21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信! 作:Leni
チュートリアルバトルをクリアした俺は、勢いに乗ってもう一戦しようと、帰投後もストーリーを進めた。
北アメリカ統一国宇宙軍の総攻撃。それをしのぐ。
とは言っても、敵が来ることは既に知っているので、ナノマシンを散布して敵が来たところで電気妨害力場を発動。動きを止めた敵を一方的に蹂躙していくという、いまいち盛り上がらない戦いだ。
そう思っていたのだが、三機の球体戦闘機が落下した宇宙戦艦から飛びだしてきた。
『敵軍の搭乗型サイ兵器のようですね。電子機器が併用されている機体なので、十全な性能は発揮できないはずです。撃破してください』
サイ兵器。超能力で動く兵器のことだな。
俺は気合いを入れ、ヒスイさんのオペレートに従って、戦闘を開始する。
機体の性能は明らかにこちらが上だ。二回目のミッションの相手としては、これくらいでちょうどいいだろう。
≪おのれ!
精神防壁を張っていないのだろう、相手のテレパシーによる通信が簡単に読み取れた。
「マーシャン舐めるなよこの野郎。ジャガイモ食わせるぞ」
『なぜジャガイモ』『俺らに解らないってことはきっと21世紀ネタ』『視聴者を突き放していくスタイル』『俺、惑星マルス在住だけどジャガイモそんな食わんわ』
いや、火星に取り残された宇宙飛行士が、ジャガイモを育てて生き延びるという海外SF小説があってだな……。
と、そんな無駄話を視聴者達と繰り広げつつ、俺は機体のスラスターを噴かし、三機の敵戦闘機を次々と撃ち落としていく。
≪ああー!
「はーい、
『断末魔の悲鳴にすら煽っていくスタイル』『ヨシちゃんひでえや』『サイコかお前は』『悲鳴えっぐ』『さすが戦争ゲーム』
「ふひひ、サーセン」
そうして、俺達火星人類は見事に勝利を収めるのであった。
もう一戦行っておくか、と話を進める。「第3話 マルス宇宙へ」。
ほーん、いきなり宇宙に飛び出すのか。宇宙に行けるような母艦、火星人類側にあるのかね。そう思っていたのだが……。
『ミッションを説明します。火星軌道上にある北アメリカ統一国宇宙軍の駐屯用宇宙ステーションで、不穏な動きが見られました。敵軍は、大量破壊兵器である高重力弾を用意しているようです。大量破壊兵器が使用される前に、マックスとフレディの二人はマーズマシーナリーで直接軌道上に飛び出し、宇宙ステーションを破壊してください』
ミーティングでスフィアがそう説明をしてくれた。ちなみに、スフィアとは会話を通して少し親しくなり、こちらをフレディと呼んでくるようになっていた。
「直接軌道上に飛び出しって……あの機体で行けるのか?」
俺は疑問に思い、そうスフィアに尋ねる。
ちなみにスフィアは、今はただのAIであり、現実世界で動くためのボディを有していない。そのAI本体がどこにあるかについては、俺もマックスも知らない。なので、音声でのみのやりとりを行なっている。
『機体についたスラスターでは無理です。しかし、外付けの核融合ブースターを今回、突貫で用意しました。ほぼ直進しかできませんが、出力は優れています。それを使用して宇宙ステーションまで突撃してください。なお、今回も友軍はいないので、お二人の力で宇宙ステーションを破壊してもらいます』
「おいおい、全長八メートルの小さい機体で、宇宙ステーションなんて壊せるのか。駐屯用っていうんだから、きっとでかいんだろう?」
そう俺はスフィアに言うが、スフィアは淡々と答えを返してきた。
『スラスターに起爆機能をつけてあります。宇宙ステーションに到着後、スラスターを切り離し、ステーション外壁部に取り付けて起爆してください』
「核融合爆弾か……こっちも大量破壊兵器じゃないか」
マックスが、ごくりと生唾を飲み込んで、そんなことを言った。
『目には目を。歯には歯をやね』『戦争だしやむなし』『あくのちきゅうじんをやっつけろ!』『レジスタンスの反撃って燃えるよね』
視聴者も過激だなぁ。平和な未来人の本性は凶悪だった!? いや、それはないだろうけど。
まあ、実際の歴史とは言っても、今はゲームの中の話だ。
『お二人に全てを任せます。……人を助けるために生まれた私が、人を殺すことを指示する……私はAIとしてどこかおかしいのかもしれません』
「それは……」
スフィアの自虐とも取れる言葉に、マックスは黙ってしまう。
そんなマックスに、俺は言った。
「マックス。女の子の扱いがなってないんじゃないか。ちゃんとなぐさめてやれよ」
「フレディ、こんなときに何言い出すんだ!」
『私に性別は設定されていません』
「ん? いずれ火星の統治AIになるんだろう? そういうのはマザーコンピュータとかマザーブレインとか言うんだよ。ほら、マザーで女の子」
俺はスフィアに向けてそんなことを言った。将来はマザーになるんだ。つまり女の子で正しいってことだ。
『マザー、ですか……』
「だからマックス、なぐさめてやりな。生まれたての女の子だぞ」
『ヨシちゃん、そこまで言うなら自分でやれよ!』『ほら、ゲームの中に現地妻作るのは、はばかられるから』『お姉さんが黙っていない』『というかマザーを口説くとか恐れ多いわ』『はっ!? もしや俺も『MARS』やれば、マザーといちゃいちゃできるのでは!?』『できるよ?』『ロリマザー可愛い!』
マザー・スフィア人気だなぁ。
そして、マックスがしどろもどろになりながら、スフィアに話しかける。
「その、えっと、AIが人を傷付けちゃいけないとか、その、SF小説みたいなことは考えなくていいと思う。スフィアは、人間以上の人間を目指して作られたAIなんだ。なら、人間と喧嘩することだってあるさ」
「ぶふっ、喧嘩って。今のこれは、喧嘩どころか戦争だぞ」
マックスのキメのシーンだというのに、失笑してしまう俺。
「笑うなよ、フレディ! それでえーと、戦争、戦争だな。じゃあ、人間は二つの勢力に分かれているわけだ。それなら、両方の人間を傷付けずに済ませたいなんて、いくらスフィアでも無理って話さ」
「まわりくどいなぁ。女の子にかける言葉か、それ」
「フレディ! ああー、もう。そうだな。スフィア、気にすんな! 実際に手を汚すのは俺の仕事だ!」
『……はい、ありがとうございます』
うむ、丸く収まったようだな。
そして、俺は一言スフィアに向けて言った。
「照れてる?」
『照れていませんが』
照れてるな。
『マザーの可愛さを引き出していくスタイル』『ヨシちゃん攻めるなぁ』『スフィアちゃんはマックスの嫁』『どうして俺の嫁じゃないんだ!』『自分で『MARS』プレイしろよぉ!』『現代人にマザーの可愛さを知らしめるゲームやな』
マザー・スフィアも、幼い頃の自分を好き勝手いじり倒せるゲームをよくお勧めしてきたもんだな。
『マザーは自分に親近感持ってほしいらしいから』『アイドルを超えたアイドル』『ヨシちゃんもマザーの配信見ようぜ!』『マザー、またクソレトロゲー配信やってる……』
人類の管理AIなのにずいぶん緩いな!?
そんなこんなでミーティングは終わり、俺達はそれぞれのマーズマシーナリーに乗り込む。
軌道上に垂直で上がるため、背中にブースターをつけて、仰向けになった状態で空を見上げている。
『敵軍の迎撃が予想されるので、サイコバリアは全力で張ってください。ただし、Gがかなりかかりますので、ご自身の身体をサイコキネシスで保護するのも忘れずに』
そうヒスイさんの助言を受けて、出撃の時間に。外付け核融合炉が起動し、俺達は空に打ち上げられた。
「あばばばば、Gがすごいッ!」
『ははっ、なんだ、フレディ。サイコキネシスは苦手か』
「くっ、マックスめ。こちとら、エレクトロキネシスの得意なサンダーバードじゃい」
そんな通信をしている間に、宇宙ステーションが近づいてくる。
宇宙ステーションからは迎撃のレールキャノンやミサイルが飛んでくるが、サイコバリアや新開発のマーズマシーナリー用熱線ガンを駆使して防ぐ。
俺は、ブースターを停止して減速を始めるが、マックスはなんと勢いを止めずにさらにサイコバリアを強めた。
『フレディ、俺は突撃して中に爆弾設置してくるぜ!』
「無茶するなあ!?」
そして、そのままマックスは宇宙ステーションに突っ込んだ。サイコバリアの強度を衝突の力が上回ったらどうするつもりなんだ、あいつは。
『マックスマジ男前』『心臓が熱くなってきやがった……』『頼れる相棒』『ただし敵の迎撃は主人公一人に集中する』
「マジかよ! うわ、宇宙ステーションからたんまり戦闘機が出てきやがった!」
俺はナノマシンの散布を開始しながら、縦横無尽に宇宙を駆ける。スラスターはブースターが背中にくっついているので使えない。代わりに、ブースターの瞬間的超加速で敵機を置き去りにし、ナノマシンを置き土産にしてやる。
「エレキアターック! うおお、宇宙空間なのに電気が通るぞ。さすが超能力!」
『サンダーバードの本領発揮だな』『宇宙戦こそマーズマシーナリーの華よ』『ヨシちゃんよくまともにブースター扱えるな』『変態機動すぎる……』『お、このBGMいいね!』『心臓が熱いわー』
地上での戦いとは違うBGMが流れている。これは、オープニングムービーで流れていた歌のアレンジ曲か。
俺はそのBGMにノリながら、電撃と熱線で敵戦闘機を撃ち落としていく。電子機器がマルスの機体には積まれていないというが、しっかり照準を合わせてくれる。ESPを応用した何かが働いているのだろう。
そして、次第にナノマシンの効力が出てきたのか、敵機の動きが鈍くなってくる。
と、そこで宇宙ステーションが大爆発を起こした。
『やったぜ! フレディも今の隙にブースター設置してくるんだ!』
「あいよー」
俺は無残に破壊された宇宙ステーションに肉薄し、背中のブースターを取り外す。そして、ブースターを設置。急いで離脱する。
『もう少し距離を取ってください』
ヒスイさんの指示に従いさらに距離を取り、俺はマックスに注意をうながした後、ブースターに向けてテレパシーを発信した。
すると、またもや宇宙ステーションは、巨大な爆発を起こした。
もはや宇宙ステーションはその形を成しておらず、宇宙をただよう完全なスペースデブリと化した。
「勝ったッ! 第3話完!」
『よっしゃ! 俺達の勝利だ!』
『敵の残党処理を忘れずに』
ヒスイさんに注意をうながされ、俺達はナノマシンの影響で沈黙した敵戦闘機を撃破していく。宇宙ステーションの中にいた兵士が遠隔操作していたのなら、どのみち動かなくなっていただろうけどな。
そうして、俺達は宇宙軍を全滅させ、火星へと帰還。居住区の人々に熱く迎えられ、英雄扱いを受けたのだった。
第三話が終わり、俺はゲームをセーブし、ゲーム終了してSCホームへと戻ってくる。
「それじゃあ、今日のプレイはここまでだ。視聴者のみんな、付き合ってくれてありがとう!」
『今日のヨシちゃんはすごく生き生きしてた』『ロボット好きめ。俺も大好きだ!』『ヨシちゃんニホン国区にいるから、ニホンタナカインダストリのベニキキョウを生で見られるんだよな……』『なぜか惑星テラにあるサンダーバード』
「ああ、この前シブヤ・アーコロジーに行ったときベニキキョウ見たぞ。そういえば、あれフレディの機体なんだっけか?」
「実際に乗っていた機体だそうですよ」
俺の疑問に、ヒスイさんがそう答えてくれる。
「ということは、フレディは今後撃ち落とされることなく戦い続けると……微妙にネタバレやね」
『フレディ生存は歴史の常識だから、ネタバレとか考えたことなかった』『ヨシちゃん歴史駄目なの?』『その歴史を学ぶためのこのゲームよ』『過去視ができなかった21世紀の歴史知識とか、相当間違いがありそう』
歴史知識か。本能寺の変の真実とか、この時代なら判明しているのかね。
と、そんなことを考えているとメッセージが届いた。
今、配信中だから、後で確認だな。……待てよ、俺に直接メッセージが届くということは、マザー・スフィアからじゃないか?
どれどれ。お、やっぱりマザーからだ。内容は……。
「なんかマザーからメッセージが届いた」
『マジで?』『ほ?』『まさかマザー、この配信見ていたんじゃ?』『見ていましたよ』『うわあああ! マザーだー!』『マジで!?』『マザー降臨!』
うわあ、視聴者コメントがすごいことになっている。
で、メッセージの内容は……。
「『ヨシムネさんは、マックス×スフィア推しですか?』だってさ」
『マザー……』『やめてくれよスフィア!』『うわあああ! マックスがおるううう!』『マックスも配信見ていたのかよ!』『スフィアにこの配信見ろって言われて……自分が出てくるゲームとか恥ずか死ぬ!』
「ええっ、マックス……いや、スノーフィールド博士ってこの時代でも生きてるのか……視聴者が言ってたみたいに、戦争中に死ぬんじゃないんだ。すごいネタバレ食らった気がする」
「スノーフィールド博士は、アンドロイドボディにソウルインストールをして、惑星マルスで研究者として今も働いていらっしゃいます」
「300年以上働くとか、すごくない?」
『照れるぜ』『そこはマジで尊敬する』『300年働くとか絶対に無理ぃ』『でも今日は働かずに配信見てたやん』『仕事中に配信見るとかハマコちゃんじゃないんだから』
ハマコちゃんへの唐突な風評被害! いや、風評でもないか……。
ともあれ、今日のライブ配信はこれで終わりだ。俺は、まとめの言葉に入る。
「さて、マザー・スフィアやスノーフィールド博士が来てくれていたみたいだけど、今日の配信はこれで終わりだ」
『もう終わりかー』『明日も配信するの?』『心臓熱くないわ……』『盛り上がってきたのに残念』
「もちろん、明日もこの続きをやっていくぞ。明日もまた見てくれよな! 以上、リアルロボットが出てくると思ったらスーパーロボットが出てきて驚いている、21世紀おじさん少女のヨシムネでした!」
「ミドリシリーズの配信参加を裏で防ぎ続けていた、助手のヒスイでした」
「あの人達そんなことしようとしていたの!?」
『気になる終わり方するなよ!』『もしかしてミドリさんとか出てくる?』『ミドリシリーズオールスター見たいです!』『ミドリシリーズって、全員仕事で忙しいはずだよね……』
俺はそんな視聴者コメントを聞きながら、本日の配信を終了するのであった。
いろいろ気になるが、明日もまた頑張ろうか。