21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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65.海水浴リベンジ

 8月1日。次の配信ゲームについてテーマを考えていた朝、部屋に人が訪ねてきた。

 それはミドリシリーズの一号機、ミドリさんだ。

 

「ヨシムネ! 海水浴行くよ!」

 

 ミドリさんは、居間にきて開口一番にそんなことを言った。

 

「ええよ」

 

「ヒュー! さすがヨシムネ! 話が早いね!」

 

 アメリカ国区の芸能人であるはずのミドリさんが、なぜこの場にいるのかとかいろいろ疑問はあるが、全てスルーして俺は了承した。

 

「ゲームで海水浴行っていたのがうらやましくて。私も行きたかったんだよね」

 

 と、そんなことをミドリさんは言った。

 

「そういえば、『Stella』の海水浴、俺とヒスイさん以外のミドリシリーズは誰も参加してなかったな」

 

「参加を許可するとミドリシリーズ全員が参加した挙げ句、暇を持てあましたワカバシリーズやモエギシリーズなども参加し、収拾がつかなくなることが予想されます。ですので、『Stella』配信への参加は拒否しています」

 

 俺のつぶやきに、ヒスイさんがそう説明を入れてくれる。

 ワカバシリーズとモエギシリーズは、ニホンタナカインダストリの民生用ガイノイドのことだ。業務用ガイノイドであるミドリシリーズの姉妹機だな。

 

「確かに。大型船にも乗員の限度があるし、リゾート島もキャパがあるしな」

 

 俺が納得してそう言うと、ヒスイさんは「その通りです」と言ってさらに言葉を続けた。

 

「今後、配信の人気が増えるにつれ、現地参加者の増加は考えなければいけない課題ですね」

 

 ヒスイさんのその言葉に、ミドリさんが口を尖らせながら言う。

 

「むー、私だけ一号機特権で参加可能とかならない?」

 

「なりません」

 

 ミドリさんの要望をヒスイさんは、たった一言で切り捨てた。

 まあ、ミドリさんだけを特別扱いする理由は何もないからな。

 

「まっ、仕方ないから今日の海水浴で許してあげる!」

 

 そんなことを言うミドリさんに、俺はふと湧いた疑問をぶつける。

 

「海水浴とはいうが、どこに行くんだ? リアルの海岸? VR?」

 

「リアルの海岸に決まっているじゃない!」

 

「アーコロジーの外にでも出るのか?」

 

「もー、ヨシムネ、ここは港の街ヨコハマだよ? 人工海水浴場くらいあるよ」

 

「そうなのか」

 

『ヨコハマ・サンポ』に出てきていない観光スポットの類は、全く知らないんだよな。

 

 そういうわけで、イノウエさんの世話をお留守番アンドロイドのホムくんに任せ、俺とヒスイさんはミドリさんと一緒にヨコハマ・アーコロジーの市街地へと繰り出すのであった。

 ミドリさんに言われてキューブくんも連れてきたけど、海水浴場ってカメラで撮影していいのか?

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ヨコハマ・アーコロジーにある港からは少し離れた海岸線。

 そこに、市民達の憩いの場、ヨコハマ海水公園がある。

 

 砂浜が広がっているが、ここはアーコロジーの内部。外部とは沖にある透明な壁で区切られており、外から押し寄せる波や漂着物は全てその壁で遮られている。

 代わりに、人工波の発生装置があり、おだやかな波を楽しむことができる。日によっては、強い波を発生させるサーフィンデーという催しも開かれている。

 

 海水は浄化装置を通して常時綺麗にされており、砂浜もナノマシンで洗浄をされている。

 アーコロジーの内部なので、外の天気は気にする必要がない。さらには一年中、夏の気温を維持している。

 まさに、ヨコハマに存在する常夏のビーチである。

 

 ……ということをいつの間にか合流したハマコちゃんが説明してくれた。

 

 夏真っ盛りの8月だが、どうやらこの海水公園では季節を気にしなくていいらしい。

 

「とは言いましても、やはり夏の方がお客さんの入りがいいんですけどね!」

 

 自慢の赤髪をポニーテールにまとめ、青いタンクトップビキニを着たハマコちゃんが、元気にそんなことを言った。

 

 海水公園の砂浜。そこでは当然、水着に着替える必要がある。

 今日の俺は、フリル満載のフレアビキニ。パステルカラーのピンク色で、完全にヒスイさんの趣味である。

 

 一方のヒスイさんは白のワンピースタイプの水着だ。俺に様々な服を着せてくる彼女だが、自分を着飾らせる趣味はないらしい。

 でも、黒い髪と白い水着が対照的でなかなかに似合っている。

 

「普段出歩かない二級市民の人も、季節感ってものがちゃんとあるんだなぁ。ところで、ミドリさんは?」

 

 俺は、ミドリさんを探して周りを見回すが、姿が見えない。

 

「水着選びで迷っていたようですね。今来ます」

 

 ヒスイさんが後ろを振り返ったので、そちらを見てみるとミドリさんが駆けてくるのが見えた。

 黒髪をお団子ヘアーにまとめて、水着はオーソドックスな赤のビキニを着ているようだ。健康的な美を感じる。うーむ、目の保養になる。

 

「東京湾来たー!」

 

 俺達の隣に並ぶと、人目もはばからず大きな声で叫ぶミドリさん。

 すると、当然のように人の目を集めるわけで……。

 

「ミドリちゃんさんだ!」

 

「わー! ミドリちゃーん!」

 

「電子サインくだち!」

 

 ミドリさんに群がる人、人、人。

 うーむ、アメリカ国区の芸能人だというが、ニホン国区でも名前を知られているんだなぁ。

 

 と、そんなことをのんきに考えていたそのときだ。

 

「あのっ、ヨシちゃんですよね?」

 

 俺に話しかける声がした。

 そちらを振り返ってみてみると、男性二人と女性一人の三人組が、こちらを見ている。

 

「あ、ああ。21世紀おじさん少女だよー」

 

 俺は突如現れた俺を知っている人物に驚いて、思わずそんな台詞をこぼしていた。

 

「うわー、生ヨシちゃんだ! 動画の撮影中ですか?」

 

 青年達が、俺をガン見したのち、宙に浮くキューブくんを見ながら言った。

 カメラ役のキューブくんは、周囲の人達にARで動画撮影中と知らせてくれる機能を実行中なので、それを見ての台詞だろう。

 

「ああ。俺達以外はぼやけて映るように画像処理してあるので、顔バレとかは気にしなくていいぞ」

 

 俺とヒスイさんとミドリさん、そしてハマコちゃん以外は、人物がはっきりと判別できないように映すこと。それがこの海水公園にカメラを持ち込む条件だった。キューブくんは優秀なカメラロボットなので、当然その機能も搭載されている。

 

「気にしないでいいですよ。むしろ、ヨシちゃんの配信に映るチャンス!」

 

 青年がそう言ったので、俺は他の二人にも確認を取ると、映していいと許可を貰えたので、三人は画像処理の対象にしないようキューブくんに頼んだ。

 

「ところでヨシちゃん、あっちの人垣は……」

 

「あれね。今回、ミドリさんと一緒に来ているんだ。そうしたら、電子サインをねだられたようでな」

 

 青年の疑問に、俺がそう答えると、彼ははっとしたような顔になる。

 

「電子サイン! そうだ、ヨシちゃん、俺達に電子サインください!」

 

「おう、いいぞー」

 

 快く受けることにしたが、そこではっと気づいた。

 

「ヒスイさん、電子サインってどうやるの!?」

 

「少々お待ちください」

 

 ヒスイさんがそう言うと、ほどなくしてARで視界に電子サインの手順が表示された。ありがてえ。さすがヒスイさんです!

 これをこうして、こうすると……。はっ、やばい、サインなんて考えてない!

 とりあえず、カタカナで『ウリバタケ ヨシムネ』っと。

 

「どうだ、三人とも届いたかな?」

 

「届きました!」

 

「はい! やったー!」

 

「ありがとうございますー。わー、フレンドに自慢できます!」

 

 リアルで俺のファンって人に初めて会ったよ。ちょっと感動だ。

 そうして彼らと雑談を少し交わすうちに、ミドリさんの周囲の人が少なくなってきた。青年達もそれを察したのか、この場を離れるようだ。

 

「そうだ。ヨシちゃん、水着似合ってますよ!」

 

「ありがとう! べ、別に中身おじさんだから、褒められても別に嬉しくないんだからね!」

 

「21世紀名物ツンデレいただきました! あざーっす!」

 

 そんな言葉を最後に、青年達とは別れた。

 そして、ミドリさんがこちらに戻ってくるなり、こんなことを言いだした。

 

「スイカ割りしようよ!」

 

 唐突である。

 こちらの返事を聞く前に、ロボットがスイカを持ってこちらにやってきた。って、ちょっと待て。

 

「このスイカ、でかくね?」

 

「お化けスイカね!」

 

「ジュース加工用の品種ですね」

 

 俺が驚いていると、ミドリさんが名前を言い、さらにヒスイさんが補足を入れてくれた。

 名前の通り、お化けカボチャくらいでかい。

 

「おやおや、海水浴客のみなさんに振る舞ってくれる感じですか。ありがとうございます。こういう催し物があると盛り上がるんですよー」

 

 ハマコちゃんがそんなことを言いだした。みんなに振る舞う……? ああ、割った後のスイカをどうするかについてか。確かに、こんなの四人じゃ食べきれないわな。バイオ動力炉は優秀だから、腹に詰め込めば消化はしてくれるんだろうが。

 ハマコちゃんに褒められて、ミドリさんはにっこり笑顔だ。

 

「で、誰が挑戦するんだ?」

 

 お化けスイカを前に俺が三人にそう尋ねると……。

 

「配信中なんだし当然ヨシムネね」

 

「ヨシムネ様、お願いします」

 

「ここは主役のヨシムネさんで」

 

 と、答えが返ってきたので、俺が挑戦することになる。まあ、いいけどな。これも配信のため!

 棒でなくエナジーブレードを手にし、顔に目隠しをする。

 

「さあ、10回回りなさい!」

 

 ミドリさんから指示が来たので、頭を下げてその下にエナジーブレードを地面に向けて突き立て、エナジーブレードを中心にその場でぐるぐると回った。

 お、おお……。これは!

 

「なあ、全然目が回った感覚がないんだけど」

 

「しまったー! ミドリシリーズの優秀なオートバランサーの存在を忘れてたよ! ちなみに私はそんなミドリシリーズの一号機!」

 

 ミドリさんの露骨な台詞に、周囲で見守っていた観客から笑いがもれる。

 先ほど解散した感じなのに、お化けスイカの登場でまた人が集まってきているのだ。

 

「それはいいから、場所を指示してくれ。スイカの気配を察知して斬る! とか俺には無理だからな」

 

「そんなのできる人いるの? ちょっと右に回って」

 

 ミドリさんの指示に、俺は少し身体を右回転。

 

「そうそう、そのまま進んでー」「ヨシムネ様、左に半歩ずれてください」「ああー、ヨシムネさん、行きすぎです!」「ヨシちゃーん、振り下ろせー!」

 

 みんなバラバラの指示だしてきやがるな! さっき別れた青年達の声援も聞こえるぞ。

 俺はとりあえず、ヒスイさんの言葉を信じる!

 

「ヨシムネ様、右です」「待ってください、今のはミドリです」「違います。右です」「真っ直ぐ行ってください」

 

 ぬわー、ミドリさんらしき人がヒスイさんの声真似をしているぞ!

 ここは……ハマコちゃん任せた!

 

「ヨシムネさん、そこー!」

 

「よっしゃー!」

 

 エナジーブレードを振り下ろすと、手応えあり!

 

「やったか!?」

 

「やったー! やりましたよー! ヨシムネさん」

 

 ハマコちゃんの喜ぶ声が聞こえたので、目隠しを取る。すると、目の前に青いシートの上で真っ二つになったスイカが見えた。

 

「おおー、やるじゃん。ミドリシリーズは駄目だな。ハマコちゃんがヨコハマの勝利の女神だ」

 

「えへへー、そうでもないですよー」

 

 俺とハマコちゃんがそう言って盛り上がっていると、ミドリさんとヒスイさんがにらみ合っていた。

 

「こらそこ、たかがお遊びで喧嘩するんじゃない。それよりも、スイカの切り分けをどっちかやってくれ」

 

 俺が二人の方にエナジーブレードを差し出すと、「私が」と同時に口にし、互いに牽制を始めた。

 

「駄目なお姉様達だな……ハマコちゃん、切り分けてー」

 

「私ですか?」

 

「こういうのはAIの方が正確に切れると思うんだよね」

 

「私ではエナジーブレードの切断モードをオンにできませんので、切り分けられないですよ!」

 

「あー、そうか。これ、ヒスイさんのブレードだもんな」

 

 仕方ないので、俺とハマコちゃんは、駄目なお姉様と言われて打ちひしがれているヒスイさんとミドリさんをなだめる。

 二人はすぐに元気を取り戻し、ヒスイさんはエナジーブレードで割れたおばけスイカを切り分け始める。

 そして、ヒスイさんとミドリさんの二人は、今度は仲よく周囲の海水浴客に向けてスイカを配り始めた。うん、仲良きことは美しきかな。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 俺達は夏の海を散々遊び倒した。

 スイカを食べて、泳いで、ビーチバレーして、海の家で焼きそばとイカ焼きを食べて、砂遊びして、浮き輪を借りて波に流されてと、今日は目一杯楽しんだ。

 そして、海の向こうの透明な壁から見える太陽が沈み始め、夕刻に。俺達は遊びを切りあげ帰ることにした。

 

「いやー、今日は楽しかったねー」

 

 そんなことをしみじみとミドリさんが言う。本当に今日は楽しかったな。

 

「楽しかったです。またお呼ばれしたいです。では、私はお先に失礼しますね!」

 

 水着から行政区の制服に着替えたハマコちゃんが、先に帰ろうとする。

 

「あとで今回の動画をお送りしますので、ご確認をよろしくお願いします」

 

 そんなハマコちゃんに、ヒスイさんがそのように言ってぺこりと頭を下げた。

 

「はい、お任せください! では、またお会いしましょう!」

 

「またなー」

 

 ハマコちゃんが、るんるん気分で去っていく。スキップとかしているぞ。面白い人だなぁ。

 

「じゃ、私もマンハッタンに戻るね」

 

 次に別れを切り出したのは、ミドリさんだ。

 そうか、うちに泊まっていったりはしないんだな。芸能人だからそうそうスケジュールは空いてないか。

 

「ああ、今日はありがとうな」

 

 俺はミドリさんにそう礼を言った。

 それを聞いたミドリさんは、笑顔で言葉を返してきた。

 

「また遊びましょ。あ、そうだ、遊びといえば、ヨシムネにオススメのゲームあるんだ。冬のインケットで買ったんだけど」

 

「インケット……?」

 

「バーチャルインディーズマーケットのことだね! 夏と冬に開催される、インディーズのゲーム、コミック、ノベルを配布する歴史ある祭典なの」

 

 夏と冬のマーケット的な祭典……。それ、20世紀からあったりしません?

 

「はい、一本追加で買ったから、メッセージで贈ったよ! プレイしてみてね!」

 

「どれどれ……『Space Colony of the Dead』。ジャンルはガンシューティング。ゾンビゲーかぁ……」

 

「詳しくはヒスイに聞いてね。じゃ、またSCホームで会おうね。シーユー!」

 

 ミドリさんも元気に去っていく。

 残ったのは、ヒスイさんとキューブくんの二人と一体。

 俺は寂しさを覚え、ヒスイさんに話しかけた。

 

「リアルで出かけるのも楽しいな。またどこかに遊びに行こうか」

 

「そうですね。ハマコ様にオススメのスポットを聞いておきましょう」

 

 そんな言葉を交わしながら、俺達は家路につくのであった。

 

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