21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信! 作:Leni
『ダンジョン前の雑貨屋さん』配信四日目。リザードマン族が要求する公共施設はプールだったため、酒場と博物館を後に回して先にプールを建設した。水着を着て水泳タイムである。男性視聴者に媚びていくスタイル。
まあ、俺の配信をそういった色欲方面に期待して見ている人は、ほとんどいないと思うのだけどな。
エロ配信はエロ配信でやっている人居るし。
実際のところは、ただ単に泳ぎたい気分だっただけだ。夏だからな。
以前、対ミズチ戦用に特訓したおかげで、水泳は得意になったし。
しかし、リザードマンは湿原を好み、プールを要求してきたということは、彼らはトカゲじゃなくてイモリが元になっているんだろうか。
そういうわけで再び散財してしまったわけだけれど、新たな種族リザードマンの冒険者が多数訪れるようになったわけで、これは商機である。
リザードマン族は水辺に住み、水泳を得意とするため、金属の鎧は好まない。金属が多数産出される廃坑と合わないが、こちらには樹海のダンジョンもある。樹海には、大型の肉食獣モンスターが出没し、そこから上質の革が作れるのだ。
なので、俺は『中級の樹海+1』にこもるエルフ族から毛皮を買い取りし、上質の革鎧に加工してリザードマン族相手に売りまくった。
順調に資金が回復していく。酒場の開設も近いだろう。博物館? うん、最後でいいよね……。
さあ、販売はヒスイさんがやってくれるので、ひたすら商品作成だ!
『我が家主。とうとう上級ダンジョン拡張の時が来ましたよ』
と、意気込んだところで女神がそう告げてきた。
「って、マジか。上級来ちゃうか」
『このダンジョンの現在の容量的に、設置できる上級ダンジョンは一つ。選べるエリアも一つです』
「選択肢がないのか。そうかー」
俺がちょっと残念がっていると、猫のメケポンが俺の足元に近づいてきた。
『うむ。ここのダンジョンは、かつて上級が一つ、中級が四つ、初級が四つ、初心者用が一つの大規模ダンジョンだったのじゃ』
『これはなかなかの大きさですよ。この周辺地域ではここだけでしょう。村の繁栄は約束されたようなものですね』
「ふむふむ。で、拡張できる上級ダンジョンは、どんなエリアだ?」
俺がそう訪ねると、女神は『ふふーん』と得意げになり、高らかに告げた。
『設置するのは、『上級の戦場跡』です!』
「なるほど、戦場跡」
『そうです。アンデッドが多数出現するダンジョンですね。聖属性攻撃が有効なので、準備を怠らなければ攻略も難しくない、よい場所です!』
『む、ちょっと待ってほしいのじゃ。おかしい。ここの上級ダンジョンは、『上級の城塞』だったはずなのじゃ』
『えー、でもここの性質的に、戦場跡以外にはなりませんよ?』
『むむむ』
『ふむむ。でも、ダンジョンの精霊が、ダンジョンに関して嘘を言うとは思えませんね。我が家主、これはテストプレイで怪しいところがないか、要調査ですよ!』
「なるほど了解」
『儂もダンジョンについていくのじゃ』
そういうわけで、『上級の戦場跡』に向かうことになった。聖属性攻撃は特に使えないが、なんとかなるだろう、多分。
いや、アンデッドに有効な聖銀の鉱石は『中級の廃坑』で産出されているんだ。でもな。俺の武器は魔法銃から変更できないから、聖銀の剣とか作っても装備できないんだよ。
聖銀装備を揃えた冒険者を仲間として連れていけって話なんだろうが……ここまで一人でやってきたから、一人で挑んでみたいな。
「あ、視聴者のみんなはアンデッドとか大丈夫か? ばっちり映るぞ」
『大丈夫』『まあ、ただのモンスターなら』『ホラーゲームみたいに脅かすような出現方法じゃないなら問題ないかな』『MMOじゃアンデッド退治も定番ですしね』
「そっかそっか、じゃあ、行くぞー!」
ポーションをアイテムボックスに多数詰め込み、俺はダンジョンに出発した。
雑貨屋前のダンジョンの扉は、人の出入りが激しく常に開け放たれている。
扉の向こうのエントランスホールには、十個の扉が存在している。その一番右側、唯一閉じられて鍵がかかっている扉の前に、何やら人が集まっていた。
「よっすよっす。みんな集まってどうしたの」
そこにいたのは、ケット・シー族の冒険者達だ。上級冒険者のハニーもいる。
『にゃあ。店主、とうとう上級ダンジョンができたようだね』
「そうだな。そこのプレートに書かれているとおり、『上級の戦場跡』だ。これからテストプレイをして開放をするから、準備を整えていた方がいいぞ」
『にゃあ。テストプレイとやら、一人でやるのかい? 上級ダンジョンだよ? 聖銀の武器もないようだし、その小さな銃で大丈夫?』
「大丈夫だ、問題ない」
そもそも、装備を変更するゲームシステムが存在しない。
『にゃあ。君はダンジョンから脱出するアーティファクトを持っているんだったね。手伝いならいつでもするから、一人で無理そうなら声をかけておくれ』
「ありがとなー」
『ハニーちゃん優しいな』『向こうからPT誘ってきたってことは、難易度高いんじゃないか?』『上級ダンジョンは一つしか設置できないってことは、ラストダンジョンかもしれん』『ラスボスいるのん?』
いやあ、何もイベント挟まずにラスボスはないと思うが。いやでもインディーズだし、そこまで凝ったシナリオは用意していないかもしれない。いやいや、俺は制作者さんを信じる!
というわけで、アイテムボックスから帰還の羽根を取り出して、閉まっていた扉を開けた。
「行ってきまーす!」
そう周りに声をかけて、俺とメケポンは『上級の戦場跡』に足を踏み入れた。
戦場跡は、平地ではなく山であった。山の上に築かれた木造の砦。そこを進んでいく。敵軍の侵入を防ぐために用意されていたであろう柵は、ボロボロになって朽ちかけている。
空は暗雲に包まれ、薄暗い雰囲気が広がっている。足場は悪く、全力疾走などしようものなら簡単に転げてしまいそうだ。
そんな戦場跡に、多数のアンデッドが出現した。
朽ちた武具に身を包んだスケルトンだ。大きな弓で矢を次々とこちらへ射かけてくる。俺はそれをかいくぐり近づこうとするが、相手は弓を捨てると剣を抜き、斬りかかってきた。
「むむむ、これはなかなか……」
剣を避け、強攻撃を叩き込もうとしたところで、別のスケルトンが複数さらに斬りかかってくる。
多勢に無勢なので、慌てて距離を取って連射弾をばらまく。これでは、俺の黄金パターンである、接近、回避からのチャージ弾至近距離射撃が通用しそうにないな。
仕方なしに、俺は遠距離からちまちまとスケルトンの群れを削っていくことにした。
『ヨシちゃんが素直にシューティングゲームをやっている……!』『あのヨシちゃんが銃なんていう文明の利器を!』『よかった、銃をパイルバンカー感覚で使うおじさん少女はいなかったんだ』『ようやく制作者の想定したであろう戦闘になったな』
ええい、攻撃力の高い弾が、遠くからじゃ当てにくいのが悪いんだよ!
そうして俺は遠くから地道に落ち武者スケルトンを倒し、ドロップアイテムに変えた。
死体(そもそも最初から死んでいるが)は光の粒子になって消え、ドロップアイテムが俺の手元に飛んでくる。以前レベルアップで覚えた、ドロップアイテム自動回収のアビリティ効果だ。
どうやら上級ダンジョンの敵と戦うのは問題なさそうだ。
俺は砦となっている山を登っていった。
次々と現れる武装したスケルトンを倒していく。
ドロップアイテムは、死霊の大魔石。それと時折、精霊の武具という年季の入った装備が手に入る。
武具は手に入っても装備できないから、全部店頭販売だな。
そう、この主人公、銃以外の武器を装備できないだけではなく、防具も装備できないのだ。可愛らしいファンタジー風の服を常に身にまとっている。多分、防御力とかの数値で戦闘バランスを取るのが大変だったのだろうな。
『む、ヨシムネ。ゾンビウルフの群れじゃ』
「戦場跡にゾンビウルフ? 腐肉漁りの生きている奴とかじゃなくて?」
十匹ほどの狼が、こちらを囲もうとしてくる。俺は正確に一匹ずつ狙い撃ちして包囲網を崩壊させ、群れを撃退した。
『このゾンビウルフはもしや……むう』
「NPCが思わせぶりなやつー。絶対イベント来るぞ」
『メタメタやね』『まあ最後のダンジョンっぽいしね?』『ラスボスが全く予想できん』『そもそもラスボスなんですかね』
そんな視聴者コメントを聞きつつ、次から次へと襲ってくるゾンビウルフを撃退して山を進む。
すると、とうとう砦の本陣らしき場所に到着した。
「ボスが出そうな雰囲気だなー。お、出た出た」
狼の遠吠えが聞こえてきたと思ったら、地面に不自然に存在していた何かの影から、モンスターが湧き出てきた。
それは、身の丈三メートルはあるワーウルフ。アンデッド化しているのか、毛皮はボロボロになっている。
『こ、こやつは! いかん、ヨシムネ、逃げるのじゃ!』
「へっ?」
メケポンの焦るような声と共に、突如敵の周囲の影が盛り上がり、それが複数の弾丸となってこちらに飛んできた。
「うお、うおおお!?」
弾幕系縦シューティングゲームのような弾丸の群れに俺はさらされる。
避けようがない、あまりにも密な弾幕だ。
「うわ、無理、これ無理!」
どんどんキャラクターの体力が削られていき、一気に危険域に。俺は、ただではやられるかと銃弾を反撃として撃ち込むが、ワーウルフはそれを軽々と避けてみせた。
そして俺は、このゲームで初めて体力全損で帰還の羽根が発動するのを体験した。
『えっ』『ヨシちゃん負けた?』『そんなあっさり』『もしかして負けイベ?』『猫の台詞的にそうかも』『こいつがラスボスかなぁ』
気がつけば、俺はダンジョンのエントランスホールに立っていた。
◆◇◆◇◆
『おかしいですね。ここの『上級の戦場跡』のボスは、リッチになるはずですよ』
ワーウルフのゾンビになすすべもなくやられたということを女神に知らせると、そんな言葉が返ってきた。
「強すぎる神の権能による、思わぬイレギュラーとかいうやつか? 最初にテストプレイする前に、起きるかもしれないって言ってた」
『そうですねー。修正しますね』
女神がくるりと指を回した。
『あれ? おかしいな。えいっ! えいっ! あれえー? 直らないです!』
「む、どうした?」
『うーん、ダンジョンに関係ない何かが、あのエリアに混ざっているみたいです。多分そのボスです』
「直らないのか」
『ダンジョンに関係ない異物なので、私の権能では無理ですね。でも、そのボスを倒して排除してしまえば、直せますよ』
「倒さなきゃいかんのか。そもそもあれ、倒せるのか?」
『む、無理じゃ。あやつは常人では倒せぬのじゃ……』
猫のメケポンが、そんなことを言いだした。こいつ、明らかに何か知っているからな! 早く聞き出してイベントシーンを進めなければ。
「あのワーウルフはなんだ? 知っているのか?」
『あやつは、かつての魔王軍幹部、シャドウビーストなのじゃ……』
「へえ、魔王軍」
『魔王は100年以上前、地上を恐怖で支配していたのじゃ。シャドウビーストは、その魔王から命じられてこの地に派遣され、ダンジョンを占拠してしまったのじゃ。当時の上級ダンジョン、『上級の城塞』はシャドウビーストに支配されておった……』
『ああー、そんなことも昔ありましたねー』
「でも、そいつは倒されたんだろう?」
オープニングのナレーションで、魔王は100年前に倒されたって言っていたはずだ。なら、幹部もついでに倒されていてもおかしくない。
『シャドウビーストには数多くの上級冒険者が挑んだのじゃが、誰も勝てなかった。結局、神々の加護を得た『暁の戦士』の手で倒されるまで、この地に居座り続けたのじゃ』
「へー」
『じゃが、シャドウビーストが倒されたとき、すでに冒険者はこの地を去っておった。その後、活力を失ったダンジョンは、『初心者の一本道』を残して崩壊してしまったのじゃ』
「それが先日までのこのダンジョンってわけか」
『あー、我が戦士は、きっとそのシャドウビーストさんの死体を回収しなかったんですね。それがダンジョン崩壊の時にダンジョンに飲み込まれて、こんなことになっちゃったわけですか。もう、困りますね、ダンジョンへのゴミの投棄は』
「ゴミ扱いかよ。それで、そいつを倒すしか正常に戻す手段はないのか?」
『もしくは、完全に上級ダンジョンを放棄するかですね。神の権能で上級ダンジョンごと消去してしまえば、混ざったゴミは存在ごと消えてなくなります。そうしたら、もうここではしばらく、上級ダンジョンが作れなくなってしまいますけど』
『うぬぬ、上級ダンジョンは惜しいが、あやつには常人ではとても敵わぬ……』
『そうでもないですよ。相手はアンデッドだったんですよね? 対処法はあります』
「聖水でもぶっかけるのか?」
『それに近いですね。聖なる力は神の力。私の神器を我が家主にたくします。それを授けるため、私の本来のお家、『神級の聖域』をこのダンジョンに呼び寄せますよ!』
どうやら、上級のさらに上に、神級という等級が存在するようだった。
『有能神』『たまには役立つなこの妖怪食っちゃ寝』『名脇役』『以前どうやってダンジョンに住んでいたのかと思ったが、専用の領域があるのか』
『あっ、でも、お家があるのは遠くのダンジョンなので、丸ごとお引っ越しは補助に巫女が数名必要です。私一人で呼び寄せようとすると、いったいどれだけかかるか……』
『無能神』『たまには役立てよ妖怪食っちゃ寝』『要介護なの?』『ダンジョンのことぐらいは完璧にこなしてほしかった……』
というわけで、推定ラスボス退治には巫女探しが必要なようだ。
巫女ってどこにいんの? 今いる種族から選定とかできるのかねぇ。