21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信! 作:Leni
『巫女様ですか? おられますよ』
巫女になれる人の心当たりがないかNPCに聞いて回っていると、数人目でそんな返答がきた。
相手は、メヒカ。アマゾネス族が運営する『女傑の食卓商会』の会頭だ。
「会頭は聖職者にも伝手があるのか」
『実はですね、以前ダンジョンの女神様のお世話をしていた巫女の方々を当商会で保護しているのです』
「あー、女神が前に居た国の人か。何かあったのか」
『ダンジョンの聖域への巫女の派遣は国の王族が行なっていたのですが、その国で将軍がクーデターを起こしましてね。軍部にダンジョン資源を利用されないよう、王族は女神様から巫女様を引き離し、わたくしどもに巫女様を託されたのです。その国では女神様と交渉して、ダンジョンから産出する素材を調整してもらっていたのですよ』
「なるほどなー。それが腹ぺこ女神の裏事情か」
お世話係の巫女がいなくなり、飯を求めて他所のダンジョンで行き倒れていたってわけだ。
「で、その巫女ってこの村に呼べるか?」
『ええ、巫女の方々も女神様に合流したいらしく、現在この村に向かっております』
そうかそうか。
じゃあ待ちだな、というわけで俺はダンジョンを放置して店舗経営に力を入れた。
『ラスボス戦なのにレベル上げはいいの?』『負けたら修行パートだな』『別に弱体化を待たなくても挑んでもいいんだよ』『人間の力のみで倒して、『暁の戦士』を超えよう!』
無茶を言いなさる。レベル上げは……まあなんとかなるじゃろ。素材買い取りばっかりやって、あまり一般開放後のダンジョンに行っていない気もするけど。
そうして資金を貯め、三つ目の公共施設である酒場に資金を投資し、即日開設となった。
ドワーフ族だけでなく、村に居る全種族が酒場で酒盛りをしていた。うん、冒険者と言ったら酒場だよな。
俺は冒険者が依頼を受ける場所は、『冒険者ギルド』よりも個人経営の『冒険者の酒場』の方が、雰囲気があって好きだ!
昔、パソコンでとあるフリーゲームがあって、ユーザが自由にシナリオを作成してインターネットで配布できるっていう仕組みだったんだ。ゲーム制作者が提供するのは基本的なシステムとサンプルシナリオ、シナリオ制作ツールのみでね。
そのゲームの舞台が冒険者の酒場で、ハゲのマスターが酒場の壁に依頼書を貼りだして、プレイヤーが用意した冒険者PTにダウンロードしてきたユーザ製の依頼を受けさせるって内容だった。
『プレイヤーがシナリオ作成もできるのはいいね』『無料だから責任とかなしに気軽に作れるだろうしな』『クレジットで出来が保証されていないシナリオやるのは怖いけどな』『有料だからって出来が保証されているわけでもあるまい』
そんな感じで視聴者とやりとりしながら酒場を出て店舗に戻ると、商会の会頭メヒカが俺を訪ねてきていた。隣には、なにやら清楚な感じの服を着た少女を二人連れている。
『どうも、巫女様をお連れしましたよ』
「そりゃどうも。おーい、女神ー。巫女達来たぞー」
俺は、バックヤードに向けてそう叫んで女神を呼んだ。
『あなた! メケリン様にそんな口を……!』
巫女の一人がそう俺に突っかかってきそうになるが、その前に女神がバックヤードから顔を出した。
『はいはーい、呼ばれましたよ。あ、久しぶりですね、我が信徒達』
『女神様!』
『メケリン様……!』
「んじゃ早速、神器とかいうのをちょうだいな」
『ええー。ここは我が信徒との感動の再会シーンがですね……』
「そういうの別にいいから」
今日の配信終了までにシャドウビーストを倒すつもりだからな! 巻いていこう。
『ライブ配信の都合で飛ばされるイベント』『それでいいのかゲーム配信』『制作者さんかわいそう』『まあ、俺はあとでプレイするけどね』『やっぱ買うかー』
そういうわけで、俺と女神と巫女達は、神器を手に入れるためダンジョンへと向かった。
冒険者が多数詰めかけているエントランスホール。そこに女神が姿を現したことで、場がざわめきに包まれた。
うーん、高度有機AI使っていないというのに、NPCの反応凝っているな。
『では、『神級の聖域』の引っ越しをしますよ!』
『ああ、我が国から聖域が失われてしまうのですね』
『仕方ないのです……。あの国は今、女神様がおわすには相応しくありません……』
ふむふむ、聖域は複数箇所で同時に存在できないっぽいのか。他のダンジョンから丸ごと引っ張ってくる感じかな。
『ほらほら、そういうのいいですから、祈って祈って』
『はい!』
『お任せください……!』
女神に急かされた巫女二人がその場でひざまずき、祈りのポーズを取る。すると、巫女達の身体から光のエフェクトが舞い散り始めた。
「おお、演出やろうと思えばやれるんじゃん」
神々しい光景に感心していると、巫女二人に挟まれる形で立っていた女神が、人差し指を立ててくるりと回し、扉のない壁際を指さした。
『へい!』
すると、特になんのエフェクトも演出もなしに、壁に扉が出現した。扉の上のプレートには、『神級の聖域』と書かれている。
「……これ、演出がないゲームとかじゃなくて、女神だけが特別演出が存在しないだけだったのか」
『制作者はどういう意図でそんな設定にしたのか……』『神々しさは似合わないとか?』『無能演出?』『コメディ要素かもしれん』『力を無駄に外へ漏らしていないという設定です……』『何個も演出作り込むのが面倒だから用意した、後付け設定ですけどね』『暴露しないで!?』
また抽出コメントに制作者が混ざっている。しかも今度は、相方のガイノイドの方も混ざっているみたいだ。
おもしれーなこの制作者コンビ。お礼のメッセージを送ってきたりして律儀だし、割と好きだぞ。
『うわー、ヨシちゃんに好きって言われた!』『これは嫉妬』『許すまじ』『俺の方が好きだよ』『は?』『ひいっ!』
今『は?』ってコメントしたの、多分制作者のガイノイドだな……。
『さあ、聖域に行きましょう。散らかっていますけど気にしないで入ってください』
そう言うと女神は帰還の羽根がなければ開かないはずの、羽根の刻印がされた扉を普通に開け、中に入っていった。
巫女二人がそれを追い、俺も扉をくぐる。中が気になるのか、冒険者達が俺の背後から扉の向こうを覗き込もうとしていたが、さすがに後を追ってくることはなかった。
扉の先の聖域は、広い部屋だった。大理石造りの建物内部の空間で、床には赤いカーペットが敷かれている。
だが、そのカーペットの上には、脱ぎ捨てられた服があちらこちらに散らばっていた。
『まあ! 女神様! またこんなに散らかして』
『本当に世話が焼けますね……』
巫女達二人が仕方ないなあといった風に、その光景を眺めていた。
『我が信徒達が勝手に来なくなったのが悪いんですよー。それより、我が家主。これより神器を授けます』
「おう、どんな神器なんだ?」
『我が神器はこの聖域そのものです。聖域を展開できる力を我が家主に貸し与えます。与えるのは限定的な力ですので、ダンジョンの中でしか使えませんし、展開される領域はボスフィールドの広さ程度です』
「おー、つまりあれか……神器を発動! アンデッドは聖なる領域に捕らわれ、力を大きく失う! って感じか?」
『そうそう、そんな感じです。神の力に満ちた聖域の中なら、魔王軍幹部のアンデッド程度なら、上級+4のダンジョンボスくらいの弱さになるでしょう』
「それでも+4もあるのかー……」
『神の力を持たぬ人の身でも倒せる程度ってことですよ? では、神器を授けます。えいっ!』
女神が指先をこちらに突き付けてきた。
『はい、神器を貸し与えました。後は勝てるまで頑張ってください』
その女神の言葉と共に、アビリティが追加された旨のシステムメッセージが流れる。神器『神級の聖域』とある。神器ってもっとこう、形のある物だと思っていたが、アビリティか。
「相変わらずあっさりしてんな……ま、行ってくるよ」
『女神様、その間に聖域を片付けますよ!』
俺は部屋の掃除を始めた巫女達を尻目に、『神級の聖域』を去った。
エントランスホールに戻ると、俺は『上級の戦場跡』の扉へと向かう。すると、扉の前に、二人の冒険者が待ち構えていた。
ケット・シー族の上級冒険者ハニーと、コボルド族の団長オスカーである。
『にゃあ。店主、上級ダンジョンに向かうのかい?』
「ああ、そうだな。シャドウビーストにリベンジだ」
『にゃあ。実は頼みがあるんだ。あちし達もその戦いに連れていってくれないか?』
「うん? 珍しいな。俺に同行したいと言ってきた人は初めてだ」
『にゃあ。あちし達のクランは、魔王軍幹部シャドウビーストとは因縁があるんだ。実は……』
「あー、それ長くなる? 要約してお願い」
『ヨシちゃん……』『せっかくのラストバトルへの盛り上げを無にする姿勢!』『多少配信時間が延びたところで、俺達は付き合うぞー』『ラストバトルっぽいんだから丁寧に行こ?』
む、ちょっと焦りすぎたか。ライブ配信のペース配分はまだ把握し切れていないな。
『にゃあ。我が『まだら尻尾団』と『するどき指先団』は元々『しましま獣耳団』という一つの冒険者クランだったんだ。にゃあ。でも、100年前にシャドウビーストにこのダンジョンで負けて上級冒険者達が死に、クランは解散してしまったんだ』
『ばう。先祖のリベンジ』
「なるほどなー。だからついてきたいと。……別に構わないが、今すぐ出発だぞ」
『にゃあ。準備は整っているよ。聖銀の剣もしっかり用意した!』
『ばう。常在戦場』
おっけー、そういうことなら三人で推定ラスボス戦だ!
俺は、初めて使う編成システムで二人をPTに加えると、扉に帰還の羽根を掲げて『上級の戦場跡』へと突入した。
◆◇◆◇◆
『にゃあ! 店主、フレンドリーファイヤー多いよ! PTメンバーは被弾しないからいいものの……』
「す、すまねえ……」
『ソロでやってきたツケが出たな』『NPC二人とも前衛だから、ヨシちゃん前に出ても邪魔なだけだしな……』『ラスボス戦前に初めて連携の練習をするゲーマーがいるらしい』『そもそもこのゲームで銃の練習をするとか前に言ってなかった?』
ハニーは剣と盾のオーソドックスなスタイル。オスカーは大剣で敵をなぎ倒すスタイル。どちらもバリバリの前衛だった。
前衛に三人だと、狭い山道では動きにくくなってしまう。だから、俺は後ろから援護射撃をするスタイルで行こうと思ったのだが……敵を銃で狙うと二人の背中に銃弾が命中してしまうことが何度もあった。
仲間には攻撃判定がないので、二人を撃ち殺してしまうということはないのだが、撃った弾が無駄になってしまうのは確かだ。
『ばう。ボスまでに慣れる』
「頑張るよ……!」
そうしてぐだぐだなまま俺達は砦の本陣に到着した。練習は不十分だが、ここまできて戻って雑魚狩りしますというわけにはいかないだろう。
なので、俺達は体力、魔力が全回復しているのを確認して、ボスフィールドに突入した。
地面に染みのように広がっている影から、シャドウビーストが浮き上がってくる。
よし、ここでアビリティ発動!
「神器『神級の聖域』展開!」
俺の足元から大理石の床が広がっていき、土で固められた戦場跡を侵食していく。
そして、ボスフィールド全体を大理石が埋め尽くすと、床がまばゆく光り輝き、光の柱が空に向けて立ちのぼった。
ダンジョンの仮初めの空を埋め尽くしていた黒い雲が、その光の柱によって貫かれ、晴天が広がる。
暗く曇った戦場跡が一転し、フィールドは明るく照らされた。
そして、シャドウビーストは全身から焼け焦げたような煙を発し、棒立ちになりながら苦しみ始めた。
『にゃあ! 今のうちに攻撃する!』
『ばう』
「よっしゃあ、チャージ攻撃だ!」
それぞれ三方から、俺達は強烈な攻撃を叩き込む。そこで敵の意識が変わったのか、煙を発しながらも攻撃の構えを取ってみせた。
本格的に戦闘が開始される。
前回俺を倒した、影の弾幕は使ってこない。戦場が明るくなってから、敵の足元の影が小さくなったのだ。さすが聖域の力だ。
そして、戦闘を繰り広げることしばし。
『にゃあ。無念……』
ハニーが第三形態に変身したシャドウビーストの影魔法を受けて、その場に倒れた。すると、俺のアイテムボックスから勝手に帰還の羽根が飛び出し光り輝き、ハニーを光で包み込んだ。そして、ハニーの姿が消えてなくなる。これは、帰還の羽根の転送効果か。
『ばう』
そして今度は、シャドウビーストの連撃でオスカーが倒れる。こちらからヒールは飛ばしていたのだが、回復が追いつかなかった。
遠距離アタッカーとヒーラーの兼任は無茶だって! 自分達でポーションも使ってくれていたけどさあ。
オスカーも帰還の羽根で消えていき、場にはシャドウビースト第三形態と俺が残された。
「よし、こうなったら……俺が三人目の前衛じゃい!」
『ヨシちゃんはさあ……』『バーバリアン再び』『知ってた』『さっきまでガンナーしてて格好よかったのに』
「第三形態はぶっちゃけただの大きな狼! これは、人食い虎みたいなものだな! 超電脳空手銃がうなるぞ!」
『超電脳空手銃』『チャンプ「そんなの教えてない……!」』『また至近距離からのチャージ弾するのか』『後でチャンプに謝っておきなよ』
うおおお! 全てを出し切る!
……とか言ってたらあっさり勝ててしまった。
「うーん、最初からソロだった方が早く終わっていたかも」
『かわいそうなラスボス』『ラスボスだったのかな』『専用BGMに第三形態まであるんだからラスボスだろ』『一応、今までの敵だと飛び抜けて強かったですからね』
光の粒子になって消えていくシャドウビースト。そして、その場に豪勢な装飾がされた宝箱が出現した。
中を開けると、出てきたのは大精霊の短剣+8。今まで見た武器の中で一番強いな。まあ、俺は装備できないんだけど。
とりあえずこれで終わりか、と判断して俺は帰還の羽根を使った。
そして、戻ってきたのはダンジョン入口のエントランスホール。
俺が出現した瞬間、周囲がどよめいた。
『にゃあ! 店主、無事かい! シャドウビーストはどうなった!』
その場に居たハニーがこちらに近づき、聞いてくる。
俺は、アイテムボックスから大精霊の短剣+8を取り出すと、頭上に掲げてみせた。
「勝ったどー!」
俺がそう宣言すると、わっと冒険者達が沸いた。
見覚えがあるようなないようなNPC達が次々と近づいてきて、俺を褒め称えてくる。やったぜ。
そして、ハニーとオスカーもまた俺に話しかけてくる。
『にゃあ。最後まで戦えなくてすまなかったね。でも、戦いに貢献できて誇らしいよ』
『ばう。次は負けぬ』
帰還の羽根があったからよかったものの、本来ならこいつら死んでいたんだよな。帰還の羽根を持っているのは、ここの冒険者では俺だけだし。
と、そんな感じで勝利の余韻にひたっていたところ、突如『神級の聖域』の扉が開いた。
中から、疲れた顔で女神が出てくる。
『あっ、我が家主。勝ったみたいですね』
「ああ、神器のおかげだ」
『それはよかった。じゃあ、『上級の戦場跡』は修正しますね』
女神は、しゅびびっ! っと『上級の戦場跡』の扉に指先を向けると、すぐに満足そうな顔へと変わった。
『修正完了です。これで、ボスはリッチになりました。ついでですし、開放もしておきますね』
またもや女神が指先を扉に向けると、扉に刻まれていた羽根の調印が光り輝き消えてなくなり、ゆっくりと扉が開き始めた。
『『上級の戦場跡』これより一般開放開始ですよー! 頑張って潜って、ダンジョンの最大容量を増やしてくださいね。10年もすれば上級+1が生えるかもしれませんよー』
女神の言葉に、冒険者達が『うおー!』と歓声を上げる。
上級ダンジョンだからかその場で気軽に足を踏み入れるような冒険者はいなかったが、いずれは上級冒険者PTが入っていくだろう。
『さて、では店に戻りましょうか。お腹がすきました』
女神はそう言って、俺の服をつかんで引っ張ってきた。
「ああ、解った。帰るか」
ゲームの終わりの予感を感じながら、俺はエントランスホールを出て、雑貨屋に戻った。
そして、調合室で女神に料理を作ってやる。最後の晩餐か……。そう思いながら、女神が食事をする風景を眺めた。女神は巫女二人に介添えされながら、高速で食事をたいらげていっている。
『美味しかったです。じゃあ、また次も食事をお願いしますね』
「あ、ああ。了解した」
『ふんふんふーん』
「…………」
『ふふふふーん』
「…………」
『ふーんふんふーん』
「……あれ、エンディングは?」
『? どうかしました?』
鼻歌を歌っていた女神が、不思議そうにこちらを見てくる。
「ああいや、なんでもない……」
ラスボスを倒したのに一向に始まらないエンディングを疑問に思った俺は、ヒスイさんにヒントを聞きに行くことにした。
あれってラスボスだったの? エンディングはまだ? そうストレートに聞く。
「ラスボスですよ。RPGパートはこれでイベント終了です。しかし、経営パートがまだ残っています」
「あっ、そうか。スタイリッシュガンアクションゲームじゃなかったなこれ」
『戦闘部分はRPGを名乗っているんだよなぁ』『どこからスタイリッシュが来たし』『ヨシちゃんのはスタイリッシュというより蛮族のそれ』『ラスボスのとどめ、接射でしたね……』
「経営パートかー。上級ダンジョンが開放されたから、新種族でも来るのかな?」
俺はそう疑問をこぼすが、ヒスイさんはそれを否定する。
「いえ、あくまで中級までにやり残している要素があります」
「あれ? 店舗も最大まで増築したし、なにかあったかな?」
「はい、博物館が」
「……忘れてた、それがあったよ。村に無用の文化の証が」
そういうわけで、ラスボスを倒して終わりではないようで……。スプリガン族の要求施設、博物館を建てて、俺は最後のイベント発生を待つのであった。