21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信! 作:Leni
『初級の森林+1』のボス、オークを倒しドロップアイテムの枝肉と討伐報酬の鉄の盾+2を確保。このゲームのオークは豚系モンスターなんだなと思いながら、雑貨屋に凱旋する。
店舗の中では、未だにケット・シー族が商品棚を眺めていた。
「おかえりなさいませ。順調に商品は売れております。こちら、売上金です」
ヒスイさんが迎えてくれ、売上明細の画面をこちらに表示してくる。
ふーむ、ポーションの売れ行きがいいな。補充しておかないと。
「しかし、売上金は何に使えばいいんだろう」
経営シミュレーションといえば、支店の追加などがあるが、このゲームはそういうのではないし。
「魔法大工に頼んで店舗を増築したり、調合室のアップグレードを行なったり、他商会から商品を購入して調合の素材にしたりですね」
「ほーん。魔法大工に商会ね」
「どちらもこの村に居ませんけどね」
「駄目じゃん! 今は貯めていろってことか」
『いや、その話ちょっと待ってくれないか?』
と、俺とヒスイさんの会話に、客が横から混ざってくる。
それは、ケット・シー族ではなく、普通の人間、ヒューマン族の青年だった。
『なんじゃ、村長。なんぞ用事か?』
猫のメケポンがその青年に向けて言った。なるほど、村長。
『ああ。聞くところによると、ダンジョンが拡張されたらしいね』
「そうだな。『初級の草原』と『初級の森林+1』だ」
『そうか。森林ダンジョンが復活したのか。実は、村に伝わる資料によると、ここの森林ダンジョンにはかつてビッグスパイダーが出現していたらしい』
「出たな。テストプレイで倒してきたぞ」
『そうか! いたか! それなら、お願いがある。この店で冒険者からビッグスパイダーのスパイダーシルクを買い取り、村に卸してくれないか?』
「ん? これか? スパイダーシルク」
俺はビッグスパイダーのドロップアイテムとして手に入れた、綺麗な糸束をアイテムボックスの中から取りだして、村長に見せた。
『それだ! 実はこの村では昔、スパイダーシルクの絹織物を作っていたんだ。各家庭には今も古い魔法機織り機が眠っているらしい。そこで、村人の副業として機織りをさせたいんだ。何もない寂れた村の名産品になるかもしれない!』
「そっかー。なあメケポン、受けてよさそうか?」
『そうじゃな。できた絹織物を安価でこの店にも売ってくれるなら受けてもいいのじゃ。スパイダーシルクの織物は、魔法使い用のローブのよい材料になるのじゃ』
『最高級絹織物を冒険者のローブにだって……』
『等級の高い冒険者は、貴族のドレスなどより高級な装備を身につけるのじゃぞ』
「ふーん。まあ、いいんじゃね。商談成立ってことで。じゃ、俺は女神に森林エリアの開放をしてもらいにいくよ」
『ああ、ダンジョンの女神様が居るというのは本当なのかい? それなら、村長として挨拶しておかないと……』
「ええよー」
そういうわけで、テストプレイの終わった『初級の森林+1』は無事冒険者達に開放された。
スパイダーシルクを買い取ると告知したら、ケット・シー達は目を輝かせてダンジョンに向かった。
『うんうん、順調にダンジョンに人が集まっていますね。次の拡張もできますよ』
女神メケリンが、さらなるダンジョンの追加を提案してくる。
俺はそれを了承し、『初級の湖畔+2』が設置され、そこもテストプレイを終えると続けざまに『初級の洞窟+3』が設置された。
テストプレイに商品製作と、慌ただしいプレイが続く。商品は革鎧とポーションが売れ筋だ。
初級+3のエリアに行けるようになったのに今更『初級の草原』に籠もってなどいられないため、グラスウルフの毛皮といやし草は冒険者から買い取っている。
生産レベルが上がり革鎧+1や小ポーション+1を作れるようになったため、お値段据え置きでそれを置いたところさらに売れるようになった。
さらに、『初級の洞窟+3』から良質の鉄鉱石が採掘できることを冒険者が発見したため、そちらも買い取り、鉄の剣や鉄の鎧を売り出したところ、これも飛ぶように売れた。だが、武器防具は需要の限りがある。ポーションなどの消耗品でも稼げるよう、商品開発を頑張らなければならないだろう。
そんなわけでプレイ時間が四時間を超え、今日の配信はここまでにすることにした。
「ヒスイさんの事前チェックを通過しただけあって、面白いゲームだな。明日もまた続きをやっていくぞ!」
『次は中級ダンジョンかねー』『初級はモンスターが温いな』『確かに、ヨシちゃんの素の強さに敵が追いつけてない感じですね』『ヨシちゃんガンナーの動きじゃねえからな……』
「遠距離攻撃してきたのは洞窟エリアのゴブリンシャーマンとゴブリンアーチャーくらいだから、近接武器と同じ立ち回りができるんだよなー。それでは、また明日! 21世紀おじさん少女でした!」
「助手のヒスイでした」
インディーズゲームだからか、配信用の口上にNPCが勝手に乗ってくることはなかった。
◆◇◆◇◆
翌日。配信準備をしていると、ヒスイさんからこんなことを告げられた。
「『ダンジョン前の雑貨屋さん』の制作者からお礼のメッセージが届いています。なんでも、昨日の配信の後、製作ゲームが過去作含め爆発的に売れたのだとか」
「へえ。俺達はインケットで入手したけど、インディーズゲーム販売サービスにも登録していたってことかな」
「そのようですね」
「しかし、爆発的に売れたか。俺達の影響力も強くなってきたってことかな?」
「そうだといいですね」
そんな会話をした後に、ライブ配信を開始。ゲームの続きから始める。
「さあ、今日も一日頑張るぞい。初級ダンジョンは全て拡張したが、次はどうなるんだろうな」
「イベント発生待ちですね。条件はすでに満たしてあると思われます」
「そっかそっか。じゃあ、店舗で商品が売れるのを眺めてイベント待ちしようか」
店のカウンターにヒスイさんと二人並んで、ケット・シー族のお客さんを眺める。
「今朝このゲームの制作者さんからメッセージが届いたんだが、配信の影響でゲームが爆発的に売れたらしいぞ」
と、ヒスイさんが商品を売るのを横目で見ながら、視聴者に向けて先ほどの話題を振った。
『買っちった』『俺も買ったわ』『安かった』『インディーズゲームは安いの多いからいいよね』『本当にありがとうございます!』『うーん、まだ買うかは決まらないな』『犬が出るなら考える』
「犬派はもう諦めろよ……」
と、そのとき店に見慣れない客がやってきた。直立歩行する犬である。
「マジか。犬が来たぞ」
『きたあああ!』『クー・シー族か?』『わんわんお!』『歩く犬より普通の犬がいいなぁ……』『実は狼男で、犬と呼ぶと怒られるとか定番』
その狼かもしれない歩く犬が、こちらに近づいてくる。よく見ると、隣にケット・シー族の上級冒険者であるハニーがいるな。
二人はカウンター前で立ち止まり、まずハニーが口を開いた。
『にゃあ。店主、ちょっと相談があるんだ』
店主……。俺って店主なのか? そういえばゲーム説明の時にヒスイさんが店主って言っていた気がする。
俺は店主としてハニーに応対する。
「おう、そっちの人に関してか」
『にゃあ。その通り。こちらは、コボルド族のオスカー。冒険者クラン『するどき指先団』の団長さんだよ』
『ばう。オスカーだ』
おう。妖精のクー・シーじゃなくてコボルドか。コボルドってモンスターのイメージがあったな。このゲームだと、ゴブリンとオークもモンスターだし。
しかし、この未来の時代でもオークが豚扱いだったり、コボルドが犬扱いだったりといった、本来の姿からずれた解釈が残っているんだな。
『にゃあ。コボルド族は冶金技術にすぐれた種族だということを店主は知っているかな?』
「あー、そういう話もあるな。なんかコバルトとかいう金属を作るとか」
『にゃあ。そこまで知っているなら話が早いね! 『するどき指先団』は、冒険者業の他に優れた冶金技術を使った金属製錬も生業にしていて、自分達で自由に使える鉱脈を探しているんだ。『初級の洞窟+3』には鉱脈があるよね? だからこの村を拠点にして、ダンジョンで鉱石を集めたいんだって』
『ばう。頼む』
「んー、話が見えないな。俺に何か頼みたいのか?」
『にゃあ。村に拠点を作るから、ダンジョンに入りびたる許可がほしいみたいだよ』
「ん? ダンジョンに入る許可をなんで俺に取る?」
『にゃあ。だって、ここは女神様のダンジョンじゃないか。冒険者業と関係ないのに、無許可で営利目的にダンジョンを利用するわけにはいかないよ』
『ばう。恐れ多い』
「あー、女神様に用事ね。呼んでこようか?」
『にゃあ。それこそ恐れ多いよ。巫女様である店主から話を通してほしい』
「巫女じゃねえよ家主だよ。まあ、話はしておくが……」
『ばう。頼む』
うーん、しかしこのコボルド、あんましゃべらないな。渋いバリトンボイスだし、寡黙なハードボイルドキャラなのかね。ただの犬顔にしか見えんが。
そんなことをつらつらと考えながら俺はバックヤードに移動し、女神にコボルド族の話をした。
『占拠して他の冒険者を追い出すとかさえしなければ、ダンジョンでの行動は自由ですよ』
「つまり許可すると」
『許可も何も、ダンジョンは誰の物でもないんですけどね』
「あんたの物じゃないのか?」
『違いますよ? 私はダンジョンを好き勝手いじれますけど、別に管理者でも管理神でもないです。だって、管理って面倒臭いでしょう』
「そうか。おっけー伝えとく」
『うふふ、コボルド族の集団ですか。これなら、ダンジョンのさらなる活性化が期待できますね……』
ダンジョンに訪れる人が増えると、ダンジョンが活性化して拡張しやすくなるらしい。次なるダンジョンの設置の時も近いかな?
俺は店舗に戻り、コボルドのオスカーとケット・シーのハニーに女神の言葉を伝えた。その後、店にコボルドが出入りするようになり、コボルドの冒険者相手にまた武器防具が売れるようになった。
話にあった通りコボルドは自前で鉄鉱石を上質なインゴットにできるようで、ヒスイさんがそれを買い取ると言いだした。確かに、いちいち洞窟ダンジョンに行ってツルハシで採掘して、それを製錬するのも大変だ。なので、インゴットを買い取りそれを武具に変え販売することにした。インゴットの質がいいので、作成される鉄の武具の性能も上がった。
『我が家主! 中級ダンジョン拡張の時が来ましたよ!』
店に鉄の剣を並べていると、女神がやってきてそんなことを言いだした。ようやくか。
目の前に、ダンジョン選択画面が広がる。
『中級ダンジョンは最終的に四箇所まで拡張できます。ですが、選択できる種類は八つ! よく考えて選んでくださいね!』
「ほう。なかなかのラインナップじゃないか。インディーズゲーム侮りがたしだな」
選べるエリアは、火山、砂漠、雪原、湿原、海岸、樹海、遺跡、廃坑。
「ヒスイさん、またヒントプリーズ」
「選択画面に訪問種族という項目が追加されているはずです。選ぶエリアによって、村にやってくる種族が変わります。その種族によって、店の客層が変わり、売れる商品に変化が起きますね」
「なるほどなー。種族かぁ」
『ガチケモじゃなくて獣耳の獣人を!』『エルフ! エルフ!』『樹海がエルフかなぁ』『廃坑はドワーフが来そうだな』『酒が売れそう』『でもドワーフ来たら鍛冶屋ができて、武具が売れにくくなりそうじゃない?』『鍛冶屋ができても武器屋がなければ、この店で仕入れて売ることもできそうだぞ』
へえ、鍛冶屋かぁ。
俺は、廃坑を選択して詳細を見てみる。
「おっ、確かに訪問種族にドワーフがいるな」
『廃坑ですか? お目が高いですね。廃坑と言っても鉱脈が枯れているわけではないので、初級ダンジョンである洞窟よりも質が良く、種類も豊富な鉱石が採掘できますよ』
女神が笑顔で廃坑の説明をしてくれた。
「じゃ、廃坑で」
『了解です! はいっ、『中級の廃坑』できました! テストプレイお願いしますね!』
そうして我が村に中級ダンジョンが誕生。テストプレイも無事に終え、コボルドの中級冒険者が入り浸って様々なインゴットを製錬するようになった。さらにその噂を聞きつけて、村にドワーフが訪れるようになる。
その対応に追われるのは、村長の青年だった。
『ドワーフが多数訪れるとあって、村の酒蔵を拡張する必要が出てきた。村に定住したいという人も増えたので、魔法大工を村に招くことになったよ』
「へえ、魔法大工か」
ちなみに酒は『初級の森林+1』で採取した果物を原材料に俺が自前で醸造して、店頭に並べてある。なかなかの売れ行きだ。村に酒蔵があることは知らなかった。
『魔法大工に仕事を依頼すれば、この店も改築してもらえるはずだ。客も増えて手狭だろう?』
「よっし、店舗拡張要素が解放か! 稼いだ資金がうなるぜ!」
『いろいろできることが多くて、ボリュームあるゲームだよね』『インディーズゲームとか普段やらないけど奥が深いんだなぁ』『こりゃ今日もまた売れますわ』『戦闘が銃オンリーなのはちょっと残念だけどね』『戦闘コンセプトがはっきりしていて好きよ』
銃オンリーなのは俺は逆に助かったけどな。不慣れな銃という武器を、このゲームでだいぶ練習できたからな。
中級ダンジョンでもまだ戦闘は温めだと感じるけど。
ともあれ、俺は魔法大工に仕事を頼み、店舗の拡張を行なうことにした。
結構がっつり資金が持っていかれたな……。まあその辺はゲームバランスを上手く取っているのだろう。
『ヨシムネ、調合室のアップグレードも忘れるでないぞ。作れる商品が増えるでな』
「あー、そこまでの資金はないな。また稼がないと」
「ダンジョンの拡張がさらにできるようですし、訪問種族を増やして売上を伸ばしましょう」
そういうわけで、この日の配信は『中級の樹海+1』を開放して、エルフの訪問客を増やしたところで終わった。ちなみにエルフとドワーフの仲は特に悪くはなかった。種族対立、ちょっと期待していたんだけどな。