21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信! 作:Leni
現在、ゾンビガンシューティングゲームのライブ配信中。
施設を出ると、そこには出待ちをしていた暴走アンドロイドが!
「アアアアア! ヨシチャアアアン!」
「そおい!」
予想できていた事態なので、落ち着いてヒスイさんと二人で銃撃して倒した。
『あーん、負けた。ヨシちゃんに噛みつきたかったー』『アンドロイド役であってゾンビじゃないんだから』『ウィルス感染タイプのゾンビじゃないなら、噛みつきもあまり怖くないな……』『ミドリシリーズが楽しんでいるようで何よりです』
倒したようなので、俺達は視界に表示されるガイドに従って、道を進む。
夕刻を演出する赤い照明に照らされたスペースコロニーの町並み。目指す先は火薬式の銃があるという博物館である。
博物館の建物に入ると、展覧会の見物客だったのか、市民のゾンビが大量に待ち受けていた。
俺はヒスイさんと二人で熱線銃をつるべ打ちにする。不意打ちのない歩くゾンビなど、怖くもないわ!
「さて、銃を回収していきましょうか」
熱線銃を腰のホルスターにしまいながら、ヒスイさんが言う。
「透明なケースに入っているけど、どうやって取り出す?」
火薬式の銃と弾丸がケースに入ってずらりと並んでいる。それを前に俺はどうしようかと迷ったが、ヒスイさんは「こうします」と言って熱線銃のグリップでケースを叩き割った。
「ええっ……、普通のガラスケースなの……」
「ゲームですから。リアリティを追求して強化ガラスにしても、プレイヤーが困るだけです」
「それもそうか」
そして俺達は銃と弾丸を片っ端から回収して、アイテムを虚空に収納できるインベントリ機能に突っ込んでいった。
「インベントリがあるのもゲーム的だよな。これがなかったらリュックサックでも探す羽目になっていたよ」
「ゲームの設定上、道中で銃弾を補給できませんからね。ここで手に入る物がほぼ全てです」
ほーん。〝ほぼ〟ね。
「さて、俺はあまり銃に詳しくないけど、どの銃を使おうかな」
『ゾンビ相手といえばショットガンやろ』『マグナム! マグナム!』『ド派手なのがいいなぁ』『銃いいよね』『いい……』
うーん、じゃ、とりあえずショットガンで。
俺は中折れ式のショットガンを手に取り、重さを確かめた。
「ヨシムネ様、足音が近づいてきます。速度からしてロボットかアンドロイドです」
ライフルを手にしたヒスイさんが、注意をうながしてくる。
「あいよー」
ヒスイさんの向いている方向に、俺は銃口を向ける。すると、曲がり角からミドリシリーズのガイノイドがガクガクした動きで走ってくるのが見えた。
「ドロボオオオ! イケナインダアアア!」
「いや、これは生存目的のための致し方ない犠牲でな……コラテラル・ダメージというやつで死ねい!」
近づいてきたところをズドンだ。
ショットガンの一撃は、見事にガイノイドの胸部に命中し、吹き飛ばすことに成功した。倒れ伏した相手が起き上がる様子はどうやらないようだ。
「ヒュー、爽快」
「本当はミドリシリーズが、散弾銃の弾程度で機能を停止することはないのですけれどね」
「マジかよ。その領域でノックアウトとかしているアンドロイドスポーツって、なんなんだ」
『負けちゃった』『おつかれー』『アンドロイドスポーツは、ノックアウトしても再起不能まで壊れることはそうそうないよ』『なおロボット格闘は壊れるまでやる模様』『散弾銃格好いいけど、銃の威力で見るなら最初の熱線銃が一番強そう』『そこはゲーム的な調整がされているのだろうな』
まあ、火薬式の銃ではロボットの装甲を抜けないとかになったら、ゲームとして成り立たなくなってしまうからな。
ともあれ、俺達は銃の確保に成功し博物館を後にして、視界に表示されるガイドの指示する方向に進み始めた。
道中では、ゾンビ、ミドリシリーズのガイノイド、掃除ロボット等が次から次へと襲ってくる。
初めてとなるスペースコロニーの町並みをじっくり眺める余裕は、俺達にはなかった。
「しかし、ミドリシリーズが連携してこないのだけは助かるな。複数で来られたらやばかった」
「暴走アンドロイドという設定ですから、互いに連絡は取り合っていないようですね。視聴者に混ざるのも、死亡した後にしているようですし」
「ロールプレイあざっす!」
分かれ道とかがなくて一本道のゲームのようだから、参加してくれているミドリシリーズはおそらく全員登場するだろう。
一方的に撃たれるだけだろうが、やられ役を楽しんでいってくれたら嬉しい。
と、道なりに進んでいったら、道路が大きな乗り物で塞がれている。
AR表示が切り替わり、次の道として建物の内部を指し示した。
建物は……デパートか。
どう道がつながっているのかは知らないが、ガイド表示に従い建物に入ろうとする。そのときだ。
「ヨシイイイ!」
「ぎゃー!」
建物の上から何かが降ってきて、組み敷かれる。
「アアアアア!」
そいつは口を大きく開いて、こちらに噛みつこうとする。
だが、そこでヒスイさんのライフルの銃口が相手の口の中に突っ込まれ、引き金が引かれた。
ライフルの一撃が相手を吹き飛ばし、俺は解放された。
「あ、あぶねえええ!」
『くそー、惜しかったぜ!』『オリーブさんか。あと一歩だったな』『どうやって不意打ちしたの?』『建物の上によじ登った!』『操作系が暴走していてまともに動けないのに、よくやりますね……』
マジかよ。前に視聴者が、スペースコロニーは高所から飛び降りることができないようになっているとか言っていたから、上から来るのは予想してなかったぞ。心臓が飛び出るかと思ったわ。
俺はヒスイさんに助け起こされ、地面に転がったショットガンを拾い直した。
「油断せず行きましょう」
「おうよ」
そうヒスイさんと言葉を交わし、デパートの中へと入る。
デパートの中も、市民ゾンビや暴走ロボット、デパートの制服を着たミドリシリーズが待ち受けていた。
そんな道中で、気になる物を発見した。
「ヒスイさん、なんかサメフェアが開かれているみたいなんだけど……」
「そのようですね」
天井からぶら下がっている大きなポスターに、サメが描かれている。
「『本物のサメを見よう!』……これ絶対サメゾンビ出るやつだ!」
『B級にB級を重ねるとか……』『このゲームの制作者、なかなかやりおる』『今のインディーズってすごいのな』『こだわりを感じる』
サメ登場を予感しながら、俺達は先を進む。
デパートの地下に向かい、関係者以外立ち入り禁止の区画に入る。そして、明らかにデパートではない場所に入った。
「ここはなんだろうか」
俺は浮かんだ疑問をそのままヒスイさんにぶつけた。
「水の循環施設ですね。スペースコロニーでは、使用済みの水は全てこの施設で浄化され、水の再利用がなされます」
水……だと……。
『サメですね』『サメですなぁ』『これでサメが出なかったら詐欺だよ』『サメゾンビまだかなー』
道を進むと、水の流れる水路へと変わる。
非常灯に照らされる薄暗い水路で、そいつは予想通り飛びだしてきた。
「うお、うおおお!」
大口を開けてこちらに食いついてきたので、俺はシステムアシストを駆使して飛び退いた。
直前まで頭のあった場所をサメの巨体が通過していく。
「仕留めます」
ライフルの銃声が水路に響く。
「命中しましたが、まだ死んではいないようですね」
「了解。俺も当てるぞ」
水路に潜って姿を消したサメ。しばし待つと、背後から水音が。俺は身体をひねり、飛び出すサメの攻撃をかわしながら、散弾を撃ち込んだ。
ヒスイさんもライフルをまたもや命中させる。だが、サメはしぶとくまだ生きている。
何度か攻撃の瞬間を銃で狙っていくと、サメは空中で絶命したのか通路の上に落ちてくる。
死んだサメをよく見てみると、表皮がところどころはがれ肉が露出した、まさにサメゾンビと言える存在だった。
「サメゾンビ、獲ったどー!」
『水中からの謎ジャンプとか、まさしくB級のサメだった』『名誉サメゲーに認定しよう』『サメハンターヨシちゃん』『チェーンソーと爆薬が足りないな』『銃で死ぬとはあっけないやつよの』
そんな謎の盛り上がりを見せて、サメのターンは終了。
俺達は水路を抜けて、地上へ。さらにスペースコロニーの町並みを進んでいった。
次々襲い来るゾンビとロボットとアンドロイド。敵の攻撃も多彩になってきて、謎の緑の液体を吐き出してきたり、瓦礫をこちらに投げつけてきたりとスリルのある展開に。やがてショットガンの弾は尽き、俺は拳銃に武器を替えていた。
道中、動物園を通り、逃げ出したゾンビ動物と戦うことになる。コロニー長の家では壁にバズーカが飾られていたので、回収してゾンビに向けてぶっ放したりした。
そうして、とうとう俺達は宇宙港に到着する。
そこに待ち受けていたのは……ミドリシリーズの集団だった。
「ヨシムネチャアアアン!」
「カム! カム! カミツクウウウ!」
「オネエサマアアア!」
一斉に襲ってきたので、逃げ回りながら俺達は銃弾をひたすらに撃ち込んだ。銃声があたりに響きわたる。
「ヒスイさん、お姉様だってよ! 慕われているじゃん!」
「いえ、あれはヨシムネ様を呼んでいるのですよ。最近ロールアウトした子ですね」
「マジか! 初対面」
『妹系ゾンビガイノイド』『変な属性盛り過ぎ!』『初対面なのに暴走した姿とか、それでいいのか……』『それより何気にピンチじゃね』
ピンチはピンチなんだけど、みんな殴りつけようとしないで噛みつこうとするから、掴まれるのさえ注意すればそれほど危なくないんだよな。
そして、襲われていないヒスイさんが一人、また一人と確実に沈めていってくれている。
やがて、全てのミドリシリーズは沈黙した。
「さあ、船を探しましょう」
「ヒスイさん頼りになるわぁ……」
赤い照明が照らす中、俺達はガイドの指し示す一つの宇宙船に辿り着いた。
その宇宙船の前には、暴走アンドロイドが一体待ち受けていた。
「ヨクゾココココココマデマデマデキタネエエエ!」
うーん、言えてない。あれは誰だろうか。
「ミドリですね。最後の一体なので、銃を撃ってきます。気をつけてください」
おお、ここに来て遠距離持ちか。
ミドリさんらしき敵は、適当に銃を乱射している。光線銃っぽいな。
俺とヒスイさんは都合よく配置されている遮蔽物のコンテナを使って光線をかわし、銃弾を確実にミドリさんに叩き込んでいく。
他の暴走アンドロイドより頑丈だ。ラスボスということだろう。
だが、二対一ということもあってか、やがてミドリさんは動かなくなった。
「おー、やったぜ。ミドリさん、安らかに眠れ」
そうしてミドリさんの横を通り、宇宙船に乗り込もうとする。だが、その次の瞬間。
「シンダフリイイイ!」
「ぎゃー!」
突然起き上がったミドリさんに、俺は噛みつかれていた。
「ヨシムネ様!」
ヒスイさんの銃の一撃が、ミドリさんの頭を吹き飛ばした。
今度こそ、ミドリさんは動きを止める。
『いえーい、噛みつけたよー!』『やるじゃん。さすがミドリちゃんさん』『役者もやっているだけある』『なんで噛みつくのにこだわっているかは理解できないけどな!』『えー、ゾンビといえば噛みつきでしょう?』
最後にしてやられたわ!
「申し訳ありません、油断してしまいました」
ヒスイさんが謝ってくるが、死んだわけでもないから無問題だ。
俺はヒスイさんをなだめ、宇宙船の内部へと入る。
中にゾンビがいないことを確認すると、俺達は操縦席へと座った。
そこで、視界が暗転しムービーシーンへと切り替わる。
宇宙船が発進し、スペースコロニーを出ようとする。だが、隔壁は開かず、宇宙船から光線が発射され、隔壁を破壊した。
そして、宇宙船は宇宙に飛び出し、遠くに見える青い惑星へと向かっていく。
その惑星がアップになり、地上にカメラの焦点が合う。地上は建物が建ち並ぶ未来的な大都会である。
だが、そこにいる人々は全てがゾンビとなっていた。多数のゾンビがうごめく宇宙港に、宇宙船が降りていく。
『THE END』
画面一杯に文字が表示され、身体に自由が戻ってきた。
「というわけで、『Space Colony of the Dead』難易度ノーマル、これで終了です」
耳にアンテナをつけたアバター姿に戻ったヒスイさんが、淡々と述べた。
ゲームクリアか。
「ふう、無事死ぬことなくクリアできたな。ミドリシリーズのみんなもおつかれ」
俺がそう言うと、視聴者コメントが読み上げられる。
『クリアおめでとう!』『おつかれー』『いやー、ゾンビ物らしいラストだったな』『救いのない結末! まさにゾンビ!』『あのあと主人公達はどうなるんだろうな』『物資を回収して生き延びるゾンビサバイバルになりそう』
ガンシューティングにサバイバル要素も付け足されたら、インディーズの範疇では制作が大変そうだな。
「でも、参加型のゲームというのは新しい発想だったな。今後、視聴者が大勢参加できるゲームを探して配信したりすると面白いかもしれん」
「そうですね。見つくろっておきます」
俺の言葉を提案と受け取ったのか、ヒスイさんがそんな反応をした。
視聴者も配信に参加できると聞き、盛り上がる。
そして、そのままの流れでゾンビ談義とサメ談義を繰り広げていると、時間もだいぶ過ぎてしまった。
「それじゃあ、今日の配信はここまでにしようか」
『残念』『次もまた面白いゲームをよろしく』『雑談だけで回してもいいんですよ?』『インディーズゲームも悪くなかったね』『もうすぐ夏のインケットの時期かぁ』
「次のインケットには参加して、インディーズゲームを探そうと思っているぞ。以上、ヨシムネでした!」
「スペースコロニーの警備員としても最適なミドリシリーズ、ヒスイでした」
あのヒスイさんの正確な銃撃は、確かに広告効果がありそうだな! 死んだふりを見抜けないのは問題だが。
まあ、業務用ガイノイドを買う立場の人が配信を見てくれているのかは不明なのだけれども。
そうして配信を終了すると、SCホームにどっとミドリシリーズがなだれ込んできた。
その数は……とても多い!
「すみませんヨシムネ様。全員来てしまいました」
「あー、287人だっけ。うーん、全員に庭にいてもらうわけにもいかないし、宴会場でも作るか」
俺は、端末を操作し、日本家屋の中に300人入っても大丈夫な広い空間を作り出した。
家屋の外観は変わっていないが、内部では空間が広がっている。VRだからできることだな。
「よーし、みんな家の中に集まれー!」
「わぁい!」
その後、場は宴会となり、俺達は親睦を深めることとなった。
ただし、全員の名前は覚えきれていない。
それを聞いたミドリシリーズの面々は、「人間って大変だね」と口々に言い、その後みんなで胸にネームプレートをつけることになったのだった。