21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信! 作:Leni
ライブ配信二日目。
昨日は、箱舟のすぐ横にあったモノリスでセーブをしてゲームを終わった。ちなみに、リスポーンポイントもこのモノリス前に変更された。
「このモノリスはいったい何?」
セーブポイントのモノリス前で、俺はそんなことをお助け妖精であるヒスイさんに尋ねた。
「箱舟の一部ですね。箱舟には、このモノリスを射出する機能があります。そして、島の各所に配置されたこのモノリスから自然物が解放されて、島の今の環境が形作られました」
「ただのセーブポイントじゃなかったんだ」
「信仰ポイントをモノリスに捧げることで、保存されている物品の取り出しや、モノリス間の転移が行なえます」
「おっ、転移もできるんだ。海岸に移動したいとき、わざわざ森を抜けずに済むな」
「あの森は正規ルートではないのですが……」
だって、視聴者達が虎から逃げるなって言うから……。
「さて、畑を作っていくが、場所はどこがいいかな?」
「箱舟のすぐ近くが、初めに開拓するのに向いているでしょうね。肉食性の害獣がおらず、近くに川も流れています」
「ここを中心に発展できるようになっているんだな。うーん、最初のサバイバルとは一転、急に初心者向けになってきたな」
「そうでもないですよ。この付近は草原ですので、開拓が必要です」
開拓か、よしやるぞー。
まずは、格好からだ。
俺はアイテムボックスからコーラライガーの死骸を複数取り出すと、アイテムクラフトで解体。毛皮を確保し、それをさらにアイテムクラフトして、革のツナギを作った。作業着である。
「可愛らしくないですね」
「作業着なんだから仕方ないじゃん!」
「ゲームなのですから、効率はこの際無視して柔軟に考えませんと」
『ヒスイさんよく言った!』『このおじさん少女、見た目に無頓着すぎるよ』『もっと女の子ってことを自覚してもらわないと』『メス堕ち待ったなし』
視聴者のみんな、ヒスイさんをあおらないで!?
結局、俺の格好は可愛らしい毛皮のコートに革のパンツ、そして革ブーツになった。ゲームじゃなかったら暑くて仕方がなかっただろうな。
そして、俺は次に開拓の道具を用意する。
「鉄とかないから石の道具になるな」
「箱舟に鉄もいくらか保存されていますよ。取り出すには信仰ポイントが必要となりますが」
「うーん、いや、石でいこうか。まずはポイントを稼ぐことを考えよう」
そうして作りだしたのは、三角ホーである。
刃の部分が三角形に尖った
「よーし、これで草原を開拓だ!」
『狩猟から農耕の時代へ』『人類史の移り変わりを感じる』『ずいぶん早足の進歩だったな』『原始人ヨシちゃんをもう少し見ていたかった』
農業シミュレーションなんだから、農業してなんぼだよ!
俺は、そういう意思をこめて、三角ホーを草地に突き立てた。
根ごと掘り返すように、力を込めて三角ホーを振るっていく。
「見よ! レベル28のパワーを!」
「明らかに過剰ですね……森を抜けてきたのならそうもなりますか」
スポーンポイントから箱舟への直進ポイントに、あんな高レベル帯を設置しておく方が悪い!
そして俺はひたすらに、掘る、掘る、掘る!
「ぬーん、どうも道具に力不足感があるな。鉄器は偉大だった」
「別の道具を使ってはいかがでしょうか」
「別の道具?」
俺はヒスイさんから助言を受け、新しい道具を使うことにした。
「アイテムクラフト!」
じゃじゃーん、ツルハシ!
「ツルハシって、土を掘るのにも使えるんだよな」
「三角ホーより掘れる面積は狭まりますが、より深く掘り起こすことができるようになります」
石のツルハシを見た俺の感想に、ヒスイさんがそう追加の説明を入れてくれる。
新しい道具も手に入ったので、俺は掘り起こしの作業を再開する。
掘る、掘る、掘る、掘る。
うん、いい感じだな。
「むっ、あたりが暗くなってきたな」
「箱舟に到着後は、日が経過するようになっています。現実の二時間がゲーム内の一日ですね」
「寝床とか作っていないけど、どうしようか」
「夜と言っても、そこまで暗くなるわけではないですから、作業を続けましょうか」
「うーん、ゲーム的。寝なくても主人公は大丈夫なのか」
「箱舟から復活させた人間NPCは眠る必要がありますが、PCは寝ずに活動が可能ですね。おそらく半神だからでしょう」
「そういえばそういう設定だった」
途中で満腹ゲージとうるおいゲージが減少して軽い空腹感を覚えたので、アイテムボックスに入っていたマンゴーココナッツを食べて腹を満たし、作業を続ける。
やがて、10メートル四方の面を掘り起こし終わった。システムアシストが利いてくれたおかげで、楽な作業だったな。
『地味な作業だった』『魔法で一発とはいかんのか』『火起こしで火魔法解放されていたから、土魔法の解放もあると思ったのに』『まあ農業シミュレーションだからなぁ』『ひえー、工場生産じゃない農業って大変』
まあ俺も、やっていて耕運機が欲しくなったけどさ。
さて、土の掘り起こしが終わったが、土は草まみれだ。草をより分けてやる必要がある。
これも、道具を使っての作業だ。
「アイテムクラフト!」
作りだしたのは、石の
刃の部分がフォークのように分かれている鍬である。
「守護妖精の助言なしに道具を用意するとは、さすが農業経験者ですね」
「この程度で褒められたら逆に辛いわ……」
『ヒスイさんは褒めて伸ばすタイプ』『やることはスパルタだけどな』『飴と鞭』『いずれヒスイさんがいないと生きられない身体に……』
いやあ、すでにヒスイさんがいない生活とか無理ですわ……。
そんな視聴者のコメントを聞きながら、俺はシステムアシストに身体を任せて備中鍬の刃を土に入れ、草を掻き出していく。
10メートル四方の面積分なので、結構な量の草が集まった。
「草は半分をアイテムクラフトで肥料にして、もう半分を燃やして灰にしましょうか」
「肥料に灰とか、本格的な土作りをするゲームだな……」
俺は、ヒスイさんの助言通り雑草堆肥をクラフト。そして、地面に穴を掘り、アイテムクラフトで枯れ草にした雑草を穴の中で燃やした。火魔法のおかげで、簡単に燃えた。
「魔法はGPってステータスを消費するのか。なんの略?」
「ゴッドポイントです。アイテムクラフトでも微量消費していますよ」
「そのまんまだな! これ、自然回復するのかな?」
「眠ることで回復します。ですので、眠らずとも活動を続けられるとはいえ、寝床はいずれ必要でしょうね」
「雨も降るだろうし家は必要だよなぁ」
そうしてできた堆肥と草木灰を木のスコップで土に混ぜ込んでいく。道具の材料の木は、森がすぐ側にあるので不足することはない。石斧で倒して、アイテムクラフトで好きな形に加工し放題だ。アイテムクラフトってすごい。
「よし、
「なくても作物は育ちますが、あった方がより育ちやすいでしょうね」
畝とは、細長く直線上に土を盛り上げた、作物を植えるための部分だ。
「畝を作る利点は、水はけがよくなること、根が育ちやすくなること、作物を植える場所と歩く場所がはっきり分かれて作業がしやすくなることなどがあるぞ!」
『なるほどなるほど』『本格的やね』『『Stella』農家クランへ君もカモン!』『私は見ているだけでいいです』『そんなぁ』『MMOの農家はほとんどが機械を使わないからな……』
さて、畝を作るには土を盛っていく必要があるのだが、実は盛らなくても作れる。盛るのではなく、畝にしたい場所の周囲を鍬で掘っていけばいいのだ。俺は、オーソドックスな
「よし、いよいよ種を植えるぞ! カブだ!」
「では、箱舟へと行きましょう」
俺達は、作りだした畑のすぐ近くにある箱舟へと戻っていく。
『農業にはげんでいるようですね、我が子ヨシムネよ』
すると、箱舟の壁面に映り込む女王リドラが、俺達を迎えてくれた。
『種の解放ですね。手早く作れる二十日大根あたりから始めるとよいでしょう。大きく信仰ポイントを得たいならば、酒となるブドウなどもオススメです』
「カブで」
『カブですか』
「カブで」
『育てやすい野菜なので、確かに初めての作物に相応しいですね。では、信仰ポイントを捧げなさい』
「ヒスイさん、どうやるの?」
『私に聞いてくれてもいいのですよ?』
「箱舟に手を触れ、表示されるメニューから『物品を解放する』を選んでください。モノリスでも取り出せるようになっていますよ」
『…………』
よし、メニュー選択だ。
『物品を解放する』を選ぶと、項目がずらりと並んだ。物品だというのに、動物や人って項目もあるな。
「『農作物』を選び、『種』、『野菜』、『根菜』と選んでいってください」
「おっ、あった、カブだ」
カブを選択すると数を聞かれたので、ヒスイさんと相談して適量取り出す。
すると、箱舟が光り輝き、パッケージに入ったカブの種が目の前に出現した。
「このパッケージは……」
『アトランティスのマーケットで扱われていた種ですので、パッケージングされているのですよ』
「市場に並んでいた物をそのまま箱舟に突っ込んだのか。なんだか俗っぽい箱舟だなぁ」
『俗っぽいとはなんですか! 世界が滅ぶ緊急事態だったのですよ!』
「そりゃ、すまんかった」
そして俺達は、カブの種を手に畑に戻ることにした。
『我が子ヨシムネよ、はげむのですよ。そして、私を解放してくれる日を待っています』
「女王リドラの解放に必要な信仰ポイントは膨大なので、解放は後半になるでしょうね」
『そんな!?』
ヒスイさんの言葉に、ショックを受けたような顔になる女王リドラ。
この女王、思ったよりもコミカルな人だな……。
『あれがこのゲームのヒロインか』『母親がヒロインかぁ』『まあ神話では近親相姦も当たり前だしね?』『生々しい……』『神なら性転換しなくても同性で子供作れそうだな』『ファンタジーのくせに俺達の時代に追いついていやがるのか!』『まあ本当にヒロインかは知らんけどね……』
そんなこんなで畑に戻った俺達は、畝に溝を掘り、そこに種をまいて土を被せていく。
種をまき終わったら、アイテムクラフトで木のじょうろを作り、近くにある川から水を汲んで畑に水をまいていく。
『水魔法を習得しました』
「さらばじょうろ。お前のことは忘れない」
『あ、そこは省略されるんだ』『まあ水場との往復は面倒すぎるからな』『じょうろで水をまくヨシちゃん可愛かったのに』『ガーデニング感がある』『鍬を使う姿とか可愛くないからな』『ヨシちゃん、もっと視聴者に媚びて?』
「媚びた配信がいいなら、おじさん少女の配信に来るのが間違っているよ!」
中身三十過ぎのおっさんやぞ。
ともあれ、これで種の植え付けは終わりだ。
そう思ったら、ヒスイさんが「まだありますよ」と言いだした。
「神聖魔法を土にかけ、作物の生育を早めます。このままでは、育つのに何十日もかかってしまいますからね」
「神聖魔法」
「はい、神聖魔法です」
「ずいぶんと土臭い神聖魔法だな……」
『神聖魔法ってもっとこう、傷を癒すとか光のビームを撃つとか……』『アンデッドを退散させるとかだよな』『神様の正体は豊穣神か何かかな』『食うに困らなくなるから信者は多そう』『食を支えるのは大きいよなぁ』
そして、俺にヒスイさんが近づいてきたかと思うと、額に手を触れてきた。
『神聖魔法が解放されました』
あ、火とか水とは違って、習得しましたじゃないんだな。最初からある力って感じか。
「では、種を植えた場所に向かって、『神聖魔法よ、出ろ』と念じてください」
「神聖魔法よ、出ろー。おっ、光が出た」
前方二メートルほどに、光の粒がキラキラと舞い散り、地面へと吸い込まれていった。
これが神聖魔法か。よし、この調子で魔法をかけていくか。
「神聖魔法よー」
キラキラ。
「魔法出ろー」
キラキラ。
「わたし、精霊魔法って好きだよ」
キラキラ。
「精霊魔法ではなく、神聖魔法ですが」
「いや、今のは、俺に憑依した幼馴染みの女の子がだな……いや、なんでもない」
そうして、畑一面に神聖魔法をかけ終わった。
GPを消費したが、レベルが高いおかげかほとんど減ってはいない。
これで今日の作業は終わりか、と思ったら、カブの芽がにょきにょきと伸びてきて、葉が生えた。
「早っ! 育つの早っ!」
俺は思わずそんな突っ込みを入れてしまう。
「神聖魔法は一日に一度しか効果がないので、今日育つのはここまでですけれどね」
そんな冷静なコメントをヒスイさんがしてくれる。
しかし、葉が生えるまで育ったか。仕方がない。
「間引きするかぁ」
『間引きってなんぞ?』『密集して生えたら栄養の取り合いとか育つスペースの取り合いで生育が悪くなるから、引っこ抜いて間隔を取る』『そんなことするんだ』『勿体ないな』『最初から間隔開けて種植えるのじゃ駄目なの?』『植えた種が全部発芽するとは限らないからね』
「解説サンキュー。名誉カブ奴隷に任命しよう」
『あざーす!』『カブ奴隷って』『全然うらやましくない称号だな……』『ヨシちゃんのカブへの情熱が理解できん』『なんでカブなんだろうね』
それは地主様への崇拝の念があってだな……。でも、僕が好きなのはお風呂です。
そんな雑談を交わしながら、芽吹いた葉を間引いていく。適切な間隔はヒスイさんの助言任せだ。
そうして、その日の作業は終わった。とは言っても、一日は二時間しかないので、すぐに次の作業が待っているのだろうが。
「結構重労働だよなぁ」
「信仰ポイントが溜まりますと、箱舟から人も解放できますので、作業をそちらに任せることもできますよ。ただし、神聖魔法は人間には使えませんが」
「カブ奴隷仲間が増えるってわけね。でも、最初に解放するとしたら大工さんかなぁ」
そういうわけで、カブが育つまでの待ち時間で、俺は寝床を作ることにした。
森から木を切り出し、アイテムクラフトで木材に変える。
木材を地面に打ちつけ、小屋の枠を作り、ツタで木材同士を縛りつける。
さらにアイテムクラフトで作りだした大きな木の板を壁と屋根にして、雨露をしのぐための掘っ立て小屋が完成した。
『木魔法を習得しました』
「建築用の魔法か。まあ、建築シミュレーションじゃないから、家づくりは魔法で済ませられるってことかな」
「石材で家を作る場合は石魔法ですね」
寝床ができたので、眠ることで時間をスキップする。『-TOUMA-』や『sheep and sleep』の時とは違い、実際に俺の意識が眠ったわけではない。あくまで、時間を経過させる機能って感じだな。
そして、種植えからゲーム内で三日が経ち……。
「カブ、完成!」
土から抜いたカブを俺は視聴者達に見せつけるように掲げてみせた。
『やったぜ』『おめでとう!』『これで君も立派な農家だ!』『ヨシちゃんは最初から農家なんだよなぁ』『農業経験者なだけあって、こなれていたね』『実食、実食!』
「おめでとうございます、ヨシムネ様。ちなみに種は、育つのを待つことなく農作物を直接アイテムクラフトにかけることで変換できます」
「そっか。じゃあ、三分の一を種にしようか。実食は、調味料がないから無理だな! 酢漬けすら作れん」
「塩は海岸線の海水をアイテムクラフトすることで取り出せます。酢は、ブドウを育ててワインビネガーを作るのが近道でしょうか」
「んー、ゲーム内で食事をとるなら醤油と味噌が欲しいし、大豆でも育てるかなぁ」
そんな言葉をヒスイさんと交わしながら、カブを収穫し終える。
それらをアイテムボックスに全てしまうと、俺達は箱舟へと向かった。
「アイテムボックスが半分埋まったな……スキルレベルの上昇で容量は増えていっているけど」
「アイテムボックスは内部の時間が止まるので便利ですが、大量の農作物をしまうことは不可能ですので、食料の備蓄方法もいずれ考えねばなりません」
「備蓄を考えると穀物無双になりそうだな……」
「主人公は何を食べても生きられますが、人間のNPCは栄養バランスを考えた食事が必要ですよ」
「本格的だな!?」
そうして、箱舟の前へと俺達はやってきた。
『来ましたね。収穫、ご苦労様でした。では、捧げる作物を私の前へ』
女王がそう言って迎えてくれる。
俺は彼女の言葉に従い、種にする分を除いた全てのカブを女王の映る壁面の前に並べた。
『では、祈りなさい。神に供物を捧げると念じるのです』
「んー、ポーズとかは?」
『祈りの意志さえあれば、形は問いません』
「了解」
俺はその場で『サタデー・ナイト・フィーバー』のポーズを取って、神に祈りを捧げた。
すると、カブが光り輝き、光の粒子に変わっていく。
『神秘的だな。ヨシちゃんのポーズさえまともなら』『いい光景だ。ヨシちゃんのせいで台無しだけど』『まあ神に祈れとか言われたら茶化しちゃうよな』『架空の神様でも祈るのはちょっと抵抗ある』
このコンピュータ教信者どもめ。俺は21世紀の日本の一般人だから、宗教には寛容なのだ。
そんな視聴者コメントへの感想を述べていると、不意に頭の中に声が響いた。
『ありがとう、我が子よ。いつか、君に会える日を楽しみにしているよ』
優しそうな男の声だった。
これは……多分、神様の声だな。神様、男神だったのか。まあ、妻であろう女王が女性なのだから納得はできる。
「リドラ女王。神様の声が届いたよ」
『本当ですか!? おお、やはり神は失われていなかったのですね……』
女王は俺の言葉を聞き、涙を出して喜んだ。
「いい話だなー。というわけで、今日の配信はここまでだ。ちょっと長丁場になったが、最後まで付き合ってくれてありがとう」
『もう終わりかー』『初収穫まで長かったな』『次は何育てるんだろう』『また明日も見るよ!』『戦闘も忘れずに』『遠征して死ぬヨシちゃんが見たいなー』
「そう簡単に死んでやらないよ! 以上、ヨシムネでした」
「助手の守護妖精、ヒスイでした」
『偉大なるアトランティスの女王、リドラでした。また明日も見てくださいね』
このゲームのNPC、ライブ配信に柔軟に対応してくるの!? メタいな!?
思わず視聴者に驚いた顔を晒してしまう俺であった。