21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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74.雑談回

 8月のある日、俺は暇を持てあましたので告知もなく突発にライブ配信を始めた。

 

「どうもー、21世紀おじさん少女だよー。今日はゲームやらずに雑談するよ!」

 

『わこつ』『わこっこ』『告知もせず配信とな』『気づけてよかった……』『あれ、今日はアバターで接続できるのか』

 

 俺が今いるのは、SCホームの日本家屋内に作った宴会場だ。旅館の大広間のような作りをしている。果てはなく、何万人でも収容できるように作ってある。

 そこへ視聴者がVRのアバターでログインできるように今回は配信の設定をいじってある。

 早速、配信開始を知って接続した視聴者のアバターが、宴会場に入ってくる。

 突発配信なので、直接アバターで接続しない、配信画面で見るだけの視聴者の方が圧倒的に多いみたいだけれども。そういう視聴者は、猫の姿でこちらからは見えるようになっている。

 

『ところでヒスイさんは?』『あれ、そういえばおらんやん』『ヒスイさんの前口上もセットで聞かないと落ち着かん』『どうしたの? 愛想尽かされた?』

 

「いやー、実はヒスイさんに黙って配信始めたんだよね。だから広報担当による告知もなし」

 

 はい、行き当たりばったりです。まあ雑談しかしないしいいよね。

 と、思ったら、ヒスイさんがイノウエさんをともなってログインしてきた。

 

 ヒスイさんは俺と視聴者達のアバターを見て一つ溜息をつき、そして言った。

 

「遅れましてすみません。助手のヒスイです」

 

『ヒスイさん謝らなくてもええよ』『悪いのはこの銀髪メスガキおじさんだから』『ヨシちゃん早く謝って!』『カメラに映るチャンスを逃してヒスイはご立腹だぞ!』

 

 ええ、俺が悪いのか。……いや、俺が悪いな。

 

「もうしわけありませんでしたー!」

 

 腰を90度曲げて頭を下げた。

 対するヒスイさんは、困惑した声で言葉を返してくる。

 

「あの、いえ。怒っていませんよ。すぐに気づけましたし」

 

「あ、そう。じゃあお前ら、雑談はじめるぞー!」

 

『わあい』『つーても前の夏祭りでも、散々ヨシちゃんの雑談トーク聞けたけどな』『でも今は視聴者の接続数少ないから、自分のコメントが読み上げられるチャンス!』『早速読み上げられているじゃん』『おめでとう!』

 

 さて、雑談だ。一方的に俺が日頃の思いを熱く語ってもいいのだが、せっかくなので視聴者に話題を振ってもらおう。

 

「じゃあ、視聴者のみんな、俺に聞きたいこととかある?」

 

 俺がそう言うと、すぐさま視聴者が反応し、抽出コメントが読み上げられる。

 

『あるあるめっちゃある』『誕生日は?』『スリーサイズは?』『好きな異性のタイプは?』『パンツ何色はいてる?』

 

「セクハラ親父かお前は! あー、誕生日は9月8日だ。芋煮会の季節だな。誕生日パーティーとして芋煮会が開けないか計画しているぞ」

 

 できれば河原でやりたいんだが、自然の中に出て何かするってすごくハードルが高いんだよな。上手く話がまとまってくれるといいんだが。

 で、他の質問だ。

 

「スリーサイズはヒスイさんの旧ボディのままいじってないから、ミドリシリーズのデフォルト体形のままだな。ヒスイさん、自分の外見に興味ない人だからデフォルトなんだ……」

 

『がっつり見た目いじってええんでない?』『季節ごとに外観変えるとか』『胸でかくしようぜ!』『ヨシちゃんの配信には巨乳が足りない』『ミズキさんが唯一のボーナスタイム』

 

 うーん、胸か。

 

「胸ネタはなぁ……後を引くんだよな。胸パッドだの貧乳だので、ひたすらいじられ続けていたキャラクターを何人も21世紀で見てきた。なので、触れるべからずだ!」

 

 俺がそう言うと、視聴者達は『残念』と返してきた。まあ、視聴者達も別にエロ目的で言っているわけではないだろう。うちは健全ゲーム配信だからな。エロ目的ならそもそも視聴するはずがないのだ。

 

「ちなみに好きな異性のタイプは、守ってあげたくなるような子だな。女の子だぞ。今はあんまり異性に対する欲求が湧き出てこないんだが」

 

「ヨシムネ様は女性ボディのまま男性としての性的欲求が出てしまわないよう、行政区によって発情関連にロックがかけられていますよ。日常生活に異常をきたさないようにとの処置です。このロックは、男性ボディに魂を移した際に解除されます」

 

 ヒスイさんから語られる驚愕の真実! って、この話確か前に聞いたことある気がするな。

 

「俺の男性ボディ、ホムくんが使っているやん……」

 

 不便はしていないので、男ボディに戻りたいとは最近あまり思っていないのだが。

 

『守ってあげたくなるような子……』『アーキナーちゃんじゃん』『つまり妹系』『300人弱の姉がいるのに、好きなのは妹系とかなにこの……』『環境と性嗜好の不一致』

 

「妹系……確かに言われてみれば妹系が好きなのかもなぁ」

 

「誠に遺憾です」

 

 何言ってんのヒスイさん……。

 

「まあでも、ゲームの妹系キャラを好きって感じたことはそんなにないな。21世紀で一時期、二次元キャラクターに対して『俺の嫁』って主張することが流行ったんだが、俺は二次元キャラに対して、嫁にしたいとか思ったことはない。結婚システムが実装されているゲームで、結婚しないこともよくあるし」

 

『ええっ、ゲームキャラを嫁にしないの?』『サービス終了するMMOからNPCを譲り受けて嫁にしている人結構いるぞ』『私、MMOでNPCと結婚してる……』『なんならリアルでAIと子作りして子供を授かったりするぞ』

 

 うーん、600年分の壮大なジェネレーションギャップよ。

 って、ちょっと待て。

 

「AIと子作りってどうすんの……?」

 

 俺の疑問に、ヒスイさんが答えてくれる。

 

「AIの外見的特徴を持つ人工精子や人工卵子を作り、場合によっては人工子宮で子供を作ります。人工子宮付きの妊娠機能がついたガイノイドは値段が高いので、試験管ベイビーのことも多いです」

 

 うーん、相変わらずSFしているな。

 

「でもそこまでして子供を作っても、生まれた子供は養育施設に預けちゃうんだよな?」

 

「そうですね。子育てはそこらの仕事よりもずっと重労働となるので、現代人の多くはその環境に耐えられません」

 

「子育てロボットを買うとかしないもんかね」

 

「ヨシムネ様が思っているよりもずっと、現代人のお金の使い方は刹那的で、貯蓄をなかなかしません」

 

 江戸っ子かよ!

 あー、でも、もしかすると……。

 

「自分で働いて手に入れたお金じゃないから、執着がないのかもな。クレジットは勝手に毎月入ってくるから、大事に貯めるという考えがない」

 

「そうかもしれませんね」

 

「別に、貯めないから悪いとかじゃないけどな」

 

『しかし、クレジット貯めて死後アンドロイドにソウルインストールするのは憧れるぞ』『でもゲームにつぎ込んじゃう……』『毎月欲しいアイテムが多すぎて……』『一年間クレジット貯めて作ったのはMMOでの戦艦でした』

 

 まあ、ゲームに使いすぎて生活苦とかなっていたりしないならいいけどな。

 

「でも、今の時代のゲームってガチャがあるわけでもないのに、みんなよくクレジット使い切れるな」

 

『ガチャ?』『ガチャってなんぞ?』『聞いたことない』『21世紀用語?』

 

 あー、ガチャが通じないのか。どう説明したものかな。

 

「こちらがガチャになります」

 

 ヒスイさんが宴会場の畳の上に、見覚えのあるガチャガチャの機材を呼び出した。用意周到だな。

 

「この機材にクレジット、そうですね、今回はこのお金代わりのコインを投入します」

 

 ガチャガチャの機材にコインを投入。そして、回転レバーを回し始める。ガチャガチャと音が鳴る。

 

「このときに鳴る音が、ガチャという言葉の語源ですね。さて、回し終わると、このようにカプセルが中から出てきます」

 

 ガチャガチャの機材から丸いカプセルがポトリと落ち、ヒスイさんはそれを手に取り中を開けた。

 中に入っていたのは、剣の形をしたキーホルダーだ。

 

「おめでとうございます。あなたはレア度レジェンダリィのエクスカリバーを手に入れました。……とこのようにゲーム内アイテムなどをランダムで入手する仕組みが、ガチャです。レア度の等級ごとに入手確率が決まっていまして、要するにクジ引きです」

 

『クジ引きかー』『運でアイテム入手……辛くない?』『欲しいアイテム手に入るまでずっとクジ引く羽目になるぞ』『何それ怖い』

 

 視聴者達が、ガチャの恐怖におののいている。

 

「俺がいた2020年だと、ネトゲじゃ大抵ガチャが存在していたな。MMOもMOもソーシャルゲームも、中にはコンシューマーのオフラインゲームでもだな」

 

 俺がそう言うと、さらに視聴者達がざわついた。

 さらに俺は言葉を続けた。

 

「ガチャはとにかくプレイヤーから出ていくお金が多いから、ゲーム会社が儲かってゲームのサービスが長く続くわけだ。そして、プレイヤーも最高レアを引いた瞬間は快感がすごいから、ガチャにはまる」

 

「現代のゲーム会社は行政区の傘下にあり、市民達の需要を満たすためにあらゆるジャンルのゲームを揃えることを重要視していますから、そのような手法で売上を上げる必要がありませんね」

 

 ヒスイさんの説明に、なるほどと納得する。

 

「クレジットっていうのは、市民の生活を成り立たせるためのただの数字なんだろうな。21世紀とはお金の概念がいろいろ違いそうだ」

 

 俺がそう言うと、ヒスイさんも話に乗ってくる。

 

「機械があらゆる生産活動を行なっていますので、正直なところクレジットという概念が無くても人類は何不自由なく生きていけます。今もクレジットが存在しているのは、市民達が際限なく浪費をしないよう制限をつけているだけと思ってもよいでしょう。資源も一応は有限ですし」

 

 なるほどなー。それっぽいこと言ってはみたものの、オラ農民だから未来経済に関しては詳しく解らねえだ。

 

『クレジットの上限があるから、毎月どこまでアイテム買って運用するか頭を使っている感じがある』『ゲーム内アイテムより身体のサイボーグ化にクレジット使った方が、ゲームの反応よくなるぞ』『SCマシンも配給品じゃなくてアップグレードした方が快適』『俺はやっぱり嫁AI用のガイノイド購入に充てたいわ』『ソウルサーバに入れば気楽だぞう』『えー、リアルで活動できなくなるのはちょっとなあ』

 

 視聴者にもいろいろだな。

 

「さて、次の話題、何かあるかな?」

 

 小難しい経済の話になる前に、俺は話題を変えた。

 すると、視聴者のコメントがすぐに返ってくる。

 

『何か21世紀トークして』『ソウルコネクト以外のゲーム配信しないの?』『21世紀のゲームについて知りたい』『ヨシちゃんによるレトロゲーム配信期待』

 

 ふむ、まずは二番目の話題から拾うか。

 

「ソウルコネクトじゃない非VRゲームは個人的にプレイしているが、配信はあまりやる気がないな。スポンサーがいるから、できるだけミドリシリーズの外見でゲームをプレイしたいって思っている」

 

 まあ、21世紀のバーチャルユーチューバーみたいに、ゲームを背景にして手前に俺のバストアップを表示して表情でリアクションを取るとかの形式もありといえばありなんだけど。

 

『ヨシちゃんスポンサーへの配慮とかしてたんか……』『その割には全然宣伝せんな』『存在しているだけでニホンタナカインダストリのガイノイドの宣伝にはなっている』『なおアオシリーズの宣伝はしていない模様』『ミドリちゃんさんが配信に出たなら、セイ様も出ていいんじゃない?』

 

「セイ様って誰?」

 

「業務用アンドロイドのアオシリーズの一号機ですね。青と書いてセイと読みます」

 

「あー、そういえばアオシリーズなんてあったな……」

 

「ミドリシリーズより歴史は古いのですけれどね」

 

 そうだったのか。全く関わりがないから知らなかった。

 で、次の話題だ。21世紀トークだったな。

 

「それじゃあ、21世紀のMMOトークでもしようか。本当にあったMMO面白事件。『血のバレンタイン』」

 

 物騒なタイトルに、視聴者コメントがざわりとなる。

 その反応に、俺は満足して概要を話し始めた。

 

 とあるMMORPGでは、非PvPエリアと軍に入って戦うPvPエリアがはっきりと分かれていて、プレイヤー層もほぼ分かれていた。

 非PvPエリアの住民はPvPエリアにはまず寄りつかず、お互いに隔たりがあった。

 そんな状況を打開しようと思ったのか、運営があるイベントを開催した。

 非PvPエリアの住民の手でバレンタインのチョコを作り、PvPエリアの軍人さんに愛を届けてあげようという内容だ。

 

 イベントには多数の非PvPエリアの住民が集まり、GM(ゲームマスター)の誘導でチョコレートの材料を持ってPvPエリアに踏み込んだ。

 そこで始まる二つのエリアの交流……ということはなく、PvPエリアの軍人達による一方的な住民の虐殺が開始されたのだった。

 突然の暴挙に、非PvPエリアの住民達の心は深く傷ついた。

 

 なぜこのような行為が行なわれたのか……黒幕はゲーム運営側の人間。GMだ。

 GMはPvPエリアの軍人達をそそのかし、非PvPエリアの住民を攻撃するよう誘導したのだ。

 

「なぜGMがこんなことをしでかしたのかは判断がつきかねるが……非PvPエリアの住民にPvPをさせたかったというなら無茶な話だっただろうな。PvPが嫌いな人はとにかく嫌いだから」

 

『21世紀のMMOもいろいろあるんだなぁ』『一方的な虐殺とか21世紀のレトロなグラフィックでよかった……』『今のグラフィックだったら大惨事すぎるわ』『いや、昔のゲームの方が血とか出てグロかったりするぞ』

 

 そういえば、この時代のVRゲームはあまりグロい物を見かけないな。ゲームとリアルを混同しないようにとかの配慮なのかね。

 ああ、血といえばもう一つ面白事件があったな。

 

「本当にあったMMO面白事件その2ー。『汚れた血事件』」

 

 またもや物騒なタイトルに、視聴者コメントがまたもやざわつく。

 うむうむ、リアクションがしっかりしていてよろしい。

 

 とあるMMORPGのとあるレイドボスは『汚れた血』というスキルを持っていた。

 これは、数秒の間ダメージを受け続けるという症状を与えるスキルで、しかもこの症状は他者に感染するという特性を持っていた。

 だが、これはレイドボスのいるダンジョン専用のスキル。ダンジョンを出ると効果が消えるようになっていた。

 

 しかしある日、召喚獣を経由してこの症状がダンジョンの外に持ち出されてしまう。

 感染性の症状なので、プレイヤーの密集する町中で瞬時に症状が伝播。パンデミックが引き起こされてしまう。

 レイドボスの持つスキルなので、症状で受けるダメージは初心者プレイヤーにとっては即死級。

 死ぬ→復活する→また感染する→死ぬのループが起こり、町中にプレイヤーの死骸が溢れかえる事態となった。

 

「パンデミックがいかに恐ろしいかをゲームで学べる面白事件ってわけだね。ちなみに運営がサーバを停止するまでパンデミックは止まらなかったとさ」

 

『バグの類なんだろうが怖いなぁ』『ひえっ、検索したら死体の山がグロい』『狭いスペースコロニーに住んでいると、パンデミックって他人事じゃないんだよなぁ』『やっぱり部屋から出ないのが一番だな!』

 

 なんでこの事件聞いて結論が引きこもり宣言になるかな!?

 まあ、パンデミックなんて人一人のできることなんて限られているだろうが。

 あれ、でも感染を拡大しないためには、引きこもって他者と接触しないことは正しいことなのか。うーむ、奥が深い。

 

 そんなことで感心しながら、俺は他にも面白事件を紹介。

 宇宙を舞台にしたMMOで大戦争が勃発して、30万ドル相当のゲーム内資産が一日で溶けた事例などを挙げた。

 

『それは結構俺達にも馴染みがある』『クレジットで直接キャラを強くはできないけれど、クレジットは資源になる』『城建てる土地の所有権とかだいたいクレジット支払いだしな』『見ろよこのクレジット資材で作った戦艦を!』

 

「実質札束で殴り合うゲームとか、21世紀の俺が最後にいた時期より10年くらい前にあったな。さっき言ったガチャとの組み合わせなんだけれど、強い武具と強化アイテムをひたすらガチャで集めてPvPする類のMMO」

 

『ガチャ怖え』『クジ引きでそこまで揃えるとかいくら使っているんだ』『お札のお金とか見てみたい』『ヨシちゃん家ごと次元の狭間に放り込まれたっていうし、お札もサルベージされているんじゃない?』『ヨシちゃん家の発掘品、公開されないかなぁ』

 

 あー、俺の家か。どうなっているんだろうな。

 俺自身、研究者に何か21世紀のこととか聞かれたりすると思っていたのに、そういう気配全然ないし。

 

 研究者のインタビューとかどうなのとヒスイさんに聞いてみたのだが……。

 

「こうやって配信中に自然と21世紀のことをこぼしていけば、それが貴重な証言資料となりますよ」

 

 どうやら今までのままでいいらしい。

 それならいいやと、俺は視聴者との雑談を続けるのであった。

 

 そして結局、雑談は三時間ほど続き、夕食の時間が近づいたので終了となった。

 ゲームをやらなくても、結構時間を潰せるんだなぁ。

 

 ゲーム配信だけじゃ伝わらない俺の事情とかもあるかもしれないし、たまにならまた雑談回をやってもいいかもしれないな。

 


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