21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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59.リドラの箱船(サバイバルアクション・農業シミュレーション)<5>

 配信三日目に入り、本格的に畑を広げ始めた。

 作物もカブだけでなく、小麦や大豆、ジャガイモといった保存の利く作物を中心に箱舟から取り出し育てる。

 掘っ立て小屋もいくつか増やし、アイテムボックスに入りきらない作物を備蓄できるようにした。

 

 順調に農作業が進んでいると思われたが、ある問題が立ちふさがる。

 獣害が起きたのだ。

 

 箱舟周辺の草原には俺を襲ってくる肉食獣はいない。

 だが、草食動物は生息していて、こちらの作物を狙ってきた。

 

 足跡を見るに、イノシシだな。草原なんかに降りてこず、森か山にこもっていろよ、まったく。

 

「ヒスイさん、対策はある?」

 

「電気柵がよいでしょう」

 

「おう、急に文明が進むな……」

 

「魔法陣を敷き、雷の魔法を柵に流すのです。ただ、必要な材料はありますが……」

 

「魔法結晶とかのファンタジーアイテムかな?」

 

「いえ、鉄です。電気を流すには鉄線が必要です」

 

「鉄、鉄かー」

 

「東にある山に鉄の鉱脈があります。採掘して、製錬しましょう」

 

「石器時代は終わりか……」

 

『やっぱ時代は鉄でしょ』『どんだけ石使い倒すんだと思ってたわ』『ヨシちゃん、文明に目覚めて』『いつまでもウホウホ言っているんじゃないよ』

 

 いや、ウホウホは言ってねえよ!

 

 そういうわけで、俺は箱舟から取り出した鋼鉄製のツルハシを複数アイテムボックスにしまい、東の山までやってきた。

 

「……見るからに凶悪そうなトカゲ人間がうろついているんだけど」

 

「アイアンリザードマンですね。死骸から鉄が取り出せますから、狙い目ですよ」

 

「黒光りした鱗肌しているから、石槍じゃつらぬけそうにないな……」

 

「鉄のツルハシがあるではないですか」

 

 ツルハシを武器にするって、初めての経験だよ。

 

「っしゃおら!」

 

 鉄のツルハシを脳天に叩き込んだら、一撃で倒すことができた。

 あれー、思ったよりも簡単に倒せたな。

 

「この山はコーラライガーの出没する森よりも、難易度が格段に低い場所ですよ」

 

「ああ、鉄は初心者のうちに確保すべきアイテムってことか」

 

 ゲーム的な事情で、アイアンリザードマンは雑魚敵のようだった。

 試しに、石槍を使って戦ってみると……。

 

「刃先が欠けたけど、倒せたわ」

 

『あのトカゲ、見かけ倒しすぎる』『凶悪そうな見た目をしているのになぁ』『身体に鉄を含むとか、設定レベルで強そうなのに』『それだけ鉄の入手は容易にする必要あるってことだな』『初心者は見た目で尻込みして逃げるんじゃないか』

 

 その後もアイアンリザードマンを数匹狩り、山肌に露出していた鉄鉱石も採掘して、現地のモノリスからの転移で箱舟まで帰ってきた。

 

「次は製錬か。耐熱レンガで炉を作るのかな?」

 

 耐熱レンガの作り方とか知らんけど。

 そう思っていたら、ヒスイさんがこんなことを言いだした。

 

「何を言っているのですか。ヨシムネ様は半神なのです。神の力、アイテムクラフトで製錬できますよ」

 

「……マジかー」

 

『ロマンねえな!』『うーん、この農業以外の適当っぷり』『農業シミュレーションだから仕方ないね』『文明を手に入れるのかと思ったらファンタジーだった』

 

 ヒスイさんの説明に、うなだれる俺と視聴者達。そんな俺達に、ヒスイさんが追加で説明を入れる。

 

「箱舟から人を解放した後なら、鍛冶師のための炉は必要となりますよ。ヨシムネ様が全ての人の面倒を見るわけにはいきませんからね。頑張って人の解放を目指しましょう」

 

 そうすっか。

 俺は、はりきってアイテムクラフトで鉄を作りだし、鉄線を用意。木の柵で畑の周囲を囲むと、それに鉄線を取り付けていった。

 そして、魔法陣だ。鉄の円盤に、紋様を刻み込むようにアイテムクラフトする。そして、雷の流れる魔法の円盤が完成した。

 

「これ、動力は?」

 

「空気中にただよう魔力を吸収して動きます。魔法陣を大量に設置しない限り、空気中の魔力が不足することはありません」

 

「エコでクリーンな動力だな……」

 

 電気柵は稼働し、獣害は無事防がれた。

 そして、神聖魔法と水魔法を使っては寝て日数を飛ばすという作業を繰り返すことしばし。穀物は無事収穫できた。

 半数を信仰ポイントに変え、残りを次回用の種と備蓄用とに分ける。備蓄用は掘っ立て小屋に保存して、次の日の配信を始めたのだが……。

 

「がああああ! また獣害が!」

 

「見事に倉庫を食べ荒らされましたね。今度はネズミでしょうか……」

 

「ネズミ返しのある高床倉庫が必要だ! でも俺はそんな建物、建てるの無理!」

 

『となるとー?』『人の解放だな!』『予定通り大工さんやね』『農作業の手伝いしてくれる人も解放していいんじゃない?』『鉄も確保できたし、鍛冶師もだな』

 

 そういうわけで、箱舟から大工を解放することにした。

 俺は、箱舟の前へとやってくる。

 

『農作にはげんでいるようですね、我が子よ。信仰ポイントの溜まりもいいようです』

 

「人を解放しても大丈夫か?」

 

『ええ、五人でも十人でも大丈夫ですよ。ただし、解放して養っていけるだけの準備が整っているのならばですが……』

 

「準備を整えるために、大工を解放したい」

 

『では、解放メニューを呼び出し、人の項目を選択してみてください』

 

 女王リドラの指示通り、箱舟に手を触れて『物品を解放する』を選択。そこに出てきた選択肢から人を選択すると、職業別に項目が分かれた。

 

「大工、大工と……うわ、結構いるな。ん? この魔法適性というのは?」

 

『我が民アトランティス人は、遠い神の子孫です。その神の力が強く発現した者ほど魔法の扱いに長けています。大工ですと、木魔法や石魔法の適性が高いほど優れた大工ということになります』

 

「魔法で建物を建てるなら、建築までに何十日とかかからずに済みそうだな……さて、誰を解放するか」

 

「私のオススメは、22歳男性のトレッキーですね。木魔法の適性が高く、働き者で、必要となる信仰ポイントも高くありません」

 

「なるほど、じゃあ、君に決めた!」

 

 俺はメニューから解放を選ぶと、箱舟が光り、人が出現する。

 それは、金色の髪をなびかせた若人で――

 

「アーキナーと申します! 私を初めての解放者にお選びくださり、感謝感激です! 一生懸命頑張りますので、よろしくお願いします、農耕神様!」

 

 女の子であった。

 

『ヨシちゃん……』『ヒスイさんのオススメまるっと無視である』『まあそうなるな』『心が男なら選ぶのは当然少女』『ソウルコネクトに染まってないから、ヨシちゃんまだまだ男の意識強いんだなぁ』『魂が無性別って理解するのは何十年もかかるから……』

 

「選ぶなら女の子だろ! 隣で長く一緒に生活するんだぞ! 若い男とか何が嬉しいんだよ!」

 

「は、はわ! 私、農耕神様のお妃候補ですか!?」

 

 俺の視聴者への叫びに、大工の少女が反応する。

 はわ、とかこの子あざといな!

 

「いやいや、お妃候補とかはない。ただの目の保養だ」

 

「そうですかー。頑張ります!」

 

 頑張ってください。

 ヒスイさんと女王リドラがジト目で見てくるが、気にしないんだからね!

 

 というわけで、建築である。

 大工の少女アーキナーは木魔法が使えるが、木をその場で生やすほどの強い神の力は使えないとのことで、森から木を切り出してくることにした。

 まあ、そりゃそうか。カブを育てるのにすら、半神の俺で数日がかりなのだ。にょきにょきと木が生えてくるわけがなかった。

 

 丸太を箱舟の横に運び、積んでいく。アーキナーの力では丸太など運べないので、俺の仕事だ。枝打ちとかは、彼女もやってくれたけど。

 丸太の山が用意できると、アーキナーはそれに魔法をかけた。すると、角材や木の板が次々と作り出されていく。

 

「ふいー、お腹がすきました」

 

 丸太の半数を木材に変えると、アーキナーがそんなことを言いだした。そうか、NPCも満腹ゲージの類はあるんだよな。

 

「食事にしようか。この前作った鉄鍋を使いたかったんだ」

 

 野菜と豆とライガー肉を塩で煮て、小麦からアイテムクラフトしたすいとんをぶち込んだすいとん鍋を二人で楽しむ。

 そして、食後には夜になったので、掘っ立て小屋で休み、ゲーム内での翌日。

 アーキナーはテキパキと木材を運び、建築予定地の前で魔法を発動する。すると、ひとりでに木材が組み上がっていった。うーむ、すごい。しかも、釘を使っていないぞ。一応、釘を用意しておいたのだが。

 

 順調に建物が建っていくので、俺はその間に今日の分の神聖魔法と水やりを済ませることにした。

 

「雑草、生えてこないな。楽でいいんだが」

 

「神聖魔法で育てる対象を選別しているのですよ」

 

 ヒスイさんの説明に、なるほどなーとなる。

 そうして農作業を終え、アーキナーを見にいくと、見事な木の家が建っていた。

 

「おー、やるじゃん」

 

「はい、農耕神様の家です!」

 

「え? 俺の家? アーキナーの住居じゃなくて?」

 

「神様より先に私の家を作るなど、恐れ多いです!」

 

「うーん、俺は眠らなくても活動できるし、寝心地とかも関係ないから、後回しでよかったんだけど……」

 

 半神のPCと違い、人間のNPCは粗悪な環境だと体調を崩しそうだしな。

 

「若輩者の私では、農耕神様の御殿を作るのに相応しくないということでしょうか……」

 

 沈んだ表情でそんなことを言い出すアーキナー。この子、微妙に面倒臭いな!

 

「いや、そういうのじゃないけど。とりあえず、この家は君が使って、次は農作物を収める高床倉庫を作ってくれ。ネズミとかの被害を抑えられそうなやつ」

 

「かしこまりました!」

 

 指示を出すと、早速、次の仕事に取りかかり始めた。一軒家が建ったばかりだというのに、働き者だなぁ。

 

『可愛い子じゃん』『健気な!』『ヒロインは女王じゃなくて大工さんだった……?』『当たり引いたなヨシちゃん』『美少年大工も解放よろしく!』

 

 アーキナーは視聴者達にも人気のようだ。よかった。年齢性別容姿までは解放メニューで判るが、性格ばかりは解放してみるまでは判らないからな……。

 

「ヨシムネ様」

 

 と、ヒスイさんが俺を呼んだ。

 

「どうかした?」

 

「ネズミ対策ですが、猫を解放しませんか? ネズミといえば猫です」

 

「それ、ヒスイさんの趣味じゃない?」

 

『ヒスイさん……』『ヒス猫動画いいよね』『いい……』『業務用AIもここまで強い執着とか持つものなんだなぁ』『犬派なので犬動画ください!』

 

 猫か。まあ、ゲームに付き合ってくれるヒスイさんのモチベーションのためと思えば、これくらい軽いか。

 俺は、建築にはげむアーキナーを尻目に、箱舟へと向かう。

 そして、解放メニューから動物を選び、家畜の項目を選んだ。

 

「猫って家畜でいいのか……?」

 

『家畜ならもっと大人しい』『むしろ人間がお猫様の家畜ですよ』『お猫様のために頑張ってお世話するね……』『やっぱり時代は犬ですよ、犬!』『ネズミ取りといえば狐』『狐も家畜化されていないんだよなぁ』『ウェヌス狐は家畜化されてるよ』

 

 ふと湧いた疑問に答える視聴者のコメントを聞きながら、俺はメニューから猫を選択する。

 すると、ずらりと猫の名前が表示された。

 

「箱舟といっても、つがいだけじゃなくて片っ端から保存してあるんだな……」

 

「ヨシムネ様、この子をお選びください」

 

 俺が一覧を眺めていると、ヒスイさんが俺の前にやってきて、メニューの一部分を指さす。

 

「なになにって、イノウエさんじゃないか!」

 

「はい、このゲームは、ペットロボットも接続できるようです。ストレス環境となるので、生身のペットでは接続ができませんが」

 

「すげえな、このゲーム……」

 

『さすがヒスイさんの見つけてきたゲーム』『いや、このゲームはヨシちゃんが見つけたって、初日に言っていたぞ』『それなのにペットのログインシステム搭載か』『ペットロボットと一緒に遊べるゲームっていいねぇ』

 

 よーし、じゃあイノウエさんを解放だ。

 箱舟が光り輝くと、足元に一匹の猫が現れた。リアルで見慣れた翼の生えた猫、イノウエさんだ。

 

『おや、アトランティスでは見ない種類の猫ですね……どこから紛れたのか……』

 

 そんなコメントをする女王リドラ。

 ペットロボット専用の台詞があるとか、作りが細かいな……。

 っと、イノウエさんが草原に向けて走り出した。自由だな。

 

「ちゃんと帰ってくるかなぁ……」

 

「心配ですね」

 

『安心してください。一度箱舟に保存された存在は、死しても信仰ポイントを消費することで再生が可能ですよ』

 

 俺とヒスイさんが心配していると、女王がそんなことを言った。

 うーむ、実質みんな不死みたいなものじゃん。NPCが全滅しないようにするためのゲーム的な都合なんだろうけれど、すごいなそれ。

 

「農耕神様ー! 倉庫、完成しました!」

 

 そんなアーキナーの声が聞こえたので、そちらに向かう。

 すると、見事な高床倉庫が完成していた。ネズミ返しもしっかりついている。よし、作物をここに移動しよう。

 俺は、倉庫代わりに使っていた掘っ立て小屋にある作物をアイテムボックスの限界まで入れ、高床倉庫の中へと入る。

 

「って、うわ、イノウエさんこんなところにいたのか」

 

 倉庫の隅で、イノウエさんが眠っていた。

 それを眺めながら、俺は倉庫に作物をしまっていく。

 

「イノウエさん、ネズミ取りは任せたよ」

 

 俺がそうイノウエさんに頼み込むと、ただ「にゃー」とだけ返事がきた。

 頼むぞ。ただの愛玩動物じゃないってところを見せてくれ。

 


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