21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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42.ニホンタナカインダストリ本社<2>

 AR表示されたミドリシリーズの一同が、こちらに寄ってくる。

 現実には存在しないとは言っても、その迫力に少し引いてしまう俺。

 そんな俺を気づかうものは一人もおらず、口々に言葉をまくし立て始めた。

 

「わー、生ヨシちゃん」「私達の妹!」「家族だー」「ヨシムネさん、今度おうちのSCホームに行っていいですか?」「ヒスイに締め出されているのよね」「ねえねえ、21世紀トークしてみて?」「私、歌手をしているんです。今度デュエットしましょう!」「アンドロイドスポーツしようぜ!」「ねー、SCホーム行かせてー」「ネットワークに繋げないのって本当?」

 

 ええい、俺は聖徳太子じゃない! いっぺんに話しかけられても聞き取れないぞ!

 

「はいはーい、みんな落ち着いてね」

 

 ミドリさんがそう言うと、ミドリシリーズのガイノイド達はピタリと言葉を放つのを止めた。

 おお、静かになるもんだな。

 

「みんな、ミドリさんの指示には従う感じですか?」

 

 俺がそう聞いてみると。

 

「そうねー。私、一号機でみんなの姉だからー」

 

「初期ロットのAIは、ある程度発言権があるのです。優先順位をつけないと、今回のように一堂に会したときにまとまりがなくなりますからね」

 

 ヒスイさんがミドリさんの言葉に、補足を入れてくれる。

 なるほどなー。でも、待てよ。

 

「ヒスイさんは、あんまりミドリさんに従う感じじゃないけど」

 

「私も初期ロットですので」

 

「そうよー。ヒスイも、もう結構な歳に……ってあぶなあ! 貫手はやめなさい、貫手は!」

 

 ミドリさんの失言に、ヒスイさんが指先で突きをおみまいしている。まあ、今のは、年齢の話をした方が悪いよな……いや、ミドリシリーズがいつからリリース開始されたのかとか結構気になるけどね?

 

「ふう、じゃあ、会話は一人ずつね。順番通りに。あ、ヨシムネは、敬語いらないよ。家族だからね」

 

 ヒスイさんの魔の手から逃れたミドリさんの言葉に、ミドリシリーズ達はうなずいて今度は一人ずつ話しかけてくる。

 

「ヨシムネさん、SCホームに遊びに行っていいですか? 一緒にゲームで遊びましょう!」

 

「いいけど、配信の邪魔はしないようにな。ライブ配信に来る場合は、いち視聴者として参加すること」

 

「了解しました。ヒスイ、それじゃあロック解除しておくようにしてくださいね!」

 

「……はい」

 

 ヒスイさん、SCホームにロックなんてかけていたのか。

 まあ、ある日ログインすると知らない人が! とか起きなくてよかったと思っておこう。

 

「よし、次は私だ。ヨシはアンドロイドスポーツに興味あるか? 一緒にやろうぜ!」

 

「アンドロイドスポーツって、機体性能と運動プログラムの優劣を競うリアルのスポーツだよな? 俺、プログラムのインストールをヒスイさんに止められているから、やるなら普通のスポーツになると思うぞ。それでいいなら、ヨコハマ・アーコロジーに来てくれ」

 

「ちょっとヒスイ、どういうことだよ」

 

「以前説明した通り、ヨシムネ様は動画配信を生業としています。物事の習熟過程も、大切な動画のネタになるのです」

 

「ちょっとぐらいいいだろー」

 

「駄目です」

 

 うーむ、ヒスイさんが名マネージャーをしておる。

 

「はいはい、次は私ですね。惑星マルス周辺で歌手をしているヤナギです。アイドルゲームのクリア、お見事でした。今度、一緒に歌いませんか?」

 

「惑星マルスは火星だったよな。さすがにそっちまでは行けないから、こっちに来てもらうか、もしくはSCホームで歌うことになるかな」

 

「それは、一緒に歌ってくれるということですね? ありがとうございます」

 

 物腰の柔らかい人だなぁ。自己紹介もしてくれたし、覚えたぞ。

 よし、次。

 

「何か21世紀トークしてー!」

 

「うちにいるキューブくんとイノウエさんは、名前の元ネタが昔のゲームなんだ。あ、でも20世紀のゲームだな、これ」

 

「レイクは?」

 

「植物ゲームキャラクターがサボテンくんくらいしか思い浮かばなかったから、ゲームから取らずに適当につけた」

 

「あはは、一人だけかわいそー」

 

 今になって思うと、未知の惑星に漂流して、歩く原生植物を従えて生き抜くゲームとかがあったんだよな。

 

「じゃ、私ね。あなた、本当にネットワークへ接続できないの?」

 

「ネットワークって、ヒスイさんが他のミドリシリーズとやりとりしているらしい何かか」

 

「そうね。ニホンタナカインダストリのアンドロイドは独自の高速通信ネットワークを構築していて、ミドリシリーズはそこに専用のチャンネルを持っているの」

 

「ふむふむ。今まで詳しく知らなかったから、試してみたことはないなぁ」

 

「じゃあ、申請送るから接続試してみて」

 

「おう……うっ、おえっ!」

 

 突然、頭の中に情報の濁流が襲ってきて、俺は慌てて切断を意識した。すると、無事にネットワークから離れることができ、俺は嵐の中から助け出されたような気分になった。

 

「あちゃー、無理かー」

 

「なんか、情報が多すぎて無理だった」

 

「高速通信ですから、おそらく人の魂では対応しきれないのでしょう」

 

 横からヒスイさんがそう推測を述べた。

 ミドリシリーズというハードウェアがよくても、俺というソフトウェアが駄目かぁ。

 あ、でも待てよ。

 

「VRの時間加速機能を使えば、高速通信についていけたりしないか?」

 

「それよ!」

 

「なるほど、可能かもしれませんね」

 

「早速、試してみましょう!」

 

 すると、ミドリシリーズ一同は、横で俺達の様子を面白そうにうかがっていたタナカさんに視線を向ける。

 そして、ミドリさんが代表して彼に向かって言った。

 

「室長、SC室借りるよー」

 

「あー、今、一名使用中だから、邪魔しないようにね」

 

 そう注意を受けて、俺達は静かに、広いオフィスの中を進んでいく。

 ところどころに機材があり、アンドロイドや人間の研究者が何やら難しい話をしているのが見える。

 ぱっと見で何をやっているかは理解できないが、おそらく説明されても理解できないんだろうな。

 

 そして、俺達はソウルコネクトルームと書かれた扉の前に辿り付いた。

 すると、扉が開いて中から人が出てきた。

 

 俺は、ぶつからないよう横に避けてぺこりと相手にお辞儀をする。

 

「あれ、ヨシムネさん?」

 

「ん?」

 

 何やら話しかけられたので、俺は相手を確認する。

 

 巨漢で筋肉質の二十代後半ほどの男性。その顔は……。

 

「もしかして、チャンプ?」

 

 ゲーム内より少し歳を取っていたが、まごうことなきあのチャンプだった。

 

「はい。ヨシムネさんはメンテナンスか何かですか?」

 

「いや、遊びに来ただけだ。それより、チャンプこそなんでこんなところに?」

 

「俺は、タナカさんに仕事を依頼されまして……。なにやら、ソウルコネクト用の格闘プログラムを作るそうで、データ取りをしていました」

 

「へー、そんな仕事があるんだ。……でもいいのか? 多分それ、ヒスイさんが使ってチャンプに挑んでくるぞ」

 

「はは、敵を自ら作るなんて、日常にありふれたことですよ。実は俺、こういう仕事をしていまして」

 

 チャンプから、俺の内蔵端末にメッセージが届く。

 名刺代わりのメッセージだ。なになに。

 

 来馬流超電脳空手 師範

 クルマ・ムジンゾウ

 

「空手の師範……」

 

「ソウルコネクト内で空手道場を開いていて、ゲームのシステムアシストを使いこなすための稽古を有料で実施しているんですよ。三日に一回の道場なので、俺は準一級市民ってやつですね」

 

「はー、ゲームの練習を有料で。そういうのをやる人もいるんだな」

 

「ええ、ゲームはただの遊びじゃないですからね。強くなりたい人はたくさんいます」

 

「ふーん。チャンプはゲームの中だけじゃなくて、リアルでも鍛えていそうだけど……」

 

 シャツの上からも見て解る、そのガタイのよさ。今まで見てきたアバターの姿は、見せかけの物じゃなかったってことだ。

 

「そうですね。システムアシストのかかっていない動きも鍛えることで、よりよい動作がソウルコネクト内でできるようになるんですよ。そういう意味では、『-TOUMA-』を発掘してくれたのを感謝しないといけないですね」

 

「あれ一応、武器を持って戦うゲームなんだけどな……」

 

 確かに防具に手甲もあったけれど……。

 と、そこでチャンプとの話が途切れたので、俺は本来の目的に戻ることにする。

 

「それじゃ、俺この部屋に用事があるから。まだ帰らないなら、また後でな」

 

「はい。データ取りに対戦相手が必要らしいので、ヨシムネさんとヒスイさんに話がいくかもしれませんね」

 

「マジかー……」

 

 そう言って俺達は別れ、俺はソウルコネクトルームの中へと入る。

 部屋の中には、ソウルコネクトチェアが複数並んで設置されていた。

 

「じゃ、好きなところに座ってね」

 

 そうミドリさんに促され、俺は適当なチェアを選んで座る。

 そして、そのままVR接続した。接続先のVR空間は、いつもの和風のSCホームではなく、デフォルトの真っ白な空間だ。

 そこに、次々とミドリシリーズのお姉様方がログインしてくる。

 

「じゃ、時間加速機能を使おう。百倍でいいかな?」

 

「十分でしょう」

 

 ミドリさんが操作端末を呼び出し、手元で何かをいじる。それをヒスイさんが横から眺めている。

 時間が加速されたのだろうか。視界の隅に「×100」と数秒表示され、消えた。

 

「これで試してみようか。ヨシムネ、もうネットワークへの接続方法は解る?」

 

「ああ、さっきと同じ場所だな」

 

 俺は頭の中にログを呼び出して、再接続を実行する。こういうことができちゃうあたり、自分がただの人間じゃなくなったのを実感するなぁ。

 そして俺は、今度は情報の波に流されることなく、ネットワークへ接続することができた。

 ネットワークは複数の接続チャンネルに分かれており、総合チャンネル、ガイノイドチャンネル、ミドリチャンネル、ワカバチャンネル、モエギチャンネルといろいろ存在していた。

 ワカバは民生用ガイノイドのハイエンドモデルで、モエギは確か民生用ガイノイドのエントリーモデルのことだな。

 

 俺は、その中からミドリチャンネルを選択。

 すると、目の前に飛び込んできたのは……。

 

 1 【タイムスリップ】ウリバタケ・ヨシムネについて語るスレ【おじさん少女】

 2 【ミドリ一家爆誕】ヨシムネは我らの妹

 3 【悲報】ヒスイ、ゲームで負けたってよ【無様】

 4 ペット動画を載せていくスレ

 5 食文化万歳!

 6 【お前は】最近のミドリがうざい件【姉じゃない】

 …………

 ………

 ……

 …

 

「……匿名掲示板かよ!」

 

「ヨシムネ様がこの時代にいらしてから、21世紀の文化を参考に構築してみました」

 

 VR空間で思わず叫んだ俺に、隣に立つヒスイさんがそんなことを言った。

 ああ、よかった。ネットワークの仕様が、デフォルトでこうなっているわけじゃないんだな。

 よく見てみると、匿名掲示板以外にも、SNSっぽいやりとりもあるようだった。

 

「無事に接続できたね。じゃあ、ヨコハマに戻ってもたまには接続してきてね!」

 

「ああ、そうするよ」

 

「記念カキコ、する?」

 

「いや、遠慮しとく……」

 

 俺はネットワークを切断し、VR空間からもログアウトする。

 これで、俺はミドリシリーズと本格的に付き合いが始まることになったわけだ。

 やけに妹扱いしてくるから、義理の姉が複数できたとでも思っておこう。姉でなく12人の妹なら、そういうギャルゲーも知っているんだけれどな……。あれも12人同時に妹を相手するゲームではないが。

 

「じゃー、ネットワークの接続も確認できたし、質問タイム続きいってみようかー!」

 

 そうして、俺はその後もミドリシリーズ達と交流を続け、さらに途中でチャンプも加わりゲーム大会へ突入。

『St-Knight』にて全敗というひどい結果を残しつつ、その日は社屋内の仮眠室で就眠。

 翌日はミドリさんとヒスイさんの三人でシブヤ・アーコロジーを観光し、その後、あわただしくヨコハマ・アーコロジーへと戻ってきたのだった。

 

 帰宅と同時に、ヒスイさんはイノウエさんに突撃。

 俺は、夕食の時間まで『Stella』のキャラ育成でもするかとVR接続したのだが……。

 

「おかえりぃー」

 

 俺のSCホームの日本屋敷に、ミドリシリーズのAI達が複数、入り浸っているのを発見した。

 

「俺の姉達は、仕事しなくていいのか……?」

 

「いやですね。並行作業程度、ミドリシリーズは簡単にこなせますよ。ヒスイだって、今もMMOに接続していますし」

 

 俺のつぶやきに、そうミドリシリーズの一人が反応する。

 マジか、ヒスイさん。どっぷり『Stella』沼に浸かっているのか。

 

「それよりも、約束した通り、一緒に歌いませんか? 確か、『アイドルスター伝説』のクリア特典でSCホームにカラオケルームが設置できるようになっていますよね? 私、20世紀の歌、練習してきたんです」

 

「あ、あー。ヤナギさんか。顔パターンが似ている人多いから、気づかなかった」

 

「ふふっ、人間のヨシムネさんには見分けがつけにくいかもしれませんね。今度からは、名札でもつけましょうか」

 

「そうしてくれると助かる……」

 

 そんな感じでミドリシリーズのお姉様方は俺のSCホームに入り浸り、俺は翌日も翌々日も彼女達の遊びに付き合わされることになったのだった。まあ、その様子も録画していたから配信のネタにはなったんだけれどな。

 ヤナギさんとのカラオケ動画は特に再生数が伸びたので、有名人パワーってすごいと俺は感心するのであった。俺も、単独で有名人扱いされるくらいにまで、登りつめたいものだな。

 


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