21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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55.リドラの箱船(サバイバルアクション・農業シミュレーション)<1>

「はー、海水浴楽しかったな」

 

「そうですね。参加者も多かったですし」

 

「常夏の島にいつでも行けるのは、VRゲームの強みだな」

 

 VR空間から退出し、リアルに戻った俺はそんなことをヒスイさんと話していた。

 そう、海水浴である。しばらくプレイを中断していた『Stella』でまた何か観光をしようと思い立ち、惑星テラの季節が夏真っ盛りということもあり、海水浴を企画したのだ。

 

 向かったのは、常夏のリゾート島。海と小さな島々しかない世界が『Stella』にはあり、その中からヒスイさんに常夏の島をピックアップしてもらった。

 そして、大型船を所持している視聴者に協力してもらい、参加者一同でその島へ移動。一泊二日の海水浴キャンプを楽しんだのだ。

 

「ミズキさんの水着はインパクトすごかったなぁ」

 

 今回もチャンプが参加してきてくれて、それにミズキさんもくっついてきた。そして、あの巨乳によるビキニ姿は、強烈な印象を周囲に与えたのだった。

 

「アバターの見た目は自在ですが、あそこまで大きくしている方は滅多にいませんね」

 

「意外とリアル準拠の見た目だったりするかもしれないな。映像で見た『St-Knight』の姿より、『Stella』のアバターの方が歳取っているし」

 

 そう言葉を交わしながら、俺達はソウルコネクトチェアのある遊戯部屋からプランターのある部屋へと移動する。

 野菜の花が咲いて以来、何かを終えた後こうして花を見に訪れるのが最近の日課である。

 

「おや、しぼんだな」

 

「そうですね」

 

 花はしぼみ、せっかくの見所がなくなっていた。

 だが、ヒスイさんがしっかり人工授粉をしていたので、これからいよいよ実が大きくなり始めるのだろう。

 

「レイクもせっかく周りに合わせて花を咲かせてくれたのに、残念だな?」

 

 マンドレイクのレイクも、野菜が花を咲かせ始めたタイミングから少し遅れて、大輪の花を咲かせていた。

 仲間が花を咲かせて受粉のチャンスと思ったのだろうとは、ヒスイさんの言葉だ。

 レイクも実を生らせるのかね? 食べられる実ができたとしても、ここまで動く生物の一部を食べるのは、ちょっと抵抗があるのだが……。

 

 しかし、野菜か。こうして植物を観察していると、ふとある欲がむくむくと湧いてくる。

 あー、久しぶりに農業してえなー。

 

「ヒスイさん」

 

「はい、なんでしょうか」

 

「農業ゲームをやろう」

 

「了解しました」

 

 うむ、打てば響くとはこういうことか。

 そうして、すぐにヒスイさんが新しいゲームの情報を俺の目の前に投影してきた。

 

「こちらはいかがですか」

 

 ヒスイさんが推薦してきたのは、『Swordsman's Farm 5』。

 ジャンルはRPG・農場シミュレーションだ。

 

「ほう」

 

「『Swordsman's Farm 5』は大人気の農業ゲームの最新作です。このシリーズは、10年に一度新作が出るゲームでして、開発自体はもっと早くできるらしいのですが、プレイヤーがゲームを遊び尽くすのに10年はかかるので、新作もそのペースで出すのだそうです」

 

「変な縛りプレイとかなく10年同じゲームをやり続けているなら、かなりすごいな……!」

 

「定期的なアップデートのあるゲームなら、同じ物を一生プレイし続ける方もいますよ」

 

「あー、100年保証のあるMMOとかあるんだっけ」

 

「オンライン接続対応ではないスタンドアロンのゲームにも、100年保証のアップデートをしている物がありますね」

 

 そうか、なるほどなるほど。

 

「だけどこのゲーム、3をもうやったんだよな。配信始めるまでの三ヶ月の間に」

 

「そうですね。馴染みのあるゲームかと思い、最新作をお勧めしたのですが……」

 

「せっかく配信するんだし、こなれすぎているのも、ちょっとどうかなと思うんだよな」

 

 ロケハンや下見と称して、軽くプレイして台本的な物を作ってから配信するのが一般的な手法らしい。でも、俺は今まで初見一発プレイでやってきた。ヒスイさんが助手として頑張ってくれるので、それに甘える形だ。

 なので、すでにシリーズの別作品を経験していると、そのあたりの新鮮さが失われてしまわないかと、少し心配なのだ。

 

「毎回初見で配信をしているけれど、ゲーム内容が配信に耐えられる物かは、ヒスイさんが事前に調べてくれているんだろう?」

 

「そうですね。時間加速機能を使い、配信前に一通りプレイして試しています」

 

「あっ、そこまでやっているんだ……」

 

 知らなかった……せいぜい評判を調べている程度だと思っていたのに、ガチだった。

 いつもご苦労様です……。

 

「『-TOUMA-』での失敗はもう繰り返しません」

 

「お、おう……」

 

 ラスボスのラストアタック取っちゃったの、気にしているんだな……。

 

「まあ、たまには自分でゲームを探してみるよ。配信始める前はそうやっていたし」

 

「了解しました。選定が終わりましたらお知らせください」

 

 そういうわけで、配信用のゲームを探すことになった。

 農業カテゴリーで検索して、と。ううむ、いっぱいあるな……。

 そうだなぁ。ロケーションは海、海がいい。夏だしな。そして戦闘もあると盛り上がるだろうか。

 その後、俺は半日使ってゲームを選び出し、ヒスイさんのチェックを通すのであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 そうして、数日後。事前に開始時刻を告知してもらい、ライブ配信を行なうこととなった。

 告知内容は、農業ゲームの配信、というだけの簡素な物。ゲーム名も記載していない。

 視聴者も予習なしで、俺と一緒に初見の空気を楽しんでいってもらいたい。

 

 そういうわけで、ライブ配信が始まる。今回は、リアルのガーデニングがある部屋からの開始だ。

 

「どうもー。山形県出身、元農家のせがれ、21世紀おじさん少女だよー」

 

「前職は実験区の雑務担当、助手のミドリシリーズ、ヒスイです」

 

『わこつ』『わっこわっこ』『わこつー』『来た! 新規ゲーム!』『お前の配信を待っていたんだよぉ!』『キャー! ヒスイさーん!』『うおー! ヨシヨシヨシヨシ!』

 

 いきなり盛り上がる視聴者コメントに思わず笑みをこぼしながら、俺は言った。

 

「開幕からテンション高いなぁ。さて、プランターの野菜は先日無事に花をつけ、受粉に成功したようだ。実が少しずつ大きくなってきているぞ。収穫まできたら、成長の記録も動画にするつもりだ」

 

『ガーデニングも楽しそうだなぁ』『花、綺麗だったよね』『見逃したわ』『お前、水着回見逃すとかマジかよ』『えっ、水着?』『前回は『Stella』で海水浴』『『Stella』興味ないからスルーしてた……』

 

「前回の海水浴は、内容をまとめた物が動画配信されているから、暇なときにでも見てくれ。さて、野菜はいよいよ収穫のカウントダウン。そこで、今回は告知通り、農業ゲームをやっていくことにする! さあ、ソウルコネクトチェアに向かうぞ」

 

 俺はそう言って、部屋を移動し、遊戯部屋のソウルコネクトチェアに座る。

 

『農業ゲーム……』『ソドファか?』『ヨシちゃんもとうとうソドファ民に』『はまりすぎて帰ってこなくなったらどうしよう』『ヒスイさんがいるから大丈夫じゃろ』

 

『Swordsman's Farm』じゃないんだなぁ。

 俺は、意識をVR空間に飛ばす。すると、お馴染みとなった日本屋敷の縁側に、俺はたたずんでいた。ヒスイさんもイノウエさんを連れて、その隣に立つ。

 

「今回のゲームはー、これ!」

 

 俺がそう言うと、ヒスイさんはいつもの通り、バスケットボール大のゲームアイコンを両手で掲げてみせた。

 

「『リドラの箱船』だー!」

 

 勢いよく、ゲーム名を告げる。すると、視聴者の反応は。

 

『なんて?』『えっ、知らない』『聞いたことない』『誰も知らんの?』『昔聞いたことあるような……』『外れゲームを配信したことないから、大丈夫なんだろうが……』

 

 視聴者の反応的に、どうやらマイナーゲームのようだった。

 

「良作イコールみんなの知っているゲームというわけでもない! 今回は俺が直々に検索で発見して、なんとなく面白そうだなって思った農業ゲームをやるぞ! ちなみにクリア済みであろうヒスイさん、感想は?」

 

「『Swordsman's Farm』と比べると明らかにボリューム不足ですが、配信で流す分にはこのくらいがほどよいでしょう。ストーリーも個人的には気に入っています」

 

『ソドファと比べたらどのゲームもボリューム不足だわ』『十年遊べるゲームと比べたらなあ』『でもヒスイさんが気に入るゲームか……』『よく今まで埋もれていたな』『私、大昔にやったことあるよ。好き』『ネタバレ禁止でお願い!』

 

 ふむふむ、経験者もしっかりいるのか。詰まったらその人に聞けばいいな!

 まあ、詰まったりしないよう、事前にヒスイさんが一通りプレイしているのだろうが。

 

「じゃあ、いつもの通りヒスイさんゲームの紹介よろしく」

 

「はい。『リドラの箱船』は47年前に発売した、サバイバルアクション、農業シミュレーションゲームです」

 

『47って……』『私、生まれてないんですけど』『古すぎる……』『大丈夫? メーカーちゃんと残っている?』『サバイバルとは、また不穏になってきたな』

 

「人類が滅亡した未来の世界で、箱舟と呼ばれる情報保存体を活用し文明復古を行なう物語です。神に農作物を捧げ、箱舟に保存されている存在を復活させていき、最終的に神の復活を目指します」

 

『神かぁ……』『マイナーな理由って、箱舟と神様が出てくるからじゃあ』『宗教が絡むと急にうさんくさくなるからな』『現代も一種の科学信仰だけどな』『マザーがいればそれでいいよ』

 

 その視聴者の反応に、俺は「おや?」となった。

 

「なんだ、みんな宗教は苦手か。『Stella』では教会とかあったけど」

 

『あのゲームの聖神はおっぱい神だし?』『武神はイケメンだから信仰してる』『崇める対象じゃなくて、ただのキャラクターだよ』『信者のNPCもその辺解ってこっちに接してくれるし』『神と書いてアイドルと読む』

 

 罰当たりだな! いや、罰って発想がそもそもないのかもしれないが。

 

「まあ、このゲームの神もただのキャラクターだろ。神に捧げるとかの信仰しているっぽいところが引っかかるのか?」

 

『ソウルコネクトゲームだと、自分の身体を動かして崇める必要があるし』『祈れ! とか言われても困るわ』『神様が音楽ライブ開いてくれるなら見る』『イケメン神がいいなぁ』

 

 ふーむ、祈りのポーズを取るくらいなんともないと思うが、未来人的には嫌悪感があるのかね?

 宗教観に21世紀の日本人とだいぶ差がありそうだ。何が地雷になるか判らないから覚えておこうか。

 

「それじゃあ、ゲームを始めていこうか」

 

「はい」

 

 ヒスイさんがアイコンを掲げ、日本屋敷の背景が崩れていく。

 そして俺は、タイトルロゴが表示される空の上に浮かんでいた。眼下には、大きな島が広がっている。この島が、ゲームの舞台か。

 

「難易度ノーマル、ゲーム速度1倍、高度有機AIサーバ接続、ストーリーモードで開始します」

 

「あいよー」

 

 ヒスイさんの言葉にそう返し、俺は『はじめから』を選び、ゲームを開始する。

 キャラメイク画面になったので、いつもの通り現実準拠でアバターを作る。ヒスイさんも何やら端末をいじっているので、二人プレイのできるゲームなのだろう。自分で選んだゲームだが、説明書を斜め読みしただけで詳しいところは調べてないんだよなぁ。

 

「よーし、開始だー!」

 

 ゲームがスタートし、俺はアバターに憑依する感覚を味わう。

 どうやら、今の俺はどこかに倒れているようだ。身体を起こすと、そこは海岸線。

 

「うーん、サバイバルアクションだし、無人島に漂着? でも、身体は別に濡れていないな」

 

 俺は、立ち上がり周囲を見回した。

 

「いきなり開始かぁ。オープニングもチュートリアルもなかったぞ。お、なんかあるな」

 

 近くに赤い巨大な石盤が、地面から生えているのを見つけた俺。

 それに近づき手を触れると、『セーブしますか?』との表示がされた。

 

「このモノリスっぽいのはセーブポイントか。説明書によると、セーブポイントに触れると傷が治るが、空腹と喉の渇きは満たされない、だったかな。満腹ゲージっていうのとうるおいゲージっていうのがある」

 

『空腹度あるのか』『サバイバルアクションだからね』『空腹が限界に来たら死んだりする?』『死ぬよー』『マジか。本格的なサバイバルゲーだな』

 

「そうなんだよなぁ。孤島サバイバルだ。箱舟ってやつを見つければ、そこから植物の種とかを取り出せるらしいんだけど……遠くに見えるあれかなぁ」

 

 俺は、島の奥に鎮座する、謎の巨大建造物を見ながらそう言った。セーブポイントのモノリスと同じ素材でできているように見える建造物だ。箱舟と言われたら、箱舟っぽく見える気もする。

 

「指標もなく放り出されたけど、それであっているかな、ヒスイさん」

 

 と、ヒスイさんに尋ねてみるが、返事はない。

 

「ヒスイさん?」

 

『いや、ヨシちゃん周囲にヒスイさんおらんやん?』『ソロゲー始まったな……』『頼れる助手がいないだと!』『ヨシちゃん一人に配信任せるとか正気か!』

 

 マジかよ、天の声なりでサポートしてくれないのか。

 仕方なしに、俺は暫定箱舟を目指して、島の奥に進むことにした。

 海岸線を出て、草地へ。しばらく歩くと、森に入る。

 人の手の入っていない森だ。どこか薄暗い。何かが急に飛び出してきそうだ。ほら、この虎のように……。

 

「えっ、虎?」

 

 巨大な虎は、大きな口を開けて、こちらに噛みついてくる。

 

「ぎゃわー!」

 

『あなたは死にました』

 

「はあっ!」

 

 俺は気づくと、海岸線のモノリスの前に戻されていた。

 

「マジかよ……いきなり人食い虎って」

 

『サバイバルゲーだし仕方ないね』『ここはやっぱり武器からクラフトせんと』『それより水と食料!』『空腹度どうなっている?』

 

「満腹ゲージは満たされているな……死ぬと回復する親切設計か。でも、こういうゲームはデスペナルティがお約束だから、簡単には死ねないぞ。持っている道具を落とすとか最悪だ」

 

 こうして俺は、ヒスイさんがいないまま、孤島サバイバルの世界に飛び込むことになったのだった。

 

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