21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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47.MARS~英傑の絆~(ロボット操作アクション)<5>

「どうもー。開幕から昨日より多い視聴者数にビビっている、21世紀おじさん少女だよー」

 

「マザーが視聴していると話題になって、注目されたようですね。助手のヒスイです」

 

『わこつ』『わこつです!』『わこわこ』『お、視聴者にマザーいるな』『はい、今日もヨシムネさんの活躍が楽しみです』『スノーフィールド博士もいますねぇ』『言うな。最近部下に仕事を取られて暇なんだ』『一級市民でも仕事がないってAI頑張りすぎだろ……』『そのAIを作っているのはマックス本人だけどな!』

 

 うーん、ライブ配信開始早々、いろいろ人が来ているなぁ。視聴者を検索してみたらハマコちゃんもまたいるみたいだが、歴史的ビッグネームと比べたら影も薄くなるってもんだ。

 

「今日は初見の人も多いと思うので、簡単に我が家のメンバー紹介。まず俺。時空観測実験事故に巻き込まれて21世紀からやってきた、元おじさんだ。今はミドリシリーズのガイノイドに魂をインストールしているぞ」

 

 そう簡潔に述べて、次はヒスイさんをカメラの中央に映してもらう。

 

「こちらはヒスイさん。ミドリシリーズのガイノイドで、俺の身の回りの世話と身辺警護をしてくれている助手だ。ただし、所属は行政区なので、俺の言うことを聞いてくれるわけじゃないぞ」

 

「ヨシムネ様の要望に応えなかったことがあったでしょうか?」

 

「そうじゃないけど、いろいろ俺に厳しい……! こっちは猫型ペットロボットのイノウエさん。名前は、20世紀末の会話ゲームの猫系キャラクターからいただいているぞ」

 

 箱に詰まって遊んでいるイノウエさんをキューブくんが大写しにする。

 うーん、紹介中だっていうのに、マイペースな奴だな、この猫。

 

「こっちのプランターに埋まっているのが、惑星ヘルバに生息するマンドレイクのレイクだ。なかなかユニークな動きをするぞ。名前はマンドレイクからそのまんま取っただけだ」

 

 今日もレイクはピコピコと葉っぱを揺らしている。土から獲れるエネルギーで、よくそこまで動けるもんだなぁ。

 

「最後に、リアルでのカメラ役である、飛行カメラロボットのキューブくんだ。20世紀末のオムニバスRPGのSF編に出てくる、主人公ロボットが名前の元ネタだ」

 

 俺がそう紹介すると、キューブくんは電子音を出して存在を主張した。彼がカメラを回しているので、映ることができないからな。

 

「以上、ウリバタケ家の楽しい五人のメンバーだ。とは言っても、ゲーム内では基本、俺とヒスイさんの二人だけでお送りすることになるぞ」

 

「一応、レイク以外はソウルコネクト空間への接続が可能ですけれどね」

 

『ゲームをハックしてまでイノウエさんを出すヒスイさん』『ペットロボットってMMOへの接続可能なのだろうか』『無理じゃないかなぁ』『猫成分が不足したヒスイさんが暴走してしまう!』『こりゃ『Stella』内でも猫飼い始めそうだな』『まずはマイホーム買わないと……』『大丈夫? お金稼ぎでヨシちゃんが足引っ張らない?』

 

 ふひひ、かなり足引っ張っています。サーセン。

 

「とりあえず、これでリアルのパートは終了……じゃないんだよなぁ」

 

「昨日要望がありましたので、『MARS~英傑の絆~』の主題歌をヨシムネ様にこの場で歌っていただきます」

 

「頑張って練習してきたぞ! 歌唱指導は、ミドリシリーズのヤナギさんだ」

 

『マジか』『いえーい、ヨシちゃんのミニライブ!』『心臓ちょっと熱い』『そういえば、ヤナギさんとのカラオケ動画も配信していたね』『マルスの歌姫の指導かぁ。贅沢やね』『妙にフリフリした服着ているなと思ったら、アイドル衣装だったのか』

 

 はい。なぜかヒスイさんに昭和アイドル風衣装を着せられているヨシムネです。

 そんな俺に、ヒスイさんはマイクを渡してくる。キューブくんが集音してくれているのでマイクは必要ないのだが、雰囲気作りってやつだ。

 ちなみにこの歌は、配信内で勝手に歌ってもOKな曲らしい。そのあたりの権利関係はヒスイさんに丸投げだ。

 

「歌は世につれ世は歌につれ。それでは、ヨシムネ様に歌っていただきます。『英傑の絆』」

 

 ヒスイさんがそう言うと、昨日一日で聞き慣れてしまったイントロが流れ始める。

 

『心臓熱くなってきた?』『やや熱い』『だんだん熱くなってきた』『熱いよ熱いよ』『ちょっと冷めてきた』『かなり熱い』

 

 音声でなくテキストになった視聴者の謎のやりとりを流し見つつ、俺は歌い始める。

 本来は男性ボーカル曲なので、極力格好よくなるように歌う。英語歌詞なのは未だに慣れないが。

 そして。

 

心臓を(Heat)熱くしろ( your)おおおッ!( heart!)

 

『かなり熱い』『激熱』『うおー、あっちぃー!』『熱いぜ熱いぜ熱くて死ぬぜ』『心臓に火、灯してんのかーい』『よっ! 21世紀の大火山!』

 

 こうしてライブ配信は開幕から、熱く盛り上がったのだった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 北アメリカ統一国の火星駐留宇宙軍を壊滅させた俺達。その評判は火星中に広まり、その力を頼りにくる他の火星植民地が続出した。

 元々、火星人類達は統一の方向で動き始めていたらしく、これを契機に地球への反逆を始めることになった。

 

 俺とマックスは火星中を飛び回り、地球の軍勢を打ち倒していく。そして、その最中にも研究者達は工事用マーズマシーナリーをサイコタイプに改造していき、新たな戦力が増えていく。

 敵軍も連合を組んだりして制圧に必死になるが、ナノマシンの電気妨害の力もあり、俺達は火星を完全解放することに成功した。

 

 人々は新たな火星の指導者を求め、AIであるスフィアがこれに就任。スフィアは自分を複製して新たなAIを次々と生み出し、火星の管理を始めた。

 人種も違う、使用している言語すら違う火星の人々は、こうしてスフィアを頂点として一つにまとまることになった。

 

 そして、火星の人々は自分達の統一国家の呼び名を欲しがった。

 そこで、スフィアは各々の言語で呼ばれていた火星の呼び方を統一することにした。それは、今の時代にも伝わる名前。惑星マルスだ。

 国家ではなく、惑星そのものを自分達の呼び名にしたのだ。

 

「そんなことより、早く敵にも人型ロボット出てこないかなぁ」

 

『歴史の節目だというのに台無しすぎる』『まあこれゲームだしな』『ロボVS.ロボはやっぱり燃える』『現段階の敵のサイ兵器は球体戦闘機でダサいんだよな』『宇宙用で球体は理に適っているんだろうけど……』『やっぱり人型ですよね!』

 

 そんな感じで二日目のライブ配信が終わる。

 すると、終了とともに、SCホームへミドリシリーズの面々がどっと流れ込んできた。

 

「ちょっとヒスイー。締め出すのはやめなさーい」

 

「配信の邪魔をされては困りますので」

 

「邪魔しないよー。私達も助手くらいできるんだから」

 

「船頭多くして船山に上ると言いますので」

 

「船頭はヨシムネ一人でしょ。ね、ヨシムネ、私達も配信に映っていいでしょー?」

 

 ミドリシリーズの一人が、何やらそう俺に話しかけてくる。

 だが、俺の答えはノーだ。

 

「収拾つかなくなりそうだから駄目だ」

 

「えー……」

 

「ゲストに一人二人呼ぶならいいが、今回はマザー・スフィアだのスノーフィールド博士だのも来ているから、『MARS』の配信中はゲストはなしだな」

 

「む、むう……。マザーがいるんじゃ仕方ないか……」

 

 そんな感じで、ミドリシリーズの人達は大人しく引き下がってくれた。

 まあ、一度ミドリシリーズ全員集合しての配信も楽しそうではあるのだが。しかし、今回はマザー・スフィア推薦のゲームだから、そんな無軌道な配信をするのも気が引けるのである。

 

 そして翌日、またライブ配信が始まる。

 

 来たる地球側との宇宙での戦いに備え、火星では宇宙用軍艦の建造が急ピッチで進められていた。

 それは、乗組員のソウルエネルギーを動力とした超能力艦。

 電気妨害力場の下での運用を考え、電子機器の類は必要最低限にされている。

 代わりに、ソウルエネルギーで動作する新しい概念の機械を導入しており、火星側のAIの補助を受けて動く。火星との通信は、テレポーテーション通信だ。

 

 その建造現場を守るため、俺達マーズマシーナリー隊は襲撃してくる敵宇宙軍と戦っていた。

 建造現場には、サイコタイプではない工事用マーズマシーナリーや作業ロボットがいるため、ナノマシンは散布できない。それでいて、軍艦に傷をつけられてはいけないというのだから、ミッションは難関を極めると思われた。しかし。

 

『敵の戦力が半端なサイ兵器ばかりで、こりゃ楽勝だな!』

 

 マックスが敵をサイコキネシスで押しつぶしながら、そんなテレパシー通信を入れてくる。

 

「建造中は、ナノマシンが使えないってことを知らずに来たんだろうな」

 

『まあ、惑星マルスの地球側駐屯地は全部潰したし、情報戦でも勝ったってことだろ』

 

 そうしてミッションは無事クリア。作中の月日は流れ、俺達は惑星マルスを守るため宇宙へと繰り出すことになった。

 目的は、惑星の外側に前線を敷くこと。惑星でドンパチやっていたんじゃ、軍艦の建造もままならないからな。

 

 終わりの見えない戦争に突入しているが、植民地支配されて搾取され続けるのよりはマシと惑星マルスの人々は考えているようだ。

 そもそも、彼らは地球を追い出され、無理やり移民させられた人々なのだ。地球人類への敵意は強かった。

 

 まあ、いろいろあるがそれよりもだ。

 

「人型ロボットの華といえば宇宙戦! いや、ロボゲーは地上で戦うことが多いけど、やっぱり盛り上がるのは宇宙だ!」

 

『相変わらず台無しだな!』『もっとこう、マルス人の悲哀とか悲願とか……』『ゲームじゃなくて歴史のお勉強をしましょうねー』『ヨシちゃん戦艦落としやってみせてよ』

 

 そんなこんなで、さらにライブ配信は次の日に移り、宇宙での戦闘が始まる。

 

 宇宙は広大だ。ナノマシンの散布にも限界がある。

 だからマルス人達は、まずは軌道上を絶対防衛圏としてナノマシンを散布し、それ以外の場所には必要に応じて薄く散布することにした。

 軌道上以外での効力は、ちょっと計器の調子が悪いなー、程度のものにしかならないだろう。だが、マーズマシーナリーにはナノマシンをたんまり積んであり、それを散布することで、戦闘が始まるとともに段々と電気妨害が強くなっていくという状態になる。

 

 ゆえに、マーズマシーナリー隊では最初に、いかに長く生き延びられるかの訓練が積まれるようになった。

 訓練は、旧式VRでの仮想戦闘である。俺とマックスは、その仮想戦闘でトップ争いを続けていた。

 天狗になりそうになる俺だったが、視聴者が言うには一周目だから難易度が低いだけらしい。

 

 ううむ、そりゃあそうだよな。

 俺はゲームで少し操作を触っているだけだが、マックス達はこのVRでの訓練を毎日のように積んでいるわけだ。本来なら俺が追いすがれるわけがなかった。

 

 ともあれ、宇宙戦である。

 敵の戦艦が惑星マルスに近づいているとの報を受け、俺達マーズマシーナリー隊は、要塞として建築中のスペースコロニーから、そろって飛び出した。

 

 敵の球体戦闘機が多数展開し、戦艦がレールキャノンをばらまく。大量破壊兵器の高重力弾などを使用する兆候は見えない。撃たせる前に急接近したからだ。

 マーズマシーナリー隊は事前に立てていた作戦通り、敵弾から逃げ回ってナノマシンを散布していく。後詰めに、こちらも超能力艦の出撃準備がスペースコロニーで進められている。急いで敵を倒す必要などないのだ。

 そんな中で、俺は……。

 

「エレクトロキネシスだー! うはは、こりゃ撃ち落とし放題だな!」

 

 時間稼ぎなど二の次で、戦闘機を倒すことに全力を掲げていた。

 

『まあそうなるな』『コンティニュー可能なゲームなら、そりゃ戦うよなぁ』『実際の戦場にいたらバーサーカー扱い』『バーサーカーヨシちゃんきゃわわ』『エースパイロットっていうのはどこかおかしいもんだ』『心臓熱々』

 

 本来ならばナノマシンの電気妨害力場の下では、エレクトロキネシスは不安定になる。だが、主人公ことアルフレッド・サンダーバードは、力場すらねじ伏せるほどのエレクトロキネシスへの適性を持っていた。

 

「うぇーい! 15機落としたぞー! ふふふんふーんふん」

 

『鼻歌かよ』『ご機嫌な鼻歌だ』『宇宙戦BGM、英傑の絆のアレンジ曲だしねぇ』『熱いなーちょっと熱くなってきたなー』

 

 やがて、ナノマシン散布が終わる前に敵戦闘機は全滅した。

 

「おっ、戦艦逃げてくぞ」

 

『追え!』

 

『落としちまえ!』

 

『ひゃっはー! 新鮮な戦艦だぁー!』

 

 マーズマシーナリー隊が世紀末で今後が心配です。

 と、逃げる戦艦を追ってナノマシンの散布圏内を飛び出したそのときだ。

 

『周辺宙域にテレポーテーション反応! 強大なソウルエネルギーを感知!』

 

 ヒスイさんの言葉に、俺は機体を止める。

 すると、周囲に突如、宇宙艦隊が出現した。

 

『敵戦艦7、空母3、サイコタイプの中型艦1。危険です。撤退してください』

 

 ヒスイさんがそう言うとともに、敵空母から大量の球体戦闘機が吐き出されていく。

 

「ひえっ、さすがにこの数は無理……!」

 

『撤退! 撤退だ!』

 

『逃げろったって、囲まれてるぞ!』

 

『畜生、あの戦艦は囮か!』

 

 マーズマシーナリー隊が、きりきり舞いの大騒ぎになる。

 うひー、どうする。こういうときは、リーダーのマックス、頼んだ!

 

『落ち着け! 落ち着いて、テレポーテーションで逃げるんだ!』

 

『そんなこと言ったって、テレポーテーションで通信するのとは違うんだぞ! 蜂の巣にされちまう!』

 

 そう、テレポーテーションで質量のある物体を遠くに飛ばすには、精神集中が必要なのだ。その間、サイコバリアを張ることはできない。

 

『大丈夫だ、俺がしんがりを務める! サイコキネシスで物理障壁を張るから、その間に飛ぶんだ!』

 

『待てよマックス! お前を置いて逃げろってのか!?』

 

『死んじまう、死んじまうよマックス!』

 

 こ、これは……! 憧れの俺を置いて逃げろのシチュエーション!? 仲間のための犠牲! 熱い!

 

『ヨシちゃん何言ってんの……』『いやでも結構同意できるぞ』『男の最期だ。こうありたいもんだ』『俺は長年ソウルコネクトしてきているから、男の美学の類がいまいち解らなくなってきたわ……』『魂に性別はないからなぁ。健全ゲームやってるとそうなる』『私は死ぬならソウルサーバにしっかり収まりたいです』

 

 マックスを置いていけるかと騒ぐマーズマシーナリー隊を尻目に、俺はそんな俗な思考で視聴者達と盛り上がる。

 

『さあ、逃げてくれ。長くはもたないぞ!』

 

『マックス……畜生ーッ!』

 

『惑星マルスに神はいないっていうのか!』

 

『俺達が不用意に深追いしたばっかりに……』

 

「……え、ちょっと待って、マジにマックス一人で残るの? 死ぬの? え、じゃあ視聴者のスノーフィールド博士は、どういうこと?」

 

『やだなあヨシムネさん。そんな人はどこにもいませんよ』『マックスはここで死ぬ。歴史の定めだ』『惜しい人をなくした……』『マックスぅー!』『運命はどうしてこんなにも残酷なのか』

 

「えっ? えっ?」

 

『ヨシムネ様、テレポーテーションを開始してください』

 

「お、おう……」

 

 俺は、ヒスイさんにうながされ精神集中を始める。

 すると、マックスからテレパシー通信が届いた。

 

『フレディ、スフィアによろしくな。後は頼んだ』

 

 そんな言葉を一方的に言われる。

 俺は精神集中をしているので、こちらからテレパシー通信を返すことができない。

 

「マックス……?」

 

 そして俺達は、マックスを置いて惑星マルス近くのスペースコロニー周辺まで飛んだ。

 機体をコロニー内に収容したときには、すでにマックスとの通信は途絶えていた。オペレーターが言うには、ソウルエネルギーが尽きかけたところに、コックピットへ敵戦闘機のレールキャノンが直撃したとのこと。

 マーズマシーナリー隊はその日、頼れるリーダーを唐突に失った。

 


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