性の隔たりを感じる……!』

 

「あー、そうか。ケイ素生物のギルバデラルーシにとっては、獣人は見たことない謎生物になるのか」

 

 まさかの種族間のギャップ。カルチャーショックである。

 

「岩石系のミュータント種族のチームもありますが……ギルバデラルーシの方々にとっては見慣れない形状かもしれませんね」

 

 ヒスイさんが、『ロックガンナーズ』という野球チームのメンバー一覧を画面で示してくるが……うん、ギルバデラルーシとは似ても似つかない容姿をしているね。

 

 そうして、俺とヒスイさんは視聴者たちに紹介するようにして、一通りのチームを確認して容姿を見ていった。

 

「ところでヒスイさん。選手の詳細を確認したら、『魔球』とかの項目が見えたんだけど……」

 

「はい、これはあくまでゲームですからね。ゲーム的な仕様として、いわゆる必殺技が使えます」

 

「ひっさつわざ」

 

「チームメンバーそれぞれが所持するガッツというリソースを消費して、様々な技を使える仕様となっています。魔球、特殊走塁、必中打、強打、ファインプレーキャッチなどですね」

 

「俺知ってる! 21世紀で似たようなサッカーゲームやったことある!」

 

 ガッツが足りなくなると『くっ! ガッツがたりない!』とかいって必殺技が扱えなくなるやつ!

 

 ここにきて、バカゲーの香りをかすかに感じはじめたぞ……!

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 そうして、ヒスイさんとの試合が始まった。

 舞台は、西暦2999年に発掘された甲子園球場跡地。対戦するチームは、『アニマルランナーズ』と『デザートキャッツ』。

『アニマルランナーズ』は、ヒスイさん曰く主人公チームで、様々な獣人ミュータントの集まった寄せ集め。初心者向けだというので、俺がこのチームの担当だ。

『デザートキャッツ』は猫獣人の集団で、当然のようにヒスイさんが選んだチームである。

 

 そして、試合が始まり、一回表。俺のチームの攻撃からだ。

 

「行きます、『転がる魔球』!」

 

「うおおおお! 打てるかこんなもん!」

 

 ヒスイさんの放った投球を見事に空振りする俺。地面を転がって、そのあと急に浮かび上がってくる謎の軌道に、翻弄されるしかなかった。これが、魔球……!

 

「というか、ワンバウンドした投球って、見逃せばボールになるんじゃないか?」

 

「ふふっ、ヨシムネ様は不思議なことを言いますね。これは21世紀の野球ではなく、2999年のミュータント・ベースボールです。かつての競技ルールは大戦で散逸しており、この世界ではミュータントたちがその能力を活かせるようなルールに変わっています」

 

「そういうのありぃ!?」

 

「ありです」

 

 そうして一回の裏、ヒスイさんの攻撃。

 

「それじゃあ、俺も……『消える魔球』だ!」

 

「ここです」

 

 一球目から放った魔球は、見事にヒスイさんによって捕らえられ、レフト前へ。

 

「ええー、なんで消えているのに打てんの!?」

 

「必殺技は魔球だけではありませんよ。ヨシムネ様がすぐに魔球を投げてくることを見越して、必中打を放てる選手を一番に置きました」

 

『戦術眼で負けてる』『いつものヨシちゃんとヒスイさんだわ』『安心するこの構図』『ヨシちゃんがんばえー!』

 

 うおおお、頑張る!

 そして……。

 

「くっ! ガッツが足りない!」

 

「魔球の投げすぎですね」

 

 三回で先発ピッチャーのガッツが尽き。

 

「うおっ、なんで『分裂魔球』がホームランに!?」

 

「四番のスフィンクスは強打と必中打を兼ね備えた技を持っています」

 

 投手交代して続いた中継ぎも打たれ。

 

「はい、盗塁成功です」

 

「ヒスイさん、盗塁しすぎじゃない!? ガッツ足りるの!?」

 

「盗塁にガッツの使用は必須ではありませんよ」

 

 ヒットが出れば確実に盗塁を決められ。

 

「コールドだけは、コールドだけは嫌だ……」

 

「初心者のヨシムネ様相手に、そこまでひどいことはしませんよ」

 

「本当かなぁ!?」

 

「信用ありませんね……」

 

「ゲームに関して、俺が信用できるようなことしてきたかな、ヒスイさんって」

 

「ひどい言い様ですね。怒りますよ。具体的には手加減抜きにしますよ」

 

「ひえっ」

 

 そんな感じでボコボコにされたものの、あくまで序盤のことであり、次第に俺もこのゲームのコツが少しずつつかめてきた。

 やがて、戦いは拮抗し始め、序盤で開いた点差が縮むことも開くこともなく、2対8でゲームセットとなった。

 

 試合終了と共に、廃墟の甲子園球場、その客席から大きな歓声が響いてきた。客席には、様々な獣人ミュータントが詰めており、試合中ずっと声援を送ってきてくれていた。

 

 そんな甲子園球場から退出し、再び対戦モードのチーム選択画面へと戻った。

 本日の予定は、一試合を流すだけのつもりだったので、ここで総括に入る。

 

「要は、ガッツの使い所を読み合うゲームなんだな、これって」

 

「その通りです。その点では、純粋な野球ゲームとはとても言えませんね」

 

「魔球は派手だから、配信向きの良いゲームかもしれない」

 

 俺がそう感想を述べると、ヒスイさんは「少し違いますね」と俺の言葉を否定した。

 

「一試合だけやるならいいのですが……何試合も続くと、よほどの野球好きの方以外、視聴者の大半は飽きてしまうでしょうね」

 

「あー、なるほど。だから、ストーリーモードじゃなくて対戦だったんだな」

 

「そういうことです」

 

「プレイして面白いゲームと、配信で見て面白いゲームは違う。奥深いよな」

 

「ヨシムネ様も、配信者としての眼が鍛えられてきましたね」

 

「まあ、プレイするゲームの選抜は、今後もヒスイさんに任せるから、選別眼が鍛えられても関係ないんだけどな!」

 

 そんな言葉で締めくくると、視聴者コメントは呆れ声で埋まり……本日の配信は無事に終わりを告げたのであった。

 

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