21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信! 作:Leni
相撲。それは、かつて日本国にて存在した武芸。その起源は神話にあるとも言われていた、伝統的な競技である。
相撲には大相撲と呼ばれる人気の興行があった。大相撲は、20世紀末には東京の両国という地域にある国技館という建物で、本場所と呼ばれる定期的な興行を行なっていた。
大相撲の本場所と地方巡業は取組が日本全国に生中継されており、手に汗握る戦いで多くの日本人を熱狂させた。
だが、そんな大相撲の興行が続いたのも、太陽系統一戦争が終戦を迎えるまでのことだったらしい。
「大相撲は、相撲部屋と呼ばれるチームに所属するプロ選手のうち、参加登録された全選手を集める大規模な興行でした。相撲部屋はいくつもあり、多くのスポーツ興行が衰退していた西暦2300年代にも大相撲の興行は続いていたのですが……」
現在、SCホームにてライブ配信を開始したばかり。そこで、俺はヒスイさんと一緒に、日本の伝統的な武芸である『相撲』について説明していた。
今日の配信ゲームは、相撲がテーマ。しかも、国技館が舞台なのだとか。そこで、国技館なる存在を知らない大半の視聴者に、ゲームの前提を説明していたわけだな。
「太陽系統一戦争が終結後、惑星テラからは多くの人々が宇宙に移住しました。ニホン国区の住人たちも例外ではなく、その結果、全ての相撲部屋は解散となり、大相撲のプロ選手『力士』はニホンの地から姿を消しました。そして、大相撲の興行は打ち切られることとなったのです」
このあたり、俺も配信前に説明を受けている。
惑星テラ、すなわち地球の環境が致命的な打撃を受けることになった第三次世界大戦後も、国技館と相撲部屋はしぶとく生き残った。その結果、大相撲の興行は長く続いていたというのだから大したものだ。
しかし、太陽系統一戦争後の宇宙移民で、興行を行なう選手である力士と興行に金を払う肝心の客たちが、日本から姿を消した。相撲はその後、衰退するしかなかった。
前回の配信で扱った野球は国際的な伝統競技とされていたという。
だが、相撲は日本限定の競技だったため、マザー・スフィアを頂点とする行政側から保護されることはなかったわけだ。
「今は無き、伝統武芸『相撲』。ニホン国区の歴史で見ると、神話に登場するほど大昔から国民に愛されてきました。その武芸は確かに衰退しましたが、ゲームという形で今日にも残されています。さあ、本日プレイするゲームはこちら」
SCホームにて俺の隣に立つヒスイさんが、ゲームアイコンを高々と掲げる。
「『ミュータント・スモウ~コクギカン2999~』。前回の『ミュータント・ベースボール』と同一のシリーズ作品。IFの惑星テラで、ミュータントたちが国技館の跡地を発掘し、かつての人類文明を理解するために身体をぶつけ合います」
「というわけで、今回もスポーツゲーム。俺と視聴者のみんなで、『相撲』の取組だ!」
◆◇◆◇◆
『ミュータント・スポーツ』シリーズの主役であるミュータントは、ケモ度が高めの獣人たちである。
その中でも、このゲーム『ミュータント・スモウ』に登場するミュータントは、力士を名乗るに恥じないガタイの良いケモ獣人であった。
大人気ゲーム配信者21世紀TSおじさん少女こと、俺ヨシムネは、普段の愛らしい美少女ガイノイドのガワを捨て去り、ガチムチの獣人アバターを身にまとうことになった。
「なんとなくクマ獣人を選んだけどさ……これ、ニッチな需要がありそうだなぁ」
身長は二メートル近く、胸板が厚く、腹は出ている。そして獣型のミュータントらしい深い毛が全身を覆っており、顔つきはクマと人を組み合わせたような、なんとも獣人としか言えない姿。
前回の野球ゲームのミュータントが低頭身の『マスコット』だとすると、この相撲ゲームのミュータントは一言で表すと『オスケモ』だ。
『ヨシちゃんがあられもないオスケモに……』『声まで野太くなっちゃって』『人類はこういうのが好きなのか?』『好きな人もいる』『いいよね』『いい……』
視聴者の一人がコメントで言及した通り、確かに今、自分のアバターが発したのは野太い声。というか……。
「この声、俺の生前、生身のおじさんだったころの声にそっくりなんだけど……?」
アバターの声を聞いて驚きを露わにした俺。すると、もとの姿のままのヒスイさんが、横から言った。
「サルベージされたヨシムネ様の遺体は研究機関に引き取られ、体内までくまなくスキャンされています。どのような声を発するかもデータ化されており、そのデータはヨシムネ様が男アバターを使う際にいつでも利用できるよう、手もとに用意済みでした」
「おおー、そんなことが。確かに、俺の遺体は研究所行きになったんだったな」
「サルベージされたヨシムネ様の魂は、行政からの賠償で準一級市民の資格を与えられました。その後、ヨシムネ様は自身のご遺体を献体することで、無条件で一級市民に昇格しました」
「準一級市民かぁ。準一級って、どういう等級なんだ? 一級市民は、仕事があって働いている人たちのことだよね?」
「太陽系統一戦争終結後、人類の手から私たちAIに主権が移り、AIに管理される立場となった全人類に市民の等級が与えられ、人類は一級、準一級、二級の三つに分類されました。一級は毎日の仕事がある者、二級は無職。そして準一級は、不定期な仕事持ちと、職を持たない名誉市民が該当します」
「名誉市民……?」
「人類からAIに主権が移った際に、様々な権利や資産、そして土地が人類から剥奪されました。その剥奪で大きな損害を受けると判断された人々に与えられた補填が準一級市民の資格だったわけですね。各国の王族や、大地主などが、宇宙移民として一市民に落とされる場合、損害があまりにも大きかったので補填されたというわけです」
「なるほどなー。となると、俺が準一級市民になるはずだったというのも納得だな。21世紀に生きる人間という立場を失うことの補填で、準一級市民になったと」
「そう言い換えることもできるでしょう」
「ちなみに、各等級の市民って、どんな差があるの?」
「配られるクレジットの額が異なるのみです。ヨシムネ様に分かりやすく言うと、ベーシックインカムの支給額の違いです」
「AIに支配されたディストピアが舞台の創作にありがちな、権利や立場の差とかはないんだ……」
「ありません。ああ、私たち高度有機AIは三級市民扱いで、人類とは明確な立場の差があります。一般市民の小間使いのような存在ですね。マザー・スフィアも含んだ行政側のAI全てがです」
「ふーん。ちなみに、今のヒスイさんの立場は? 昔は行政区の研究所勤めだったんだよね?」
「かつては行政区の職員でしたが、今は、ヨシムネ様の小間使いと捉えていただければと」
「おおう……なんかごめんね?」
「いえ、行政にいたころよりも今の方が、楽しい毎日を過ごさせていただいて、感謝しております」
『いい話だなー』『いい話かなー?』『それよりもヨシちゃんの低音ボイスの違和感すごいわ』『その声で歌ってほしい』『いいね!』
いや、話は思いっきり逸れたけど、今回は相撲の対戦が目的だからな?
◆◇◆◇◆
さて、本格的にゲーム開始。相撲の基礎を学んだ後は、今回は視聴者から参加を募って対戦をする予定だ。
というわけで、クマのオスケモアバターでマワシを締めた後、俺は再現された24世紀の国技館にある土俵際にて、ヒスイさんから相撲の基礎を説明されていた。
なお、ヒスイさんはミュータントではなくもとのミドリシリーズのボディのまま、立派な
俺がいた21世紀初頭では、大相撲の興行に女行司は存在しなかった。女子相撲もあの時代にはあったが、大相撲に関しては完全に男の世界だった。
だが、今の時代、魂に性別はなく、肉体も物理的に性転換することなど難しくない。男と女の区別は21世紀と比べると曖昧で、女人禁制の概念など完全に消滅しているらしかった。
そんな事情で、女行司になったヒスイさんは、俺と視聴者たちに言う。
「相撲の取組は、短時間で終わります。格闘技や対戦スポーツの中では珍しい部類ですが、こういった視聴者参加型のライブ配信では便利な点と言えるでしょう。ですので、ヨシムネ様には配信終了時間ギリギリまで、ひたすら取組をしていただきます」
「スパルタすぎない……?」
「ゲームですので、肉体的な疲労はありません。頑張ってください」
「スパルタすぎない?」
『うーん、いつものヒスイさん』『また来た、カスのヒスイさん』『スイカス助かる』『無茶振りするヒスイさんと、普通にこなしてしまうであろうヨシちゃん』『いつもの構図だな!』
そんな一幕がありながらも、俺はヒスイさんから相撲の基礎動作を学んだ。
細かい仕来りが多いが、対戦時はゲームシステムの動作補助があるらしく、全て覚えておく必要はないとのこと。
それに安心し、巨漢のクマ獣人の身体を動かし、アバターに慣れていく。
そして、一通りの準備を終えたところで、いよいよ本日のメイン、視聴者参加型企画『ヨシムネ相撲』を始めるのだった。