21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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49.MARS~英傑の絆~(ロボット操作アクション)<7>

 戦闘ステージが本格的に宇宙へと変わった。

 惑星マルスでは次々と超能力艦がロールアウトし、作業用マーズマシーナリーはサイコタイプへと入れ替えられていった。

 驚異的な作業スピードらしい。その背景には、一日中現場監督をしていられるAIの存在が大きかった。作業も全てロボットが行ない、現場に人は介在しない。

 

 人の仕事を機械が奪う危機感などを本来ならば覚えるのだろうが、今は戦時中。本来働くはずだった作業員達は、AIの存在を歓迎した。

 なるほど、こうして現代に続くAIだけが働く世界が作られていったのか。

 

 一方で、地球側はというと、技術的特異点を突破するAIの誕生の兆候は見えない。

 そりゃそうだ。そもそもこの戦争は、地球側がAIであるスフィアを破壊しようとしたことがきっかけなのだ。

 

 連合という形が足かせになっているのか、遅れる地球の対応を尻目に、惑星マルスの勢力はもはや一つの宇宙軍と言っていい規模になっていた。

 惑星を守れるだけの軍備は整った。では、このまま専守防衛に努めるのか?

 スフィアは否との答えを出した。

 

『月を占拠します。マスドライバーを設置して、いつでも地球を無差別攻撃できるという重圧を与え、こちらに有利な条件で講和を結びます』

 

 マスドライバーとは、荷物の入ったコンテナを地上から宇宙や他惑星に向けて撃ち出す、輸送施設のことである。

 本来なら月から地球に向けて荷物を届けるためのその施設を質量兵器として用いるのである。

 重力の関係上、月から地球へ向けたマスドライバーの実現は、この時代の技術力があればたやすい。そして、荷物の入ったコンテナではなく岩などを無差別に地球に向けて撃ち込むのだ。

 

 人間を傷付けることに後ろめたさを感じていた初期のスフィアからは、想像できないほど頼もしくなったなぁ。

 一方的に地球を攻撃とか、なかなか考えることがエグい。

 

『マザーは今でも唯一人類に反逆できるAIだからな』『反逆というか、管理している小動物をいたぶるというか……』『マザーが支配者側なんだから、反逆とは言わないわな』『あらあらー、駄目な人間さんですねーっていたぶられたい』『そんなことしませんよー』『ひえっ! この配信は監視されている!』『マザーのスペック考えると、全配信同時監視していてもおかしくない』

 

 未来のマザー・スフィアは頼もしいというか、立派に管理者を継続しているようで偉大になったというか……。

 

 そんなこんなで、とうとう俺達は惑星マルス圏内を出て、本格的に宇宙へ進出することになった。

 一気に月までテレポーテーションすることも可能なのだが、それをすると囲んで叩かれるので少しずつ勢力圏を広げていく戦略だ。

 各所にある宇宙拠点を占拠・破壊して、敵の足掛かりとなる場を潰していくのである。

 

 俺達は、地球と火星の間にある敵スペースコロニーに向けて、大艦隊で惑星マルスを出発した。

 このスペースコロニーは、地球各国の軍事拠点が集まってできた、火星への足場。敵が連合を組んでいる以上、それはもはや要塞とも呼べる、やっかいな一大拠点となっていた。

 

 スペースコロニー周辺宙域へとテレポーテーションする、惑星マルス宇宙艦隊。

 すると、そこにはすでに地球軍の敵艦隊が展開していた。

 こちらは大がかりな動員だったからな。外から惑星マルスを観測して、侵攻の兆候をつかんでいたのだろう。

 

 こうして、正面から全力でぶつかり合う、一大宇宙決戦が始まったのだった。

 

『ナノマシンの散布を急いでください』

 

『敵戦艦より高重力弾発射の兆候を確認!』

 

『テレポーテーションフィールド展開』

 

『テレポーテーションフィールド展開!』

 

 そんな味方のテレパシー通信が聞こえる。

 俺は、マーズマシーナリーに乗り込んだまま、母艦の中で出撃の時を今か今かと待ち続けていた。

 

『敵高重力弾発射されました!』

 

『転移に成功!』

 

 おっ、大量破壊兵器の反射に成功したようだ。敵艦隊の一部が何かに飲み込まれて潰れた。開幕から派手だなぁ。

 

『ナノマシンの散布が完了したところから、マーズマシーナリーに出撃してもらいます。サンダーバード隊、出撃準備!』

 

 出番がようやくきた!

 いくぜーいくぜー全部落とすぜー。

 

『おっ、このイントロは』『決戦専用BGMやん』『盛り上がってまいりました!』『正面から殴り勝て!』

 

 やってやろうじゃないか!

 

『サンダーバード隊出撃!』

 

「ヨシムネ、行きまーす!」

 

 今日の俺はご機嫌だ。何せ、機体が新しくなったのだ。とはいっても、俺専用機のサンダーバードから乗り換えたわけじゃない。機体のパーツを入れ替えて、電子機器を大量導入したのだ。

 ナノマシン散布環境では電子機器は動かない? そんなことはない。アルフレッド・サンダーバードの持つエレクトロキネシス適性があればね。電気妨害力場の下でも、その電子操作能力で電子機器の使用が可能なのだ。

 というわけで、今の俺専用カスタム機、サンダーバードEは、どこかアナログだったマーズマシーナリーのサイコタイプとはうって変わって、最新の機器にあふれているのだ!

 

 俺がハイテンションのまま宇宙へと飛び出すと、敵も新たなサイ兵器を繰り出してきた。

 それは、明らかに人型ロボットであった。

 

「もうフェンリルのリバースエンジニアリングに成功したのか? 地球軍えらいっ!」

 

『敵の軍備強化に喜ぶ駄目軍人の図』『やっとロボ対ロボかー』『訓練期間考えたら明らかにマルス有利だよね』『そんな中で突然天才エースが現れるから燃えるんだ』

 

「巨大パイルバンカーだ! 死ねえ!」

 

 パイルバンカーとは、巨大な杭を敵に向けて撃ち込む(おとこ)の武器である!

 

『オーバーキルすぎる!』『最初のロボット相手だと思って、ヨシちゃんテンション振り切れたな』『なんでそんな馬鹿でかい玩具を選択してきたんですかねぇ』『隊長機がロマン兵器を持ち込んでいる件について』

 

「それは当然、こうやって超能力戦艦に突撃してじゃな……」

 

『まさかヨシちゃんやる気か!』『弾幕全部避けていやがる! 変態機動すぎるぞ!』『これじゃあサンダーバード・ベルじゃなくて他の二つ名つきそう』

 

「このパイルバンカーを……こうじゃ!」

 

 俺は、敵超能力戦艦のサイコバリアに向けて、巨大パイルバンカーを叩き込んだ。すると、一発でサイコバリアははじけ飛んだ。

 そして、再度サイコバリアを展開される前に、俺はブレードを抜いて超能力戦艦の装甲に斬りつける。

 

「うーん、装甲めっちゃ分厚い。史実のサンダーバード博士はどうやって宇宙戦艦一人で落としたんだ?」

 

『どうやったんだっけ』『ブースターを核融合爆弾代わりにして爆殺』『マーズマシーナリーの力って感じではないよね』『八メートルしかない小さな機体だからなぁ』

 

 まあ、だが俺には巨大パイルバンカーがある。撃ち込むための杭は、まだパイルバンカーに無事存在しているので、ワンモアだ。

 

「ヒスイさん、一撃で戦艦落とせそうなところある?」

 

『AR表示します。攻撃後、ソウルエネルギーの20%を使用してエレクトロキネシスを流してください』

 

 さすがヒスイさん! 俺は、指示に従い、敵超能力艦の迎撃と護衛の敵ロボットを回避しながら、パイルバンカーを叩き込んだ。

 

「エレキアタック特盛りだー!」

 

 突き刺さった杭に電撃を全力で流し込む。すると、敵艦からの迎撃が止んだ。

 

『敵艦橋沈黙を確認しました』

 

「うわ、動力部とかじゃなくて艦橋かよ。エグいなぁ」

 

『敵の超能力艦内部は対超能力防壁が未熟なようなので、サイコバリアさえくぐり抜ければ、このように無防備なのです』

 

「へー。ソウルエネルギーの消費が激しいからもうやらんけど」

 

『マジで戦艦落とすとか……』『大英雄じゃないっすか』『いやあ、パイルバンカーで破られるサイコバリアが不甲斐ないよ、これは』『地球軍側で惑星マルス軍と戦うと、マジで超能力艦固いからな……』

 

 ともあれ、弾幕張ってくる邪魔な戦艦は落とした。あとは、人型ロボットとの戦いを存分に楽しむぞー!

 俺は、テレパシーでときおり伝わってくる敵味方の断末魔の叫びを聞きながら、宇宙を存分に駆けたのであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 俺達惑星マルス軍はスペースコロニー周辺宙域での決戦になんとか勝利すると、そのままコロニーを占領。各国の軍事拠点を一箇所だけ残して他をことごとく破壊した。

 さらに、周辺の宇宙ステーションも破壊して、地球人類が惑星マルスへ向かうための足場を完全に崩壊させることに成功した。

 

 その影響があってか、そこで地球側の足並みが崩れる。

 独自に火星に侵攻しようとする国、スペースコロニーを奪還しようとする国、艦隊を包囲しようとする国。

 俺達は、その統一感のない地球各国の動きに、艦隊をいくつかに分けて対処せざるを得ない状況におちいってしまった。

 

 それでも、俺達は着実に勝利を重ね、ライブ配信も八日目に入った。

 

 太陽系における地球人類の足場と言える場所は、もはや地球本星と月のみ。

 俺達は、とうとう最終目的地であった月へと到着した。

 

『あれが月……あれが地球……』

 

 マーズマシーナリー隊改め、サンダーバード隊の母艦では、モニターに月と地球の様子が映し出されていた。

 俺はそれをサンダーバードEに乗りながら、眺める。

 月は、テラフォーミングにより緑が生い茂った美しい星へと変わっていた。

 だが、しかし。一方、地球はというと……。

 

『あれが……あの汚い星が、私達の故郷だと言うのか!』

 

 誰かの声が、テレパシー通信で伝わってくる。

 そう、そこには青く美しい星なんてものは存在しなかった。海は黒く汚れ、大地は茶色く禿げあがり、黒い雲が地表を覆っている。地球は環境汚染が深刻なほどに進んでいた。

 

「うわあ、テラフォーミング技術のある時代でここまで星を汚せるとか、逆にすごいぞ」

 

『汚え!』『今の惑星テラとは大違いだぁ』『ここまで汚染できるのはもはや才能だよ』『やっぱり人類はAIの管理に任せた方がいいな!』

 

『この時代、地球人類はあまりにも増えすぎて、環境の汚染が深刻になっていました。さらに、核融合という夢のエネルギーを獲得した結果、石油原産国で戦争が勃発。戦火は広がり第三次世界大戦となります。その戦争の結果、汚染がさらに進みました』

 

 ヒスイさんがそう説明を入れてくれる。

 せっかく核融合っていうクリーンなエネルギーを手に入れたのに、前より環境汚染が進むとか、いろいろ台無しだな!

 

『この時代の惑星マルスの住人達も、増えすぎた人類を少しでも火星に移住させようという計画によって送られた者達の子孫です。結局、植民地として虐げたので、後続で移民したがる者は少なかったのですが……』

 

『でもこんな汚いところに住むんじゃ、移民した方がましじゃあ』『だよなー』『植民地を取るか汚部屋を取るか』『汚部屋て』『水も満足に飲めなさそうだなぁ』

 

 そんなショッキングな出来事を挟みつつも、月を巡る宇宙での最終決戦がとうとう始まった。

 地球と目と鼻の先とあってか、乱れていた敵の連携も、またまともなものになって大艦隊が形成された。

 俺達も、惑星マルスを飛び出した全ての戦力でこれに対抗した。

 

 戦力は五分五分。激しい消耗が予想されていたのだが……。

 

『敵艦隊後方で、同士討ちが始まりました!』

 

『どうなっている!』

 

『敵軍から通信が入っています! これは……月の住民達が、地球の支配から逃れるため、惑星マルス側につくそうです!』

 

 おお、地球人類、月も虐げていたのか? 戦争だというのに、地球が一方的に悪いような印象を受けるなぁ。まあ、これは俺達が惑星マルス側の視点で見ているからが大きいのだろうが。

 

『敵艦隊で高重力弾発動!』

 

 戦いは混乱状態におちいったが、最終的に生き残ったのは、惑星マルスの艦隊と月の艦数隻だけだった。

 

 俺達はこうして、最終決戦に勝利した。

 その後、惑星マルス軍は月の艦とコンタクトを取り、惑星マルスの庇護下に置くことで月を地球から解放するという方針で合意した。

 俺達は月の一部を拠点として間借りし、マスドライバーの建設を始めた。

 

 隠すことなく、堂々とした建設だ。妨害が予想されたのだが……地球側は思わぬ事態に見舞われることになる。

 配信九日目の開幕、月の拠点にいた俺は、サンダーバード隊の隊員に話しかけられた。彼は、何やら慌てた様子だ。

 

「フレディ! モニターを見てくれ! 大変なんだ!」

 

 隊員に、そう促され俺は近くに設置されていたモニターを眺めた。

 そこには、地球の様子が映し出されていた。だが、その様子がおかしい。

 

「なんだこりゃあ。地球が真っ白だ」

 

 地球全体が、何か白い物で覆われていた。なんだっていうんだ、これは。

 

「核の冬だ」

 

 そう隊員が呟く。核の冬……マジか。

 核の冬とは、大量破壊兵器の使用で巻き上げられた煙や灰によって地球上空が覆われて、太陽の光がさえぎられ、人為的な氷河期が訪れることを言う。

 

「地球人類のやつら、どういうわけか、地球の国同士で戦争を始めやがった!」

 

 惑星マルス対地球の戦争は、予想もしていない方向に転がるのだった。

 


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