21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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69.Stella 廃墟探索編<2>

 俺達は悪魔の復活に注意しながら様子を見る。だが、悪魔が起き上がってくることはなかった。

 そして、インベントリの中へ悪魔の死骸を収めることができた。悪魔は無事退治できたようだ。

 

「ふう、そこまで脅威でなくてよかった。しかし、この部屋はなんなんだろう」

 

「祭壇が奥にありますね」

 

 その祭壇はこのファルシオンで一般的に崇められている聖教の祭壇で、特に悪魔崇拝の痕跡とかは見られない。

 何かそれらしい日記とか書類とかがあればいいのだが、その類の物品は見つけられない。

 動いたりしないかな、と俺は祭壇に手を触れる。その瞬間、祭壇が輝き部屋の中が光に満たされた。

 

「なんだなんだ?」

 

 それと共に、メニューに通知が来た。新称号の獲得?

 称号とはその名の通り、プレイヤーが行なってきた行動に際して、さまざまな称号が与えられるシステムのことだ。

 称号には称号効果という要素があり攻撃力がプラスされたり技のクールタイムが短縮されたりと、恩恵が与えられる。

 

 俺は、メニューから称号一覧を呼び出し、最新の称号を確認した。

 

 ●人形村の解放者

 人形村を悪魔の脅威から救った者に与えられるユニーク称号。ほーほう、人形村へようこそ!

 称号効果:なし

 

 ほーん。ヒスイさんに確認したところ、ヒスイさんもこの称号を得ていた。しかし、ユニーク称号かぁ。

 

 ネトゲにおける『ユニーク』とは、レア度の等級のことで『Stella』の場合は『一点物』という意味だな。ゲーム中に一つしかないユニークアイテムなどが想定される。

 

 MMOの場合、プレイヤー間に公平性が求められるので、『一点物』という意味でのユニークなアイテムやスキルはほとんど存在しない。

 せいぜいが、城主に与えられるユニークアイテムの剣とかで、その城主の地位は通常PvPやクラン対抗戦などで奪い合うことができる。

 

 今回のユニーク称号はおそらく悪魔退治の証だ。悪魔退治は先着一PT(パーティー)にしか行なうことができず、それゆえ証である称号がユニークな物になったというわけだな。

 先着一PTにしか獲得できない称号なんて不公平極まりないので、称号効果が『なし』になっていると推測できる。

 

「称号を見るに、後続の人は悪魔退治ができなかったりするのかな」

 

「そうかもしれませんね」

 

「一回きりのイベントって、開発リソース的にどうなんだろう。俺達二人のためだけにわざわざこのイベントが作られたってことになるじゃん? MMOなのにより多くの人に楽しんでもらえるイベントを作っていかないと、開発速度が追いつかなくなりそう」

 

「現代のゲーム、特にMMOはAIが開発していることが多いですからね。時間加速機能を使いどんどんイベントを追加するので、プレイヤー一人に専用のイベントを用意してもイベントが枯渇することはないのです」

 

「うへえ、AIってブラックな環境で働いているなぁ」

 

「AIは疲労せず、労働を苦とも感じませんから」

 

 ま、そりゃそうか。人間の代わりに働いてもらうのが、AIやロボットを作りだした人間の目的だったんだからな。

 

 その後、部屋の中を確認するが特に何も見つからなかったので、俺達は部屋を出てさらに地下空間から一階へと戻った。

 すると。

 

「あ、あれ? なんか屋敷が綺麗になってないか」

 

「そのようですね。埃が綺麗になくなっています」

 

「まさか……」

 

 俺は走って屋敷から飛び出し、屋敷の外観を確認した。

 ツタに覆われていたはずの壁からは植物が綺麗に取り除かれ、生え放題だった草も綺麗に刈り取られている。

 さらに走って村を回ると、建物はすっかり綺麗になり、さらには人形が立ち上がって動き回っていた。

 

『ほーほう。人間さんかい? 人形村へようこそ!』

 

 俺を見つけた人形が、そんなふうに語りかけてきた。

 称号、人形村の解放者。解放……もしかして村を廃墟になる前に戻すという意味だったのか!?

 

「しまったあああ! やっちまったあああ!」

 

 俺は自分の犯してしまった失敗に、打ちひしがれてその場で膝を突いてしまった。

 

「……ヨシムネ様、どうしました? 無事にイベントは進行したようですが」

 

「そのイベントの進行が失敗なんだよ! ここは廃墟マニアさん達の秘密のスポット! それを廃墟じゃなくしてしまった!」

 

 SNSでこの村の存在をあげていた人達に知れたら、悲しませてしまう! そして、それをやった犯人は配信者のヨシムネと知れた日には……。

 

「はっ! 待てよ。村が復活したのはこのチャンネルだけかもしれない」

 

 そう判断した俺は、他のチャンネルへと移動する。

 しかし。

 

「どのチャンネルでも村は復活してたよ……」

 

 俺は元の配信チャンネルに戻って、肩を落とした。

 

「……ヨシムネ様。確かに廃墟が好きな方は残念がるかもしれませんが、正当なイベントの進行結果ですので、問題にはならないのではないでしょうか」

 

「本当? おのれ配信者ヨシムネめってアンチにならない?」

 

「恨む対象があるとしたなら、ヨシムネ様ではなく廃墟が廃墟ではなくなるイベントを用意した開発チームではないでしょうか」

 

「そっか……うん、そうだよな。ネトゲの運営と開発はプレイヤーに恨まれる対象だもんな。よし、気にしない!」

 

 復活、ヨシムネ復活です!

 気を取り直して、今回のイベントのことを考えてみよう。

 

「あの地下室の悪魔はなんだったのかな?」

 

「さて、村にいる人形に尋ねてみましょうか」

 

 俺達は、近くを歩く人形達に悪魔のことを聞いてみた。

 

『ほーほう。知らないほー』

 

『村のことは全部領主様に任せているほー』

 

 と返ってくるのみだった。

 

「うーん、領主の館にそれらしい何かが残っているんだろうか」

 

「骨は折れますが、まだ時間はありますので、探してみましょう」

 

 俺達は屋敷へ戻り、書斎を確認する。だが、あるのは小説ばかり。

 

「こういうゲームで、実際に本を手に取って中身が読めるって、何気にすごいことだと思う」

 

「MMOでは一定期間ワールドシミュレーターとして世界を運用して、現地住民の人格を持ったAIに執筆させることで、その世界独自の本を用意しているようですよ」

 

「うわあ、本格的。でも、そうしないと中身の違う本なんて用意できないよな」

 

「中には傑作も生まれ、ゲームの外に本が広まることも多いです」

 

「芸術もAIが担当する時代か……」

 

 そんな会話を交わしながら書斎の本をしらみつぶしに探すが、それらしい資料は存在しなかった。

 仕方なしに俺達は三階へと行く。屋敷の主の部屋らしき場所に執務机があるので、それを物色する。

 

「こういうのは日記に全部真相が書かれているのがお約束なんだが」

 

「それはまた、ずいぶんと都合がよいですね……。日記ではないですが、業務日誌がありました」

 

「ほうほう」

 

「読みますね」

 

 ヒスイさんがパラパラと日誌をめくっていく。

 すると、当たりだったのか、ヒスイさんが日誌のあるページを指さした。

 そこにはこの世界独自の言語で『悪魔』と書かれている。ゲームなので、独自の言語も自動翻訳して読むことができるのだ。

 

「この村の人形は、地脈の力で動いているようです。しかし、その地脈の力に目を付けた悪魔が村を襲ってきたようですね。そこで、村の領主は地脈を使った悪魔封じの聖魔法を用い、悪魔を封じることに成功したとのことです」

 

「へえ、やるじゃん」

 

 聖魔法による封印か。だからあの地下には祭壇があったのか。

 さらにヒスイさんは日誌を読み進める。

 

「しかし、地脈が悪魔の闇の力に侵食され、人形を動かす力が取り出せなくなり村は機能を停止。領主は封じた悪魔を退治することを決意し、明日悪魔との戦いに向かうと最後のページには書かれています」

 

「せっかく封印したのに、領主さん負けちゃったかー。それらしい死体はなかったけど」

 

「悪魔に食べられてしまったのではないでしょうか」

 

「やるせないなぁ」

 

 真相が明らかになったので俺達は村の観光を終えることにした。

 そして、真相の書かれた日誌を近くの町の領主へと提出し、悪魔退治に成功したことを報告。すると、報酬として金一封がその場で与えられた。イベント報酬ってやつだろう。

 

 報酬も手に入れたので、その日の撮影はそこで終わり、編集した動画を配信することにした。

 そして翌日……。

 

「大丈夫? ヒスイさん、アンチコメついてない?」

 

 ヒスイさんに動画の反応を尋ねてみた。

 すると、返ってきた言葉は……。

 

「それが、どうやら復活したあの村では人形使い用の新技が習得できるそうで、感謝のコメントが多数寄せられています」

 

「そっかー。それはよかった」

 

「それを受けて、今『Stella』では廃墟の再探索が各所で行なわれているようです」

 

「ええっ、廃墟マニアさん達の聖域が汚されている……!」

 

「もしかしたらこれを機に、廃墟のよさに目覚める人が出てくるかもしれませんよ」

 

 思わぬ方向に転んだ今回の結果に、俺は驚愕するばかりであった。

 ゲームはやはり驚きに満ちているなぁ。

 


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