21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信! 作:Leni
その日、俺とヒスイさんは『Stella』の中で動画の撮影を行なっていた。
目的は廃墟探索。とはいってもダンジョン的な場所に行って財宝を得ようとかそういうものではなく、純粋に廃墟を探索し廃墟を愛でようという観光の一環である。
正直なところ、俺は廃墟が好きなわけではない。
世の中には、廃墟を愛し、廃墟に訪れることを喜びとする人達がいる。
そんな廃墟マニアではないのに廃墟へ観光に訪れているのは、食わず嫌いはよくないというそんな思いによるものだ。
今回の目的地は謎の村跡。剣と魔法の『星』ファルシオンにある、奇妙なスポットだとヒスイさんがNPCから伝え聞いたらしい。
「確かに奇妙だ……人形が転がっている」
村跡を見渡しながら、俺はそう言った。寂れた村跡、その至る所に等身大の朽ちた人形が落ちているのだ。
何か条件を満たしたら動き出しそうな感じだが、サービス開始から数年経って未だに放置されたままということは、特に何もないのだろうか。
そんなことをヒスイさんに言ったのだが……。
「そうでもないようですよ。SNSを確認しても、この村跡のことは廃墟好きの人にしか認知されていないようです。何かがあるかどうかを誰も調べていないのではないでしょうか」
「ほーん。膨大な数のプレイヤーがいるのに、そんなことってあるんだ」
「このゲームのMAPは広大ですからね」
確かに、このゲームの世界は広く、この村跡も辺境に存在している。
「ということは、トレジャーハントのチャンスかもな。動画的に美味しいな」
予定を変更して財宝探しだ。
なお現在、ライブ配信は行なっていない。ライブ配信をすると、どこからともなく人が大勢集まってきてお祭り騒ぎになってしまう。
なので、静かな廃墟探索には合わないとライブ配信を見合わせたのだ。今回はあくまで動画撮影で済ませるつもりである。
「家屋を見て回ろうか」
「はい。ではこちらの魔法ランタンを」
ヒスイさんがインベントリから紐のついたランタンを取り出して渡してきたので、俺はそれを腰にくくりつけた。
今日の俺のアバター装備は、ビキニアーマーではなく熊の着ぐるみパジャマだ。
「毎回同じ格好では飽きられる」とのヒスイさんの言葉により、ちょくちょく着替えさせられている。布面積が広くて安心するわ……着ぐるみパジャマなんて可愛らしい服を着ても違和感を覚えなくなったのは、正直元男としてどうかと思うが。
一方、ヒスイさんは猫の着ぐるみパジャマだ。
最初は賢者のローブのままでいようとしたところを俺が説得して着せたのだ。「せっかくだし衣装をそろえよう」と誘っただけだが。
そんな廃墟に似つかわしくない格好で、俺達は村を見て回る。
村の家屋は木材ではなく石材か何かでできているようだ。植物に侵食されているが、崩れたりはしていない。
「惑星テラにもこういう廃墟がそこらにあるのかな」
俺はふと思い浮かんだそんな台詞をつぶやいた。
すると、ヒスイさんが反応してくる。
「そうですね。都市部は解体され自然に還りましたが、辺境にはまだまだ取り残された廃墟が残っているのではないでしょうか」
やっぱりそうか。惑星テラはかつて戦争で環境汚染が進み、他の惑星に人を移植することで自然を取り戻したという歴史がある。
つまり、人が住まなくなった建物がそこらにあるということだ。自然を取り戻すため解体作業は進んでいるようなのだが、まだまだ廃墟はあるってことだな。廃墟マニアの人が喜びそうな環境だ。
「さて、何かあるかな……」
村を見て回るが、めぼしい物は何も存在しない。うーん、残念。
それより一つ、気になったことがある。
「家を見ても生活感がないな……」
「廃墟好きの人の考察によると、動く人形の村だったのではないかと」
「何そのメルヘン」
そんな会話をしているうちに、俺達は一軒の立派な建物の前に辿り着いた。三階建ての大きな屋敷だ。
「うーん、村長の家? 領主の館?」
「その類の家でしょうね」
「何かありそうならここかな」
「では、入りましょうか」
俺とヒスイさんは伸び放題になっている草をかき分けながら扉まで辿り着き、屋敷の中に入った。
魔法のランタンに火を灯し、窓から入る日の光も頼りにしながら建物の中を進む。
一部屋ずつ入って何かないかを確認していく。
「うーむ、今度は妙に生活感のある場所だな。食堂に食器があったし、部屋にベッドや服も用意されている」
三階の主人の部屋っぽい場所で、俺はそんなことを言った。
すると、ヒスイさんが一瞬何かを考え込むような仕草を見せた後、口を開く。
「ヨシムネ様、MAPをご確認ください」
「ん? どれどれ」
メニューのMAP機能を確認すると、屋敷の見取り図が表示された。
「一階部分に不自然な空白がありませんか?」
「ん、あ、あー。確かに、ちょこっとだけあるな」
「隠し部屋ではないでしょうか」
隠し部屋! もしそうなら、まだ見ぬ財宝が!
俺達は三階から一階に戻り、地図の空白の場所へとやってきた。
「廊下の壁は、怪しいところはないな」
「隣の部屋に行ってみましょう」
ヒスイさんにそう促され、空白の場所と隣り合わせになった部屋に入る。
すると、いかにも怪しい本棚が壁を塞いでいた。
本棚を横から押してみると、きしむ音を立てながら本棚が動いた。
「ビンゴ! 隠し部屋だ!」
「ふむ……どうやら地下への階段のようですね」
「マジか。本格的だな」
俺は早速、階段を降りていく。
「うーん、暗いな」
地下空間。窓の光がないため、ランタンの光だけが頼りだ。
正直、ランタンだけでは明かりとして心もとない。
「よし、ここは。【セイクリッドオーラ】」
俺は聖魔法を発動し、自身に聖なる守りを付与した。すると、俺の身体は淡く光り輝き始める。
「人間照明ってな」
「!? ヨシムネ様、前方に敵が!」
「うお、うおおああ!?」
何かが襲いかかってきたので、俺は咄嗟に正拳突きを前方に放った。
「ギャア!」
正拳突きは何かに命中し、奇妙な叫び声を上げながら何かは後退する。
そこへ、インベントリから大剣を取り出したヒスイさんの一撃が命中する。
「ギャアアアア!」
何かは断末魔の叫びを上げ、やがて沈黙した。
「危ねー! 超電脳空手習ってなかったら死んでたわ」
『Stella』の俺はかたつむり観光客。ひ弱で貧弱なよわよわビルドなのだ。
VRなのにドキドキする心臓を押さえながら、俺は息絶えた相手を確認する。
「……なんだろう、こいつは」
「グレムリンですね」
「悪魔かー」
敵は子供サイズの悪魔のようだった。
廃墟の屋敷に悪魔の影。うーむ、怪しい。
屋敷の主が何かの儀式で悪魔を呼び出したとか、そういうあれだな!
「気をつけて進みましょう」
本当に気をつけよう。かたつむり観光客は、もろいのだ。
俺達はヒスイさんを先頭にして、暗い地下空間を進んでいく。
道中、グレムリンが多数出現するが、全てヒスイさんが片付けていった。
最初、ここはダンジョンの類かと思ったがそんなことはなく、MAPはすぐに埋まり、残りは怪しい扉の部屋を残すだけとなった。部屋の中に、さらに地下へ潜る階段があるとかなら別だが。
「では、行きます」
ヒスイさんを盾にして、俺は部屋へと踏み込んだ。
するとそこには鎖で足を縛られた巨大な悪魔が待ち構えていた。部屋の床には、怪しい魔法陣が敷かれているのも見える。
「ガアアアア!」
悪魔が叫び声を上げて、こちらを威嚇する。
悪魔の足についた鎖は一本のみで、どうやら魔法陣の中は自由に動けるようだ。
こちらに襲いかかろうとしてくる悪魔だが、ヒスイさんは一歩引いて魔法陣の外から出て、その攻撃をかわした。
「ヨシムネ様、いかがいたしましょうか」
「んー、とりあえずやっちゃおう」
俺は弓の弦を引き、矢を悪魔に向けて撃ち込んだ。悪魔の叫び声が響きわたる。
「ヒスイさんは、鎖を切っちゃわないよう気をつけて戦ってくれ」
「かしこまりました」
そうして、悪魔との戦闘は始まった。
悪魔は魔法陣から出られないが、闇の魔法を使って魔法陣の外へと攻撃を飛ばしてくる。
俺は遅い足で部屋の中を駆け回ってそれをかわし、矢を撃ち込んでいく。
そして、ヒスイさんは魔法陣の中に踏み込んで大剣を悪魔に叩きつけた。巨大な体躯に相応しい生命力を誇った悪魔だが、廃人疑惑のあるヒスイさんには敵うことはなかった。
やがて、悪魔は倒れ伏し、動かなくなる。すると、魔法陣が消え鎖も消滅した。
スキルの上昇を知らせるメッセージが流れ、俺達は一息ついた。どうやら強敵だったようだ。強敵は倒した瞬間、大量のスキル経験値を獲得することができる。なので、選択スキルとして設定してある歩行、
「しかしまあ、なんというかヒスイさん強いな」
「ヨシムネ様の護衛ですから」
様々な証言からヒスイさんが普段、日常業務や配信の手伝いをしながら『Stella』に入り浸っていることが確認されている。
その『Stella』廃人ともいえる行動が、言葉通り俺の護衛をするためだとしたら……結構重いなぁ。
かたつむり観光客にビルドしたのは、もしかしたら早まってしまったのかもしれない。