21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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71.バーチャルインディーズマーケット<2>

 予定していたゲームを一通り確保し終わった。現在の時刻は午後2時といったところ。イベントの終了まではまだまだ時間がある。

 そこで俺とヒスイさんはVRのメニューを操作して、区画の移動の準備をした。

 

「次は、書籍ブースですね」

 

「ああ、俺のことが載っているとかいう」

 

 今日はゲームと音楽の日だが、ゲームを題材に扱った一部の電子書籍も頒布されている。

 今回、俺達が向かう先で頒布されているのは、ゲーム配信者を扱った本だ。今話題の配信者を紹介しているらしい。

 

 俺達はメニューから区画の移動を選択し、書籍ブースの並ぶ区画に転移した。

 そこからさらに歩くことしばし。

 

「ここですね。少し並んでいるようです」

 

「おお、俺が載っている本が並ぶほど人気なのか」

 

「どうします? ここで買いますか? それとも並びますか?」

 

 ブースの前のメニューを前に、ヒスイさんが言う。

 俺は、当然並ぶ方を選んだ。本を書いた人にも会ってみたいからな。

 

 ブースと通行路を隔てる透明な壁を越えると、中は通路側から見えているより広くなっていた。

 そして、その広くなった空間で人が列を作っている。俺とヒスイさんは、素直にその列に並ぶ。

 前には10人ほど人が並んでいる。

 

 その列が消化されるのを待ち、男性の売り子さんの前に立った。そして、俺は売り子さんに向けて言う。

 

「新刊二部ください」

 

 二部なのは、俺とヒスイさんの分だ。ゲームと違い、本は同時に二人で読むこともあるからな。

 

「はい。……おっ、君達、ヨシムネさんとヒスイさんじゃないか?」

 

「あ、はい。そうです」

 

「配信者が直接来てくれるとは嬉しいね。大丈夫、悪いことは書いてないから安心しな」

 

「ありがとうございます」

 

 本を二部受け取り、俺はクレジットを支払う。

 そして売り子さんの前から横に避けると、後ろに並んでいた次の人が前に詰めてきた。

 

 他にも人が並んでいるから雑談はできそうにないな。並ばなくても買えるのに、並んで買いたいという変わった人も多いのだなぁ。仕方なく、俺達はブースを後にすることにした。

 そして、俺は手に持っていた本の一冊をヒスイさんに手渡し、電子書籍の譲渡を申請した。ヒスイさんはそれを受け取り、譲渡を了承する。

 

「さて、ちょっと見てみようか」

 

 人にぶつかる心配はないので、俺達は隅っこに移動しその場で本を開いた。

『宇宙暦299年上半期 ゲーム配信大百科』、そんなタイトルの本だ。どれどれ……。

 

●21世紀おじさん少女 ヨシムネ

 

・概要

 21世紀からやってきたタイムトリッパー。元30代のおじさんだが、今は少女の姿を取っている。

 ……というのは設定ではなく、ガチ。時空観測実験の事故に巻き込まれ、次元の狭間に取り残されたところを新たな実験でサルベージされたという経歴を持つ、強烈なキャラクターだ。現在はニホンタナカインダストリ製の業務用ガイノイド、ミドリシリーズにソウルインストールをしている、まさに21世紀おじさん少女である。

 

・特徴

 21世紀人という経歴を活かして、視聴者を突き放す21世紀トークがまれに炸裂する。歴史好きにはたまらないものがあるだろう。

 ゲームジャンルはオールマイティで、アクションからシミュレーション、MMORPGまでいろいろとこなす。リアルARゲーム『ヨコハマ・サンポ』回は貴重な地域限定ゲームが見られてマニアもにっこり。リアルとアバターは同じ姿を取っており、ときおり挟まれるリアルパートがいい味を出している。

 助手であるガイノイドのヒスイが常にヨシムネの手助けをしており、彼女から出される課題ゲームをヨシムネが喜々としてプレイする様は、マゾゲー愛好者なのではという疑惑を持たせるのに十分である。編集や告知もヒスイが行なっており、21世紀おじさん少女はヨシムネとヒスイのコンビと見なすこともできる。

 宇宙暦299年に入ってから登場した、注目の配信者の一人だ。今後の活躍に期待したい。

 

「おおー、ヒスイさん。ベタ褒めだよ」

 

「ヨシムネ様のイラストも可愛らしいですね」

 

 そう、俺のことが載っているページには、モノクロイラストで俺が描かれていた。ファンアートは今までももらったことがあり、配信サイトに一覧を載せてもらっているが、自分が絵になるというのはやはり嬉しいものだな。

 俺達は満足しながら本を閉じる。この本でまた新たな視聴者が来ないものかな。

 

 そんな期待を胸に抱きながら、俺達はさらにゲーム関連書籍を見ていく。

 

「ここが『-TOUMA-』解説本のブースか」

 

 次のブースは、俺が最初に配信した『-TOUMA-』を扱った新刊を出しているらしい。攻略本も存在しないゲームの解説本なので、ちょっと期待している。

 ブースの中に入ると、男性と耳にアンテナをつけた女性AIの二人が座って売り子をしていた。

 

「おや、おやおや、もしや21世紀おじさん少女では?」

 

 男性の方が俺にそう話しかけてくる。

 この人も俺を知っているのか。俺は正直に答える。

 

「はい、ヨシムネです」

 

「そうかそうか。いやー、『-TOUMA-』の第一人者がわざわざ来てくれるとは嬉しいね! インディーズ作家冥利に尽きるってものだ」

 

 嬉しそうにそんなことを言う男性。

 そんな彼に、俺は改めて言った。

 

「新刊三部ください」

 

「おや、三部かね。君とヒスイさんともう一人は誰のぶんだい?」

 

「チャンプに譲ろうと思って」

 

「ああ、彼か。彼もなかなか強烈な動画を配信してくれたね。おかげで、今回は本をだいぶ頒布できたよ」

 

 本を三部受け取り、クレジットを支払う。……分厚いな、この解説本!

 

「それじゃあ、部屋に戻ったらじっくり読ませてもらいますね」

 

 そう言ってブースを後にしようとしたそのときだ。

 

「お待ちください」

 

 と、今まで無言だった女性AIから待ったがかかった。

 

「なんでしょうか」

 

「……電子サインいただけますか?」

 

 おや、意外。男性の方じゃなくてAIの方からサインを求められたぞ。

 

「ははは、この子は君の動画のファンでね。開場したときから、ヨシムネさんは来ないのか来ないのかとうるさかったよ」

 

 そりゃまた、嬉しいね。

 俺は電子サインを書き、女性AIに送りつけた。

 

「じゃあ、今後も21世紀おじさん少女をよろしく」

 

「はい、ありがとうございました。次回作も興味があれば、またお寄りください」

 

 そう言い合い、俺とヒスイさんはブースを後にした。

 人の行き交う通路で、俺はヒスイさんに向けて言う。

 

「いろんな人が俺のことを知ってくれているんだなぁ」

 

「配信者として有名になってきたということですね」

 

 そうだと嬉しいね。

 その後も俺達はゲーム本のブースを見て回り、今までプレイしたゲームに関する本を確保していった。

『アイドルスター伝説』の時代の実在アイドル解説本なんていう、歴史好きしか飛びつかなさそうな本なんかもあった。いろいろな本があるもんだなぁ。『アイドルスター伝説』って28年も前のゲームっていうから、この本も俺の配信の影響があったりするんだろうか?

 

 そうして電子書籍は一通り確保し終わり、俺達が次に向かったのは企業ブースだ。

 俺はそこで、浮かんできた疑問をヒスイさんにぶつける。

 

「インディーズのイベントなのに企業ブースがあるんだな」

 

「そこは、このインケットの前身になったイベントの伝統を引き継いだらしいです」

 

 やっぱりこれ、俺も知っている日本の同人誌即売会が元なんじゃねえかな……。

 

 そんな企業ブースでは、主にゲームのグッズを頒布している。

 VR上のグッズだけでなく、リアルのグッズの見本を並べて、後日グッズを郵送してくれるサービスまである。

 

 だが、俺達の目的はグッズではない。目的は少し遅れた昼食である。

 企業ブースが共同で開いているカフェテリアに俺達は入る。ここでは、ゲーム内で生まれた料理が楽しめるらしい。

 

 MMORPGではサービス開始前に、ワールドシミュレーターとしてゲームを数十年間NPCのみで運用し、さまざまな独自文化を定着させるという試みがしばしば用いられるらしい。

 当然、時間加速機能を使ってだ。ゲーム内の世界観を重厚にするための手法とのこと。

 

 そんなワールドシミュレーター内部で動くNPCは、高度有機AIが使われている。個人のゲームプレイ用途では、高度有機AIサーバに接続した状態での時間加速機能の倍率上限は低いが、商業でのゲーム制作用途だとまた違うのだそうだ。

 

 そんな高度有機AI搭載のNPCをワールドシミュレーターとして運用した結果生まれる独自文化の一つが、リアルの世界にないオリジナル料理。ここではそれが食べられるというのだ。

 

「ヒスイさんは何にする?」

 

「では私は、この『海の島の王様海鮮パスタ』を」

 

「じゃあ俺は、『遊牧民の豪華肉盛り粥』と『菜食エルフの満足サラダ』にするかな」

 

 注文と共に、料理がテーブルの上に転送されてくる。この辺はVRのいいところだな。

 粥は麦粥で、その上に肉とモツが大量に載っている。

 俺はそれを見ながら納得して言った。

 

「なるほどなー。日持ちしない内臓肉を豪快に消費するための料理か」

 

「日持ちしない部位だからこそ、それがたくさん盛られているのは『豪華』なのではないでしょうか」

 

「確かに。そういうヒスイさんのパスタも海鮮山盛りですごいな」

 

「スパゲティが出てくると思ったのですが、マカロニでしたね」

 

 そうして俺達は料理をもりもりと食べていく。

 粥は肉食! という感じなので、箸休めにサラダにも手を出すが、このサラダ、なんというかうま味がすごい。キノコでもドレッシングに使っているのだろうか。

 確かに、満足サラダと言われたら納得できる味だ。強いうま味のせいで腹に溜まっていく感じが強い。

 まあ、VRの中なので満腹にはならないのだが。

 

 そうして俺達は料理を食べきった。材料費がかかっていないからか、支払うクレジットは無料だ。多分、ゲームの宣伝のためにやっているのだろうな。メニューの横に料理が登場するゲーム名が書かれていたし。

 

 席を立ち、次の場所へと移動する。予定していたゲームと書籍は全て入手できたので、観光気分でコスプレ会場を見にいくことに決めていたのだ。

 コスプレ。ゲームや漫画、アニメなどの創作物の登場人物に変装する遊びのことだ。

 

 このバーチャルインディーズマーケットでは、コスプレに一つのルールがあるらしい。それは、公式の用意しているアバター衣装を使わないこと。個人製作の衣装を使ってコスプレをする縛りがある。

 VRでの衣装となると3Dモデリングをするように思われるが、実際は違う。MMOなどのゲーム中で裁縫スキルを使って、リアルと同じように布から衣装を作るのだ。本格的である。

 

 コスプレ会場に踏み込むと、そこには様々なコスプレをした人にあふれかえっていた。

 しかしだ。

 

「ライブ配信の視聴者アバターが揃ったときの光景とあんまり変わらないな」

 

『St-Knight』のライブ配信の時やSCホームの改装の時に、視聴者にアバター姿で接続してもらったことがある。そのときは、みんなさまざまなゲームのアバター衣装を着ていたものだから、完全にコスプレ集団といった雰囲気だった。

 その光景と、このコスプレ会場は非常に似通っていた。

 

「ここでは皆様、漫画等の登場人物の格好をしていますから、そこがライブ配信の時と違いますよ」

 

「この時代の漫画ってほぼノータッチなんだよな……」

 

 なにせ、21世紀の頃に読んでいた漫画の続きを読むだけで時間がどんどん経過していくからな!

 俺はコスプレを眺めながら会場の奥へと進んでいく。

 

「あはは、ヒスイさん、耳なし芳一だって。ニホン国区の人かな?」

 

「あるいは、ニホン国区から入植したスペースコロニー在住かもしれませんね」

 

「あ、そういう場所もあるんだ」

 

「ええ。ニホン国区系のスペースコロニーでは、今も古い日本の文化が残り続けているようですよ」

 

「山形県の文化どこかに残っていないかなぁ……」

 

 そんな感じでコスプレ風景を楽しんでいると、視界に表示された会場MAPにVRのフレンドの反応があった。

 

「ヒスイさん、誰かいるみたいだよ」

 

「行ってみましょう」

 

 MAPの指し示す方向に近づいてみると、そこにはなんとミドリさんの姿が。多数の観客に囲まれて撮影をされている。

 

「何やってんだ芸能人」

 

「あっ、ヨシムネじゃない! みんなー、妹のヨシムネが来たよー!」

 

 ミドリさんの周囲にいた人達が、一斉にこちらを向いた。

 うーん、本当に何やっているんだ、ミドリさん。

 

「コスプレ参加ですか、ミドリ」

 

 ヒスイさんがずばりと切り込んだ。

 それに対し、ミドリさんはポーズを取りながら言葉を返す。右手には何やら銃を構えている。

 

「うん、『Galaxy Opera with Dandy』の捜査官キャシーのコスプレね!」

 

「ぎゃらくしーおぺら?」

 

 聞き覚えのないタイトルに、オウム返しをしてしまう俺。

 

「大人気スペースオペラRPGだね! ヨシムネもゲーム配信者ならチェックしておくことね!」

 

「ほーん、そんなゲームが。前のゾンビゲーといい、ミドリさんって結構ゲーム好き?」

 

 ミドリさんの返答を受けて俺がそう尋ねると、ミドリさんは元気に答えた。

 

「大好きだねー。正直、ヒスイよりゲーム配信者の助手に向いているんじゃないかな?」

 

「ヨシムネ様、本気にしないように」

 

「はいはい、助手は交代しないから、ヒスイさんもそう真顔にならないの」

 

 ヒスイさんの表情にひえっとなった俺は、努めて冷静にヒスイさんをなだめた。

 

「それじゃあ、俺達はこれで失礼するよ」

 

 さっさと退散しようとそう切り出すが、ミドリさんが「待ってー」と言ってくる。

 

「もうゲームブースは回った? 一緒に行こうよ!」

 

「あー、予定していた物はだいたい手に入れたかな」

 

「じゃ、私のオススメゲームを紹介してあげるね。じゃあみんな、妹達と一緒に向かうから、コスプレタイムはこれで終了!」

 

 ミドリさんがそう周囲に向けて言うと、「妹なら仕方ないな」「ガイノイドの姉妹愛美しい……」「ミドリシリーズは姉妹なのか」と納得してその場は解散となった。

 

「じゃあ、行こっか」

 

「ああ。それにしてもミドリさん、耳のアンテナつけてないんだな」

 

 今のミドリさんの格好は、テンガロンハットに西部劇の保安官のような格好だ。でも、スペースオペラ系ゲームの登場人物なんだよな。

 

「これ? キャシーは人間だからね! 本格的にコスプレするなら外さないと」

 

「アンドロイドはアンテナ外したがらないと思っていたよ」

 

「私は役者の仕事をすることが多いから、気にはしていないかなー」

 

 そんな会話を交わしながら、俺達はインディーズゲームの区画へと戻っていく。

 芸能人のミドリさんが登場して、驚く売り子さん達が続出。耳アンテナを外していても、芸能人オーラは隠せないらしい。ちなみに俺とヒスイさんは同じ顔だが、ミドリさんは少し顔パターンが違う。

 そうして俺達は開催時間の終わりが来るまで、あちこちで様々なリアクションを取られつついろんなブースを見て回るのだった。

 

 初めてのインディーズイベントへの参加だが、俺は心行くまで楽しむことができた。

 あとは、手に入れたゲームが配信に使えるかどうかだが……。ヒスイさんの厳しいチェックを通るゲームは、いったいどれだけ出るだろうか。

 

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