21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信! 作:Leni
どうやら、『Stella』プレイヤーの視聴者が、俺と会いにこのチャンネルまでやってきてくれたようだ。
配信に映りたいというだけのミーハーな人も中にはいるだろうが、わざわざ来てくれたのは純粋に嬉しい。
しかし、集まってもらっても特にすることがないな。今日は、普通にゲームを開始して初心者らしくそこらをうろつこうと思っていただけだから。
俺は、彼らにどう声をかけたものかと、あたりを見回す。
彼らの中には、以前の『St-Knight』配信時に見かけた顔もある。
「マハランドさんにクラブチャウダーさんもいる。おっ、チャンプじゃん」
PC達の中に、革鎧を着た大男の姿が見えた。ライブ配信で対戦したあのチャンプと同じ顔だ。きっとチャンプ本人だろう。
『チャンプおんの!?』『やっぱこのゲームにいたんだ』『どこへ行っていたンだッ! チャンプッ! 俺達は君を待っていたッ!』『チャンプいるってことはこのゲームPvP盛んなのかな』『新しいゲームだから、今から開始しても育成追いつくな……』
うわ、視聴者のPvPガチ勢が反応した。
やっぱり人気だなぁ、チャンプ。駆け出しの配信者ではまだまだ知名度では追いつけないのだろう。
「やあ、チャンプ。わざわざ初心者の配信に付き合ってくれてありがとね」
「どうも、この間ぶりです。このゲームではクルマエビと名乗っています。『Stella』へようこそ。歓迎しますよ」
そう互いに挨拶を交わす。相変わらずの好青年ぶりがまぶしい。
「ヨシムネさんなら、PvPでいいところまで行けると思っていたのですが……縛りプレイをするのですね」
そう言ってチャンプは苦笑した。まあ、いきなりかたつむり観光客をやるとか言いだしたからな。
「真っ当にプレイすると、ドはまりしそうだったから、制約をつけようとな。ま、この縛りプレイでも対戦でどこまで行けるかやってみたいから、そのうち闘技場のある『星』を案内してもらうよ」
「ええ、そのときは是非」
と、チャンプと会話を繰り広げていたときのこと、突如、横合いから大声で叫ぶ者があった。
「やはりいましたね、クルマム! さあ、私と再戦しなさい!」
それは、二十歳ほどに見える青髪の女性だった。長身で、すらりとした体躯。そして、胸がとてつもなくでかい。
うーん、どこかで見た覚えのある顔だな、とか言っている場合じゃない。あのでかい胸を持つ人なんて、一人しかいない。
『ミズキじゃん』『うわ、現ナイト王者だ』『相変わらずエロい!』『ミズキも『Stella』やってんのか!?』『着々と集まるPvP勢』『礼讃する巨乳信者』『ナイト過疎化待ったなし』
やはり、彼女があのチャンプと戦い、ハラスメントガードで判定勝利したミズキであるらしい。以前、チャンプとの対戦動画で見たことがある。
「こんにちは、ミズキさん。お久しぶりです。あなたも『Stella』やっていらしたんですか」
そう物腰柔らかにチャンプが対応する。突然の乱入者にも、紳士的な態度を崩さないようだ。
「クルマムがここにいると聞いて、先日始めました。さあ、再戦しなさい」
「うーん、今はヨシムネさんの配信に参加しているので、また後日とはいきませんか?」
チャンプが困ったように言う。
だが、大丈夫だ。こんな面白そうなシチュエーション、格好の配信材料じゃあないか。
「チャンプ、俺に遠慮することはないぞ。PvP受けてやれよ。どうせだから、ライブ配信で中継するよ。視聴者のみんなも、チャンプの活躍みたいよな?」
『ミズキ対チャンプとか最高じゃん!』『うおおおお! チャンプ! チャンプ!』『録画しないと』『ちょっと知り合い呼んでこの配信見させるわ』『夢の対戦が成立したッ!』『一番強いプレイヤーは誰だ!』
「うん、視聴者も見たいってさ」
周囲にいる視聴者PC達も、歓声を上げる。完全に、場はチャンプの戦いを待ち望んでいた。
「うーん、結果は見えているんですが、いいでしょう。やります」
「おっ、挑発か。やるねえ。ミズキさんもそれでいいかい?」
「ええ、クルマムと戦えるならなんでもいいです」
「それじゃあ、近くにある広間に移動しましょう。ここで騒ぎすぎると、衛兵が飛んでくるので」
そうチャンプにうながされ、俺とヒスイさん、そして視聴者PC達は移動を開始した。
向かった先は、公園っぽい広間。NPCらしき子供が遊んでいたが、PC達が頼み込んで場所を空けてもらった。というか、戦士達の決闘と聞いて、子供達も観客として混ざってきた。
「それでは、クルマエビ様対ミズキ様の決闘を始めます」
そうヒスイさんが両者の間に立って、仕合の仲立ちをする。
「PvPの形式はHP全損で決着、時間無制限、賭け金および賭けアイテムはなしで。よろしいですね?」
「ええ。さあ、早く始めますよ」
「……まあ、それでいいでしょう」
「では、一分後に開始します。それまで、装備を整えていてください」
そこまで言ったところで、観客である俺達の目の前にウィンドウが開いた。
なになに、どちらの勝利に賭けますか? 戦う本人達は何も賭けていないのに、俺達は賭けられるのかよ。しかも、胴元がヒスイさんになっているし。
受付制限時間が一分しかないので、俺はとりあえずチャンプの勝利に所持金を全部突っ込んだ。
『賭け方が豪快すぎる』『まあでも俺もチャンプが勝つと思うかな』『ミズキもナイトの三年連続覇者ですよ』『いや、チャンプが勝つよ』『明らかにチャンプ有利』
そうなんだよなぁ。でも、先ほどのチャンプの挑発を聞いて考えたんだが、これはチャンプが勝つだろう。
周囲のPC達ははたしてどちらに賭けたのか、チャンプの勝利時の倍率は1.2倍になった。全賭けのリスクを負ってこのリターンは、あまり美味しくないな。チュートリアルでもらった額だからそんなに多くないし。
「では、始めます」
『デュエル!』
ヒスイさんの宣言と共に、システム音声が決闘開始を告げる。
そこから始まる攻防だが、明らかにチャンプの動きの方が俊敏だった。
「くっ、なぜ……!」
得意武器なのであろう、短槍二本持ちで攻撃を仕掛けるミズキさんだが、ことごとくチャンプの篭手によってパリイングされていく。
そして、懐に飛び込むチャンプ。なにやらコンボ攻撃が発動して、ミズキさんは連続で殴られ、最後にはハイキックで吹き飛ばされ、ダウンする。倒れ込んだところにチャンプの踏み付け攻撃が決まり、そこでミズキさんの頭の上に表示されていたHPバーが砕け散った。
決闘終了を知らせるブザーが鳴り、チャンプは一つ息をついた。
『やったぜ』『さすがチャンプや』『PvP界の一番星』『いや、勝つのは当然ですよ』『負けてたら全力で笑ってたわ』
未だ倒れたままのミズキさんに、チャンプは手を差し伸べる。
その手を取り、起き上がったミズキさんは、屈辱に顔を歪めていた。
「くっ、こんなにも差があるだなんて……! 三年連続年間王者だなんてうぬぼれていましたが、偽りの王者でしかなかったのですね!」
「うーん、そうでもないと思いますよ」
チャンプが困ったようにそうミズキさんの言葉に言い返す。
「慰めはいりません!」
「いえ、そうじゃなくてですね……このゲームは、対戦型格闘ゲームじゃなくて、RPGなんです」
そんなチャンプの言葉に、ミズキは不思議そうな表情をする。
「俺は、サービス開始からこのキャラクターを育て続けてきました。このゲームは、レベル制のゲームみたいにキャラクターレベル上昇でHPの数値がインフレしたりしませんが、それでも最近このゲームを始めたばかりのあなたより、四倍は俺のHPが高いと思います」
チャンプがヒスイさんの方を見ながらそう言った。決闘の形式をHP全損モードに決めたのは、ヒスイさんだ。ヒスイさん、これが解っていて決めたな。おそらく、俺に賭けで儲けさせるために。
ここにいる人には、戦闘を行なわないプレイヤーもいることだろう。だから、チャンプ有利ということに気づかず、ミズキさんに賭けた人もそれなりにいたようだ。
そんな賭けが行なわれていたのを知ってか知らでか、チャンプがさらに言葉を続ける。
「HPではなく有効打数で勝利を決めた方が公平だったでしょうね」
「それでも、私の攻撃はあなたに一度も命中しませんでした」
「HP以外にも、キャラ性能に明確な差がありますからね。このゲームのPvP界の最前線でやっていくには、キャラクターの成長が鈍化するまで、そうですね、一年はじっくり育成する必要があります」
一年も明確に成長が続くのか。気が長いな。さすがオンラインゲーム。
そんなチャンプの言葉を聞いたミズキさんは、ぱっと表情を明るくさせて、言う。
「一年、一年経ったら互角に戦えるのですね」
「最低限、PvPに必要なキャラ性能は整うでしょうね。そこからは中身の腕次第です」
言外に中身の腕でも負けないと匂わせつつ、チャンプがそう締めくくった。
それでこの場の戦いは終わり。広間を子供達にゆずり、俺のゲームプレイを再開することにした。
「とは言っても、今日やるのはお金稼ぎと買い物くらいだけどな」
「ヨシちゃん、お金いるの? 少額なら融通できるよ?」
俺の言葉に、PCの一人がそんなことを言ってくれる。
だが、それに対し俺は首を振って拒否した。
「いや、貢ぐのはできるだけやめてくれ。お金稼ぐ過程も配信のネタになるからな」
「そっかー。了解」
「えっ、私、初心者用防具作ってきたんだけど……」
生産をたしなんでいるであろうPCが、革鎧を手に持ちそんなことを言った。
初心者用防具か。それなら、MMOの初心者支援でよくあるものだし、ありがたく受け取ってもいいのだが……。
「かたつむり観光客プレイだからな。背中装備以外はいらないよ。それは、ヒスイさんにあげてくれ」
俺がそう言うと、生産PCは嬉しそうな顔をして、ヒスイさんとアイテムトレードを始めた。
うーん、こういうのオンラインゲームって感じがしていいな。
「では、まずは買いたい物が売っているか調べたいので、市場かどこかに案内してもらえるかな?」
PC達にそう言うと、目配せし合った後に一人のPCが前に出てくる。
ちなみにチャンプは今もミズキさんに付きまとわれて、育成の仕方とかを聞かれている。
「案内するよ。ヨシちゃんはどんなものを買いたいんだい?」
「ああ、それは――」
そうして市場に案内され、必要な物に現在の所持金では足りないことが判明し、俺達は金策にはげむことを決めた。
向かう先は、戦士ギルド。いよいよ、剣と魔法のファンタジー世界って感じがしてきたな!