21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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28.Stella(MMORPG)<6>

 ただひたすらに山道を登り続ける。

 正直杖がほしいところだが、かたつむり観光客は近接武器を装備しないので杖はなしだ。生産活動時に包丁やハサミを持つのはありとしているが。

 

「うひー、うひー、少し道が険しくなってきたな」

 

 子供ほどの大きさの岩が重ねられた道を素足で歩く。大人の体格なら一またぎの道も、小さな天の民の歩幅だと、半ば登るような歩みとなる。体温が上がり、リュックから下げた水筒で水を飲み、汗を流す。

 かなりの有酸素運動だ。リアルでやっていたら、さぞいいダイエットになったことだろう。まあ、ガイノイドだから太らないのだが。

 靴を履いていないというのも、疲労の一原因だったりするのだろうか? 耐久スキルのおかげで足裏は痛くないのだが……。

 

『辛そう』『苦しむヨシちゃん可愛い』『参加しなくてよかったかも』『苦行やなぁ』『MAPが広い類のMMOの野外で徒歩なんて、まずやらんからな』

 

 俺の疲れっぷりが、視聴者にも伝わったようだ。

 これでも、聖魔法と料理で補助効果(buff)がスタミナに上乗せされているんだけれどな。

 ゲーム的なスタミナ値の減少とは別に、蓄積疲労度みたいのが存在していそうだ。

 

「ヨシムネ様。空腹度がそろそろ危険域に入るので、小休憩致しましょう」

 

 ヒスイさんにそう言われて、俺はステータス画面を表示してみる。

 満腹時に100ある空腹度の数値が、40まで下がっている。これが30になるとステータスの低下が始まる。確かに休憩時だろう。

 

「きゅうけーい! 空腹度回復させるぞー! 聞こえたら後ろの人にも伝えてくれー!」

 

 俺はそう後方を行く連れのPC達に叫んで休憩を知らせた。

 そして俺は、ヒスイさんと一緒に近くにある岩に座り、インベントリから包みに入ったおにぎりを取り出した。

 

『それなに?』『なんか包んでる』『なにそれ古風』『空腹度回復させるとか言ってたから、飯か?』『紙に包んであるんですかね。雰囲気出ますね』

 

「そう、これは配信を始める直前に作っておいた、行動食だ。この包みは経木(きょうぎ)っていう、木を薄く切って紙のようにした物だ。中身は、おにぎり。以前やった料理配信で出てきたお米を炊いたご飯を手で握って、塩で味付けした料理だな。はい、ヒスイさん」

 

「ありがとうございます」

 

 経木の包みをもう一つインベントリから取り出し、ヒスイさんに渡す。

 包みは、これまた薄く切った木を紐のようにしたもので縛ってある。それを解くと、中からおにぎりが二個姿を見せた。

 

『ほーん、白くて美味そうじゃん』『米って食ったことないなぁ』『二個入っていてお得』『三角形で可愛い』『海苔は巻いてないの?』

 

「海苔は昨日見つからなかったんだよなぁ。残念だ」

 

 そう視聴者と会話しながら、俺はおにぎりを一つ手に取り、ぱくりと一口食べた。

 もぐもぐ。

 

「うーん、運動した後に塩気のある食べ物は美味いな! そういうところまでリアルを再現していて、びっくりだよ」

 

「なるほど、これが肉体酷使の後の塩分補給……。新しい感覚です」

 

 リアルでは疲れ知らずのガイノイドのヒスイさんが、おにぎりを口にしてそう感心している。

 ゲームの世界だから、必要な栄養素が足りずに体調を崩すとかはないだろうが、栄養補給による快感はしっかりと実装されているようだ。

 しかも、食事を食べ続けても満腹にならずにいつまでも食べ続けることができるとかもあるから、リアルでの食事に興味を失う人もでるだろうな。二級市民の中には、生命維持装置に入って一日中ゲームにログインしている人もいるって話だし。

 人としての何かを失いそうなので、俺はそういうことをするつもりはないが。

 

 そんなことを考えながら、一口、二口とおにぎりを食べる。

 おっ、具が出てきたな。

 

「じゃーん、実は中身に、焼いたマスの身が入っているぞ。本当は鮭がよかったが、売ってなかったからマスだ」

 

『美味そう』『純粋に美味そう』『見てるだけで満腹ゲージ減るわぁ』『この間の配信で米を買ってきた俺勝ち組』『ちまちま食べるロリヨシちゃん』

 

 どうやら、以前の料理配信のおかげもあってか、米はしっかり受け入れられたようだ。

 うむうむ、これからも推せるときは推していこう。日本人のソウルフードだからな。

 

 そして残りのおにぎりもぱくりと食べ、二個目のおにぎりに手をつけようとしたそのとき、ヒスイさんに「少しいいですか」と呼びかけられた。

 

「どうした?」

 

「あちらの方々がお困りのようです」

 

 ヒスイさんが指を差すと、そこには初心者装備に身を包んだ男三人組のPCがしょんぼりと座り込んでいた。

 彼らが何かを食べている様子は見られない。

 俺はおもむろに立ち上がると、おにぎりを片手に彼らに近づいていった。

 

「どしたー? 食料忘れたかー?」

 

「あっ、ヨシちゃん!」

 

「え、ええ……」

 

「山頂で食べる分は用意したんだけど、道中で食べる分は考えになかったんだ」

 

「そうかそうか。見たところ配信に合わせてキャラメイクしたばかりってところかな?」

 

 俺もキャラメイク後に着ていた初期装備に、装飾のない無骨な武器を携えている。十中八九初心者プレイヤーだろう。

 

「ああ、そうなんだ」

 

「配信を見て……」

 

「『Guns Guns Guns』というMMOFPSでの仲間なんだ。そこで配信いつも見てて、ヨシちゃんと一緒に遊べると思ってこっちにも来たわけ」

 

 別ゲーのフレンド同士が示し合わせて、集団でわざわざ配信に来てくれたってことか。嬉しいじゃないか。

 だから、そんな素敵な視聴者には、ご褒美だ。

 

「ほれ、これ食べな。一個ずつだが、まあ山頂までは持つだろう」

 

 俺は手持ちのおにぎり一個と、新たにインベントリから取り出した包みを彼らに手渡す。

 

「ありがとう!」

 

「おお……天使……」

 

「これ、もしかしてヨシちゃんの手作り?」

 

「そうだな。ヒスイさんと二人で一緒に握ったやつだぞ」

 

 俺がそう言うと、彼らは「うおー」と叫んで、おにぎりを手にした。うーむ、いい反応するなぁ、こいつら。

 

『ヨシちゃん優しい』『やっぱりMMOは助け合いなんやなって』『羨ましい奴らめ』『いいなぁ。俺もおにぎり食ってみたい』

 

「おにぎりは簡単料理だから、食べようと思えば簡単に食べられるだろうな」

 

 そう視聴者と会話をしていると、ゆっくりと俺達に近づく者がいた。

 今度は、このゲームに慣れている感じの装備をした男だ。

 

「ヨシムネ様、わたくしめにも手作り料理のお恵みをー!」

 

「なんだ? あんたも行動食忘れたのか?」

 

「いや、ちゃんとあります。でも、手料理ほしいです」

 

「ちょっと待ったー!」

 

 そんな男に向けて横から飛び込んでくるPCが、一人、二人、三人、四人。

 

「初心者支援は仕方なく見逃したが、施しを必要としない熟練者がヨシちゃんから強請ろうなど言語道断!」

 

「お前は召喚飯でも食ってろ! 【サモン:マジカルレーション】!」

 

「てめえ! 私の目の前でマジカルレーションだと!?」

 

「ぎゃあ、料理人ギルドの回し者が!」

 

 思わぬ騒ぎに、周囲にいたPC達が次々集まってきて、さらに騒ぎ始める。こいつら、登山の途中だというのに元気が有り余っているなぁ。

 とりあえず俺は、最初に話しかけてきた男に向けて言った。

 

「残りのおにぎりは四個しかないんだ。だから、持ってる行動食と交換な」

 

 俺は、おにぎりが二個入った包みを男に向けて差し出す。

 

「マジで!? 交換しますします! はい、苺のクリームサンドイッチ詰め合わせ!」

 

「おお! こんなに! ヒスイさーん、一緒に食おうぜー!」

 

 そんな物々交換を見て、周囲のPC達がずるいとか言い始める。

 そうは言うがな。元々交換するために多めに用意したんだぞ。

 

「早い者勝ちってことで。残りの包みは一個だけしかないから、誰と交換すっかな」

 

 俺がそう言った瞬間、PC達は口々に「PvPで決めよう」だとか「テイムモンスター何匹出していい?」だとか「生産主体なんだけど」とか騒ぎ出す。

 そんな話をしていたら……。

 

「ふむ、PvPですかね?」

 

「PvPなら私の出番ですね!」

 

 ほーら、新鮮なチャンプとミズキさんが釣れたよー。

 これ、どう収拾つけたもんかな。

 

「では、じゃんけんで決めましょう」

 

 そうヒスイさんが言い、場はじゃんけん大会へと変わったのだった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 道中で騒ぎを起こしつつ、俺達は無事に山頂へと到着した。

 標高三千メートルの高さ。眼下には雲が見えており、北の方角を眺めると、雲の隙間から大きな山々が複数連なっているのが見えた。なんとも雄大な山脈だ。

 

 その景色にしばらく見とれていたが、南の方角を見ると、日は段々と落ち始めていたようだった。

 これはいかん。テント泊の準備をしなければ。

 

「よーし、ちょうど都合よく開けた場所があるから、ここにテントを並べていくぞー!」

 

 急いでテント設営だ。

 この『星』ファルシオンは惑星テラ、すなわち地球でのリアルの一日が、ゲーム内での一日となっている。

 そうなると、リアルの日中がゲームでの夜中で固定されてしまう地域の人も出てきてしまう。だが、この時代のゲーマーはゲームの中で生きる人種だ。リアルで真夜中だろうが平気で起き続け、昼間にずっと寝ていても、ゲームの中で健康的な生活を送ってさえいればそれでいいのだ。

 

 さあ、日が暮れる前にテントを張ろう。

 俺は背中の荷物を下ろし、テントを取り出す。予算の都合上、最安値の二人用テントを買ったので、ワンタッチで設置完了とはいかない。

 付属していた説明書を見ながら、ヒスイさんと二人で作業だ。

 まずポールを立てて、テント本体についた専用の穴にポールを通して、テントを直立させる。

 さらにここは山頂で寒いので、テントの床にマットを敷き、完成だ。

 

「うむうむ。剣と魔法のファンタジー世界なのに、21世紀でも使われているテントがあって助かったよ」

 

 俺はそう言って、周囲を見渡す。

 俺達と同じようなテントを使っている人から、「それ小屋じゃない?」っていう物を建てている人までいる。チュートリアルのときに見たゲルも見える。

 

『キャンプええなぁ』『自然を感じる高尚な趣味だわ』『野営とか憧れますね』『アクティブモンスターを警戒する野営とはまた違う』『ヨシちゃんリアルでもキャンプしたことあんの?』

 

「キャンプなら、学生時代に何度か。それよりここ、よく都合よくこんな大人数が泊まれる場所あったな」

 

 山頂付近には、傾きのない平たい広場があったのだ。まさにテント泊してくださいという感じのロケーションである。

 

「本来は、レイドボスを呼び出して戦うためのスペースだそうですよ」

 

 ヒスイさんがそんな補足を入れてくれる。

 レイドボスか。レイドボスとは、大量のPC、それこそ五十人とか百人とか五百人とかが集まって戦う、大規模専用のボスだ。人が大量にいるMMO特有の存在と言えるだろう。

 

『レイドボス呼び出すん?』『そんな不謹慎なこと……』『やろうぜ!』『レイド戦、期待』『そこのレイドボスはサウザンドドラゴンやね』

 

「お前らなぁ……テント設営終わった後にそんなことしたら、全部ぶちまけられて台無しになるじゃないか。それに、これからやることがある」

 

 そもそも今回の俺は、観光に来たのだ。雄大な自然を目で見て肌で感じ、そして……舌で楽しむ。

 

「……テント泊と言えば、飯。登山飯だ!」

 

 俺は右手の拳を力強く握って、そう宣言した。

 すると、周囲のPC達から歓声があがる。さあ、アウトドアを楽しもうか。

 

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