21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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4.-TOUMA-(剣豪アクション・生活シミュレーション)<2>

「弱っ! 妖怪弱っ!」

 

「チュートリアルの敵ですからねえ」

 

 ゲームの上の暦で三日間素振りを地道に繰り返した俺は、初めての妖怪退治に挑戦した。

 対する妖怪は、人間大の藁人形が二体。それを俺とヒスイさんが一体ずつ、木刀でぶっ叩いて倒した。たった一撃で藁人形はバラバラに弾け、死んだ。

 

『うむ、見事である! これからは、おぬしらが好きな時に妖怪退治に向かうがよい。世に妖怪がはびこっておるので、常に退治する敵は存在しておると考えよ。また、こちらから妖怪退治を申しつける時もあるので、心しておくがよい』

 

「あ、妖怪退治のタイミングは自由なのね」

 

「個人によって技量の上達具合は違うでしょうからね。妖怪退治をサボって鍛錬漬けになることもできるようですが……報酬は歩合制なので、妖怪退治を受けないといつまで経っても胴着に木刀姿のままになってしまいますね」

 

「木刀のままで緊急依頼的なもの来たら、死ぬしかないなぁ」

 

「妖怪に負けてもゲームオーバーにはならず、屋敷まで連れ戻されて治療されるようですけどね」

 

「倒せそうな妖怪は積極的に倒していくか」

 

 そういうわけで、俺達の鍛錬生活は本格的に始まった。

 一時間鍛錬して、二十分ヒスイさんと雑談しながら休息し、四十分寝る。そしてたまに妖怪退治をする。

 

 システムアシストもされていない、レベルも上がらない肉体を鍛錬していくのだから、剣の上達速度はそんなに早くない。正直なところ、すぐに飽きると思っていた。だが、少しずつ強い妖怪に挑戦していき、それを退治できるのはモチベーションを保つのにちょうどよかった。ヒスイさんがゲーム進行をマネジメントしてくれているおかげだろう。

 

「ヒスイさん、とうとう野犬を倒せるようになったよ!」

 

「おめでとうございます。システムアシストなしで、俊敏な肉食獣を倒せるのは快挙ですよ」

 

 やがて武器は打刀へと変わり、その重さに驚いたりもした。これ、片手で振るのは無理だな……。

 

「屋敷の周辺に美少女やイケメンがいるのに、ロマンスがなにもねえな!」

 

「NPCとの会話はオフにしていますからね。生活シミュレーションではなく、鍛錬シミュレーションとお思いください」

 

「蕎麦屋のおさえさんとかめっちゃ好みなのになぁ……」

 

「NPCに入れ込みすぎると、ゲームクリア時に別れるのが辛くなりますよ。そういうのは、百年保証のネットゲームをやるときにしましょう」

 

「百年保証とか何それすごい」

 

 ちなみにこのゲームは剣豪アクションという売りだが、武器屋には刀だけには限らず、槍や弓、鉄砲などの取り扱いもあった。鎖鎌なんかもある。

 ヒスイさん的には、武芸百般を目指すべきということで、いずれはそれらの武器にも手を出すようにと言われたが……。

 

「ですが、一年目は身体を動かすことに慣れるため、武器の交換は行わないでおきましょうか。しばらくは刀です」

 

「刀が一番格好いいから、俺は別に構わないけどね」

 

「刀は平和な時代の携帯武器ですから、妖怪退治という名目では威力不十分な武器なのですけれどね」

 

「それでも剣豪を目指したいもんだ」

 

 事前に説明されていたとおり、緊急依頼的なものが舞い込んだりもした。

 順調にそれらをクリアしていったのだが、一年目も終盤に入ってきた頃に、そいつは俺の前に立ちはだかってきた。

 

「勝てねぇー。サトリに勝てねぇー……!」

 

「思考を読んでくる敵ですか。確かに強敵でしょうね。あ、ちなみに思考の読み取りは法で厳しく規制されていますので、悪用されることはありませんよ」

 

「それはまあ、このゲームを選んでくれたヒスイさんを信用しているからいいよ。それよりも、どうやって勝つのか……」

 

「サトリの伝承にあやかってみますか?」

 

 サトリとは、人の心を読む妖怪だ。

 現実世界の伝承における退治方法は、〝偶然に頼る〟だ。だが、偶然なんてそうそう起こるものではない。

 21世紀の国民的RPGに出てくる、何が起こるか判らない呪文なんてものは、このゲームに登場する呪術にはないし。そもそも、呪術自体今の段階では詳しく教えてもらっていない。

 

「偶然に頼る方法は無理だな。別の攻略方針はあるか?」

 

「そうですね。私が倒すとか」

 

「最終手段だな、それは……」

 

 ヒスイさんはガチで強いため、どんな妖怪でもその手で倒してみせてくれることだろう。でも、これは俺がゲームを上手くなるための修行だ。アバターが現実準拠のため、ゲームというか現実の肉体を動かすのとなんら変わらないのだが。

 ちなみにヒスイさんは訓練用NPCである養父よりも強いので、普段の地稽古はNPCを使わずヒスイさんと一緒に行なっている。

 

「サトリの肉体は人間以下の身体能力ですから、要は純粋に強くなれば力押しで倒せるのですが」

 

「でも、これ緊急依頼だから、悠長に鍛錬している暇はないぞ」

 

 緊急依頼は一定期間が過ぎると失敗扱いになり、メインシナリオのルートやエンディングに影響が出るらしい。このゲームは鍛錬のためにプレイしているが、その間も動画撮影しているので、シナリオ進行は極力良好なままで進めたい。

 

「仕方ありませんね……強さをブーストしましょう」

 

「呪術でも覚えるのか?」

 

「いえ、武器を替えます」

 

 そうして俺は、打刀に代わる新たな武器、長巻を手に入れたのだった。長巻とは、柄が長い刀のことである。取り回しのよさから、豪快にかつ繊細に振り回すことができる長柄武器だ。

 武器を長巻に変えた途端、サトリはただの雑魚に成り下がった。

 

「ふはは! 読心術など恐れるに足らず!」

 

「剣豪を目指すのではなかったのですか?」

 

「長巻も剣なのでノーカン!」

 

 やがて、一年目の日々が終わった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 目が覚める。いつもの屋敷の寝室の風景ではなく、久しぶりとなる未来の自室の風景が目に飛び込んでくる。

 超加速したゲームの中で約730時間、日数に直すと30日もの間過ごしたというのに、現実の身体にはなんの影響もなかった。

 

「おつかれさまでした。お加減はどうですか? 気分は悪くないですか?」

 

「ああ、問題ない」

 

 ソウルコネクトシートから立ち上がり、背筋を伸ばす。うーん、どこも凝っていないな。優秀な身体である。

 

「食事にしましょうか。ああ、その前に……」

 

 ヒスイさんがそう言いながら、腰についた短い棒のような物を手に取り、スイッチを入れた。

 すると、棒の先から光の刃が飛び出した。うわあ、ビームサーベルだ! ライトセーバーでも可。

 

「エナジーブレードの非殺傷モードです。少しこれを振るってみてください」

 

「お、おう」

 

 俺は光の剣を受け取り、握る。しっくりくる。そりゃあ、ゲームの中で毎日、木刀なり刀なりを握っていたからな。

 そしてそれを上段に構え……振り下ろした。

 すんなりと振れた。それはまるで、ゲームの中みたいに……。

 

「記憶のフィードバックもしっかりしているようですね。おめでとうございます。ヨシムネ様は現実でも剣豪の道を駆け上っていますよ!」

 

「ええ……ゲームの中の修練が現実でも有効なの……」

 

「ええ、肉体を動かす感覚は現実と遜色ないようにできていますからね、ソウルコネクトは」

 

 そうなのか、と思いながら俺は剣をヒスイさんに返す。

 

「ということは、ゲーム上級者はみんなリアルでもクソ強いってことか」

 

「いえいえ、そんなことはありませんよ。言いましたよね、アクションゲームの上手さはシステムアシストの使い方の上手さだと」

 

「ええっ、じゃあシステムアシストのない、このゲームをやる意味ってあるのか?」

 

「ありますよ。システムアシストが補助してくれない部分の動きがいいと、その分だけアクションゲームが上手になるようです。上級者以上の存在、最上級者はシステムアシストの使い方の上手さと、肉体の操作の上手さを両方兼ね備えるということですね。それに、システムアシストが効いていないときの構えや動きがへっぴり腰だと、動画的に見栄えが悪いですからね」

 

「なるほどなー」

 

「というわけで、今回の動画はここまでになります。皆様、次回もお付き合いください」

 

「あ、今も撮影続いてたのね……」

 

「さて、食事の準備をしますね。その間に動画編集もしておきますね」

 

「約730時間分の動画編集か……」

 

「十五分の動画二本にまとめておきます」

 

「脅威の圧縮率」

 

 そんな会話を交わしてから、ヒスイさんはキッチンに向かっていった。

 とはいっても、自動調理器に材料を入れてスイッチをいれるだけなのだが。一応、鍋やフライパンといった調理道具もあるが、それは俺が趣味で料理をするときのために用意しているだけらしい。

 まあ確かに、食材を育てる農家のせがれだから、料理の心得くらいはあるけどね。

 

 そうして用意された未来料理が、食卓に並べられる。ここは日本だというのに、見覚えのない料理が多い。まあ、21世紀からは600年後の未来だしな、そうもなろう。まあ美味いからいいけど。

 

「動画の編集が終わりましたので、少し行儀が悪いですが食べながら確認しましょうか」

 

「編集早いな!」

 

「ふふふ、こういう単純作業は、時間加速をしてしまえば一瞬でできます」

 

「あー、VR機器が必要な人類と違って、ガイノイドはその場で時間加速処理できるのか」

 

「ミドリシリーズは優秀ですから」

 

 そうして俺は、食事に舌鼓を打ちながら、ゲーム内一年をまとめた前後編の二本の映像を眺めた。

 ううむ。編集上手いな。音声も適度に切り貼りして違和感なく会話を繋げている。

 俺がやったらここまでいいものは絶対にできなかったな。そもそも撮影時間が膨大すぎて、俺じゃ映像のチョイスすら不可能だ。

 

「いかがでしたか?」

 

「うん、いいんじゃないか。これでいこうか」

 

「はい、ではアップロードしておきますね」

 

 さて、どうなるだろうか。

 1000再生くらいはいくといいな……。

 

 そんなことを思っていたのだが……、その日の就寝前に、ヒスイさんからとんでもない一言を言われた。

 

「10万再生いきました」

 

「……はあっ!? ちょっと待て、無名の投稿者の初投稿だぞ!?」

 

 10万再生って、ごく一部の有名な配信者が到達できる領域じゃないのか。

 

「21世紀とは事情が違います。自動翻訳によって言語の壁はなく、人の住みかは宇宙に広がって人口も膨大です」

 

「そういうものなのか……すげえな未来の動画事情」

 

「まあそれでも見向きもされないものは、全く閲覧されないのですが……SNSでミドリシリーズの公式アカウントが宣伝を行なってくれました。今回に限っては、それが大きいでしょうね」

 

「SNSか……」

 

「興味ありますか? 私が配信告知用アカウントを運営するつもりでしたが、ヨシムネ様が直接やりたいならお任せしますけれど」

 

「いや、そういうのは得意じゃないんだ。ただ、この時代でもSNSってあるんだなって」

 

「そうですね。21世紀の偉大な発明の一つと言えるでしょう」

 

 とりあえず俺は、動画についたコメントを見てみることにした。

 

『ミドリちゃんさんがゲーム動画進出とな』『おじさん少女吹いた。性転換ソウルインストールするやつとか都市伝説じゃなかったのか』『タイムスリップとかそんなご冗談を……マジじゃねーか!』『魂に性別はないとはいえ、このおっさん完全に男ムーブしとる。でも外見はみんなのアイドルミドリちゃん。頭おかしくなりそう』『アシスト無しゲーとか玄人好みすぎる……』『ゲーム初心者がやるようなゲームじゃねえな!』『ヒスイちゃんが良妻の予感。尊い……』『NPCとの交流ないの残念と思ったけど、この二人の会話があればいいな!』『加速時間が頭おかしい。生身の人間の脳じゃ不可能だな。時代はやはりサイボーグ化』『自動翻訳切ったらすげえ古風な日本語! 可愛い!』

 

「うーむ、肯定的な意見ばっかりだな……」

 

「動画配信サービスは常にAIにコメント監視されているので、基本的に行儀がいいですよ。でも、面白くなかったのなら、パート2の再生数が落ちますが……そちらも8万再生です」

 

 今回の撮影分は、二本の動画に分けたんだったな。それぞれ十五分だ。三十分の一本の動画だと長すぎて脱落者が出るとのことだったが、継続視聴をしてもらえているか確認できる副次効果もあるとは。

 

 二本目の動画は主にサトリ戦に編集の焦点が当てられており、長巻でゴリ押しした点などは多数の突っ込みが入れられていた。勝てばよかろうなのだ。

 

「順調な滑り出しのようで、よかったですね」

 

「ああ、今夜は気分よく眠れそうだ」

 

「久しぶりの長時間睡眠ですね」

 

「そうだな。おやすみ。明日もよろしく」

 

「おやすみなさいませ」

 

 そうして俺は、動画配信初日の夜をぐっすり眠って過ごしたのだった。

 


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